新築のマンション価格が上昇しています。
この水準だと、普通にサラリーマンとして働いていても、なかなか東京都内で新築のマンションを購入するのは難しくなってきています。
今回はこの新築マンション価格(首都圏)の民間調査について確認します。
概要
まずは、日経新聞の記事を確認しましょう。
概要がまとまっています。
新築マンションの収益力が最低水準 首都圏の民間調査
2018/05/08 日経新聞
首都圏の新築分譲マンションの収益力が低迷している。東京カンテイ(東京・品川)によると価格が賃料の何年分に当たるかを示す2017年の「PER」は前年並みの24.49。調査対象の00年以降では投資回収に最も時間がかかる結果となった。「賃料見合いだとマンション価格はバブル期に匹敵するほど過熱している」(高橋雅之主任研究員)とみている。
平均価格(70平方メートル換算)は6684万円と前年比2.9%上がった。平均賃料(70平方メートル換算)は月額22万4905円と2.5%上がったが、価格上昇幅に追いついていない。12年と比べると投資回収にかかる期間は5年ほど延びている。
(以下略)
以下で当該記事で触れられている東京カンテイの調査について詳細をみていきましょう。
2017年の傾向
東京カンテイは新築マンションPERというものを発表しています。
新築マンションPERとは「分譲マンションの新築価格が、同じ駅勢圏の分譲マンション賃料の何年分に相当するかを求めた値」です。
計算式としては以下となっています。
マンション PER = マンション価格 ÷ (月額賃料 × 12)
一般に、マンション PER が低ければ賃料見合いでは割安で買いやすく、反対に高ければ割高で買いにくいことを意味しています。
2017 年における新築マンション PERの首都圏平均は 24.49(対象 212 駅)と前年から横ばいで、2012 年以降続いてきた上昇傾向は一服することとなりました。
新築マンションの平均価格(70 ㎡換算)は前年比+2.9%の 6,684 万円と上昇し、分譲マンションの平均賃料(70 ㎡換算)も+2.5%の 224,905 円と相応に水準が高まったことから、回収に要する期間に大きな変化は見られなかったということになります。
このPER=24という数値は、(誤解を恐れずにいえば)賃貸マンションに24年程度住んだ場合の支払総額(実際には更新料等が他にあります)と分譲マンションに24年住んで価格ゼロ円で譲渡もしくは解体した際の支払総額が同じということになります。
ところが、新築マンションを購入する際には、通常は住宅ローンを組みます。
住宅ローンの金利まで勘案すると新築分譲マンションを購入する際の支払総額はさらに膨らみます。
特にタワーマンションは敷地(土地)部分の一戸当たりの保有面積が著しく低い(敷地部分の価値はほとんどない)ため、建物が使えなくなったら実質的には価値がありません。
マンションの耐用年数は50年程度(当然物件によっては更に長く居住可能ですが)でしょうから、賃貸と分譲(購入)ではどちらが有利かの判断に迷うところまで来ていると思われます。
なお、首都圏で最もマンション PER が低かった(割安感が強かった)駅は JR 常磐線「柏」の 14.97 で、賃料換算では回収期間が首都圏平均に比べて約 9.5 年も短かい結果となりました。
「柏」ではここ 3 年間、新築マンション価格は3,700万円~4,000万円で概ね安定している一方で、2015 年3 月の上野東京ライン開業によって「東京」~「品川」方面への通勤利便性が向上したことに加え、駅前タワーマンションからの賃料事例が増えたことなどから、月額賃料が 206,024 円と 2 年前に比べて 6 万円以上も上昇していることから上述の結果となりました。
一方、マンション PER が高かった(割高感が強かった)駅は東京メトロ銀座線「青山一丁目」の 45.26 で、賃料換算では首都圏平均と比較して回収に 20 年以上も余計にかかる計算となっています。
月額賃料は 385,302 円と首都圏でもかなりの高水準を示しているものの、新築マンション価格は 20,926 万円と2 億円を超えており、結果的に賃料見合いで最も割高な駅となってしまいました。
「表参道」や「恵比寿」など月額賃料が 30万円以上の都心一等地に位置する駅では、富裕層向けのハイグレードな高額マンションが主だった供給物件となってきており、最近では JR 山手線沿線やその周辺、横浜エリアでも価格高騰によって結果として“億ション”に類する物件が増えてきています。
このようなエリアでは、マンションの耐用年数を鑑みると新築マンションを購入するよりも賃貸で住み続けた方が経済的には有利となる可能性が高まってきているといえます。
PERの推移
90 年代バブルが崩壊した後、不動産デフレによって新築マンション価格が大底圏を迎えていた 2000 年代前半においては、首都圏のマンション PER は 18 ポイント前後の水準で安定した推移を見せていました。
その後は、2005 年を境に「ミニバブル期」のピークにかけて価格高騰に伴ってマンション PER も上昇傾向にシフトし、2007 年には 22.10 と20 ポイントの大台を一気に突破、翌 2008 年も 21.99 と高水準を維持し、賃料見合いで新築マンション価格の割高感が相応に増していました。
当時は「六本木」や「赤坂」といった都心部に位置する駅などを中心にマンション価格が 1億円以上まで跳ね上がっていたことから、マンション PER の最大値も上振れることとなり、回収期間に 30 年以上の年月を要する駅も珍しくなかった状況にありました。
ミニバブルが終焉し景況感が低迷したことを受けてマンション市場も冷え込むこととなり、マンション PER は価格の弱含みに伴って低下し、2011 年~2012 年にかけては一時的に 20 ポイントを下回っていました。
ただ、2013 年以降は再び価格高騰局面を迎えたことでマンション PER も上昇傾向に移行し、2015 年には 23.45 とミニバブル期のピーク値を超えました。
直近ではマンションPERがさらに高まっている状況となっており、マンションPERの最大値も「六本木」や「青山一丁目」など“億ション”が盛んに供給される都心立地の駅で 40 ポイントを上回るケースが出始めています。
首都圏においてマンション PER の集計対象となった主要駅の推移を見ると、ミニバブル期や直近の価格高騰局面ほどマンション PER が高い駅は相対的に多くなっていることが見て取れます。
そして、駅数シェアに着目すると、マンション価格が大底圏であった 2000 年代前半ではPER「18 未満」、ミニバブル後では「18 以上 20 未満」が最も大きいシェアの区分となっていましたが、ミニバブル期のピーク時には「24 以上」が全体シェアの約 1/4 を占めるまでに及んでいました。
さらに、2016 年~2017 年では「24 以上」のシェアが過半数まで拡大していることからも、ミニバブル期に比べて賃料見合いで買いにくさが増しているエリアが都心部のみならず首都圏全域に渡って拡がっている様子が窺えます。
以上、東京カンテイの調査資料を引用
https://www.kantei.ne.jp/report/kantei_eye/450
所見
新築分譲マンションの価格は、ピークをつけているとみるべきだと筆者は考えています。
理由は単純で、労働者の賃金上昇以上に新築マンション価格が上昇しており、一般のサラリーマンでは購入するのが厳しい価格となってきているためです。
もちろん低金利かつ貸出先がない環境下、銀行は少々価格が高い物件にも喜んで住宅ローンを出してくれるでしょう。
しかし、購入後に苦労するのはマンション購入者です。
手取りのかなりの部分を住宅ローンの返済にとられてしまえば、楽な生活は送れません。
特に、今後も額面給与はともかく、手取り額は低下していく可能性が高いのです。税金の増額のみならず健康保険料の上昇等が想定され、可処分所得は低下するでしょう。
首都圏のマンション平均価格(70㎡換算)が6,684万円を超えている現状は異常といえます。平均年収の10年分をも軽く上回っているのです。
そして、首都圏でも住宅は今後余ってきます。
人口が減少するのですから当たり前の帰結です。
加えて、今回の民間調査のように賃貸マンションと比べても経済的にメリットが薄いとなれば、誰が新築分譲マンションを購入するのでしょうか。
もちろん人気のある立地、設備、間取り等の優れた企画のマンションはこれからも売れるでしょう。
また、円相場、金融市場次第では他国から投資が集中し、しばらくはマンションが売れ続けるかもしれません。
しかし、投資家が購入するとしても、家賃が下がってしまえば投資には見合いません。
投資家が買う不動産には収益の裏付け必要なのです。
家賃が上昇してしまい、賃借人が払えない水準になってしまえば、結局、新築マンション価格も下がらざるを得ないのです。そして、労働者の賃金は力強く上がる気配がありません。
以上、筆者としては新築分譲マンション価格の現状に懸念を持っています。