一部報道で、個人型確定拠出年金(iDeCo)の銀行窓販解禁が報道されました。
2018年4月20日に厚生労働省が社会保障審議会企業年金部会を開催し議論をした後、2018年度中に関連規制の改正を目指すとされています。
今回はこのiDeCoの銀行窓販解禁について確認します。
報道内容
まずは、日経新聞の報道内容について確認します。
以下、新聞記事を引用します。
確定拠出年金 銀行窓販を解禁
2018/04/17 日経新聞 朝刊
厚生労働省は、老後に備えた個人の資産形成を促すため規制を緩和する。銀行などの窓口で個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」に加入できるようにする。大半はイデコの加入手続きを専用コールセンターで受け付けている。電話で必要な書類を取り寄せ、返送する手間が煩雑で、普及を阻む要因の一つとされた。「人生100年時代」に向けた自助努力を規制緩和で支える。
厚労省は20日、社会保障審議会企業年金部会を開いて、イデコの規制見直しを議論する。2018年度中に関連規則の改正をめざす。
(中略)
厚労省は銀行職員が通常の業務とイデコの受付業務を兼務することを禁じている。価格変動リスクや販売手数料の高い金融商品に誘導することを防ぐためだ。大半の銀行は業務を効率化させるためにイデコの専門職員を店舗に置かず、コールセンターで一括して受け付けている。必要な書類を取り寄せたうえで銀行に送り返す手間を煩雑に感じる加入希望者は、途中で断念しやすいとも指摘される。金融業界は規制の見直しを求めていた。
この銀行職員の兼務規制を緩和する。希望者は銀行の窓口でイデコや金融商品の具体的な説明だけでなく、年金口座の開設手続きも済ませることができるため、負担は軽くなる。銀行にとっても資産運用に強い職員をイデコの受付業務に兼務させることができれば、コールセンター任せに比べて幅広い希望者に接触できるようになる。
もっとも、個別の金融商品を選ぶように推奨したり助言したりすることは引き続き禁じる。加入者の利益を守る中立性を維持するため、イデコと通常の金融商品販売を兼務する職員には、一定の資格を義務付けることなども検討する。
(以下略)
以上が報道内容です。
iDeCoの現状
2016年12月時点で30万人強だった個人型DC(iDeCo)の加入者は、2018年2月には82万人弱まで拡大しています。
- 2016年12月 306,314名
- 2017年3月 430,929名
- 2017年6月 549,943名
- 2017年9月 652,181名
- 2017年12月 744,690名
- 2018年2月 817,248名
出典 iDeCo公式サイト
https://www.ideco-koushiki.jp/library/status/
これは順調な拡大ともみえますが、NISA(少額投資非課税制度)の1,100万口座に比べると加入者は圧倒的に少ない状況にあります。
iDeCoは日本最強の運用商品といえるほど個人にとって税務メリットが多く、個人の資産形成においては日本でこれ以上に優れた制度はないでしょう。
そのiDeCoは銀行の店頭では積極的にセールスがなされていません。
日本においては銀行が顧客から受ける信頼性は非常に高いものがあります(現時点では、といったところでしょうか)。
銀行でiDeCoの説明を受けられるようになればiDeCoの普及は更に加速していくものと思われます。
iDeCo普及の阻害要因(兼務規制)
2016年の改正DC法は2001年のDC導入以来、実質的に初めてのDC運用関連の見直しでした。
しかしながら未だに課題として残っている分野があります。
それがいわゆる兼務規制(他に専坦規制、兼業禁止規定とも言われます)です。
兼務規制とは、金融機関において預金や投資信託の販売を行っている営業職員がDCの運営管理業務を同時に行ってはならないという規制です。
以下、参考までに厚生労働省のホームページから引用しておきます。
確定拠出年金制度の法令解釈について
厚生労働省年金局長より通知(平成13年8月21日付年発第213号)抜粋
第6 行為準則に関する事項
2.確定拠出年金運営管理機関の行為準則
(5)いわゆる営業職員に係る運用関連業務の兼務の禁止
(1) 禁止の趣旨
確定拠出年金運営管理機関は、制度上もっぱら加入者等の利益のみを考慮して中立な立場で運営管理業務を行うものとして位置づけられているところであり、こうした趣旨に基づき、法第100条において、特定の運用の方法に係る金融商品について指図を行うことを勧める行為の禁止をはじめ、各種の禁止行為が規定されているところである。したがって、金融商品の販売等を行う金融機関及び国(郵政事業庁)が自ら確定拠出年金運営管理機関として運用関連業務を行う場合には、あくまでも中立な立場で業務を行い、当該禁止行為が確実に行われないようにするとともに、確定拠出年金運営管理機関に対する国民の信頼が確保されるよう、金融商品の販売等を行ういわゆる営業職員(主務省令第10条第1号に規定する「運用の方法に係る商品の販売若しくはその代理若しくは媒介又はそれらに係る勧誘に係る事務を行う者」をいう。)は運用関連業務を兼務してはならないこととしたものであること。
(2) 運用関連業務を行うことができる者(以下「運用関連業務者」という。)について
上記(1)の趣旨を踏まえ、運用関連業務者は運営管理業務の専任者が行うことを基本とし、やむを得ず兼任者で対応する場合にあっても、当該兼任者は、個人に対し商品の販売若しくはその代理若しくは媒介又はそれらに係る勧誘に関する事務を行う者であってはならないこと
出典 厚生労働省ホームページ
銀行における悩み
以上述べてきた通り、銀行の営業担当者はDCの加入者に対してDCの運用商品に関する情報提供を行うことが基本的にできません。
営業現場(例えば店頭)にDCの運営管理業務を専門に行う専坦者と金融商品の販売を行う営業担当者がいる場合には、専担者が情報提供を行うことになるのです。
なお、銀行の営業担当者はDC加入前のお客様にiDeCoの制度を紹介すること等は限定的に認められています。
しかし、お客様の側からすると銀行の営業担当者とは継続的な付き合いがあるわけです。
実際に制度に加入し、DCの運用商品選択でも相談したいというニーズがあるでしょうが、その場合には銀行の営業担当者は相談に乗ることができないのです。
iDeCoを銀行の営業担当者が案内する場合には、このような規制が制約となっています。
ただし、DCの運営管理機関ではない銀行では営業担当者がお客様の個別相談に乗ることは、不可とまではいえません。
ただし、自行でDCの運営管理機関業務を行っていない以上、営業政策として営業担当者にDCの商品説明を行わせるのは難しいでしょう。自行には一切の儲け、すなわちメリットがないからです。
今後の動向
上記の兼務規制については様々な金融機関等から見直しの要望が挙がっていました。
社会保障審議会企業年金部会における議論でも第14回会合において「運営管理機関業務のうち、運用の方法に係る情報提供業務は、営業業務を行う者が兼務しても中立性を欠くことはないため、兼務できる方向で検討」とされていました。
今回の報道が正しいのであれば、次回の社会保障審議会企業年金部会において解禁が議論されることになります。
お客様からみた場合、銀行の営業担当者にはiDeCoの相談のみならず、NISAや個人年金保険等総合的な制度・商品の説明を求めているものと想定されます。
筆者としても、顧客利便性の観点から、是非とも規制緩和がなされて欲しいと願っています。
なお。本記事は以下の記事を更新したものです。