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イーロン・マスク氏がTwitter社の従業員を半減させる理由

ツイッター(Twitter)社が揺れています。

米起業家のイーロン・マスク氏が総額440億ドル(約6兆5,000億円)の買収手続きを2022年10月に完了させた直後に、世界の従業員数の約5割にあたる4,000人規模を削減する計画と報じられるようになりました。従業員には米東部時間11月4日正午(日本時間5日午前1時)までにメールで解雇が通知されたとされています。

イーロン・マスク氏がTwitter社の従業員を削減する理由は何でしょうか。経営再建と報じされていますが、Twitterを使っている個人は多数存在します。ここまで社会に普及しているTwitterが経営再建とはどのようなことなのでしょうか。

今回はTwitter社の従業員削減にイーロン・マスク氏が踏み切った理由について簡単に考察していきたいと思います。

 

過去の業績動向

最初にTwitter社の業績を確認してみましょう。

以下は直近4年の業績動向です。

(出所 Twitter社決算資料から筆者作成)

Twitter社は創業から長らく赤字の状態が続いていましたが、毎年売り上げは堅調に伸びており、2018年には黒字に転じました。

2020年度の赤字は、新型コロナの感染拡大により経済活動が停滞し、企業広告が減少したことが要因です。Twitter社の収入の9割が広告ですので、これは不可避だったかもしれません。

2021年度は過去の業績予想開示が不適切だったとして一部の投資家が起こしていた集団訴訟で8億ドル規模の和解金の支払いを計上したためであり、コロナ後の正常化の過程で広告収入は大幅に増加していました。

ここでポイントとなるのは、Twitter社の収益規模です。

2021年度だとAmazonは約4,700億ドル、Appleは約3,600億ドル、Alphabet(=Google)は約2,500億ドルの売上高を誇ります。一方で、Twitter社の2021年度売上高は約50億ドルです。知名度では同様の米ハイテク企業と比べて、売上高の桁が全く異なることが分かるでしょう。

 

足許の業績動向

Twitter社の2022年4~6月期(3カ月)の売上は11億7,666万ドル(日本円で約1,700億円)で、前年同期比で1%減少しました。また最終損益は2億7,000万ドル(日本円で400億円近く)の赤字に転落しました。

2022年6月時点では広告表示可能な収益につながるアクティブユーザー(Monetizable daily active usage=mDAU)が全世界で237百万人、前年同期比+16.6%となっています。米国で41百万人(前年同期比+14.7%)、米国外で196万人(同+17.0%)です。

この時期はロシアのウクライナ侵攻もあり経済状況が不安定な時期でした。そのため、ユーザー数は伸びていても広告収入が増加しなかったとも考えられます。

しかし、Twitter社の直近の動向を見てみると、同社の課題となっている可能性を確認できます。

以下は、広告表示可能な収益につながるアクティブユーザーと広告収入の地域別推移です。

(出所 Twitter社決算資料から筆者作成)

この表を見れば分かるように、Twitterのサービスを使うユーザーは米国外の方が多い一方で、広告収入は米国の方が多いことが分かります。

そして、その「大事な」米国ユーザー数が2021年はわずか2%しか増加していないのです。ユーザーを引き寄せるメディアとして「弱い」ことをTwitterの米国ユーザー数動向は示している可能性があるのです。

 

イーロン・マスク氏がやろうとしていること

では、イーロン・マスク氏は従業員を半減させる理由は何なのでしょうか。

Twitter社は業績が優れないのでコストを削減しようとしていることは間違いありません。確かに2021年度通期のTwitter社決算説明資料には、全世界の従業員が前年比で+35%増加となったと記載があります。Twitter社の従業員は、直近に急激に増加していたことは間違いありません。そのために損益が悪くなっているので、このコストを削減するという考えは企業経営としては正しいのかもしれません。

しかし、それだけでしょうか。

世界的なニュースとなったトランプ前大統領のTwitterアカウント永久凍結が起きたのは2021年1月でした。Twitter社の米国でのユーザー数が伸び悩んだのも2021年です。

そして、Twitter社が従業員を増加させた主要因は、Twitterがフェイクニュースや陰謀論、過激な投稿によって社会の分断や暴動の原因となっている状況を改善しようと、同社が投稿内容をチェックする要員を増加させてきたからです。

そもそもTwitter社は、他SNSに先駆けて投稿のチェック・統制を強めてきた歴史があります。2019年には全ての政治的広告を禁止し、そして、米連邦議会議事堂の暴動後にトランプ前大統領のアカウントを永久凍結したのです。

イーロン・マスク氏は過去にTwitter上での「言論の自由」を制限することに否定的な発言を行っています。すなわち、イーロン・マスク氏はTwitter社が投稿内容のチェックを行うのはあまり必要が無いと考えている可能性が高いでしょう。だからこそ、投稿内容をチェックするために増加させてきた従業員を削減するのです。

これは、コスト削減のみならず、ユーザー数の増加に直結する施策でもあります。

イーロン・マスク氏は、投稿監視のための評議会の設立をツイートしたと報道されていますが、基本的にはトランプ前大統領のアカウント凍結を解除する等の方向と筆者は予測しています。そうすれば、Twitterから離れた熱烈なトランプ支持者等が戻って来るはずです。陰謀論や気候変動の過激な主張等もTwitter上で復活する可能性があります。Twitterはユーザー数の増加と共にプラットフォームとしての価値を更に高めることになり、企業の広告収入も増加するでしょう。

そもそも、イーロン・マスク氏はTwitter社買収に440億ドル(日本円で約6兆4000億円)を投じます(全てが手元資金ではなく、借入もありますが)。

一方で、Twitter社の売上は2021年で50億ドルしかありません。売上高の8倍にもなる買収金額は、現在の業績に照らせば高過ぎるのは間違いありません。イーロン・マスク氏は、Twitter社の業績を何としても引き上げなければなりません。そのための起爆剤は、お行儀の良い形ではなく、表現の自由の擁護者を掲げ、過激なものになるのではないでしょうか。

これが筆者がTwitter社の従業員をイーロン・マスク氏が半減させる理由と考えていることです。