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ゼノデータ・ラボの業績予測AIは「人をサポート」する好事例になるのでは

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企業の情報を分析するAI開発を行うゼノデータ・ラボが新サービスをリリースしました。

ゼノデータ・ラボは三菱UFJ銀行のアクセラレータプログラム(大手企業等がベンチャー、スタートアップ企業等に出資や支援を行うことにより事業共創を目指すプログラム)で優勝し、出資を受けた企業として知られています。

ゼノデータ・ラボが発表した新サービスは、「人」がAIのサポートを受け、より創造的な仕事を行う好事例となる可能性があります。

今回は、ゼノデータ・ラボのサービスを確認し、このサービスが「人」に与える影響について考察していきましょう。

 

報道記事

まず、ゼノデータ・ラボがどのようなサービスを開発したのか、以下の記事がまとまっていますので引用します。

金融情報分析AI開発のゼノデータラボがダウ・ジョーンズと提携、企業の業績予測サービス開発へ
2018年7月27日  TechCrunch Japan

金融情報分析AI開発のゼノデータラボは7月27日、ウォール・ストリート・ジャーナルなどで知られるダウ・ジョーンズと業務提携し、将来予測AIの開発、営業を開始したと発表した。

開発中の新しいプロダクトはSaaS型のWebサービス、「xenoBrain(ゼノブレイン)」。これはダウ・ジョーンズ社の持つ過去10年以上分のグローバルニュースデータに、ゼノデータラボの保有する自然言語処理技術を応用することで、ニュース記事に含まれる過去の経済事象の連関から企業の利益影響を自動で分析し、企業の業績予測を行うAIだ。β版はこの秋にリリースされる予定だという。

同社には「xenoFlash(ゼノフラッシュ)」というサービスがある。これは高度な自然言語処理を用いたAIを使って決算発表資料の全自然文データを解析し、財務数値の背景となる文章を自動で解析、解説文を出力するものだ。

今回のxenoBrainは何が違うのか。代表取締役社長の関洋二郎氏は「xenoFlashがなぜ増益だったのか、なぜ減益だったのか、という過去の分析に焦点を当てているのに対し、新サービスでは将来どうなっていくのか、今後増益なのかというところを解析する」のだと説明した。

「我々の自然言語処理は現在、決算短信だけだが、これからはニュースを含めて自然言語処理対象にし、分析を広げていく」(関氏)

xenoBrain上では左側にニュースが流れ、好きなニュースをクリックすると、「ニュースがどの企業のどの会計科目にどうインパクトを及ぼしうるのか」というところを、理由や背景なども含めて自動で解析する。

今後ゼノデータラボの株主でもある三菱UFJ銀行でxenoBrainの実証実験をする予定。三菱UFJ銀行の法人取引の部門に同サービスを展開し、上場企業の分析業務効率化に役立て、企業分析シーンにおける早期の実用化を目指すのだという。また、同サービスの最初期ユーザーとしてレオス・キャピタルワークスの先行利用が決定している。

「(ターゲットユーザーは)毎日のニュースから株式ポートフォリオの影響を分析するファンドマネージャー、担当顧客に対してより付加価値のある提案を模索する大企業営業やコンサルタント、より説得力のある提案で個別銘柄の取引を活性化させたい証券営業担当」(関氏)

関氏はxenoBrainで「風が吹けば桶屋が儲かるをビジュアライズ化した」と語っていた。

このサービスの概念は分かりやすいものです。

膨大なニュースを分析し、そのニュースが個別企業の業績へどのようなインパクトを与えるかをAIが将来予測するというものです。

このサービスの実証実験は出資先企業である三菱UFJ銀行にて実施することになっています。

 

プレスリリース

ゼノデータ・ラボが発表したプレスリリースについても確認しておきましょう。

以下は、リリース文の抜粋です。

~ゼノデータ・ラボの持つ自然言語処理技術をダウ・ジョーンズ社の持つグローバルニュースに応用、上場企業の利益予測に向けた開発で協業~

2018.07.27

業務提携について

今回の業務提携では、ダウ・ジョーンズ社の持つ過去10年以上のグローバルニュースデータを、ゼノデータ・ラボの保有する自然言語処理技術を応用させ、ニュース記事に含まれる過去の経済事象の連関から企業の利益影響を自動で分析し、企業の業績予測を行うAIを開発、その予測情報をSaaS型Webサービス、『xenoBrain』で提供するものになります。
また、当社の株主である三菱UFJ銀行(本社:東京都千代田区丸の内、取締役頭取執行役員:三毛兼承)の法人取引の部門に『xenoBrain』を展開し、上場企業の分析業務効率化に役立て、企業分析シーンにおける早期の実用化を目指します。

 

xenoBrainについて

xenoBrainは、ゼノデータ・ラボの保有する自然言語処理技術を、ダウ・ジョーンズ社のグローバルニュース、決算短信等に含まれる自然言語情報に応用することで、今までに無い全く新しいロジックで企業の利益予測を提供するSaaS型Webサービスです。
xenoBrainの対象ユーザーは
・日本株投資のファンドマネージャー
・日本株対象のバイサイド/セルサイドアナリスト
・証券会社における日本株機関投資家営業、リテール営業、事業法人営業
・銀行、保険会社、リース会社における大企業営業、審査、リスクマネジメント
・上場企業クライアントを多く持つ事業会社経営企画、営業企画
など、上記他にも国内上場企業の分析を行っているすべてのビジネスパーソンが対象となります。
詳細は以下のLinkをご参照ください。
https://www.xenodata-lab.com/service/xenobrain

以上がプレスリリースですが、ゼノデータ・ラボが当該サービスの利用者・対象者を明確に意識しているのが分かります。

 

所見

まず、この実証実験は三菱UFJ銀行にとっても非常にメリットのあるものとなります。

特に、同行アクセラレータプログラムで認められれば、実際に邦銀トップの銀行で自社のサービスが採用される可能性があることを、スタートアップ企業等に知らしめることになったからです。

また、同行がAIも含めた新技術を積極的に取り入れる先進的な企業であることもアピールすることになりました。

この影響で、IT企業、フィンテック企業等は三菱UFJ銀行と組みたがるところが多く出てくるでしょう。これは同行のサービスをさらに進化させることにつながります。

そして、このゼノデータ・ラボのサービスは非常に有用となる可能性があります。

当社が今までリリースしていたサービスで筆者が認識していたのは、AIで決算短信を要約し、ビジュアル化したものでした(xenoFlash)。

これは、速報性があり、一部のニーズ(企業業績ニュースの速報記事を作成する記者、業界調査を行うアナリスト・審査担当者等)はあると思いますが、金融業界全体へ及ぼすインパクトは限られていたのではないかと思います(速報性さえ捨てれば、会社四季報の方が一覧性・利便性は高い可能性があるため)。

しかし、今回のサービスは過去の分析ではありません。

将来の分析なのです。

「風が吹けば桶屋が儲かるをビジュアライズ化した」と言ってる通りにサービスが構築されているのであれば、当該サービスの利用対象者は急増します。

当社が想定しているように、ファンドマネージャー、アナリスト、証券会社の営業、銀行の法人営業、審査、リスク管理部署、多数の上場企業を顧客に持つ企業の企画部署等にとっては、有用なサービスとなる可能性があります。

ニュースを基に「大量の企業」における業績の方向性を予想できるのであれば、資産運用に携わる担当者にとっては有用でしょう。大量のニュースを全て分析する訳にはいかないでしょうし、自分の考えとは異なる視点をAIがもたらすかもしれません。

これは、株式等の運用商品をセールスする証券会社の担当者にとっても有用でしょうし、銀行の法人営業担当者からすると担当企業の今後の動向を予想するにあたって一つの視点を確認できるのは有効でしょう。

もちろん、審査・リスク管理部署のように企業業績にネガティブなインパクトを与える情報を必要としてる部署にとっても役に立つサービスとなりそうです。

そして証券アナリストにとっては、大量の企業を全て深く分析することはできません。日本の上場企業であったとしてもアナリストがカバーしていない企業は多数存在します。そのように「人手がかけられない」業種・企業もこのサービスは対象とするのです。

いずれにしろ、AIが大量のデータを分析し、人間が思考・行動する際の参考となる情報を提供するという点で、このサービスは人間との親和性があるのです。

ゼノデータ・ラボの当該サービスは、三菱UFJ銀行との協働という点、そしてサービス内容そのものが求められているものであるという点で、非常に興味深く、期待ができるものだと筆者は考えています。