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ソフトバンクグループの2019年3月期中間決算を簡単に語る

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ソフトバンクグループの2019年3月期中間決算が発表されました。

内容は大幅な増益となっています。その主な要因はソフトバンク・ビジョン・ファンドによるものです。

今回はソフトバンクグループの決算を簡単に確認していきましょう。

 

決算概要

では、ソフトバンクグループの2019年3月期中間決算の数値を確認しましょう。

  • 売上高 46,539億円(前年比+6%)
  • 営業利益 14,207億円(同+62%)
  • 当期純利益 8,401億円(同+719%)

これだけ見れば分かる通り、大幅な増益です。表面の数字だけ見れば絶好調と言えるでしょう。

ては、この増益の要因は何でしょうか。

以下は営業利益の主な内訳です。

  • SVF事業 6,324億円(+4,462億円)
  • スプリント 1,933億円(+445億円)
  • ヤフー 777億円(▲135億円)
  • ソフトバンク 4,469億円(+61億円)

この数値を見れば一目瞭然ですが、SVF事業=ソフトバンク・ビジョン・ファンド事業の増益が増益要因のほとんどを占めています。

なお、SVF事業を除くと営業利益は前年比+14%となっています。

 

SVF事業の内容

では、SVF事業の増益要因をさらに確認してみましょう。

SVF事業(デルタ・ファンド事業含む)の投資損益(営業費用控除前)は以下の通りです。

  • 投資の実現損益 1,466億円
  • 投資の未実現評価損益 5,043億円
  • 投資先からの利息配当収益 26億円
  • 為替換算影響額 ▲169億円
  • 合計 6,493億円

この通りSVF事業は投資先からの利息配当収益は大したことはありません。成熟企業に投資している訳ではないため当然です。

またファンド事業ですから、投資先の株式を売却等した際に利益が計上されるのも感覚的に分かりやすいでしょう。

問題は投資先の未実現評価損益です。

これは、どのようなものなのでしょうか。

 

IFRSにおける金融商品の評価

ソフトバンクグループが採用するIFRS(いわゆる国際会計基準)では、金融商品は公正価値によって評価されることが一般的といえるでしょう。

ソフトバンクグループの決算説明資料には、FVTPL(Fair Value Through Profit or Loss)にてビジョン・ファンドを評価しているとの記載があります。

純損益を通じて公正価値で評価するというFVTPLについては以下の記載が参考となるでしょう。

【金融資産の分類】
金融資産の分類について、IFRS 第 9 号では、IAS 第 39 号で採用されてきた経営者の意図としての保有目的に基づく分類原則を放棄し、資本性金融商品・負債性金融商品の区別なく、すべての金融商品の「デフォルト」区分を「公正価値を通じて純損益で測される金融資産」(financial assets measured at fair value through profit or loss, FVTPL)とした。その上で、「ビジネスモデルの整合性」及び「キャッシュ・フローの特徴」という新たな分類軸による要件に適合するものを「償却原価で測定される金融資産」(financial assets measured at amortised cost, AC)として分類することを容認すると共に、IAS 第 39 号で売却可能金融資産(available-for-sale financial assets)として区分されていたものとほぼ同様の会計処理を行える選択肢も残した。
(1) IFRS 第 9 号における新たな金融資産の分類軸
新たなフレームワークの下での金融資産の当初認識後の測定基礎は、公正価値(fair value)か償却原価(amortised cost)のいずれかになる。そして、以下の両方の要件を満たす場合に限り、償却原価(amortised cost)での測定が認められる。
a) 「ビジネスモデルの整合性」要件
企業が金融商品を運用する上で用いるビジネスモデルが、金融資産を保有し、その契約上のキャッシュ・フローを回収するものであること
b) 「キャッシュ・フローの特徴」要件
金融資産はその契約条件に基づき、特定日に、元本及び元本残高に対する金利のみを表するキャッシュ・フローを生み出すものであること

上記の要件を満たさない金融資産は、すべて原則としては「純損益を通じて公正価値で測定される金融資産」(financial assets mesuared at fair value through profit or loss, FVTPL)となる(以下略)

(出典 企画:日本 CFO 協会  発行:株式会社 CFO 本部 / FASS ベーシック 公式テキスト 「財務会計」 2011 年追補版)

企業は、公正価値を測定する際に、評価技法を用いて評価します。評価技法は、金融工学に基づいて評価する方法もあれば、単純に市場の公表価格を参照して評価するという方法もあります。

SVF事業においては、非上場株式が投資対象です。

ソフトバンクグループにおいては、同一又は比較可能な(つまり類似の)資産、負債又は事業のような資産及び負債のグループに関連した市場取引によって生み出された、価格及びその他の関連する情報を使用する「マーケットアプローチ」で株式は評価されているものと思われます。

すなわち、非上場株式でも、類似業種がファンドから増資を行ったり、大企業に買収された事例等があれば、公正価値としてマーケットアプローチで評価ができるということになります。

SVF事業においても、ソフトバンクグループはこの対応を実施しているということでしょう。

 

ソフトバンクの決算留意点

ソフトバンクグループの決算の留意点は、上記で述べてきたSVF事業です。

筆者は企業の決算は最終的にはキャッシュフローを見るべきと考えています。利益が赤字でも企業は破綻しませんが、資金繰りがうまくいかなければ企業は簡単に破綻します。

その点で、SVF事業においては利益とキャッシュフローの発生までにタイムラグが発生します。

  • SVF事業の営業利益 6,324億円・・・①
  • SVF事業の投資実現損益(Flipkart売却) 1,466億円+投資の利息配当収支 26億円・・・②
  • 上記①と②の差額 4,832億円
  • SVF事業の未実現評価損益 5,037億円
このように、特に2019年3月期中間決算時点のSVF事業利益は、会計上の利益とキャッシュフローとの間に乖離が出ました。
よって、ソフトバンクグループの業績を見ていく上では、キャッシュフローに軸足を置きながらも、SVF事業については、その投資の未実現評価損益がどうなっているのか等を想定しながら、評価をしていく必要があります。
2019年3月期中間時点の連結営業利益は14,207億円ですが、営業キャッシュフローは7,827億円です。上述の通りSVF事業においては約5,000億円の未実現評価益を計上しています。
この営業利益と営業キャッシュフローの差額こそが、筆者におけるソフトバンクグループの決算を評価するポイントなのです。