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MiFIDⅡの衝撃~証券アナリストは存在しなくなるのか

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AIの開発・進化により証券アナリストという職業は消滅するとの懸念が様々な記事等で出されています。

しかし、AIの普及前に証券アナリストが激減するのではないかとの予測がなされるようになってきました。その理由はMiFID2(ミフィッド2)です。

今回は証券アナリストの今後について考察します。

MiFID2とは

MiFID2(第二次金融商品市場指令)とは欧州で2018年1月から始まる欧州版金融商品取引法の改定です。

このMiFID2は手数料規制の大幅な厳格化を通じて波紋を広げています。

そのポイントとなる内容は以下の規制です。

投資会社は、独立した投資助言を提供することを顧客に表明する場合及びポートフォリオ運用サービスを顧客に提供する場合、顧客へのサービス提供に関連して第3者等から金銭又は非金銭的ベネフィット等を受領してはならない。但し、顧客へ提供するサービスの質を高める等一定の要件を満たす場合、重要でない非金銭的ベネフィットは除外される。 (Directive 第24条7号(b)、8号)

顧客にポートフォリオ運用サービス等を提供する投資会社に対する、第3者によるリサーチの提供は、以下のいずれかと引き換えであれば、誘因(Inducements)とは見なされない。
1)投資会社による自社の資金からの直接の支払い
2)投資会社が管理するリサーチ支払勘定からの支払い
但し、以下の要件を満たすことが必要
①リサーチ支払勘定は個別の顧客に対する特別なチャージに基づき設定
②投資会社はリサーチ予算を策定し、これを定期的に見直す
③投資会社がリサーチ支払勘定について責任を有する
④投資会社は定期的に受領したリサーチの品質を検証

(Commission Delegated Directive 第13条1項)

https://www.eyjapan.jp/industries/financial-services/general/topics/2017-05-24.html
EY Japan HP

簡単に言えば、証券会社がサービスとして提供している有価証券の売買執行とリサーチが分離され、各々のサービスに値段がつくようになるということです。どんぶり勘定ではダメということになるのです。

リサーチのところでは証券アナリストが作成するレポートに価値がなければ報酬を払ってもらえなくなります。運用会社の実務・運用に役に立つかがポイントになりますので、アナリストレポートは非常にシビアに評価されることになるでしょう。

運用会社の立場からすると、投資家に「本当に必要な調査だから費用を支払った」と説明しなければならないのです。

今まではコミコミでもらっていた手数料を、個別に支払ってもらようになるのはかなりのハードルでしょう。

証券アナリストとは

逆風が強まっている証券アナリストとは、そもそもどのような業務、役割なのでしょうか。

日本証券アナリスト協会の定義は以下の通りとなっています。

証券アナリストとは、証券投資の分野において、高度の専門知識と分析技術を応用し、各種情報の分析と投資価値の評価を行い、投資助言や投資管理サービスを提供するプロフェッショナルです。
近年、資本市場の発達と高度化に伴って、証券アナリストの所属する業務が大きく広がるとともに、一層専門化が進んでいます。例えば、証券会社や資産運用会社などで産業・企業調査を基に、個別証券の分析・評価を行うのが、リサーチ・アナリスト(狭義の証券アナリスト)です。
https://www.saa.or.jp/cma_program/step/about/index.html
日本証券アナリスト協会HP

現在の証券アナリストのイメージは財務分析を中心とした企業分析、業界分析を行うというものでしょう。

ところが、この分析はほとんどが定量分析になっているものと思います。そうすると、ビッグデータを収集し、分析が可能なAIの方が分析能力で人間を抜くだろうと予想されているのです。

AIであれば企業の財務情報のみならず一般のニュース、掲示板への書き込みまで見逃すことなく大量の情報を収集できます。また有価証券報告書や決算短信、IR説明会資料の文章を点数化して投資判断を行うことも可能です。もちろん個別の企業分析を業界データ、統計等のマクロデータと結びつけて判断することもできます。

定量化できるものの分析であればAIには勝てないということです。

証券アナリストの今後

証券アナリストについては悲観的な記事が目立つように感じます。

ほとんどの記事は証券アナリストの数が大幅に減るという予測をのべています。

これは今のままの業務から変わらないならば証券アナリストの仕事がなくなるということだと筆者は認識しています。

上記の証券アナリストの定義のように市場や企業の動きを分析し、マーケットの適正な価格形成に貢献するというのが証券アナリストの役割です。財務面を中心とした定量分析を主にしていくのであればAIには人間の証券アナリストは勝てないかもしれません。

しかし、AIが市場・企業を深く理解し、過去とは非連続の出来事が起こるようなストーリー、シナリオを描くのはまだまだ難しく、今は人間でしか出来ないのではないでしょうか。

情報の深堀や独自の視点の提供が証券アナリストの主戦場になっていくと言われています。AIは過去のデータの蓄積を主に分析し、そこから予想を導きだします。これは過去との連続の中で起こり得る事象を予測するには非常に強みを発揮するでしょう。しかし、例えばAmazonやGoogleがここまで巨大になると当初から予測できたとは思えません。このような分析の分野に人間はフォーカスしていかなければならないのです。

それから、もう一つ大事な視点があります。
それは定性的な要素を可能な限り定量化していくことに証券アナリストが貢献することです。

例えば、会社の企業風土、人事制度のような定性的な要素を分析し、定量評価を行う仕組みを作ることも証券アナリストが出来る新しい分野でしょう。一番大きな括りでは、知的資本、無形資産等々の呼び方で語られる従来の会計では表せない、バランスシートには計上できない企業の価値・競争力の源泉を評価するプロセスを構築することが企業評価の究極のゴールではないかと考えます。

上記のような目標に向けて、証券アナリストが活躍する余地はまだまだあるのではないかと筆者は考えますし、そのような役割を担える、もしくはそのような仕事にチャレンジする証券アナリストは生き残れるのではないかと考えています。

 

なお、MiFID2の関連記事としてMiFID2がもたらすIRの今後についての記事もありますのでご参照ください。