銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

地銀でのスマホ決済への取り組みは早い者勝ちの可能性大

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近時、地銀(およびりそな銀行)のスマホ決済サービス導入のニュースが相次ぎました。

今回の記事では地銀のスマホ決済サービスへの取り組みについて考察します。

地銀等の近時の動き 

まずは、2018年2月22日にGMOインターネットグループが公表しているプレスリリースを以下引用します。 

地銀の動きが分かりやすいと思います。 

GMOインターネットグループにおいて、総合的な決済関連サービス及び金融関連サービスを展開するGMOペイメントゲートウェイ株式会社(東証一部:証券コード 3769、代表取締役社長:相浦 一成 以下、GMO-PG)は、「銀行Pay」(旧称:銀行口座と連動したスマホ決済サービス)の基盤システムを、株式会社熊本銀行(取締役頭取:竹下 英 以下、熊本銀行)及び株式会社親和銀行(取締役頭取:吉澤 俊介 以下、親和銀行)へ提供いたします。熊本銀行及び親和銀行は、「銀行Pay」の基盤システムを活用した独自のスマホ決済サービスを、2018年度上半期を目処に展開する予定です。

「銀行Pay」は、導入している銀行に口座をお持ちの利用者が、加盟店でのお買い物の際に、スマホアプリから即時に口座引き落とし等の支払いが可能となるサービスです。導入銀行間の相互連携(マルチバンク)にも対応しているので、これまでに導入が進んでいる横浜銀行・福岡銀行に加え、熊本銀行及び親和銀行のいずれの加盟店でも、銀行や地域を越えて「銀行Pay」をご利用いただけるようになります。

【背景と概要】

世界的にキャッシュレス化が進む昨今、日本におけるキャッシュレス決済比率は、2016年時点で20%と海外諸国に比較して低いことから、日本政府は2027年までに同比率を4割程度まで引き上げることを目指し、キャッシュレス化に向けた様々な取り組みを推進しています。このような中、銀行をはじめとする日本の金融機関においても、キャッシュレス化進展に向けた新しいビジネスの検討が進められています。

GMO-PGは、こうした金融機関のキャッシュレス化を支援するべく、銀行口座と連動してスマホアプリから即時に口座引き落とし等ができる「銀行Pay」の基盤システムを提供しており、これまでに横浜銀行・福岡銀行でも導入が進められています。
そしてこのたびGMO-PGは、「銀行Pay」の基盤システムを、熊本銀行及び親和銀行にも提供することといたしました。熊本銀行及び親和銀行は、2018年度上半期を目処に「銀行Pay」の基盤システムを活用した独自のスマホ決済サービスを展開する予定です。

【「銀行Pay」について】

(URL: https://www.gmo-pg.com/service/ginkopay/

GMO-PGが基盤システムを提供する「銀行Pay」は、2016年に横浜銀行と共同で開発した、スマホアプリから即時に銀行口座の引き落とし等による支払いができるサービスです。「銀行Pay」を導入している銀行に口座を持つ利用者は、利用者向けスマホアプリをダウンロードし、自分の口座を事前に登録しておくことで、加盟店でのお買い物の際、加盟店のタブレット端末やスマホに表示されたQRコードを読み取るか、支払い先へ"チェックイン"して暗証番号を入力するだけで、銀行口座から代金が引き落としされ、支払いが完了いたします。
金融機関は、「銀行Pay」を銀行独自のスマホ決済サービスとして展開できるだけでなく、導入銀行間の相互連携(マルチバンク)により、銀行や地域を越えて利用できるサービスとして提供することが可能です。
なお、横浜銀行・福岡銀行・熊本銀行・親和銀行で導入が進められています。

熊本銀行と親和銀行に銀行口座連動型スマホ決済サービス「銀行Pay」をシステム提供 | GMOペイメントゲートウェイ株式会社

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(図出典 GMOペイメントゲートウェイ株式会社ホームページ)

上記の通り、地方銀行でもキャッシュレス化の対応ビジネスがスタートしてきています。

なお、同様の取り組みについて2018年2月23日にりそなグループでも実施されることも発表されています。  

りそなグループの各銀行に銀行口座連動型スマホ決済サービス「銀行Pay」をシステム提供 | GMOペイメントゲートウェイ株式会社

この地方銀行等の動きについては以下の記事も掲載されました。

この記事についてもみていきましょう。

福岡銀のスマホ決済開始(日経新聞記事) 

上述の銀行Payサービスを活用したスマホ決済について日経新聞が記事を掲載しています。

以下引用します。

福岡銀がスマホ決済 3月開始、陣取り急ぐ
2018/02/22 日経速報ニュース

 ふくおかフィナンシャルグループ(FG)傘下の福岡銀行は3月から、スマートフォン(スマホ)を使った決済サービス「YOKA!Pay(よかペイ)」の提供を始める。まず小売店など128店舗で導入し、3年後に少なくとも1000店舗で利用できる体制を築く。スマホ決済を巡っては業界の垣根を越えた競争が激しさを増している。福岡銀行は早期の導入で加盟店や利用者の囲い込みを図る。
 GMOペイメントゲートウェイが提供する「銀行口座と連動したスマホ決済サービス」を活用する。同サービスを使った横浜銀行の「はまPay」との相互利用も可能になる。金融機関が提供するスマホ決済サービスとしては、横浜銀行に次いで2行目、西日本では初となる。ふくおかFG傘下の熊本銀行や親和銀行でも2018年度上期から利用できるようにする。
よかペイを使うには、専用のスマホアプリに福岡銀の口座情報などを登録する必要がある。利用者がアプリを通じて店舗のQRコードを読み取ると、代金が銀行口座から即座に引き落とされる。店舗側はアプリをインストールしたタブレット端末があればサービスを提供できる。
店舗側にとってはクレジットカード決済では通常、1カ月程度かかる代金の回収期間を、最短で1日まで縮められる利点がある。加盟店は過去に同サービスを利用した顧客に対して、クーポンなどを配布することもできる。
 オリックスと連携し、中国のスマホ決済「支付宝(アリペイ)」にも対応。足元で拡大が続く九州の訪日観光客需要の取り込みにも役立てる。
 ディスカウントストアのMrMax Select美野島店や大賀薬局など128店での導入が決まっている。3年後までに少なくとも1000店舗で利用できる体制を目指すが、今後、相互利用できる金融機関の増加でサービスそのものの利便性が高まれば、導入店舗数が一気に増える可能性がある。
スマホ決済を巡っては、中国のアリババ集団が今春、日本向け「アリペイ」のサービス展開を予定している。楽天やLINEなど他業種からの参入も相次いでおり、業界の垣根を越えた競争が過熱している。キャッシュレス決済の普及が予想される中、福岡銀行としても早期の導入で利用者を囲い込み、市場の成長の果実を取り込んでいきたい考えだ。

以上の通り、福岡銀行(ふくおかFG)がスマホ決済に積極的な対応を取り始めています。

この動きの背景には何があるのでしょうか。

クレジットカードの事例

決済といえばクレジットカードです。

ここで若干なりともクレジットカードについてまとめておきます。

銀行等はクレジットカード事業において、どのようにして儲けているのでしょうか。

クレジットカード業界は、アイワイアラ、イシュアー、国際ブランドの3者が事業を行っています。

アクワイアラ(Acquirer)とは、加盟店契約会社のことであり、クレジットカードの加盟店の獲得と管理を行っています。店頭の決済端末を設置したカード会社という方が分かりやすいかもしれません。

クレジットカード決済を導入したい加盟店は、アクワイアラと契約することで利用者から国際ブランドのクレジットカードでの支払いを受けることができるようになります。また、利用者からの入金前に利用者が支払った金額を立て替えて加盟店へ入金してくれるのもアクワイアラの業務です。

このアクワイアラは加盟店で利用される金額の3~7%程度(筆者は古いイメージですが約5%と認識)をクレジットカードを利用する手数料として加盟店から徴収します。

その手数料のうち、アクワイアラは約1.5%程度を徴収し、イシュアー(クレジットカード会社の発行会社:例=三井住友VISAカード、楽天カード)に約3%、残りを国際ブランド(例=VISA、MasterCard)が分け合うといわれています。

このようにクレジットカードでの決済は相応にクレジットカード会社も収益を上げています。しかし、アクワイアラは主に大手のクレジットカード会社となっており、地方銀行系のクレジットカード会社はイシュアーとなっている(=すなわちアクワイアラになれず超過収益を獲得できていない)ことの方が多いでしょう。

そもそもポイント還元率等を考えると地方銀行系のクレジットカード会社を個人が使うメリットは薄いと考えた方が良いと思われます。

すなわち、クレジットカード事業で地銀は収益を上げることができていないということです。 

スマホ決済導入を急ぐ地銀の戦略

上述のクレジットカード事業での劣位の状態こそが、地銀がスマホ決済に乗り出してきている理由でしょう。

すなわち、クレジットカード事業では大手クレジットカード会社≒メガバンクの後塵を拝していますが、スマホ決済であれば巻き返しのチャンスがあるということです。

 

<地銀がスマホ決済導入に興味を示す理由>

  • メガバンク等大手銀行は傘下にクレジットカード会社を持ち、相応の収益を獲得
  • スマホ決済は大手のクレジットカード事業の収益を低下させる可能性大(加盟店手数料:クレジットカード=約3~7%、スマホ決済=3.24%程度)であるため、大手は比較的消極的である可能性あり
  • スマホ決済では店頭に置かれているようなカード読取専用端末が不要(タブレット等で対応可)であり、上記の通り加盟店の手数料も低いこと、加盟店への入金が最短で翌営業日とクレジットカードよりも入金が早くなる(=資金繰りが改善)ことから、新たな加盟店獲得へのハードル低
  • 地銀であれば地元の小売店、飲食店等との取引が大手銀行等よりも多くセールスのチャンス大
  • 地銀の地元状況によってはアジアを中心とした外国人観光客が増加しており、特に中国人観光客の多い地域ではスマホ決済導入の必要性を小売店・飲食店側が認識

(なお、当該記事では以下のサイトから加盟店手数料等についての情報を得ていますのでリンク先を掲載します)

news.cardmics.com

 

以上が地銀がスマホ決済に乗り出してきている背景と筆者は想定します。

所見

地方銀行の強みは、現金という現物を扱うことです。

近くにATMがあるから、その銀行の口座を持っているという預金者は多いでしょうし、会社の給与振込口座がその銀行だったからという理由で、ずっと使い続けていることも多いでしょう。

地銀は利用者の近くにいてこそ預金者から選ばれているのです。

これが、キャッシュレス社会になったらどうでしょう。

地銀に口座を持つ必要はほとんどなくなります。ATMをほとんど利用しなくなるからです。

地銀は現金を扱うからこそ選択されている割合が高いという現実を受け入れなければなりません。キャッシュレス化が進行していけば、地銀の顧客は、メガバンクのみならず、ネット銀行やフィンテック企業へうつっていくのです。

よって、スマホ決済の普及を地銀が推進することは、結果としてキャッシュレス社会の到来を早める結果となり、自分達の首を絞めるのではないかと筆者は考えています。

しかしながら、外国人旅行者の決済の獲得(=新領域の拡大)や、既存の大手クレジットカード会社からの顧客獲得(=既存領域でのシェア奪取)が可能であるならば、地銀がスマホ決済に取り組んでいくというのは理解できる戦略です。

ただし、そのためには先行者として市場を開拓しておかねばなりません。

横浜銀行や福岡銀行はまさに先行者利得を獲得するためにスマホ決済への取り組みを急いでいるのだと想定されます。

地銀のこれからの取り組みに注目したいところです。