金融庁の審議会が発表した報告書が、老後に公的年金だけでは足りず30年間で2,000万円必要と指摘したところ、様々な批判を浴びたことは記憶に新しいところでしょう。
しかし、筆者は公的年金だけで老後を生活していくのは難しいのではないかと考えています。公的年金自体が、現役世代から年金受給世代への仕送りのような仕組み(賦課方式)となっている以上、年金受給世代を支える現役世代の割合が低下すれば賦課方式は成り立たなくなる(実際には年金給付の水準が低下する)ためです。
よって、上記報告書で推奨されているように老後に備えた資金を準備しておくことは重要です。
では、例えば審議会の報告書で触れられた「2,000万円」を貯めることは可能なのでしょうか。本当に現実的でしょうか。
今回は、老後に2,000万円で十分か否かという議論は置いておいて、2,000万円を準備することの実現性について考察してみましょう。
2,000万円は相当な大金
2,000万円といえば一般の人にとって大金です。
老後に2,000万円必要だと言われると、現実的に無理だと感じる方もいらっしゃるでしょう。
では、2,000万円を貯めるということは何を意味するのでしょうか。
まず、単純に現金で2,000万円を貯めようとすると、毎月いくら貯蓄する必要があるでしょうか。
- 20年で貯める場合=毎月83,333円×12ヶ月×20年=2,000万円
- 30年で貯める場合=毎月55,555円×12ヶ月×30年=2,000万円
20年間貯める場合とは、45歳から65歳(年金受給開始年齢)まで現金を貯めた場合です。同様に30年間とは35歳から65歳まで現金を貯めた場合となります。
単純な計算でしかありませんが、2,000万円がいかに大金であるかが分かるのではないでしょうか。
この金額だけだと無理だと諦めてしまうかもしれません。
しかし、2,000万円を貯める手段が他に無い訳ではありません。
2000万円を準備する方法
2,000万円を準備する近道は、第一に自身の収入を増加させることです。当たり前ですね。
例えば、本を買う、大学院に行く、人脈を広げる等でお金を使い、自分に投資するということも非常に重要です。長く稼ぐ力をつけることこそが、インフレが起きても、勤める企業の倒産があっても、社会を生き延びていくために重要でしょう。
そして、その上で、2,000万円を準備する近道として、資産運用をすることが選択肢となってきます。筆者は資産運用が最も重要だとは考えていませんが、資産運用は、2,000万円を準備するための近道になり得ることは確信しています。
資産運用の例
では、どのような資産運用を行うべきでしょうか。
日本において最も取り組むべきは、確定拠出年金でしょう。iDeCo(個人型確定拠出年金)か企業のマッチング拠出のような課税所得を減らす税務メリットがある仕組みは非常に魅力的です。
事例を挙げてみます。
(※前提として年収700万円、企業年金がある会社員を想定します。計算は楽天証券の節税シミュレーションを使用しています。https://dc.rakuten-sec.co.jp/feature/simulation/)
<事例1>
- 毎月12,000円(企業年金がある場合の拠出上限額)をiDeCoに拠出
- 40~60歳までの20年間、毎年3%の利回りで運用できた場合
- 拠出額合計は2,880,000円
- 節税効果は年間43,200円、20年間で864,000円
- 運用益は節税効果含め1,059,624円であり、元本は合計で3,939,624円まで増加
<事例2>
- 毎月12,000円をiDeCoに拠出
- 40~60歳までの20年間、毎年5%の利回りで運用できた場合
- 拠出額合計は2,880,000円
- 節税効果は年間43,200円、20年間で864,000円
- 運用益は節税効果含め2,052,404円であり、元本は合計で4,932,404円まで増加
<事例3>
- 毎月12,000円をiDeCoに拠出
- 30~60歳までの30年間、毎年3%の利回りで運用できた場合
- 拠出額合計は4,320,000円
- 節税効果は年間43,200円、30年間で1,296,000円
- 運用益は節税効果含め2,672,843円であり、元本は合計で6,992,843円まで増加
<事例4>
- 毎月12,000円をiDeCoに拠出
- 30~60歳までの30年間、毎年5%の利回りで運用できた場合
- 拠出額合計は4,320,000円
- 節税効果は年間43,200円、30年間で1,296,000円
- 運用益は節税効果含め5,667,104円であり、元本は合計で9,987,104円まで増加
以上、簡単なシミュレーションでしたが、如何でしょうか。
月12,000円を30年間という長期に渡ってiDeCoで積み立て、それを年間5%で運用できれば1,000万円とすることは夢ではありません。これなら2,000万円のうちの半分が確保出来ます。
また、iDeCoの場合は運用をしなくとも(元本確保商品を選択していても)節税効果があります。これだけでも非常に大きな効果をもたらします。
節税効果と運用の複利効果は無視できません。ファイナンシャルプランナーと名乗るような金融のプロがiDeCoや長期の投資を勧めるのには理由があるのです。
まとめ
以上、iDeCoを用いた運用の事例を見てきました。筆者はiDeCoは有利だと思います(少なくとも、金融機関の窓口で売られる運用商品よりは比較にならないぐらいに良いと思います)。
但し、iDeCoでの運用が重要なのではなく、まずは収入を上げること、そして「時間と税務メリット」を味方につけて資産運用を行うことが、老後の2,000万円に近づける方法なのだと思います。
もし読者が老後に不安を抱えているのであれば、今日からでも良いので、2,000万円を準備するための方法を自分なりに考えてみるのは如何でしょうか。