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そごう・西武というオワコン百貨店をフォートレス・ヨドバシはなぜ欲しがるのか

小売最大手セブン&アイ・ホールディングス傘下の百貨店「そごう・西武」が、米ファンドに売却されることが決まりました。

そごう・西武を買収した米フォートレス・インベストメント・グループ(フォートレス)は、レオパレス21への投資でも有名であり、ソフトバンクグループと関係があります。フォートレスは、家電量販店大手ヨドバシホールディングス(ヨドバシカメラ)と連携し、そごう・西武の再建を進める計画とされています。

今回は、小売の王者だったはずの百貨店に現在起きていることとして、そごう・西武の売却劇について簡単に状況を確認していきたいと思います。

 

なぜそごう・西武は売られたのか

まず、セブン&アイ・ホールディングスはなぜフォートレスにそごう・西武を売却するのでしょうか。これは、セブン&アイ・ホールディングスの発表文を見ると理解できます。

世界最大級の不動産投資ファンド運用会社であるフォートレスが有する不動産事業ノウハウ、企業再生ノウハウ及び資金力を活用することが、そごう・西武の百貨店事業の収益性の改善とともにそごう・西武が有する不動産の価値最大化を通じたそごう・西武の成長性及び効率性の向上に資するものと判断しました。また、当社は、そごう・西武のベストオーナーの検討にあたり、従業員の雇用が維持されるかという観点も非常に重視しており、フォートレスはその観点にかなうと判断しましたので、このたび、本件譲渡を実施することといたしました。
なお、フォートレスは、本件譲渡に際して、株式会社ヨドバシホールディングスをビジネスパートナーとして、そごう・西武の企業価値の最大化に努めるとのことです。具体的には、フォートレスは、百貨店事業の収益性の向上のため、現在そごう・西武が推し進めるテナント構成や商品構成の最適化、事業運営の効率化やコスト削減などの事業戦略に賛同しており、今後、本件譲渡後の具体的な百貨店事業の事業運営方針についてそごう・西武と協議を行い、収益構造の最適化や不動産の有効活用を通じて、そごう・西武の潜在的価値を最大限に引き出し、事業基盤を更に飛躍させる意向を有しております。

(出所 「当社子会社の株式譲渡及びそれに伴う子会社異動のお知らせ」2022 年 11 月 11 日)

このプレスリリースを見ると、コンビニを中心とするセブン&アイ・ホールディングスでは収益が改善出来ないため、フォートレスの不動産事業及び企業再生ノウハウを活用すべきと判断したこと、フォートレスは収益構造の最適化と「不動産の有効活用」を行う方向性であることが分かります。そして、フォートレスはその一環としてヨドバシホールディングスをパートナーとするとされています。

フォートレスからすると、そごう・西武の従業員(2022年2月末時点=4,549 人。内、パートタイマー2,414人)の雇用を守ることを条件とされているという足かせはありますが、池袋西武や渋谷西武、横浜そごう等の魅力的な不動産を手に入れる大きなチャンスでもあります。そして、ヨドバシカメラにとっても希少立地への出店を掴むチャンスとなるのです。

そごう・西武は3期連続で赤字が続いており、百貨店という業態は苦戦が鮮明です。フォートレスによる改装資金の提供のみならず、ヨドバシカメラという高い収益力を持つ家電量販店と組み集客力の強化が図られるのであれば、そごう・西武にとってもフォートレス・ヨドバシ連合に買収されるのは有効でしょう。

 

そごう・西武の魅力

一方で、フォートレス・ヨドバシ連合にとって、本当にそごう・西武は魅力的なのでしょうか。このポイントは、百貨店の超好立地店舗にあります。

2022年2月決算では、そごう・西武の店舗別売上高は以下のようになっています。

  • 西武池袋本店 1,540億円
  • そごう横浜店 949億円
  • そごう千葉店 656億円
  • そごう広島店 326億円
  • そごう大宮店 265億円
  • 西武渋谷店 264億円

日本最大の家電量販店舗は、ヨドバシカメラの「ヨドバシカメラマルチメディア梅田+リンクス梅田」で2019年のリンクス梅田開業時には売上高1,700億円を目指すとされていました。ヨドバシカメラマルチメディア梅田が売上高1,200億円程度とされ、リンクス梅田は500億円程度とされていたものと思われます。コロナ禍においてどの程度の売上を確保出来ているかは不明ながら、日本の家電量販店における最大の売上を誇る店舗であることは間違いないと思われます。

また、ヨドバシカメラは、ヨドバシカメラマルチメディアAkibaが1,000億円程度の売上高とされています。家電量販店においては、日本最大の店舗で売上高1,000億円程度なのです。

それに対して、西武池袋本店は1,500億円を超える店舗です。

日本最大の売上を誇る百貨店は伊勢丹新宿本店で2022年3月期は2,536億円でした。そして、第2位の売上を誇るのは阪急うめだ本店であり、2022年3月期売上高は2,006億円でした。そして、ジェイアール東海高島屋は2022年月2期売上高が1,416億円です。

すなわち、西武池袋本店は、日本で3番目の売上高を誇るモンスター店舗です。

他の百貨店を例示すると、高島屋日本橋店は1,239億円(2022年2月期)、高島屋横浜店が1,185億円(同)、三越日本橋本店が1,144億円(2022年3月期)、高島屋大阪店が1,092億円(2022年2月期)、あべのハルカス近鉄本店が923億円(2022年2月期)というような形となります。(そごう横浜店も超大型店舗ということになります)

西武池袋本店は、凄まじく売れているように見えるヨドバシカメラ梅田はAkiba以上の売上を誇っているのです。

小売業としての家電量販店から見れば、非常に魅力的な店舗に見えるでしょうし、不動産としての価値も高いと容易に想定されます。

もし、そごう・西武の売却において従業員の雇用継続の条件を付けなければ、セブン&アイ・ホールディングスはそごう・西武をもっと高い金額で売却できたでしょう。尚、そごう・西武の売却金額は、「企業価値 2,500 億円に、そごう・西武及びそごう・西武子会社の純有利子負債や運転資本に係る調整、及び SCS の支払配当に係る調整を行い、実際の譲渡価額を確定」すると公表されていますが、報道では2,000億円超とされています。

 まさに、不動産を買うようなイメージで、フォートレス・ヨドバシカメラ連合はそごう・西武を購入するのです。百貨店には小売りとしての魅力は少ないものの、不動産としての価値はまだまだあるということでしょう。

今後のそごう・西武の業績立て直しに注目したいと思います。