銀行員のための教科書

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旧村上ファンドのようなアクティビストは悪か

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旧村上ファンド(通称)が近時活発に活動しているようです。

この旧村上ファンドのようなアクティビストと呼ばれる投資家に嫌悪感をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

「金の亡者」「強引」「敵対的」「企業・秩序の破壊者」等のようなイメージがあるかもしれません。

以前の記事では買収防衛策について考察しました。

買収防衛策を使われる側であるアクティビストは「悪」なのでしょうか。

今回は、このアクティビストについて考察します。

 

アクティビストとは

そもそもアクティビスト(物言う株主)とは何かを確認しておきましょう。

定義は以下の通りです。

英語表記はActivist。株式を一定程度取得した上で、その保有株式を裏づけとして、投資先企業の経営陣に積極的に提言をおこない、企業価値の向上を目指す投資家のことをアクティビストという。
いわゆる「物言う株主」で、経営陣との対話・交渉のほか、株主提案権の行使、会社提案議案の否決に向けた委任状勧誘等をおこなうことがある。ただし、最近では株式の保有割合が低くても、投資先企業に積極的に提言をおこなうケースもみられる。
出典 野村證券サイト

このアクティビストには現状では二通りの存在があります。

まず、従前のアクティビストです。この特徴は、対決姿勢の強さでした。

このようなアクティビストは、一定割合の株式を保有していることを武器に、企業に対して敵対的TOB(株式公開買い付け)や委任状合戦を仕掛ける等、企業との対決的な手法をとっていました。

目標は、企業に対し増配や自社株買いを要求し、最終的には高値で保有する株式を売り抜け、比較的短期的で利益を手にすることにあったと、一般的には言われています。

このような従前のアクティビストはリーマンショック以降は暫く姿を消していましたが、日本でも再び活動し始めています。

次に、最近では、新たな行動をとるアクティビスト(物言う株主)も登場してきています。

新たなアクティビストの特徴は、「対話」を重視することです。

企業に対しては、直接的な攻撃は避け、経営陣との面談を求めたり、意見書・提案書を送付したりするなど、会社経営陣との対話を試みる方法をとっています。

会社に対決しないアプローチを選択しており、中長期的な利益を求めているため、株式を大量に保有し、議決権を行使することは不要となります。

会社に対しての提言・提案は、ROEの改善、株主還元の充実等、経営課題の解決、コーポレートガバナンスの改革につなげる内容であることが多いという特徴もあります。

今回の記事では、アクティビストとして主に前者、すなわち敵対的な物言う株主に焦点を当てることにします。

 

アクティビストが活動しやすくなった背景

上記のようなアクティビストが活動するようになってきています。

近時では旧村上ファンドがある企業の大量保有報告を出したことがニュースになっていました。

このようにアクティビストが活発に活動するようになった背景には何があるのでしょうか。

一つには、世界的な金融緩和、すなわち「金余り」があるのは間違いありません。

金利の全世界的な低下により国債等への投資では利益を出せなくなった様々な投資家は投資先を求めています。アクティビストファンドに対しても、資金は集まるようになっており、資金面からアクティビストが活躍しやすくなっています。

また、日本においてはアベノミクスの影響があります。

アベノミクスでは上記のような金融緩和政策のみならず、株価向上のための様々な政策が打ち出されてきました。

その中で、スチュワードシップコードおよびコーポレートガバナンスコードの制定は、アクティビストの活動に大きな影響を及ぼしています。

以下でスチュワードシップコードについて確認しておきましょう。

 

「責任ある機関投資家」の諸原則
≪日本版スチュワードシップ・コード≫
~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~
スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会
平成29年5月29日

 

本コードの目的(4P)
4. 冒頭に掲げたように、本コードにおいて、「スチュワードシップ責任」とは、機関投資家が、投資先の日本企業やその事業環境等に関する深い理解に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)などを通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図る責任を意味する。本コードは、機関投資家が、顧客・受益者と投資先企業の双方を視野に入れ、「責任ある機関投資家」として当該「スチュワードシップ責任」を果たすに当たり有用と考えられる諸原則を定めるものである。
5. 一方で、企業の側においては、コーポレートガバナンス・コード(平成27年6月1日適用開始)に示されているように、経営の基本方針や業務執行に関する意思決定を行う取締役会が、経営陣による執行を適切に監督しつつ、適切なガバナンス機能を発揮することにより、企業価値の向上を図る責務を有している。企業側のこうした責務と本コードに定める機関投資家の責務とは、いわば「車の両輪」であり、両者が適切に相まって質の高いコーポレートガバナンスが実現され、企業の持続的な成長と顧客・受益者の中長期的な投資リターンの確保が図られていくことが期待される。本コードは、こうした観点から、機関投資家と投資先企業との間で建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)が行われることを促すものであり、機関投資家が投資先企業の経営の細部にまで介入することを意図するものではない。

このスチュワードシップコードとコーポレートガバナンスコードは、どちらも投資家(運用会社)と上場企業との対話を求めています。

運用会社は、今まで以上に出資者(資金の出し手)のために活動をしなければなりません。

企業も「投資家を軽視せず」、誠実に対話をしていかなければならないのです。

この両コードによって、以下の影響が出てきています。

  • 運用会社等の機関投資家は、議決権行使の基準を設け、企業価値の向上・株価の上昇を更に目指して議決権の行使を行うようになった
  • そのため、アクティビストが企業に提示する株価向上策が運用会社等も受け入れざるを得なくなってきている(もしくは受け入れやすくなっている)
  • 上場企業も投資家を平等に扱い、対話を重ねる必要があり、アクティビストとの面会を拒否することは難しくなってきている
  • 同時に、株式の持ち合いも継続が難しくなってきており安定株主比率の低下が発生している
  • 結果、企業側は、ステークホルダーである従業員の安定的な処遇、取引先との中長期的な取引関係よりも、株主にとっての利益を優先するようになってきている

このように、アクティビストが活動しやすくなってきているのが現状なのです。

 

アクティビストは悪なのか

では、そもそもアクティビストは「悪」なのでしょうか。

誰にとっての悪なのでしょうか。

アクティビストが活動しやすくなっており、運用会社等から賛同を得やすくなってきているということは、アクティビストの行動はどのように評価したら良いのでしょうか。

一つの参考があります。

以下では、旧村上ファンドの村上世彰氏が自著の中で語っていることを引用します。

一部、筆者が修正しているところもありますが、趣旨は同様です。

 

生涯投資家
村上 世彰(2017年6月20日発刊)

  • 私の投資は徹底したバリュー投資であり、保有している資産に比して時価総額が低い企業に投資する
  • 株式発行による直接金融で資金を調達する必要のない企業は、上場を廃止して非上場になることを検討すべきだと思う
  • 株主に向き合う経営が難しいのなら、経営者が自ら株主になるMBOによって上場を止めるべきだ
  • 私は自分の投資先に対して、一緒にMBOをして非上場化するという提案を繰り返し行ってきた。私が投資する企業は、現預金をたくさん保有していたり、財務状況も良く、銀行からの借入余力もあって、直接金融で資金を調達する必要のない企業がほとんどなので、上場している意味が見出せないからだ。さらに、株価が長年低迷しているような会社は、MBOによって株価に一定のプレミアムをつけ、株主に売却の機会を提供することもできる
  • 私の投資スタイルは、割安に評価されていて、リスク度合いに比して高い利益が見込めるもの、即ち投資の「期待値」が高いものに投資をすることだ。
  • 上場企業は、成長のための投資に必要な資金より多額の剰余金を手元に持つ場合、自己株取得や配当で還元する、MBOをする、事業を切り離して解散するなどの手段で、株主及び低すぎる株価に対して、何かしらの対応をすべきだ
  • 私はファンド経営者として利益の追求を第一に動かざるを得なかった時代でさえ、投資先企業に対して、「いま持っているキャッシュや換金可能な資産のすべてを、すぐに株主に還元して欲しい」となどと要求したことは一度もない。株主価値を上げてくれるように、と求めただけだ
  • 企業価値の向上という視点から納得のできる回答を得られない場合、その次のステップとして、三つの提案をする。
  • 第一に、より多くのリターンを生み出して企業価値を上げるべく、M&Aなどの事業投資を行うことを検討し、中期経営計画などに盛り込んで、きちんと情報開示して欲しい、ということ。
  • 第二に、もしこの先数年、有効な事業投資が見込めないのであれば、配当や自己株取得などによる株主還元を行うべき、ということ。
  • そして第三に、どちらの選択も行いたくないのなら、MBOなどにより上場をやめるべき、という提案だ。
  • 日本企業の悪弊である株式の持合は、本音は経営者の保身にすぎず、お互いのバランスシートを膨らませているだけだ。 (中略)「百害あって一利なし」と強調しておきたい

これをご覧になって、皆さんはどのようにお考えになるでしょうか。

実際に旧村上ファンドは上記のような行動を実行していました。

原理原則通りに行動しているといって良いでしょう。

この村上氏の発言している内容は、どのように考えれば良いでしょうか。

様々な考え方はあると思いますが、筆者は村上氏の発言は「正論」だと考えています。

正直に言えば「否定し難い」という方が正しい表現かもしれません。

企業の所有者は株主であって、経営陣(取締役)の所有ではありません。企業価値を向上させられない経営陣は退任するしかない、そのような仕組みが株式会社なのです。経営陣は株主から経営を委託されているのであって、経営陣が株主を選んでいるのではありません。

もちろん企業は従業員のものでもありません。雇用が失われるからといって事業の切り離しを行わないのは株主の価値とは相反するものかもしれません。

経営陣が行うべきはシンプルに考えれば、中長期的な株主価値の向上を図ることしかないのです。

村上氏の主張はそれを述べているにすぎず、MBAのテキストに書いてあるようなものです。

日本では(特に)この正論が徹底されてこなかった歴史があり、そのために村上氏のようなアクティビストは異端なのです。

しかし、日本には世界から資金が入ってくるようになりました。日本の株式市場の3割程度は外国人株主が所有しており、売買でみると6割程度を占めているのです。

正論、原理原則を貫かなければ株主から経営陣は否定されることになる可能性が高くなってきているのです。

「正論は優しくない」ことが往々にしてあります。村上氏のようなアクティビストの主張は、正論であるだけに株主以外の様々な関係者にとって優しくないのです。

それでも、上場企業はその正論を考慮しなければなりません。

上場企業は「誰でも株式を買える」ように上場しているのです。上場企業は株主を選べないのです。

アクティビストからの厳しい主張・提案を受けたくないのであれば、割高な企業になるしかないのです。

割高な企業の株式をアクティビストは購入しません。隙のある割安な企業の株式を購入するのです。

これは厳然たる事実です。

上場企業は、広く資金を集めるために上場した代わりに、厳しい株主からの主張にもさらされるのです。

以上のことから、筆者は究極的にはアクティビストは悪だとは思っていません。日本においては「必要悪」といえるのかもしれませんが、株式市場にはむしろ必要な機能だと考えています。

しかし、もし自分が勤めている企業の株式をアクティビストが買い占たら反発するかもしれません。筆者はまだまだ株式市場というものを分かっていないということになるのでしょう。これもまた現実なのです。