銀行員のための教科書

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少子化の理由は「貧乏人が増えたから」とデータが示している

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ロシアのウクライナ侵攻は世界のパワーバランスのみならず、様々な秩序を再構築するきっかけとなりそうです。そして、資源・エネルギー価格の上昇を招く可能性が高くなってきました。

わずか1年前には世界中がインフレの影に怯えることは想定されていなかったのではないでしょうか。

日本がしばらく経験していない生活コストが上昇していく時代において、我々の生活は大丈夫でしょうか。少子化が大きな問題になっていますが、日本に子供は増えるのでしょうか。

今回は、令和4年第2回経済財政諮問会議で発表された内閣府の資料を基に、日本の問題を皆さんと確認していきたいと思います。

 

25~34歳の世帯所得動向

まずは、子供を産む世代である25~34歳の世帯における所得分布の動向について見ていきたいと思います。

以下のグラフをご覧ください。

<25~34歳の世帯・所得分布(再分配前)>

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(出所 令和4年第2回経済財政諮問会議「我が国の所得・就業構造について(参考資料)」)

このグラフは少し見方が難しいかもしれません。縦軸は同年代全体に占める割合であり、横軸が所得です。

全体で見ると(左上のグラフ)、単身世帯の割合が上昇する中で、全世帯では所得の中央値が25年前(1994年)よりも低下しています。

右上のグラフを見ると、2019年赤線のグラフが1994年の青線グラフより上にあることが見て取れます。これは単身世帯が同年代全体に占める割合が上昇していることを表しています。

但し、左下や右下のグラフをよく見ると、「夫婦のみ世帯」と「夫婦と子世帯」では共働きの進展で、世帯所得の中央値は上昇しています。

「単身世帯」ではすべての所得階級で割合が上昇する一方、「夫婦と子世帯」では500万円台以下の所得階級の割合が大きく低下しています。 

日本の25から34歳の世帯は、全体としては貧しくなっている一方で、「夫婦のみ世帯」や「夫婦と子世帯」は共働きが一般的になって世帯としての所得が25年前よりは上昇していることになります。タワーマンションを購入するような「パワーカップル」は、まさに夫婦共稼ぎで収入を得ているのです。

但し、夫婦世帯においては中間程度の所得層(約400~500万円台)が減少し、単身者が増えています。すなわち、中間程度の単身者が結婚をしていないことを意味しているものと思われます。

少なくとも言えることは、世帯所得が高くないと子供を持たなくなってきているということでしょう。

 

35~44歳の世帯所得動向

次に子育て最中の年代である35~44歳の世帯所得動向です。

<35~44歳の世帯・所得分布(再分配前)>

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(出所 令和4年第2回経済財政諮問会議「我が国の所得・就業構造について(参考資料)」)

おおむね就職氷河期世代を含む「35~44歳の世帯」では、単身世帯の割合が上昇する中で、「全世帯」では中央値が低下しています。

25年前と比較して、「単身世帯」で300万円台の所得階級の割合は上昇し、「夫婦と子世帯」では500~700万円台の所得階級の割合が大きく低下していることが分かるでしょう。

全体で見ると、中間所得層が減少し、所得全体は下方に推移しているといったところでしょうか。

 

所得の伸びという観点

次に所得の伸びについて確認します。

日本は年功序列賃金体系の国であると言われます。以下のグラフは年代に応じた世帯主の平均賃金のグラフです。

<世帯主の平均所得(再分配前)>

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(出所 令和4年第2回経済財政諮問会議「我が国の所得・就業構造について(参考資料)」)

上記のグラフを見ると、この25年間で、世帯主所得は年齢に応じて増加する傾向が弱くなっている(所得カーブの平坦化)ことが如実に分かるでしょう。

そして、強いて言えば、右下のグラフが示しているように、子供がいる世帯は比較的所得が落ちていません。言葉は悪いですが、カネが無いと子供は持てないという表現が出来るかもしれません。

以下のグラフは就職氷河期世代と言われる年代の実質賃金の推移を示したグラフです。

<就職氷河期世代の年齢階級別実質賃金>

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※括弧内の数字は、出生年代別に25~29歳時点での実質賃金額。

(出所 令和4年第2回経済財政諮問会議「我が国の所得・就業構造について(参考資料)」)

就職氷河期世代の賃金カーブは緩やかになっていることが分かります。この傾向は、特に男性で顕著です。

若い世代になるにつれ、賃金カーブが下がってきているのです。年功序列と言いながら、実際には給料が上がりづらくなってきた現状が見て取れます。これは生涯賃金額の差となって現役世代に影響を及ぼすことになります。

 

まとめ

今回は比較的若い現役世代の所得について25年前との比較を見てきました。

子供を持つ世帯には所得の大きな違いは見られなかったものの、単身世帯の増加と所得の上昇の低さが際立つデータだったのではないかと思います。

日本は、世帯所得が下がり、給料も上がっていかない状況であるがゆえに、少子化が進行していると筆者は考えています。子供を持つのは「ぜいたく」なのです。

年功序列と言われながらあまり上がらない給料、中間所得層の減少と低所得者の増加は少子化と関連しているのではないでしょうか。

先立つもの、すなわちカネが無ければ子育ては出来ません。所得が上がらなければ結婚を考えるのもしんどいでしょう。

少子化の問題は、実際にはかなり手遅れですが、それでもスタートを切るなら早い方が良いことは間違いありません。

「子供を産んだ世帯には一人当たり1,000万円を渡す」というような政策でも良いのです。子供が多く生まれる社会を、そして、安心して育てられる社会を作らない限り、日本という共同体は問題が噴出していくことになるでしょう。