日本の上場企業で買収防衛策の廃止が相次いでいます。
導入企業がピークだった2008年と比べると約3割減となっていますので、導入を取り止めた企業が相次いでいるのが分かります。
今回は、買収防衛策を導入した意味、廃止する背景、本当に廃止してよいのか等について考察します。
報道の確認
上場企業において買収防衛策の廃止が相次いでいる状況の概要をつかむには報道記事がまとまっています。
以下引用します。
買収防衛策、廃止相次ぐ
2018/05/18 日経新聞
買収防衛策の導入企業が減っている。18年は前年より18社少ない392社と12年ぶりに400社を割り込む見通しだ。ピークだった08年と比べ3割の減少になる。経営陣の保身につながり、企業価値向上の機会を損ねているとして投資家の批判が強い。株価にマイナスに働くとの見方もあり廃止が相次いでいる。
M&A(合併・買収)助言のレコフが4月末時点で集計したところ買収防衛策を導入している企業は401社だった。その後、帝人や日本ハム、WOWOWなど13社が廃止を決めた。一方で3社が新たに導入すると発表している。
廃止を決めた平田機工は「株価上昇で買収リスクが下がっているのが一因だが、買収防衛策自体が時代のニーズから外れている点も考慮した」(IRグループ)と話す。
GMOインターネットが今年3月に開いた株主総会では買収防衛策の廃止を求める株主提案に45%の賛成が集まった。防衛策を導入している企業は取締役の選任議案への反対も増える傾向があり、熊谷正寿社長の選任議案には26%の反対票が入った。
フィデリティ投信の三瓶裕喜氏は「買収防衛策の存在自体が株価のマイナス材料になるため制度の実効性は低い。企業価値を高めて株価を上げる方が買収リスクは下がる」と指摘している。
以上が報道内容です。
では、買収防衛策について以下で詳しくみていきましょう。
買収防衛策とは
そもそも買収防衛策とは何を指すのでしょうか。
ここでは2005年に経産省・法務省が作成した「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」から定義を引用します。
<買収防衛策とは>
株式会社が資金調達などの事業目的を主要な目的とせずに新株又は新株予約権の発行を行うこと等により自己に対する買収の実現を困難にする方策のうち、経営者にとって好ましくない者による買収が開始される前に導入されるものをいう。
http://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/pdf/3-shishinn-honntai-set.pdf
上記指針は法的拘束力はないものの、買収防衛策に関する指針を策定し、公正なルールを形成しようとしたものでした。
その指針で示されている買収防衛策が従うべき原則は以下の通り(BUSINESS LAWYERSから引用、一部筆者加筆修正)です。
【原則】
(1)企業価値・株主共同の利益の確保・向上の原則
これは、「買収防衛策の導入、発動及び廃止は、企業価値、ひいては、株主共同の利益を確保し、又は向上させる目的をもって行うべきである」とするものです。
(2)事前開示・株主意思の原則
これは、「買収防衛策は、その導入に際して、目的、内容等が具体的に開示され、かつ、株主の合理的な意思に依拠すべきである」とするものです。
(3)必要性・相当性確保の原則
これは、「買収防衛策は、買収を防止するために、必要かつ相当なものとすべきである」とするものです。
【一般的な買収防衛策】
上記3つの原則に従った具体的な買収防衛策として、当初は、信託型と事前警告型という2つのタイプの買収防衛策が導入されましたが、現在は、コスト面などから事前警告型のタイプに収斂しています。
事前警告型の買収防衛策は、会社が事前にその会社を買収する際のルールを開示し、そのルールに従わない買収者には、対抗措置を講じるというものです。
ルールの内容について、以下の通りとなります。(1)情報の提供
まず、一定の割合(たとえば20%以上など)以上の株式の取得(以下「大規模買付け」といいます)を希望する者(以下「大規模買付者」といいます)は、大規模買付けの目的、大規模買付け後の経営方針、資金の出所など対象会社が求める情報の提供が求められます。
(2)取締役会の検討、第三者委員会での諮問
そして、情報の提供を受けた対象会社の取締役会は、大規模買付者による大規模買付けが、対象会社の企業価値を毀損するものでなく、大規模買付けを許可できるか等を検討します。この際、取締役会だけでなく、別途、独立社外者により構成される第三者委員会にも諮問が行われる場合が多くなっています。
(3)株主総会
さらに、株主総会を開催し、大規模買付けの是非について株主の信を問うタイプのものも多く見られます。
このような手続を経て、対象会社が大規模買付者による大規模買付けが対象会社の企業価値を毀損するものではないと判断できた場合に初めて大規模買付けが可能になります。(4)対抗措置
逆に、対象会社の企業価値を毀損するおそれがある等として大規模買付けを不可と判断されたにもかかわらず、大規模買付けを開始した場合、対抗措置が講じられることになります。
対抗措置の内容としては、大規模買付者だけが行使できない新株予約権を全株主に交付することで、大規模買付者が保有する株式の議決権割合を希薄化するというのが一般的です。(BUSINESS LAWYERS(ビジネスロイヤーズ)より引用)
なお、コーポレートガバナンスコードでは買収防衛策について、以下のように条項が定められています。
【原則1-5.いわゆる買収防衛策】
買収防衛の効果をもたらすことを企図してとられる方策は、経営陣・取締役会の保身を目的とするものであってはならない。その導入・運用については、取締役会・監査役は、株主に対する受託者責任を全うする観点から、その必要性・合理性をしっかりと検討し、適正な手続を確保するとともに、株主に十分な説明を行うべきである。
<補充原則>
1-5① 上場会社は、自社の株式が公開買付けに付された場合には、取締役会としての考え方(対抗提案があればその内容を含む)を明確に説明すべきであり、また、株主が公開買付けに応じて株式を手放す権利を不当に妨げる措置を講じるべきではない。
機関投資家の議決権行使基準
では、買収防衛策について、最も影響を受ける株主はどのように考えているのでしょうか。
まずは、機関投資家の株主総会における議決権行使の方針をみていきましょう。
近時は日本の国内投資家も株主総会における議決権行使基準を開示するようになりました。
そこで、年金基金等の運用で大きな役割を占める信託銀行の議決権行使基準をみていきます。
三井住友信託銀行 議決権行使基準(抜粋)
Ⅴ. 議決権行使ガイドライン
1. 取締役会及びその構成、取締役の選任
【具体的判断基準 1】
<議案内容>
取締役選任
<基準(抜粋)>
⑬ Ⅴ-7. 買収防衛策の制度設計において、株主総会の決議によらず買収防衛策を導入・更新した場合、取締役選任に反対
7. 買収防衛策
【議案に対する考え方】
買収防衛策は、取締役会の保身を目的とするものであってはならず、中長期的な株主価値の向上に資するものであるべきと考えます。
買収防衛策を導入する企業は、導入の目的や内容を開示し、十分な説明責任を果たさなければならず、当該防衛策は、買収者・被買収者の双方にとって中立で公平な制度となるように設計され、その発動時における意思決定の透明性・妥当性が確保されるとともに、株主の同意に基づき導入・更新されるべきと考えます。
【行使の原則】
以下に掲げる要件のうち、いずれか 1 つでも満たさない場合は、買収防衛策の議案に原則、反対します。また、買収防衛策の制度設計において、株主総会の決議によらず買収防衛策を導入・更新している場合は、取締役選任議案において意思表示をします【7 ページの具体的判断基準1-⑬】。
(1) 買収者・被買収者の双方にとって中立で公平な制度設計となっていること
(2) 取締役会の構成において独立した社外取締役の過半数の選任により、コーポレートガバナンスが確保されており、その成果によって資本効率性が中期的に継続して妥当な水準以上であること【同 7-①,②】
(3) 発動に際して、独立性が認められる委員により構成された独立委員会による事前検討が実施される仕組みとなっている、または株主総会への付議による株主意思確認型であること【同 7-③-a】
(4) 期限が有限であること【同 7-③-b,c】
【具体的判断基準 7】
<議案内容>
買収防衛策
<基準>
① 独立性基準を満たす社外取締役が取締役総数の過半数存在しない場合、反対
② 3 期連続で業績基準を満たさない場合、反対
③ 上記①と②の基準を満たす場合であっても、制度設計上、以下の条件をいずれか1つでも満たさない場合、反対
a. 独立性が担保された独立委員会が設置されている、または株主意思確認型(総会決議により発動)であること
(※社外役員の独立性基準で確認、1 人でも問題がある場合は反対)
b. 有効期間が概ね 3 年以内に設定されていること
c. 取締役会、または独立委員会での検討期間が無期限に延長できないこと
(※但し書きで延長可能な記載の場合、延長日数が明記されていれば可)
④ 対抗策なし型(新株発行が定められていない)は買収防衛策とは見做さず、賛成
10. 定款変更、その他の議案
【議案に対する考え方】
定款変更を含む、その他の各種施策についても、中長期的な株主価値の向上ひいては顧客(受益者)の利益増大に寄与するものでなければならず、その実施にあたっては、十分な説明責任を果たさなければならないと考えます。
【行使の原則】
(1) 定款変更については、以下の基準の通り行使します。
(中略)
・ 発行可能株式総数引上げについては、拡大幅が妥当であり、その理由が次のいずれかに該当する場合には、賛成します【同 10-④】。
・買収防衛策の導入に伴うものであり、当該防衛策が買収防衛策導入の議案に関する基準に掲げる事項を満たす場合
【具体的判断基準 10】
<議案>
発行可能株式総数拡大
<基準>
④ 現行消化率 50%未満または増加率 1.5 倍以上で、合理的な理由(合併/吸収/適切な買収防衛策導入等)がない場合、原則反対【同 10-b】
以上につき以下リンク先(三井住友銀行ホームページ)から引用
http://www.smtb.jp/business/instrument/voting/construction.html
以上の買収防衛策に対する議決権行使基準の考え方は、他の機関投資家とも共通するものです。
買収防衛策の判断ポイントは以下の点にあります。
- 取締役会の保身を目的とするものであってはならないこと
- 社外取締役の目線(ガバナンス)が必要
- 業績が基準を上回っていなければ買収防衛策を導入するのは不可
- 中長期的な株主価値の向上に資するものであるべきこと
- 買収者・被買収者の双方にとって中立で公平な制度としなければならないこと
- 買収防衛策の発動時における意思決定の透明性・妥当性が確保されること
- 導入は株主の同意に基づきなされるべき(更新も同様)
以上が国内機関投資家の一般的な考え方でした。
では、海外の投資家はどのように考えているのでしょうか。
次に議決権行使助言会社の基準をみてみましょう。
議決権行使助言会社の助言方針
先ほどは大手国内機関投資家の議決権行使基準をみてきました。
次に、海外の大手議決権行使助言会社が推奨している助言方針をみていきましょう。
海外の機関投資家の中には、日本企業の株主総会議案を全て読み込むほどの時間が取れない(従って判断する時間もない)ところが多々あります。
そのため、議決権行使助言会社の推奨に基づいて議決権行使をしているのです。
ですから、実際の判断は機関投資家各々だったとしても、各機関投資家は議決権行使助言会社の考え方に影響を受けています。
それでは、以下では海外議決権行使助言会社大手のInstitutional Shareholder Services(ISS)の助言方針についてみていきましょう。
Japan Proxy Voting Guidelines
2018年版 日本向け議決権行使助言基準(抜粋)
<株主の利益に反する行為>
取締役選任議案を検討する際には、下記のような株主の利益に反する行為も考慮する。
・株主総会決議のない買収防衛策の導入
<買収防衛策関連の変更>
買収防衛策に関連する定款変更は、その企業の買収防衛策に賛成を推奨する場合を除き、原則として反対を推奨する。
<13. 買収防衛策(ポイズンピル)>
【経営権の争いがない場合】
買収防衛策の導入および更新は、下記の条件を全て満たす場合を除き、原則として反対を推奨する。
(第1段階:形式審査)
› 総会後の取締役会に占める出席率に問題のない独立社外取締役の比率が3分の1以上、かつ2名以上である
› 取締役の任期が1年である
› 特別委員会の委員全員が出席率に問題のないISSの独立性基準を満たす社外取締役もしくは社外監査役である
› 買収防衛策の発動水準が20%以上である
› 有効期限が3年以内である
› 総継続期間が3年以内である
› 他に防衛策として機能しうるものがない
› 株主が買収防衛策の詳細を検討した上で、経営陣に質問する時間を与えるために、招集通知が総会の4週間前までに証券取引所のウェブサイトに掲載されている
(第2段階:個別審査)
› 買収されやすい状況の改善を目的とする具体的な株主価値向上施策に加え、買収防衛策導入により与えられる一時的な保護が、どのようにしてその施策の実行に役立つのかを招集通知で説明しており、その内容が妥当であると結論付けられる
【経営権の争いがある場合】
経営権の争いがある場合は、取締役選任の基準を準用する。
<解説>
多くの投資家は買収防衛策を経営者の保身手段と考える。投資家の視点から買収防衛策が正当化されるのは、企業の本質的価値を下回る金額で企業を買収しようとする買収提案者が現れた場合、取締役会が提案者と有利に交渉を行う手段として買収防衛策を用いる場合である。
そのようなシナリオには、業績悪化などで企業評価が一時的に下がり、本質的価値を下回る金額で株式が取引されているときに敵対的買収に対する脆弱性が高まり、買収防衛策による一時的な保護が必要とされる場合が該当する。買収防衛策はそのような特別な状況に対応するための、あくまでも一時的な手段である。しかし、日本で現在導入されている買収防衛策の9割は導入からすでに9年以上経過している。
一方、ISSの調査によれば、2009年には570社を超える日本企業が防衛策を保有していたが、2017年6月時点において、株主総会決議なしで防衛策を導入・更新した企業(17社)を含めても、買収防衛策を保有する企業数は464社にまで減少している。本ポリシーは、各々の企業の経営環境の変化に関わらず、企業が買収防衛策を当然のように更新する現状に警鐘を鳴らし、買収防衛策廃止の流れを加速することを意図する。
ISSは買収防衛策議案を最終的には個別に判断するが、その第1段階として上記の形式審査を設けている。それらの審査条件を全て満たして、はじめてISSは賛否の推奨を個別に検討する。形式審査条件を全て満たす買収防衛策は少数だが、その場合にかぎり第2段階の個別審査を行う。個別審査ではその企業が持つ株主価値向上計画を評価する。買収防衛策を求めること自体が、株価バリュエーションが低く買収のターゲットになりやすいことを取締役会が認めていると解釈される。よって、株主の興味は、株主価値向上の施策であり、それがない場合、業績不振の経営陣が保身のために買収防衛策を求めていると判断される。
日本の買収防衛策の主な問題点は、買収防衛策を実質的に運用する取締役会が社内者で占められ、取締役会の独立性に懸念があること、および情報開示の少なさである。買収防衛策の運用が経営陣の保身ではなく、株主価値の向上に寄与するには、取締役会に一定数の独立社外取締役が存在することが不可欠である。
また、買収防衛策が株主総会決議なしで導入されている場合、ISSは経営トップへの反対を検討する。
以上については以下リンク先資料から引用
https://www.issgovernance.com/file/policy/active/asiapacific/Japan-Voting-Guidelines-Japanese.pdf
以上をみてきて分かることは、買収防衛策は株主のためであり、取締役のためではないことが徹底されているということです。
買収者が現れた時に、本質的な企業価値よりも安い株価で買収されることを防ぐために買収防衛策はあるという考え方なのです。
これがポイントとなります。
買収防衛策に関する裁判例
今まで、機関投資家、議決権行使助言会社の考え方をみてきました。
これは「投資家」側の考え方です。
しかし、この考え方だけで買収防衛策が廃止するほど企業側(経営者)は甘いでしょうか。
「企業側」にとっても一定の判断材料があったのではないでしょうか。
以下では有名なブルドックソース判決(最決平成19年8月7日)を確認し、その上で、実務的な課題も整理しておきましょう。
<ブルドックソース事件の概要>
本事件は、(1)事前警告型買収防衛策を導入しておらず、(2)敵対的買収としての公開買付け開始後に買収防衛策の採用と発動を株主総会の特別決議で決定したものです。
最高裁は、新株予約権の差止め仮処分の決定において(1)買収防衛策を事前に導入していなかった点については、「事前の定めがされていないからといって、そのことだけで、経営支配権の取得を目的とする買収が開始された時点において対応策を講ずることが許容されないものではない」とし、また(2)買収防衛策の必要性については、「最終的には会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべき」であり、株主総会での決議を尊重すべきであるとしています。
この判決によって、事前に買収防衛策を導入しなくとも、有事において買収防衛策を発動することは可能であることが明らかになりました。
この意味で事前警告型買収防衛策の必要性が薄れたことも防衛策廃止の背景にあるとも考えられます。
しかし、これには実務上の課題もあります。
本事件と同様に買収防衛策を発動する場合には、公開買付期間中に株主総会を開催し、その決議を経ることが必要となります。
本事件では、公開買付開始後に買付け期間を延長した結果、買付け期間中に定時株主総会を迎えたため、買収防衛策採用及び発動の特別決議が得られたものです。
したがって、株主総会開催の準備がない時期に買収者が突如公開買付を開始した場合、臨時株主総会を招集するための取締役会の開催や会場確保を2ヶ月以内に行うことは極めて困難ですから、総会開催は不可能でしょう。
公開買付実施の開始前に熟慮期間を設けている買収防衛策は、上記時間的問題を解決する手法と位置付けることができます。
以上、Seiwa Meitetsu Law Officeホームページより引用(一部筆者加筆修正)
以上の通り、買収防衛策はたとえブルドックソースの事件判決があったからといって意味のない手法となっている訳ではないことが分かります。
買収防衛策が廃止されていく背景
以上、政府、機関投資家、議決権行使助言会社、裁判例から買収防衛策についてみてきました。
結局のところ、買収防衛策が廃止されつつある現状は何を示しているのでしょうか。
筆者は以下の通りと考えています。
- 日本の株式市場における外国人株主比率は3割程度であるものの、売買比率では6割程度となっており、企業も無視ができない存在になってきている(参考:日経新聞記事は以下)https://www.nikkei.com/article/DGXLZO14966060V00C17A4920M00/
- 外国人株主は株主にとっての企業価値向上を純粋に求めることが多く、取締役は株主から経営を付託されているだけであるという考えに忠実
- 日本ではコーポレートガバナンス・コードの制定等により企業の株式持合は減少している(=絶対的な安定株主が減少してきている)
- 日本の機関投資家はスチュワードシップコードの締結を政府より迫られ、今まで以上にアセットオーナー(実際の資金の出し手)のために議決権行使を行うようになっている(≒従来の外国人株主と考え方が同様になってきた)
- 日本の株式市場における株価はアベノミクスがスタートして以降、結果としては上昇しており、著しく割安に放置されている株式が減少してきている(=買収リスクが減少している)
- 買収防衛策を導入しているということは、自社の株価が割安に放置されており、それを現経営陣は修正できていないということを意味するという認識が広まってきた
以上のような状況・環境が相まって、買収防衛策は廃止されてきているのです。
原理原則からいって、この動きは当たり前なのでしょう。
投資資家の視点から買収防衛策が正当化され得るのは、企業の本質的価値を下回る金額で企業を買収しようとする買収提案者が現れた場合、取締役会が提案者と有利に交渉を行う手段として買収防衛策を用いる場合です。
そして、取締役会が株主に有利な条件を引き出す交渉手段として買収防衛策を活用し得るような事例としては、業績悪化などで企業評価が一時的に下がり、本質的価値を下回る金額で株式が取引されているときに敵対的買収に対する脆弱性が高まり、買収防衛策による一時的な保護が必要とされる場合が該当する程度でしょう。
買収防衛策はそのような特別な状況に対応するための、あくまでも一時的な手段です。
長期にわたり継続される買収防衛策は、経営者の自己保身と解釈されるといことなのです。
筆者は、買収防衛策を何が何でも廃止すべきとは考えていません。
あくまで、敵対的買収者との交渉時間を稼ぎ、「株主にとって」有利な策は何かを議論・検討するためには有用だと考えています。
特に、日本においては正社員の終身雇用が存在する(最近は事実ではなく幻想になってきたかもしれませんが)ため、ステークホルダーとしての従業員も無視できないでしょう(モチベーションの低下、転職等企業価値を維持できなくなるという観点)。
また、顧客・取引先(納入先等)への影響も存在します。
そのような企業を取り巻く環境を鑑み、自社の置かれた状況を踏まえて、積極的に買収防衛策を導入する企業が存在しても良いのです。
ただし、明らかになってきたことは、株式会社は「株主の所有物」であり、主権は株主であるという原理原則が、日本においても浸透してきたということです。
株式会社において経営陣(取締役)は、従業員からの出世すごろくの「上がり・ゴール」ではありません。株主から経営のプロとして、経営を請け負う存在なのです。株式会社は社長のものではなく、株主のものです。
そこを間違えずに買収防衛策の導入の意味を検討することが、今後はさらに求められていくのです。