低金利の環境下、資産運用で収益を確保することは非常に難しくなっています。
投資家は、近時は、伝統的な4資産(国内株式、外国株式、国内債券、外国債券)に加えて、不動産(REIT等)のようなオルタナティブ投資を行うことによる分散投資で収益を確保しようとしてきました。
ところが近時はオルタナティブ投資の中では一定の投資が可能な不動産セクターについて株式との相関が高くなってきました。また、ほとんどのアセット同士が相関係数が高くなっています。
(参考)各ファンドの相関係数 | eMAXIS(三菱UFJ国際投信のHP)
こうなると、既存の投資資産のマーケットから影響を受けない資産への投資を行い収益を確保することもオルタナティブ投資の目的ですから、この目的が達成されないことになります。
そのため、新たな投資対象が探されていますが、近時注目されるようになってきたのがCAT債(キャットボンド)です。今回はこのCAT債についてみていきます。
CAT債(キャットボンド)とは
CAT債のCATとはCatastrophe=カタストロフィの略です。すなわち、災害に関する債券となります。
CAT債は、定められた要件を満たす災害(台風・洪水・地震等)が発生した場合に保険会社等の発行会社が資金を受け取る、もしくは投資家の償還元本が減少する仕組みの債券をいいます。
債券の期間は3~5年が通常です。この債券の投資家は定期的に利払いを受け取ることができますし、債券の償還期限までに要件を充足する災害が発生しなければ、償還期限に元利金も受け取ることができます。
CAT債のような商品に投資することを保険リンク戦略と呼びます。保険リンク戦略は、保険業界が保有する保険金支払いリスクを市場に移転する仕組みに投資する戦略です。投資家にとってみれば、保険料収入というリターンの源泉は災害等の発生リスクへの対価ですので、世界のマーケット・金融政策、すなわち伝統的な投資資産と相関性が低いことが特長となります。
CAT債のマーケット規模
2017年までに順調にマーケットの規模は拡大してきました。
CAT債およびILS(Insurance-Linked Securities=保険リンク証券)の市場規模は、発行残高で$29.3billion(2017年6月末時点)となっており、日本円で3兆円規模となっています。
米国の債券市場は18兆ドル(2015年3月末時点、ピクテ調査)であるため、CAT債等の市場規模は米国の債券市場のうち1%にも満たない非常に小さい市場であるといえます。
今後のCAT債の見通し
世界的な金融緩和環境の中、収益がある程度確保可能であり、かつ株式・債券等のマーケットとの相関が低いCAT債等へは今後も資金の流入が続く可能性が高いでしょう。
ただし、下の図表はCAT債等の利回りと予想損失率の年金平均の推移を示したものです。
資金の流入により発行者の方が強くなっているのか、条件が悪化してきているのが見て取れます。
現段階では問題ないとは思われますが、今後の動向には留意が必要でしょう。
銀行にとっての影響
銀行も運用商品の販売には苦戦しています。
個人向けのみならず、特に法人向けの運用商品拡充は重要な課題でしょう。
CAT債等の保険リンク証券については、マーケットの拡大が続けば、日本でもより広く銀行が販売することになる可能性はあります。
CAT債を対象とした運用商品は、現時点では法人分野では、一部の年金やプロの機関投資家限定で販売されていると思われますが、一般の事業法人等にも販売していくことになるでしょう。
筆者としては、CAT債等の保険リンク証券は、伝統資産4資産やREITと相関が低いため、かなりオルタナティブ投資として有望だと考えています。
ぜひ、今後も市場が拡大していって欲しいと注目しています。きちんとした利回りさえ確保できるのであれば、個人的にも投資したい商品です。