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スルガ銀行の決算は冷静に見るべき ~2018年3月期決算のポイント~

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シェアハウス業者スマートデイズ関連融資問題で注目を浴びているスルガ銀行が2018年3月期の決算を発表しました。

同時に発表された危機管理委員会の調査内容はマスコミに取り上げられていますが、一方で、スルガ銀行が発表した決算自体についてはあまり報道されていないように感じます。

そこで、今回はスルガ銀行の決算数値だけを冷静にみていくことにします。

 

報道

まずは概要をまとめている報道記事から引用します。

決算のイメージがつかめると思います。

株探ニュース 2018/05/15

スルガ銀行 <8358> が5月15日大引け後(15:00)に決算を発表。18年3月期の連結経常利益は前の期比47.0%減の308億円に落ち込んだが、19年3月期は前期比18.2%増の365億円に回復する見通しとなった。
直近3ヵ月の実績である1-3月期(4Q)の連結経常損益は198億円の赤字(前年同期は138億円の黒字)に転落した。

 

スルガ銀の前期、連結純利益半減 シェアハウス問題響く
2018/05/15 日経速報ニュース

スルガ銀行が15日発表した2018年3月期の連結決算は、純利益が前の期比で半減の210億円だった。シェアハウス向けの融資をめぐるトラブルで実質与信費用が膨らみ、純利益を下押しした。本業の利益を示す実質業務純益(単体)は同8%増の684億円だった。
19年3月期の連結純利益は19%増の250億円を見込む。シェアハウス問題の影響で営業活動は減速するが、住宅ローンなどのビジネスは一定の勢いを保つとみる。

以上がマスコミの報道でした。

 

決算概要

では、スルガ銀行の決算について詳細を確認していきましょう。

まずは決算の数値を確認しておきます。

以下の数値は単体です。

 

  • 業務粗利益(一般企業の売上高に相当) 1,152億円(前年同期比+43億円)
  • 実質業務純益(一般企業の営業利益に相当) 681億円(同+48億円)
  • 業務純益(実質業務純益に一般貸倒引当金を繰入)422億円(同▲214億円)
  • 当期利益 193億円(同▲224億円)

以上のようになっています。

恐らくあまりマスコミ的には面白くない数値なので取り上げられにくいのでしょう。

上記の決算におけるポイントは以下です。

  • スルガ銀行の前期(2018年3月期)決算は、増収
  • 同行の本業にかかる利益も増益
  • 一般貸倒引当金を取引先の破綻等に備えて計上した結果、業務純益以下(経常利益・当期利益)は大幅減益
  • ただし、黒字は確保

ここで、筆者があえて言及しておきたいのはスルガ銀行はシェアハウス融資に関連し、相当な損失を計上したイメージがある読者もいらっしゃると思いますが、少なくとも黒字決算だったということです。

確かに、スルガ銀行は巨額の損失を計上しました。しかし、それを上回る利益を確保しているのです。

これは無視してはいけない事実です。

では、スルガ銀行はなぜ収益力が高いのでしょうか。

 

スルガ銀行の収益力

スルガ銀行の収益力の強さは、単純にいえば高い金利でお金を貸していることが要因です。

金利競争が起きやすい法人向け貸出は実質的にやめて、個人向けの貸出に集中しています。2018年3月末の同行の個人向けローン比率は90.1%となっています。

すなわち、普通の銀行よりは消費者金融に近いかもしれません。

現時点では、決算短信等しか開示されていないため、金利状況の詳細は決算説明会開催後に判明します。

しかし、2017年3月期の決算数値によれば、シェアハウスのオーナー向け融資のような有担保パーソナルローン(いわゆるアパートローン)は残高6,096億円、平均金利は4.1%となっていました。

すなわちアパートローンで得られる年間の金利は約250億円(=6,096×4.1%)だったのです。
少々の損失を出しても金利が高いためカバーできるのです。
これが、スルガ銀行の収益力です。

しかしながら、高い金利でお金を貸していても、すぐに破産してしまいお金が返ってこないような信用力のない債務者ばかりに貸していたら何の意味もありません。

そこで、今まではP/L(損益計算書)について触れてきましたが、次からはB/S(バランスシート、貸借対照表)の観点からみていくことにしましょう。

 

バランスシートの観点

スルガ銀行はシェアハウス関連融資の問題を受け、借入人の破綻に備えて多額の引当金を計上しました。

この引当金の動向が同行の決算および健全性を理解するポイントになります。

ここでは、現時点で把握・比較可能な金融再生法開示債権の分類で、数値を確認します。

まず、スマートデイズの問題が出てくる前の2017年3月期の数字です。

 

  • 破産更生債権及びこれらに準ずる債権 7,721百万円
  • 危険債権 12,724百万円
  • 要管理債権 8,512百万円
  • 債権全体に占める開示債権比率 0.88%

※破産更生債権及びこれらに準ずる債権とは、破綻先および実質破綻先向け、危険債権とは破綻懸念先向けであり基本的に延滞債権、要管理債権とは主に貸出条件緩和債権のこと

 

すなわち、債権回収に懸念がある債権は同行保有債権全体の1%未満でした。

誤解を恐れすまにいえば、同行の保有債権(貸出)全体で1%以上の利益が確保できていれば、債権回収に懸念のある債権が全て回収不能になったとしても利益は確保できます。

もちろん、実際上は担保もあるため相応の利益さえ確保できていれば問題ありません。

銀行というビジネスは貸し倒れ(債権の回収が出来ないこと)が発生することを前提にしています。その上で、利益が残る金利水準を設定しているはずなのです(最近はそうともいえませんが)。

では、2018年3月期はどうだったでしょうか。

  • 破産更生債権及びこれらに準ずる債権 10,573百万円(前期比+2,852百万円、+36.9%)
  • 危険債権 47,722百万円(同+34,998百万円、+275.1%)
  • 要管理債権 13,874百万円(同5,362百万円、+63.0%)
  • 債権全体に占める開示債権比率 2.2%

以上のように大幅に不良債権が増加しています。
400億円超もの増加となり、かぼちゃの馬車のオーナー向け債権も含まれているものと想定されます。

スマートデイズ=かぼちゃの馬車関連債権が1,200億円程度だとすると、そのうちの1/3を不良債権と査定したことになります。

また、担保評価は、以前の日経新聞(2018/05/03付)では400億円とされており、残り400億円は処理されていない債権であるともいえます。

なお、上記に挙げた金融再生法開示債権は単純に債権の額が増加しただけではありません。

各分類債権につき担保や保証で保全されていない(非保全)部分の引当率の推移は以下のようになっています。(最初が2017年3月期、後者が2018年3月期)

  • 破産更生債権及びこれらに準ずる債権 100%→100%
  • 危険債権 31.4%→41.9%
  • 要管理債権 12.1%→29.6%

この通り、スルガ銀行は危険債権、要管理債権の非保全部分の引当率を大幅に引き上げています。

すなわちバランスシートの健全性という観点では以下のようにいえます。

  • かぼちゃの馬車関連融資のうち350億円程度が延滞状況にある可能性が高い(危険債権の増額分)
  • 貸出条件の変更に合意したのは50億円程度(要管理債権の増額分)
  • 危険債権および要管理債権は非保全部分の引当率が大幅に増加
  • スマートデイズ関連貸出の残り800億円は自己査定上の要注意先として分類されている可能性あり
  • 自己査定上の要注意先債権については2017年3月=1,622億円→2018年3月=2,940億円(+1,318億円)と急上昇
  • これにはスマートデイズ以外のシェアハウス関連融資も含まれているものと想定
  • 2018年3月期決算では一般貸倒引当金(金融再生法開示債権以外の正常債権をカバーするもの)を262億円増額
  • この一般貸倒引当金の増加分262億円が上記の要注意先債権の増加に対応したものだとすると262億円/1,318億円=20%
  • 日銀の金融システムレポート別冊シリーズ「2015 年 8 月 地域金融機関における最近の貸倒引当金の算定状況」では地域銀行の要注意先の引当率は平均2%程度
  • よって、スルガ銀行は一般貸倒引当金をかなり保守的に積んだ可能性が高い

筆者としては現時点で判明している事実を勘案すると、スルガ銀行の健全性はあまり問題がないのではないかと考えています。

すなわち、スルガ銀行が破綻に瀕しているような論調の報道等もありますが、そこまでの問題には、少なくとも決算上は陥っていないということです。

 

所見

筆者はスルガ銀行のビジネスモデル自体はあまり好みません。

その理由は以下の通りです。

  • 債権回収は本来はかなりの手間がかかること
  • キレイなビジネスをイメージして銀行に入ってきた銀行員に債権回収業務が良くない影響(転職、モチベーション低下などに)を与える可能性があること
  • 特に日本において、個人もしくは中小企業向けの「金貸し」は世間から叩かれてきたこと(商工ローン、消費者金融等)
  • そのため、単なる貸出採算を超えた社会リスクとでもいうべきリスクにさらされること

今回も上記の社会リスクとでもいうべきリスクに金融機関がさらされるのを見ました。

スルガ銀行は多数の問題をかかえ、審査機能も不全で銀行とは単純に呼べないようにも思えますが、一方で冷静にみれば、収益力・バランスシート面は相応の水準を保っています。

貸出という商品は、一旦金利等の条件が決まってしまえば長くその条件が続きます。スルガ銀行の収益力はそう簡単には落ちないのです。(もちろん、きちんとした先に貸し出していることが前提です)

この事実も認識すべきであるとは思うのです。

そして、その数字を超えた社会の「金貸しに対する反感」のようなもののリスクをも認識しなければなりません。

これが、リテール(個人)特化戦略の難しいところであり、改めて筆者はその難しさを感じています。