確定拠出年金(DC)でのマッチング拠出が可能な企業が増加してきたとの報道がなされました。
昨今は高齢化に備えて資産運用を行うべきであるとの論調や宣伝が多いですが、DCのマッチング拠出はほとんどの資産運用商品よりも有効な運用です。
今回はDCのマッチング拠出が日本最強の運用商品のひとつであるということについて確認してみましょう。
報道内容
まずは日経新聞の記事を引用します。DCのマッチング拠出について概要が掴めると思います。
確定拠出年金、従業員が掛け金上乗せ 1万社超え
2019/03/27 日経新聞運用次第で受け取れる年金額が変わる確定拠出年金で、従業員が掛け金を上乗せできる方式を導入する企業が1万社を超えた。確定拠出年金を取り入れている企業の3社に1社に達した。「人生100年時代」を控えて自助努力に動く人が増えているが、老後の十分な資金の確保につなげるには、掛け金の上限を引き上げる議論が必要になりそうだ。
将来の年金額が決まっている確定給付型に対し、掛け金が一定で運用次第で受け取れる年金額が変わるのが確定拠出年金(DC)。企業が掛け金を出すタイプのほか、従業員も掛け金を上乗せできる「マッチング拠出」型もある。マッチング型は2012年1月の法改正で可能になった。
掛け金の額を増やすことで、運用がうまくいけば受け取れる年金も増やせる可能性がある。厚生労働省によると導入企業は11年度末の199社から増え続け、19年1月末時点で1万57社となった。確定拠出年金を導入している企業は3万2325社(1月末時点)で、全体の31%がマッチング型を取り入れた。
(中略)
信託銀行などの試算によると、18年3月末時点の確定拠出年金の資産規模は約11兆7219億円。1人あたりの平均は掛け金が年15万円、マッチング型の上乗せ額が年8万4000円だった。
マッチング型を導入する企業は増える一方、従業員の利用率はまだ3割程度だ。企業年金連合会によると17年度時点の利用率は平均29%。6割を超える企業も16%あるが、半数近い企業で2割を下回っている。
利用拡大に向けた課題は上乗せする掛け金の上限引き上げだ。確定拠出年金の掛け金の上限は月5万5000円で、従業員が上乗せできるのは会社の掛け金と同額まで。会社が2万7500円を拠出している場合、従業員の上乗せは2万7500円までで、会社が1万円の場合は社員も1万円に限られる。(以下略)
これがマッチング拠出制度が増加しているとの記事です。
そもそもDCとは
まずは確定拠出年金=DCについて確認しておきましょう。
まず、DC制度を理解するために日本の年金制度を概観します。
日本の年金制度は3階建と言われます。
1階部分は20歳以上の全国民が加入する国民年金(基礎年金)となります。これは加入期間の長さによってもらえる年金額が決まる仕組みです。
次に2階部分としてサラリーマン・公務員等が加入する厚生年金保険、自営業者等が加入する国民年金基金があります。
最後に3階部分として従業員を対象として企業が独自に運営する確定給付企業年金、確定拠出年金等があります。この3階部分に個人として積立てを行うDCも位置付けられます。
すなわちDCとは、基礎年金(1階部分)、厚生年金保険(2階部分)などの公的年金に上乗せして給付を受ける私的年金(3階部分)のひとつです。
確定給付企業年金(DB)と確定拠出年金(DC)の違い
確定給付企業年金(DB)はあらかじめ確定した給付額を賄うのに必要な掛金を企業が拠出します。掛金払込・受給の状況、運用成果に左右されるため企業の拠出額は変動しますが、従業員が将来受け取ることのできる年金額は約束されています。
一方で、確定拠出年金(DC)は企業や加入者が一定額を拠出して、加入者自らが運用を行い、運用実績により加入者毎に年金額が変動します。
DBは一見すると従業員等受けとる側にとっては有利に見えますが、企業の運用が上手くいかなければ結果として減額されるリスクもあります。また運用が上手くいったとしても従業員への年金額増加という還元はありません。
DCは加入者の個人責任であるものの、運用が上手くいけば年金額の増額は狙えます。DBとDCは表裏の関係ではあり、いずれにしろ運用環境が悪ければ年金額は減額となる可能性があります。
DCはなぜ最強なのか
筆者は冒頭でDCは日本最強の運用商品であると記載しました。
なぜ、DCは最強の運用商品なのでしょうか?
答えは簡単です。
それは、税金を減らすことが出来るからです。
従業員が自分自身の選択で拠出する確定拠出年金、すなわちマッチング拠出(iDeCoも同様の効果があります)は、節税効果が非常に大きくなっています。
例えば、課税所得500万円の個人が30歳から60歳までの30年間、毎月2万円をマッチング拠出でDCに拠出した場合を単純化して考えてみます。
- 年間拠出額24万円 × (所得税20%+住民税10%) = 年間7.2万円の節税効果
- すなわち、30年間なら216万円の節税効果
これはDCへの拠出金額を、元本毀損リスクのない定期預金で全額運用したとしても、拠出額に対して30%のボーナスがつくようなものです。リスクがないのにボーナス30%です。
すなわち上記の事例ならば、30年の減税額216万円÷マッチング拠出合計額720万円=30%です。言い換えるなら、720万円を将来のために貯めておいたら何もせずに216万円が儲かったということです。
ふるさと納税が人気ですが、この制度も実質的に2,000円だけの負担で様々な商品が手に入ります。これも実際には税金が減少することによって個人は得をする訳です。
DCのマッチング拠出もふるさと納税も基本的な得する仕組みは税金の減少ということで同じです。
マイナス金利政策下の日本で、個人にとってこれ以上有効な運用方法を私は知りません。
日本では金利が低く、運用で大幅に資産を増やすのは難しい環境にあります。銀行の経営危機が叫ばれている要因も低金利の影響があります。
収入を増やせないならば、支出を減らすことが資産を増やす王道です。つまり、税金という大きな支出を減らすのです。
個人の所得にかかる税金はかなりの割合になります。例えば「195万円を超え、330万円以下」の所得の場合、所得税は10%かかります。そして所得税に加えて住民税もかかります。毎月の給料明細を見ると額面と手取りに大きな差があり愕然とした経験をした方もいるのではないでしょうか。税率はほとんどの場合、一桁(%)ではない一方で、運用利回りを一桁(%)稼ぐのは高いハードルです。
マッチング拠出はリスク無くとも得が出来る最高の仕組みです。
もし読者が他の運用を行っているならば、個人型DC=iDeCoのような仕組みも含めて、一度比較しては如何でしょうか。面白味のある運用ではないかもしれませんが、効果は非常に高いことが分かるでしょう。(DCには更に運用益非課税、受取時の所得控除というメリットもあります。)
リスクの高い運用(例えば株式)は、面白さや高揚感があるかもしれません。しかし、運用の目的は資産を増やすことです。資産運用に面白さは必要ないのかもしれないのです。