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ICO(Initial Coin Offering)の状況まとめ(2018年4月)

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2018年4月に金融庁主催の「仮想通貨交換業等に関する研究会(第1回)」が開催されました。

上記研究会には、みずほ証券がICO(Initial Coin Offering)についての解説資料を提出しています。

出典 金融庁ホームページ (みずほ証券資料)

https://www.fsa.go.jp/news/30/singi/20180410-4.pdf

この説明が分かりやすいため、今回は当該資料の内容を引用しながらICOについて確認していくものとします。

ICOの概要

ICOの確固たる定義は存在しません。

これまでに実施されたICOの共通点は、企業やプロジェクトが「トークン」を販売することのみです。

イーサリアム(Ethereum)のスマートコントラクトを使い、仮想通貨を支払うと自動的にトークンが分配されるケースが多いようてす。

ただし、法定通貨がまったく使えない訳ではなく、ベネズエラによるICOでは、同国通貨以外の法定通貨で支払い可能となっています。また、特定の投資家を対象にしたプレセール(先行販売)でも、法定通貨が支払いに使われることがあります。

ICOのポイントは、購入者はトークンを売却し、利益を得られる可能性があることです。

ただし、トークンは必ずしも仮想通貨交換業者等が取扱うようになるとは限らない点がリスクといえます。 

トークンの分類

トークンに確固たる定義はなく、ICOにおいては一般的にブロックチェーンに記録されたデジタル資産を指します。

ブロックチェーンが利用されるのは、ICOの仕組みが整備されていることや、リレーショナルデータベース等に記録されたトークンは改ざんや二重払いの懸念があることが理由と考えられます。

トークンは表象する権利によりいくつかのタイプに分類されます。

 

<保有者の権利あり>

①有価証券型

株式等の有価証券に似た性質で、プロジェクトからの収益の分配を受けられるものです。

②債券型

債券に似た性質のものも想定は出来ます。
しかし、これまでに実例はほとんどないようです。
スタートアップや個人による不確実性が高いプロジェクトでは現実的ではないということでしょう。

③会員権型

ゴルフの会員権等に似た性質(ただし資金が預託される訳ではない)のものです。
サービス利用等の権利を得られることになります。

④プリペイドカード型

交通系電子マネーに似た性質のもので、サービスを利用する際、残高を消費することになります。

<保有者の権利なし>

⑤モノ(電子データ)

トレーディングカードに似た性質といえます。権利や資産の裏付けはありませんが、価値を認める人がいれば売買されることになります。

ICOプロセス

ICOのプロセスは、①プロジェクト計画の策定、②ICOの周知、③トークンの販売の3つに大別されます。

トークンの販売後は、開発したサービスのローンチ(開始)や、仮想通貨交換業者等によるトークンの取扱いが想定されます。

ただし、これらは必ずしも実現するとは限りません。また、サービスがローンチしていなくても仮想通貨交換業者等がトークンを取扱い始めることがあるのも特徴的でしょう。

ICOの流れは以下の通りです。 

プロジェクト計画の策定

<ホワイトペーパーの作成>
ホワイトペーパー(計画書)に記載する項目は定められていません。簡単にいえば、お金を出してくれる人が納得してくれるレベルであれば十分ということです。

一例として下記が挙げられます。
• プロジェクトの目的と概要
• プロジェクトの成長シナリオ
• トークンとの関連
• トークンに表象される価値
• トークンが値上がりする仕組み

プロジェクトの内容はトークンが関連しないものでも構わないとされています。

ただし、その場合トークンの価値が上がる説明が困難になるため、トークンの保有者に配当を出すなどしなければ、十分な量を販売できない懸念があります。

ICOの周知

<アナウンス>
発行についてBitcointalkやRedditといった電子掲示板でホワイトペーパーにまとめたプロジェクトの概要を告知し、有識者からのフィードバックを得ます。

必要に応じてホワイトペーパーを修正します。
<オファー>
ホワイトペーパーを完成し、トークンの単価、発行上限、販売数などを決めた上で、特定の人物や機関投資家に対して提案することになります。

有力な投資家やVCなどが購入すればプロジェクトの評判が高まることになりますので、非常に重要です。

<プロモーション>
ティザーサイト(発売前の商品をプロモーションするためのサイト)を用意するなどして、不特定多数に向けた周知活動を行います。

ただし、FacebookやGoogleがICOの広告を取扱わなくなり、周知が難しくなっている状況にあります。

トークンの販売

<プレセール>
前プロセスでオファーを行った相手に対し、一般向けよりも先にトークンを販売し、有利な条件で販売されることが多いのがプレセールスです。

下記クラウドセールよりも販売期間は短いことが通常です。

支払いは仮想通貨だけではなく法定通貨で行われることもあります。

<クラウドセール>
広く一般に向けてトークンを販売するものです。

販売期間は数ヶ月に亘ることがあります。

Ethereumのスマートコントラクトを利用して販売することが多いのは前述の通りです(仮想通貨を支払うと自動的にトークンが分配される)。

仮想通貨交換業者等を通じて販売する方法もありますが、国内では難しい状況にあります。

サービスローンチ・仮想通貨交換業者等による取扱い

<サービスローンチ>
トークンの販売により得たお金で開発したサービスを提供するフェーズです。

サービスは必ずしもローンチするとは限りません。

プロジェクトが失敗に終わるケースや、多額の金銭を得たプロジェクトチームがプロジェクトを完遂させるモチベーションを失ってしまい、なかなか進展しないケースなどがあります。

<仮想通貨交換業者等による取扱い>
仮想通貨交換業者等がトークンを取扱うようになると、購入者はトークンを売却できるようになります。

ここで投資家は資金を回収することになるのです。

ICOによるトークン販売額の累計(2018年2月19日現在)

これまでに累計で9,000億円以上のトークンが販売されています。

仮想通貨が高騰した2017年の後半からICOによるトークン販売額が急増していました。

ただし最近は、ICOが有価証券に該当するとされた米国などにおいて減少傾向にあるとされています。

2018年2月19日現在ではトークン販売額累計88.4億ドルです。

ICOによるトークン販売額上位20プロジェクト(2018年4月1日現在)

販売額上位20プロジェクトのうち、The DAO以外は2017年以降にICOを実施したものです。

2018年に入っても最高販売額を更新する大型のICOが登場しています。

実績を上げたスタートアップや大手企業がICOを実施するようになったためと考えられます。

以下は販売額トップ20のICOランキングです。プロジェクト名、ICO完了日、販売額(米ドル)を、記載しています。 

  • Telegram ICO  2018年3月31日 1,700,000,000
  • Dragon  2018年3月15日 320,000,000
  • Huobi token  2018年2月28日 300,000,000
  • EOS  2017年7月1日 289,000,000
  • Hdac  2017年12月22日 258,000,000
  • Filecoin  2017年9月7日 257,000,000
  • Tezos  2017年7月13日 232,319,985
  • Paragon  2017年10月15日 183,157,275
  • The DAO  2016年5月28日 168,000,000
  • Bancor  2017年6月12日 153,000,000
  • Bankera  2018年3月1日 150,949,194
  • QASH  2017年11月9日 105,000,000
  • Envion  2018年1月14日 100,000,000
  • Kin Kik  2017年9月26日 97,041,936
  • COMSA  2017年11月6日 95,372,124
  • Elastos  2018年1月23日 94,100,000
  • Status  2017年6月20日 90,000,000
  • Press.One  2017年7月 82,000,000
  • Neuromation  2018年1月8日 71,669,400
  • BANKEX  2017年12月28日 70,600,000 

購入型クラウドファンディングとICOによるトークン(モノ)販売の比較

トークンが法的にモノであるならば、購入型クラウドファンディングとトークン(モノ)の販売は本質的な違いはないことになります。

ただし、トークンが資金決済法の仮想通貨に該当する場合、仮想通貨交換業者等を介さなければ販売できないという制限があります。

トークンが法的にモノであっても、人気があるトークンは二次流通市場での流動性が高く、換金の手間やコストが小さいため、マネーロンダリング等に利用される懸念が大きいとも言えます。

エクイティ型クラウドファンディングとトークン(有価証券型)販売の比較

エクイティ型クラウドファンディングは法規制で定められた国内在住者が対象であるのに対し、トークン(有価証券型)の販売では、規制が明確ではなかったため世界中が対象となっていました。

有価証券の販売という点で両者は本質的に近いため、最近は各国で有価証券関連の法規制に準拠するよう求められる中で、トークン(有価証券型)の販売によるICOは減少しているとされています。

ICOの利点と問題点

現在のICOは、購入者に不利で発行体に有利な仕組みと考えられます。

ただし、有利な立場の発行体も、会計処理や税制が定まらなければ、トークンの販売により得た資金を実際に利用する見通しが立たないともいえます。

以下はICOについての購入者および発行体(資金調達者)の利点・問題点について記載します。

①購入者

<利点>

  • 共感した企業やプロジェクトを簡単に支援できる
  • 将来有望なスタートアップ等への投資に相当する機会を得られる
  • 短期間で大きな利益を得ることがある
  • 例えば、イーサリアムの価格は数年でICO時の1,000倍以上に

<問題点>

  • 購入者の保護が十分ではない(発行体に有利な仕組み)
  • 投資家の権利が明確ではなく法的にも保護されていない
  • 発行体の情報開示が不十分である
  • 第三者による審査等が行われていない
  • 詐欺が多発している
  • 仮想通貨交換業者等が購入したトークンを取扱うとは限らず、いつまでも売却できないことがある
  • 本質的価値が不明であり、価格の妥当性を評価できない

②発行体

<利点>

  • 既存株主の株式が希薄化しない
  • プロジェクトの初期段階であっても、多額の資金を調達できる可能性がある
  • 世界中の多種多様な人にトークンを販売できる
  • トークンの性質によっては、購入者に対して義務や責任を負わない
  • 既存の手段よりも手間がかからず、短期間に低コストで資金を調達できる

<問題点>

  • ICOの定義や購入者と発行体の権利関係等が明確ではないため、会計処理や税制が定まっていない
  • 発行体の情報セキュリティの不備により、支払われた仮想通貨がハッカーに盗まれており、被害規模は全体の10%程度とされる
  • 仮想通貨交換業者等がトークンを取扱う基準が不明確である(取扱う条件として、発行体に金銭やトークンを要求する仮想通貨交換業者が存在するとされる)

これがICOの利点・問題点のまとめです。

まとめ 

以上がICOについてのまとめでした。

ICOは基本的には株式公開による資金調達と似たものです。株式公開=IPOとは、Initial Public Offeringといいます。

ICOはInitial Coin Offeringの略であり、IPOに対比されて名付けられているのは明らかです。

IPOは長年にわたり様々な問題が起き、それを乗り越え、投資家保護の観点での改善等が加えられて現在の形、ルールになっています。ICOも様々な問題が起きて、基本的にはIPOのルールに近づいていくでしょう。

現在のICOについては筆者がみる限りは投資家保護の観点からは「ひどい」状況であり、詐欺の温床になるとしか思えません。

しかし、詐欺に引っ掛かる可能性を認識した上で投資家が許容するならば、今の形でもICOは良いのかもしれません。 

そうでなければICOの意味はないからです。

このバランスをどこに着地させるかが、これから政府・金融当局が考えていくべき課題なのです。