2018年6月1日に金融庁が地域銀行(≒地方銀行、地銀)の決算概要を集計し発表しました。
今回はこの決算概要についてみていくことにしましょう。
なお、全国地方銀行業界等が詳細の業界業績は毎年まとめています。現時点では公表されていないため、本件は速報版の地銀業績のまとめと言えるかもしれません。
地域銀行の2018年3月期決算の概要
では、地域銀行の2018年3月期決算を確認していきましょう。
なお、金融庁では今回の集計では「地域銀行」という呼び名を使っています。
2018年3月期の集計対象は106行(地方銀行64行、第二地方銀行41行及び埼玉りそな銀行)となっています。
<地域銀行の銀行単体業績>(単位億円)
業務粗利益(一般企業の売上高に相当)
2016年3月期 46,842
2017年3月期 43,729
2018年3月期 42,707(前期比▲1,022)
資金利益(貸出金・債券運用等の利息等収益)
※当該項目は業務粗利益の内訳
2016年3月期 39,813
2017年3月期 38,419
2018年3月期 38,319(前期比▲100)
役務取引等利益(手数料等収益)
※当該項目は業務粗利益の内訳
2016年3月期 5,471
2017年3月期 5,010
2018年3月期 5,297(前期比+287)
債券等関係損益(債券等の売買損益等)
※当該項目は業務粗利益の内訳
2016年3月期 856
2017年3月期 ▲372
2018年3月期 ▲1,213(前期比▲841)
経費
2016年3月期 ▲30,936
2017年3月期 ▲30,894
2018年3月期 ▲30,528(前期比+366)
実質業務純益(一般企業の営業利益に相当)
2016年3月期 15,905
2017年3月期 12,834
2018年3月期 12,178(前期比▲656)
与信関係費用(不良債権等の処理費用、▲は費用発生)
2016年3月期 ▲872
2017年3月期 ▲861
2018年3月期 ▲1,065(前期比▲204)
株式等関係損益(持合株式の売却等)
2016年3月期 1,609
2017年3月期 2,136
2018年3月期 2,751(前期比+615)
当期純利益
2016年3月期 11,729
2017年3月期 10,002
2018年3月期 9,965(前期比▲37)
上記が集計された地域銀行の2018年3月期業績です。
金融庁はこの地域銀行の業績について「2018年3月期は、株式等関係損益が増加したものの、貸出金利回りの低下等により資金利益が減少したことや、債券等関係損益が減少したことなどにより、当期純利益は前年同期に比べ、0.4%の減少。」と説明しています。
この説明は嘘ではありませんが、ニュアンスが実際の数値とは異なっているように筆者は感じています。
まず、業務粗利益(≒売上)は約1,000億円減少しました。
この▲1,000億円の要因は、資金利益(貸出金・債券運用等の利息等収益)が▲100億円、役務取引等利益(手数料等収益)+287億円、債券等関係損益(債券等の売買損益等)▲841億円が主要な要因となります。
すなわち、資金利益(貸出金利息、債券運用の利息収入、投信等の売買損益等)は貸出金利回りが減少しても、あまり減少していないのです。
そして役務取引等利益(いわゆる手数料収益)は収益増になってます。
この決算概要だけを見た場合、地域銀行決算の最大の問題点は債券等の関係損益、すなわち国債等への投資が上手くいっていないことです。
マイナス金利政策導入により債券投資が上手くいかなくなっていることを、この決算概要は語っているのです。
それが地域銀行の業績苦戦の理由なのです。
この点を、地域銀行の決算では押さえておく必要があるのです。
ただし、注意しなければならないのは、この銀行の本業収益といえる資金利益です。
この資金利益は、私募投信の益出し(購入当初よりも価格が上がっている私募投信を売却し利益を確定させること)も含まれます。
金融庁の集計した当該データでは、資金利益のうち、貸出金による利息収入がいくらで、債券運用から発生する利息収入がいくらで、私募投信等の売買に伴うものがいくらか、までは分かりません。
金融庁のみならず日銀も地銀の有価証券投資・私募投信投資への傾注に警鐘をならしています。
よって、筆者も地銀の資金利益があまり減少していないので地銀の本業が大丈夫というつもりはありません。
しかし、数字を冷静に見ることも必要だということを言いたいだけです。
さて、今までは損益についてみてきましたが、資産の動向についても簡単に確認しておきましょう。
貸出金(末残)
2016年3月期 242.0 兆円
2017年3月期 251.0 兆円
2018年3月期 260.6 兆円
不良債権額
2016年3月期 5.2 兆円(不良債権比率2.13%)
2017年3月期 4.8 兆円(同1.90%)
2018年3月期 4.5 兆円(同1.71%)
まず、金融緩和環境の下、地域銀行は貸出を増やしています。
特に不動産業向けもしくは個人向けの貸出が増えている模様です。
スルガ銀行の「かぼちゃの馬車オーナー向け」のアパートローン等のイメージが強いかもしれませんが、地域銀行全体ではアパートローン等は不良債権化はしていないということになります。
その証拠に、不良債権額は2017 年3月期に比べて足下でも減少が続き、不良債権比率も低下しています。
不良債権額も比率も、1999年3月期の金融再生法に基づく開示以降で最低水準となっています。
そして、自己資本も充実しています。
総自己資本比率(国際統一基準行:11行)
13.94%
14.01%
自己資本比率 (国内基準行:95行)
2017年3月期 9.86%
2018年3月期 9.70%
※国内基準行の自己資本比率は2017年3月期に比べ低下していますが、これには貸出等の増加による総資産増加要因があること、基準値を大幅に上回る自己資本比率を確保していることから、自己資本については問題ない水準と言って良いでしょう。
(上記数値の出典=金融庁HP)
https://www.fsa.go.jp/news/30/ginkou/20180601-2/01.pdf
所見
以上、地域銀行の業績について確認してきました。
地域銀行≒地銀は業績が厳しいと報道されています。
筆者もある程度はそのように思います。
しかし、上記の業績をみて、皆さんはどのように感じたでしょうか。
上記の決算数値を確認すればわかるように、すぐに倒産に至る、立ち行かなくなるレベルではないことも、また事実です。
地方経済の縮小を放置すれば、地銀の経営が「じり貧」となるのは間違いありません。
そして少子・高齢化、およびそれに伴う企業数の減少は、これから主に影響が出てくるのです。
そのようか影響を見越して、今から手を打つのは非常に重要なことですが、マスコミの近時の報道等をみていると、地銀の経営がすぐにでも立ち行かなくなるようなニュアンスを感じます。
それは、少し違うのではないかと筆者は考えています。