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仮想通貨に対する各国当局者の発言まとめ

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金融庁が 「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第3回)を開催しました。

この研究会では、金融庁の事務局が提示した資料に、仮想通貨および関連技術について、各国当局者によってなされた指摘がまとめられています。

今回の記事では、この各国当局者の仮想通貨等についての考えを確認します。

 

各国当局者の指摘

以下、金融庁の資料から引用します。

 

仮想通貨やそれに関連する技術についての各国当局者等による指摘

1.英国中央銀行(BOE)総裁/金融安定理事会(FSB)議長 マーク・カーニー

○ (暗号通貨(cryptocurrencies)は貨幣(money)の役割をどれだけ果たしているか、という問についての)答えは、暗号通貨のエコシステム全体の機能 ‐ (暗号)通貨自体を超えて、暗号通貨の売買ができる
交換所や、新たなコインを作り出すとともに取引を検証して台帳を更新するマイナー、カストディアンサービスを提供するウォレット提供者も含まれる ‐ について判断されなければならない。

冗長で寛容な答えは、暗号通貨は、せいぜい、一部の者だけにとって、しかも限られた範囲内で、貨幣としての役割を果たしているということだ。さらに、その場合であっても、伝統的な通貨と並行して、である。端的な答えは、暗号通貨は貨幣としての役割を果たしていないということだ。

○ 暗号資産(crypto-assets)の根底にある技術、特に分散型台帳技術により、以下が可能となる。
‐ データ管理の効率性を増大する
‐ 複数の参加者が複製データや機能をシェアすることで中央の障害発生点を取り除き、復元力を向上する
‐ 恒久的かつ変更不可能な即時記録の作成を通じて透明性(及び監査可能性)を強化する
‐ 新しい情報を受け取り次第、自動的に更新され、適切な場合には支払いを行う「スマート・コントラクト」を含む、一貫したプロセスの利用が拡大する
[2018年3月2日付講演(英国中央銀行(BOE)総裁名)]

暗号資産(crypto-assets)は、不正活動を隠蔽するための使途や、マネーロンダリングやテロリストの資金調達に利用されるだけでなく、消費者や投資者の保護に関して多くの問題を引き起こす。同時に、暗号資産の根底にある技術は、金融システムと経済両方の効率性や包摂性を改善する可能性を有している。
[2018年3月13日付公開書簡(金融安定理事会(FSB)議長名)]


2.国際通貨基金(IMF)専務理事 クリスティーヌ・ラガルド
○ 暗号資産(crypto-assets)の裏側にある技術 ‐ ブロックチェーン(技術)を含む ‐ は、金融に止まらない分野を革命的に変化させることに役立つかもしれない、心躍る進展である。

それは、例えば、銀行口座を持っていない人々に新しい低コストの支払手段を提供することにより、金融包摂の原動力になるかもしれない。また、その過程において、低所得国に住む何百万人もの人々に活力を与えるかもしれない。

○ 暗号資産 ‐ あるいは暗号通貨(crypto-currencies)と呼ばれるもの ‐ が非常に魅力的である理由が、同時に、それらを危険なものにしている。これらのデジタルな発行は、中央銀行を必要とすることなく、典型的には分散型の方法で行われる。これによって暗号資産の取引は、現金(cash)の取引とよく似た、匿名性の要素を帯びることになる。結果、マネーロンダリングやテロリストの資金調達のための新たな主要な手段となる可能性がある。

暗号資産の急速な拡大や取引価格の極端に高いボラティリティ、従来型の金融の世界との不明確なつながりは、新たな脆弱性を容易に生じさせうるだろう。
[2018年3月13日付ブログ]

暗号資産(crypto-assets)は、現金(cash)の利便性の一部を提供しながら、迅速かつ低コストの金融取引を可能とする。今日、一部の支払サービスは、海外送金に数日を要することなく、数時間で行っている。仮に民間が発行する暗号資産にリスクや不安定性が残るのであれば、我々が「国際金融安定性報告書」で論じるように、中央銀行がデジタル形態の通貨を提供することへの需要があるかもしれない。

○ 暗号資産の根底にある技術 ‐ 分散型台帳技術(DLT) ‐ は、金融市場の機能が一層効率的になることに資するかもしれない。
[2018年4月16日付ブログ]

 

3.シンガポール金融管理局(MAS)長官 ラヴィ・メノン

○ ブロックチェーン技術による主要な進歩は、分散型のシステムにおいて信頼を構築するという能力である。ブロックチェーン技術は、信頼できる中央組織なしに、多様な人々が協働できるようにした。

(中略)

分散型台帳技術(DLT)は、多くの産業や経済活動を転換する可能性を有している。
[2017年10月9日付講演]

○ 残念ながら、暗号トークン(crypto tokens)の匿名性が、それらを違法取引の促進に適したものにしている。

(中略)

暗号トークンが世界中で投機熱に火を付けた。桁外れに高い価格の危険なサイクルが、ますます多くの投資家を引き込み、更に急激な価格上昇に拍車をかけた。
[2018年3月15日付講演]

 

4.欧州中央銀行(ECB)総裁 マリオ・ドラギ
デジタル通貨(digital currencies)について言えば、ユーロ地域における利用量、利用者、その利用が実体経済に与える影響を見ると、それらはすべて、依然として非常に限定的であると考える。
それは、まだ、中央銀行にとってのリスクを構成しうるものではない。しかしながら、より広く、(デジタル通貨に)使用されうるデジタル技術や分散型台帳技術(DLT)、その他の技術は、確かに、中央銀行や監督当局の興味を引くべき進展である。
[2017年11月20日付講演]

ビットコインや他のデジタル通貨(digital currencies)は規制を受けておらず、従って非常にリスクの高い資産と見られるべきである、ということを理解しなければならない。仮想通貨(virtual currencies)は高いボラティリティにさらされており、それらの価格はまったく投機的である。銀行は、デジタル通貨を自身のポートフォリオに保有することのリスクを、適切に計測すべきである。
[2018年2月5日付声明]

 

5.世界銀行グループ・国際金融公社(IFC)がとりまとめた公表物

○ ラテンアメリカやアフリカの一部地域においてそうであるように、新興市場に関しては、(ブロックチェーン技術・分散型台帳技術を活用した金融の)エコシステムの採用に適しているように見える。
(エコシステムは、法定)通貨の不安定性や政治リスクといった状況における、ビットコインや他の暗号通貨(Crypto Currency)を通じたヘッジ戦略のみならず、とりわけ、金融の面において排除されたセグメントの役に立つという、高い需要により推進される。金融の面において発展していない市場は、ブロックチェーン(技術)によるデジタルウォレットやモバイルペイメントがもたらす金融包摂に注目している。

[Niforos, Marina (2017) “Blockchain in Financial Services in Emerging Markets Part I: Current Trends,”Fresh Ideas about Business in Emerging Markets.]

○ アフリカ:人口の70%が銀行口座を有していないサブサハラ・アフリカは、伝統的な支払手段の代替として、ブロックチェーン(技術)に基づくソリューションを導入する大きな潜在的可能性を有している。頻繁に生じる政治的動乱の歴史や、高い通貨リスク、資本規制を伴う経済は、個人・家計が、取引の執行における潜在的なリスクへの恐怖を克服し、(伝統的な)システムの非効率性を迂回することを可能とするソリューションを採用する格好の場でもあるのだ。

○ ラテンアメリカ:ラテンアメリカは、アフリカと比較して銀行口座を有していない人口の比率は低い(世界銀行フィンデックスによれば49%)が、周期的な政治的変動・(法定)通貨の変動にさらされており、現地通貨に対する信用は弱体化している。加えて、違法な活動(麻薬の密売やマネーロンダリングに関する活動を含む)が浸透していることにより、地域経済に対するディリスキング(de-risking)効果が増大し、伝統的な金融機関はコンプライアンス要件の強化や費用の増大を理由に、市場から撤退してきた。

[Niforos, Marina (2017) “Blockchain in Financial Services in Emerging Markets Part II: Selected Regional Developments,”Fresh Ideas about Business in Emerging Markets.]

 

引用元 

「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第3回)議事次第

 

所見

上記のように、各国当局者の 指摘は様々です。

金融制度が整っている国では、仮想通貨に対するマネーロンダリング等への懸念が強くでています。

一方でアフリカ、ラテンアメリカ等、銀行へのアクセスが出来ない国民が多く、そもそも国の通貨が安定していない地域では、仮想通貨に対する期待は大きいといえます。

筆者は仮想通貨が今後どのようになっていくのかを見通せません。

しかしながら、各国当局者の指摘については、将来を見通す上で参考になるのではないかと考えています。