銀行員のための教科書

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機関投資家の株式議決権行使にかかる誤解

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ダイヤモンドオンラインに、三菱UFJ信託が三菱自の社長人事にNO!議決権行使「仁義なき個別開示」という記事が掲載されていました。
三菱UFJ信託が三菱自の社長人事にNO!議決権行使「仁義なき個別開示」 | Close-Up Enterprise | ダイヤモンド・オンライン

あまりにもタイトルのインパクトがあったため、今回は機関投資家の議決権行使について記載します。

マスコミ報道の現状

信託銀行を含む機関投資家は議決権行使の個別開示を開始しています。

この内容をチェックした一部マスコミが面白おかしく記事で取り上げるようになってきています。

一例としては現代ビジネスの以下の記事があります。

2017年9月13日付
銀行が有名企業の「役員人事」に反対しまくっている
ドキュメント「議決権行使」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52799

当該記事の内容は、三菱UFJ信託銀行が同じグループの三菱UFJ リースの取締役選任に反対、三井住友信託銀行が同様に三井ホーム、NEC等の取締役選任に反対、野村アセットマネジメントが重要取引先の取締役選任に反対等の事象を取り上げています。

その上で、機関投資家が財閥内・自社グループ内の身内びいき等をやめて強烈な反対票を投じているとしています。

また前掲のダイヤモンドオンラインの記事では、三菱UFJ信託銀行の個別開示では、同じ三菱グループである三菱自動車の株主総会において、会社側が提案した取締役11人中5人の人事案に対して同行が反対票を投じたことについて触れています。

議決権行使の実態

マスコミ報道は目を引くタイトルになっていますが、実際には信託銀行のような機関投資家の議決権行使は面白いものでも何でもありません。

一部の記事内ではきちんと触れられていますが、機関投資家が反対票を投じるような行動をとっているのは、別に資金の拠出者が存在するためです。

すなわち投資信託のようなファンドを機関投資家が組成し、運用・管理している場合には、このファンドの議決権は当然に自社(機関投資家)のために行使するものではありません。

議決権行使はアセットオーナーである投資家・出資者等の資金拠出者のために行うのです。

そのため、機関投資家が属している財閥グループが三菱グループだろうと、三井グループだろうと、投資家のための議決権行使にはなんの関係もありません。

投資家・出資者等資金拠出者にとって保有株式の価値を最大化できるように機関投資家は議決権行使を行うだけなのです。

機関投資家が自社独自で保有している株式(いわゆる政策保有株式)の議決権行使とは全く別の話であり、一部のマスコミ報道の取り上げ方は全くの的はずれということになります。

議決権行使開示にかかる評価

筆者自身は、機関投資家の議決権行使開示自体は経営者と株主との適度な緊張関係を構築する意味でもおおむね賛成です。

唯一の懸念があるとすれば、各機関投資家が独自に決定している議決権行使基準を、国が新たに押し付けてくることでしょう。

国、政府にとって都合の悪い経営者を交代させるように政府、政治家が働きかけられないような仕組み作りは必要かもしれません。

 

なお、機関投資家の議決権行使の内容については以下の記事をご参照下さい。