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邦銀、そのなかでも地銀にこれから何が起きるか~日銀レポートからの考察~

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2017年10月23日に日銀が金融システムレポートを公表しました。

主な内容としては、邦銀(日本の民間銀行)の低収益の背景に過剰競争があるとの分析となっています。

今回はこの日銀の金融システムレポートの内容を確認し、今後の邦銀の動向について考察します。

金融システムレポートとは

まず、金融システムレポートは何かについて触れておきます。

日本銀行のホームページには以下の説明があります。

金融システムレポートは、金融システム全体の状況についての分析・評価を行うレポートです。わが国金融システムの抱えるリスクや課題を把握し、金融機関を含む幅広い関係者との間で認識の共有を図ることを通じて、金融システムの安定確保に貢献することを目的としています。(日銀ホームページ)

このレポートは半年に一度公表されており、銀行業界との認識共有、金融政策の判断材料ともされるものです。

今回の金融システムレポートの問題意識

概要については以下のリンク先からダウンロードが可能です。

https://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr171023b.pdf

日銀の問題意識は下記の文書が概要を表現しています。

金融機関の収益力低下に伴う潜在的な脆弱性

金融機関の収益低下は、日本だけではなく、低金利環境が続く先進国において概ね共通にみられる現象であるが、このことが本邦金融機関間の競争の激化をそうしたなかでも、本邦金融機関の収益性は国際的にみて低さが目立つ。従業員数や店舗数は、需要対比で過剰(オーバーキャパシティ)になっている可能性が高く、通じて収益性を低下させる構造的要因となっている。企業の廃業率が開業率を上回り、企業数が全国的に減少するなかで、金融機関の各店舗が新たな取引機会を求めて法人営業を強化してきた結果、企業の取引金融機関数は増加している。これを企業の立場からみると、取引金融機関数を増やすことによって、より有利な貸出条件を引き出すことができるようになったと考えることができる。

出典 日銀ホームページ

では、個別の項目を抜粋しながら金融システムレポートのポイントについてみていくことにします。

金融システムレポートのポイント

以下は筆者が当該レポートのコメントで気になった点を挙げていきます。

( )内は金融システムレポート本文の対象ページとなります。
→以下は筆者コメントです。

 

  • リスク性資産の価格上昇=格付けが低い社債ほど、社債スプレッドが大きく低下する傾向がみられる(5P)、米国ではオートローン(自動車購入者向け貸出)を裏付けとした資産担保証券市場において、ローン延滞率が上昇するなかでも、対国債スプレッドが低下している

→いずれも筆者からすると気になる点です

  • 不動産市場については首都圏などで引き続き高値での取引がみられるが、全体として加熱の状況にはないと考えられる(31~32P)

→掲載されている図表等を見る限り日銀は不動産価格は頭打ちと評価しているように筆者には感じられます。

  • ⾦融機関の収益低下は、低⾦利環境が続く先進国において概ね共通にみられる現象である。しかし、そうしたなかでも、本邦⾦融機関の収益性は国際的にみて低さが⽬⽴つ。
  • 特に地域⾦融機関においては、⽶欧の同規模の⾦融機関に⽐べ従業員数が多く、1⼈当たりの業務粗利益も低い。また、投⼊⽣産要素当たりの収益性という観点から、1店舗当たりの業務粗利益をみても低くなっている。特に地域⾦融機関においては、⽶欧の同規模の⾦融機関に⽐べ従業員数が多く、1⼈当たりの業務粗利益も低い。また、投⼊⽣産要素当たりの収益性という観点から、1店舗当たりの業務粗利益をみても低くなっている。こうした収益性の低さには、低⾦利環境の⻑期化による資⾦利益の減少に加え、⾮資⾦利益の低さも影響している(56~57P)

→レポートに掲載されている図表では日本の大手行以外は米国・欧州の金融機関にかなりの差をつけられていることが分かります。そしてその要因としては非資金収益(いわゆる手数料)の差が大きな要因となっています。

筆者もこの点については違和感ありません。

  • わが国では、口座維持・管理にかかるサービスなど、相応にコストのかかる⾦融サービスを無料で提供している例が少なくない。収益源の多様性という点でも、わが国の地域⾦融機関では、為替、投信・保険販売業務で役務収益の過半を占める。(59P、一部金融システムレポートの概要文から引用)

→米・欧の金融機関が口座維持手数料、デビットカード手数料等個人分野で手数料を収受しているのに対して邦銀はその点で差があることは間違いありません。
また図表ではCPI(消費者物価指数)における金融サービスのウェイトが示されており、日本が0.01%であるのに対して、米国0.23%、英国1.2%と大きな開きがあります。(日本人は金融サービスにほとんどお金を支払っていないということです)

  • ⼈⼝と⾦融機関の店舗数の関係をみると、⽇本の店舗数は、郵便局数まで含めると、オーバーバンキングとされるドイツとほぼ同⽔準。可住地⾯積当たりの⾦融機関店舗数をみると、⽇本は突出して多くなっている。狭い国⼟に銀⾏店舗が密集すれば、店舗間の競争も激しくなりやすい。預⾦吸収の⾯では、戦前から近年に⾄るまで、郵便貯⾦も含めて互いに激しい預⾦獲得競争を繰り広げてきており、⺠間⾦融機関が預⾦関連⼿数料を徴求するという戦略はとり難かった。こうして、預⾦関連⼿数料を課すことを前提としないビジネスモデルが⾦融機関に定着していった。(61P、レポート概要からの引用含む)

→人口10万人あたりの金融機関店舗数は日本が44(郵便局含む)に対して、ドイツが47、米国36、英国17となっています。但し、スペイン67、イタリア50であり、人口当たりでみると突出まではしていません。一方で、可住地面あたりの金融機関店舗数は1万km²あたり日本は5,000店弱であり、ドイツの3倍程度、米国の(恐らく)20倍程度となっています。

  • 本邦⾦融機関の従業員数や店舗数は、需要対⽐で過剰(オーバーキャパシティ)となっている可能性がある。2000年代半ばにかけて⾦融機関の統廃合が進むなか、店舗数や従業員数が削減されてきたにもかかわらず、オーバーキャパシティが解消されていない背景には、⾦融取引需要を規定する⼈⼝や企業数が減少を続けていることが⼤きく影響している。(62P)

→銀行(および信用金庫)の数は合併等により1990年の約600行から400行弱まで減少してきています。銀行の店舗数は1995年頃には約24,000店ありましたが、現在は約20,000店まで縮小してきました。また従業員数も1995年頃が55万人弱であったものが現在は35万人強まで減少しています。しかし過去10年でみると企業数は国内のほぼ全域で減少しているのに対して、銀行の数、店舗数は横ばいに近いですし、従業員数は増加しています。
そして首都圏や県庁所在地のような都市圏ではむしろ店舗数が増加している地域もみられているようです。各金融機関が「儲かる地域」に出店していったことにより個々の銀行としては正しい戦略でも、全体としては合成の誤謬が発生し、結果としてオーバーキャパシティになっているということでしょう。

  • 企業数が減少するなかでの⾦融機関店舗間の競争激化は、⾦融機関と企業の取引関係に影響及ぼし始めている。企業の取引⾦融機関数は増加しており、企業にとっては、より有利な貸出条件を引き出せるようになっている。取引⾦融機関数の増加は、特に、店舗の過剰感の強いエリアで起きている。平均的にみれば、取引⾦融機関数は2〜3先だが、都市圏を中⼼に5先以上の企業も増えてきている。(65P、概要)

→これはまさにその通りでしょう。競争激化は結果として銀行の首を絞めています。

  • 地域⾦融機関が共通かつ慢性的なストレスに直⾯し続けるもとで、収益源の多様化や需要対⽐での資源投⼊の適正化が⾏われないまま、競争激化が続く場合、中⻑期的には多くの⾦融機関の損失吸収⼒が同時に損なわれるというかたちで、システミックリスクが形成されかねない。(70P、概要)

→これも日銀の指摘通りです。金融システムの安定化をも担う日銀としては今回の分析を通じて警鐘をならしているということです。 

銀行は何をすべきか

こちらもまずは日銀の考え方を確認しておきましょう。
日銀の考え方は以下の通りです。

わが国の金融システムにおいて、金融システムの効率性と安定性の双方を将来にわたって維持していくためには、適正な競争環境のもと、金融機関が収益性を改善させていくことが重要である。具体的には、(1)提供するサービスの差別化や非資金利益の拡大による収益源の多様化など、自らの強みを活かした収益力強化に努めていくこと、(2)よりきめ細かい採算管理を実施し、他金融機関との競争も踏まえた効率的な店舗配置や提供するサービスの見直しを行うこと、(3)業務改革を進め、設備と従業員の適正配置によって、労働生産性を向上させていくことが重要である。金融機関間の合併・統合や連携も、収益性改善の選択肢の一つになろう。

すなわち、第一に、地域金融機関について収益源の多様化、地域経済・企業への支援強化、フィンテックを含むITの活用等を通じて他行との差別化をはかるべきとしています。

また、拡大させてきた不動産・海外貸出や有価証券運用についてのリスク管理と収益管理の適切な体制構築を行うべきとしています。

そして、店舗配置・サービスの見直し、業務改革も当然に必要と指摘しています。

もちろん合併・統合等も選択肢とされているのです。

これらのことは日銀に指摘されるまでもなく各銀行は理解しているでしょう。但し、そのような事実を日銀という中央銀行が指摘してきたことは注目に値します。

上記のような対応を実際に採用するかは各銀行の経営判断ではあるでしょうが、特に地銀は意識せざるをえないでしょう。

結果として、今後想定されるのは、新サービス・領域への進出、店舗・人員の減少、経営統合・合併等といったところが特に地銀にとって必要となっていくでしょうし、実際に行われるでしょう。

銀行員はこのような想定される未来に対して個人としても対応をとっていかねばならないのです。

なお、銀行の収益力低下の要因には、日銀の金融緩和もしくはマイナス金利政策もあるのですが、今回のレポートでは金利要因以外の収益に関する問題点のみ指摘されております。

マイナス金利政策を導入した日銀自身は悪くない、と言っているように感じてしまうのは筆者の勘繰りかもしれません。

あえて言うならば、元々オーバーバンキングの問題はあり解決すべきだが、マイナス金利が問題の先送りを許さなくなった、もしくは問題を顕在化させたといったところなのでしょう。

 

なお、地銀については以下の記事もご参照下さい。