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信託銀行とは利益相反のかたまり~信託銀行が解体される可能性~

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信託銀行という金融機関があります。

金融業界に勤めている人はともかく、一般にはあまり知られていないのではないでしょうか。

この信託銀行については近時様々な動きがあります。

今回は信託銀行がどのような金融機関であるか、信託銀行の様々な動きはどのような背景があるのか、そして信託銀行はどのようになっていくのかについて考察します。

信託銀行とは

信託銀行は、銀行に認められた「銀行業務」に加え、金銭の信託や有価証券の信託といった「信託業務」と、不動産仲介や証券代行、相続関連業務といった財産の管理・処分等に関連する「併営業務」を営むことができる金融機関です。

信託銀行は、その沿革的理由により、銀行法上の銀行が、金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(いわゆる兼営法)によって、信託業務を兼営する形態をとっており、銀行に認められている全ての銀行業務を営むことができるほか、全ての信託業務を営むことができます。(出典 信託協会ホームページ)

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図表の出典 三菱UFJ信託銀行ホームページ

信託銀行が普通の銀行と異なり不動産の仲介や株主名簿管理を業務としてやっているのは実は信託業務としてではなく単なる併営業務です。よって不動産の仲介や株主名簿管理は純粋な信託業務ではありません。

なお、併営業務は、「金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(兼営法)」の第1条第1項第1号~第7号に規定する業務のことをいいます。その主な業務には、不動産業務、証券代行業務等があります。

以下、信託銀行がサービスを提供している不動産業務、証券代行業務、受託財産業務について簡単に触れておきます。説明は三菱UFJ信託銀行ホームページから引用します。

<不動産業務>
「営業(仲介など)」と「不動産受託・管理」の2つがあります。不動産業務を行うことができる金融機関は信託銀行のみであり、不動産マーケットにおいて大きな存在感を発揮しています。不動産の売買・賃貸借・流動化・有効活用といった不動産ノウハウと金融機関ならではの財務的観点を組み合わせた提案・コンサルティングを行っています。

<証券代行業務>

株主名簿管理人として、多岐にわたる株式実務を担います。またお取引先の資本政策に関する相談窓口として、株主総会の支援や会社法務に関して様々な情報提供やコンサルティングを行います。

<受託財産業務>
「年金業務」と「資産運用業務」と「資産管理業務」の3つの領域があります。

「年金業務」
公的年金に加えて、企業が従業員のために独自に掛金を積み立て、給付を行う制度を企業年金といいます。年金業務では、各社のこの企業年金制度を支えることを通じ、その企業で働く従業員一人ひとりの老後を支えていきます。

「資産運用業務」
信託の枠組みを活用しながら、巨額の資産を受託し、その運用を担っています。お取引先のニーズに合った運用商品を提案し、高度な専門知識を活用して安定した運用成果を上げることで、お取引先からの信頼に応えていきます。

「資産管理業務」
世界中の投資に係る手続きを受けて、すべての取引を一つ一つ成立させていく業務です。国内有数の資産管理専門信託銀行として、国内外の機関投資家のお取引先に国内外証券の約定処理や資金決済事務等、高度な資産管理総合サービスを提供しています。
出典 三菱UFJ信託銀行ホームページ

信託とは

上記で触れた信託についても簡単にみていきましょう。
信託とは、委託者がある目的に従って受益者の利益のため、 自らの財産の管理・処分を受託者を信じて託す行為をいいます。
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出典 三井住友信託銀行ホームページ

この信託には以下3つの機能があるとされています。こちらは三井住友信託銀行のホームページから引用します。

財産管理機能

信託された財産は、委託者から受託者に名義が変わることにより、受託者が専属的に管理運用することができるようになります。また、受託者が唯一、管理処分できる者となり、信託の目的に沿って受託者自身の名義で管理運用処分していくことになります。

転換機能

委託者の財産は信託されることにより受益権という利益などを受け取る権利となり、目的に応じた形に転換させることができます。例えば、大型不動産を信託して多数の投資家に受益権を小口化して販売するといった不動産証券化などはこの機能を活用した仕組みになります。

倒産隔離機能

信託財産は委託者から受託者に所有権が移動します。 そのため委託者が破産・倒産しても債権者は受託者のもとにある信託財産を直接差し押さえることができなくなります。 また、受託者が破産・倒産しても、信託財産は受託者自身の財産(銀行勘定)と分別管理(信託勘定)されるため、委託者の債権者は差押えることができません。 また、受益者が破産・倒産した場合、受益者の債権者は、受益権そのものを差押えることはできますが、一方で信託財産自体を差押えることはできません。
出典 三井住友信託銀行ホームページ

 

この3つの機能があるため信託はいわゆる証券化スキームや年金や投資信託の資産管理として利用されるのです。

なお、信託の考え方の起源は古代エジプトや古代ローマにまで遡るといわれますが、現在の信託制度は中世のイギリスに始まり、我が国には明治時代に輸入されました。それから100年余り、信託はまさに生き物のごとくその時代の要請に柔軟に応えてさまざまな商品やサービスを生み出し、近年では金融だけでなく広範な分野でその機能が活かされています。

信託で取り扱える資産は、今現在も次々と増えています。信託機能を活用した課題・問題解決への期待の高まりから、平成16年に信託業法が改正され、金銭債権の流動化や不動産の証券化に加え、知的財産の管理など、新しい信託が生まれました。
(出典 三井住友信託銀行ホームページ)


信託銀行の足下の動き

信託銀行はあまり注目されませんが、足下では様々な組織再編を行っています。

三井住友信託銀行の資産運用機能の分割・統合

三井住友信託銀行本体の資産運用機能を分割し、グループ会社である三井住友トラスト・アセットマネジメントと統合させることを発表しています(2017年7月27日付)。

みずほ信託銀行と三井住友信託銀行の資産管理信託銀行の統合

資産管理信託銀行は「カストディアン」と呼ばれ、企業や年金基金が運用する株式や債券といった金融資産の決済や運用報告書の作成などの事務を行う信託銀行です。大手の信託銀行はこの資産管理にかかる信託銀行を傘下に持っています。実際には事務・管理子会社といった側面が強いでしょう。

この資産管理信託銀行について両社(それぞれの持株会社)が統合で基本合意しています。
https://s.news.mynavi.jp/news/2017/03/29/339/

みずほグループ内の資産運用会社統合

みずほフィナンシャルグループは系列の資産運用会社を統合して2016年10月に発足した「アセットマネジメントOne」に、みずほ信託銀行の年金運用部門を一元化しました。信託銀行の資産運用機能をグループ会社に移管したということです。

MUFG内の貸出業務一本化

三菱UFJフィナンシャルグループは三菱UFJ信託銀行の貸出業務を三菱東京UFJ銀行に一本化すると発表しました。またMUFG内で分散して保有されていた三菱UFJ国際投信の株式を全て信託銀行に移すとしています。

このような信託銀行の動きは何を意味するのでしょうか。

信託銀行における利益相反問題とは

上記でみてきたように信託銀行は広範な業務を行っています。

この広範な業務領域をカバーできるため、信託銀行はワンストップで総合的なサービスを(少なくとも国内では)提供できるとしているのです。

このビジネスモデルは、企業取引の場合、銀行業務、特に貸出業務を中心として顧客とのリレーションを築きながら、様々な信託等のサービスをクロスセルするというものでしょう。

確かに、貸出を行ってくれる銀行が不動産情報も紹介してくれて、財務内容を良く分かっているから年金制度についてもしっかりと良い提案をしてくれる、とすれば顧客から見た場合には非常に便利で使い勝手が良いと感じるでしょう。

しかし、ちょっと考えてみれば、このビジネスモデルには根本的に問題があります。

それは利益相反問題です。優越的地位の濫用といっても良いかもしれません。

信託銀行のビジネスモデルは見方を変えると顧客にとっては非常に不利なものになるのです。
まず、債権者としての地位を活かして、信託銀行が取り扱う収益不動産を買ってくれと要請してくるかもしれません。断ると融資を引き揚げると言われるかもしれないと顧客側は心配になるかもしれません。

同様に債権者としての地位を活かして、運用実績があまり良くないファンドを年金資産として買って欲しいと要請してくるかもしれません。

このような営業は(実際に実施しているか否かは別として)、一般のサービス企業(不動産仲介業者や資産運用会社)にはできません。

不動産の仲介や年金の受託業務は、顧客のために最善を尽くす必要があります。

ところが、債権者としての地位があると顧客はサービス提供業者として使いづらくなってしまうのではないでしょうか。断ったら、融資を打ち切られるかもしれないのです。

そして、信託銀行も当然に営利企業です。自分達の収益を上げることを目標として活動するの可能性だってあるのです。

要するに、信託銀行は債権者としての地位、ローンパーワーを使って違う商品(受託者として他社の利益を図るはずの商品)を売り込むビジネスモデルなのです。
すなわち、信託銀行は「利益相反のかたまり」なのです。

金融庁の考え方

では所轄官庁である金融庁は、信託銀行についてどのように考えているのでしょうか。

この問いには、金融庁が2016年11月に発表した事務局説明資料が役に立ちます。

この資料で金融庁は利益相反のおそれのある典型的な取引例を挙げています。

販売会社が商品提供会社から手数料を受け取るケース

販売会社が、顧客の利益に関わらず、商品提供会社から支払われる手数料の高い商品を推奨する場合

→これはどの銀行にとっても問題となるケースでしょう。単純に収益欲しさにお客様にはフィットしない商品を売り付ける事例です。

投資信託の販売・運用が同一グループで行われているケース

販売会社が、顧客の利益に関わらず、グループの利益を優先して同一グループ内の運用会社の商品を推奨する場合

→グループに資産運用会社(例 三井住友トラスト・アセットマネジメント)を信託銀行は抱えており普通銀行よりも問題となるかもしれません。

法人営業を行う親会社等と運用会社が同一グループに存在するケース

運用会社が、投資先の企業の議決権行使にあたって、顧客の利益に関わらず、親会社等の意向優先して行動する場合

→要はある企業とお付き合いがあるんだから、資金を預かっている(付き合いの薄い)お客様のために行動するのではなく、目の前の親密な企業を大事にしよう(議決権行使で手加減しよう)ということです。これも信託銀行が懸念されるケースにあてはまります。

同一主体内に法人事業部門と運用部門を有しているケース

運用部門が、投資先の選定や議決権の行使に当たって、年金基金の利益に関わらず、融資や証券代行、法人営業などを行う法人事業部門の意向を優先して行動する場合

→上記同様、お付き合いがあるから資金の出し手(委託者)よりも自行の利益(自行の他業務で親密なお客様)を優先することが考えられるということです。これも、信託銀行がしっかりと当てはまります。

 

すなわち、地銀が金融庁から厳しい指導を受けているということはご存じの方も多いかもしれませんが、金融庁は信託銀行のビジネスモデルにも相当に懸念を持っているということです。

今後の想定される展開

信託銀行は自ら発表することはないでしょうが、一連の組織再編の背景は、利益相反の問題を回避するために組織再編(資産運用業務のグループ会社への移管や貸出業務のグループ会社への移管等)に追い込まれているということでしょう。

議決権行使結果を公表し始めたのも、利益相反がないことを第三者や委託者(資金の出し手)に示すためなのです。

信託銀行の専門性を高める、信託の機能を強化する、資産運用力を高め日本経済に貢献する、というようなことを信託銀行は発表していますが、実際には利益相反問題で金融庁から問題視されており、それを回避する目的の方が大きいと筆者はみています。

信託銀行は「信託」という業務を持つがゆえに、様々な利害関係人と関わりあいます。その様々なお客様のために業務を行おうとすると、他のお客様の利益や、自行内の他部署や多機能と摩擦が生じるのです。

この利益相反の問題は全世界的に注目されています。

米国でも欧州でも利益相反をどのように管理するかが問われ、様々な規制導入されてきているのです。
欧州のMifid2もその一環です。

信託銀行は世界でも特殊な業態のようです。

貸出と資産管理・運用を併せもつのはまさに利益相反があるからでしょう。

筆者は信託銀行は完全に解体されるまではいかなくとも、これからも機能は分離されていくのではないかと考えています。信託銀行本体に残る業務をどのようにするかは各行の判断でしょうが、不動産仲介なら不動産仲介会社へ、年金の運用は資産運用会社へと移していき、本体に残るのはコンサルティング機能と資産管理の機能ようなものだけになるのではないかと考えています。

利益相反をクリアするのであれば別会社・別組織であることが最も良いからです。

これが筆者が考える信託銀行の今後です。