銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

なぜコロナ禍はメガバンクより地方銀行に影響を与えるのか

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新型コロナウィルス感染症拡大後、日本では首相交代があり、新首相は地方銀行(地銀)の再編を仕掛ける可能性があると報じられています。

新型コロナウィルス感染症拡大は地銀の苦境を更に加速させる方向に働くのでしょうか。なぜ、メガバンクのような大手行よりもコロナ禍は地銀に強く影響するのでしょうか。

今回はコロナ禍が地銀に与える影響について、簡単に見ていくことにしましょう。

 

金融庁の問題意識は地銀にある

コロナ禍の中において金融庁管轄の金融審議会「銀行制度等ワーキング・グループ(WG)」が開催され、銀行の業務範囲規制の緩和等が議論されています。

この銀行制度等WGの目的は以下です。

人口減少・少子高齢化といった構造的課題に対応し、地域社会・経済を活性化していくことが喫緊の課題。
特に今後は、ポストコロナも見据え、地方創生の取組みを加速していく必要があり、こうした取組みにおいて銀行は、重要な役割を果たすことが求められている。
このため、地方創生に資する銀行の取組みを後押しする観点などから、制度のあり方を検討する。

(出所 金融審議会「銀行制度等ワーキング・グループ」(第1回)/事務局説明資料)

現在、金融庁で議論されているのはまさに地方銀行の役割についてといって過言ではありません。

確かに、新型コロナウィルス感染症拡大前から地銀の経営は厳しいものが続いていました。しかし、コロナ禍の中では、更に地銀の存続に焦点が当たっているように思われませんでしょうか。その背景は何なのでしょうか。

 

コロナ禍は地銀に影響を与える

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(出所 金融審議会「銀行制度等ワーキング・グループ」(第1回)/高田メンバー説明資料)

上表は金融審議会のWGに提出された説明資料です。

バブルとコロナについての比較が記載されています。

バブル崩壊は資産デフレでした。一方でコロナショックは売上消滅であり、P/Lの損失計上です。

バブル崩壊の際には、バブル3業種と言われた不動産・建設・卸小売が特に影響を受けましたが、その取引金融機関は大手銀行が中心でした。

一方で、コロナショックの場合は、コロナ7業種と言われる(このネーミングはどうかとは思いますが)小売・飲食・宿泊等の中小企業が主に影響を受けています。

もちろん、そのような企業と取引をしているのは地銀です。

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(出所 金融審議会「銀行制度等ワーキング・グループ」(第1回)/高田メンバー説明資料)

上表はコロナ7業種と言われている陸運、小売、宿泊、飲食、生活関連、娯楽、医療福祉の業種における中小企業の財務状況です。

資金繰りの耐久力も自己資本比率も他業種に比べて低く、赤字転落となる減収率も小さい(すぐに赤字になる)ことが分かります。

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(出所 金融審議会「銀行制度等ワーキング・グループ」(第1回)/高田メンバー説明資料)

そして、コロナ7業種に対する地銀の融資シェアは高いのです。

また、コロナ7業種は、全雇用の約4割、法人全体の売上の2割、利益の1割と生産性が低いとされていますが、コロナ7業種が地方の雇用を保っているとの見方もできます。

コロナ7業種の業況は、地域経済の先行きに大きな影響を与えることになります。

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(出所 金融審議会「銀行制度等ワーキング・グループ」(第1回)/高田メンバー説明資料)

地銀が高い融資シェアを誇るコロナ7業種は、固定費を賄う収益性に乏しい状況にあります。そのため、コロナ7業種向けのコロナ緊急融資は事実上の固定費をカバーする赤字補填融資になっています。

売上が消失したことに伴う固定費対応の融資の償還年数は他業種と比較すると長く、短期間での返済は困難と想定されます。

コロナショックは地銀の主要取引先であるコロナ7業種に集中しています。

そしてそのコロナ7業種を支援するために貸出を行った緊急融資は簡単には返ってこないのです。要は不良債権になる可能性が高いと言えます。もちろん、コロナ対応の緊急融資は公的保証がある等、地銀の業績を直撃しない仕組みが多いのですが、緊急融資前から出していた融資はやはり不良債権になってしまう可能性が高いでしょう。

コロナショックは、大手銀行よりも地銀に対して影響を及ぼすのは上記のような理由からです。

 

所見

コロナショック、コロナ禍が地銀になぜ大きな影響を与えるのかを簡単に見てきました。

地方はコロナ7業種と言われる陸運、小売、宿泊、飲食、生活関連、娯楽、医療福祉が雇用を大きく支えています。

コロナは地方企業にダメージを与え、そして企業へのダメージを通じて地銀に大きな影響をもたらします。

そもそも低金利政策で業績が悪化してきていた地銀が、コロナによって追い詰められるのが加速したということになります。

コロナ7業種の今後の動向、そして地銀の動向に注目していきたいと思います。