銀行員のための教科書

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TKO木本氏が関与したとされるポンジスキームとは

お笑い芸人のTKO木本氏が、7億円ともされる巨額の投資トラブルで芸能事務所を退所したと報道されています。木本氏は、投資話を様々な後輩芸人等へ薦め、多額の資金を集めたものの、投資を実際に行っていた人物と連絡が付かなくなり、結果として資金も戻せない事態となっているようです。

この木本氏が関与していた(もしくは引っかけられた、騙された)仕組みが、典型的な金融詐欺である「ポンジスキーム」と呼ばれるものではないかとされています。今回は、ポンジスキームについて、皆様と簡単に見ていくことにしましょう。

 

ポンジスキームとは

ポンジスキームとは、資産運用を行うとして資金を集めたものの、実際には運用を行わず、後から出資してきた出資者の資金を、以前からの出資者に配当金として支払うことで資産運用がうまくいっているように見せかける詐欺の仕組みです。新規の出資者が次々と入って来る間は、この仕組みは上手くいきますが、いつか破綻することは間違いありません。この仕組み全体では何も生み出していない(運用していないのですから)にもかかわらず、生み出したことにして配当をしているのですから当然です。

このポンジスキームは、過去から何度も繰り返されており、基本的には高配当率で投資家という名のカモを集めます。

ちなみに、このポンジスキームという名の由来は、チャールズ・ポンジ(Charles Ponzi)という人物が1920年頃に詐欺事件を起こし、その仕組みから名づけられています。

 

他の仕組みとの類似点

ポンジスキームは、日本で有名な「ねずみ講」に、仕組みとしては酷似しています。

ねずみ講とは、法律上は無限連鎖講と呼ばれ日本では禁止されています。

無限連鎖講の防止に関する法律第二条では以下のように無限連鎖講(=ねずみ講)について説明されています。

「無限連鎖講」とは、金品(筆者中略)を出えんする加入者が無限に増加するものであるとして、先に加入した者が先順位者、以下これに連鎖して段階的に二以上の倍率をもつて増加する後続の加入者がそれぞれの段階に応じた後順位者となり、順次先順位者が後順位者の出えんする金品から自己の出えんした金品の価額又は数量を上回る価額又は数量の金品を受領することを内容とする金品の配当組織をいう。

法律の記載なので分かりにくいのですが、簡単に言えば、後から加入した個人がすでに加入者となっている個人に金銭を順々に渡していく仕組みです。

事例を考えてみると良いでしょう。

当初の設立者がアイディアを出して2名(1順位)を勧誘し、それぞれからアイディア料5万円を貰うとします。次に1順位の2名は、設立者に教えてもらったアイディアを基に、それぞれが4名、合計8名(2順位)から5万円ずつ集めます。そうすると1順位は一人あたり20万円を手にすることになります。この20万円を設立者に上納金として5万円渡し、自分の元に残り15万円を留めます。最初に設立者に5万円払っていますので、1順位は10万円の儲けです(設立者はこの段階で20万円の儲けとなっています)。これを2順位以降も繰り返していくのがねずみ講ですが、倍々で加入者を増やさないと成り立ちません。加入者が無限に増加することを前提にしたビジネスモデルと表現して良いでしょう。

しかし、人口は有限です。

ねずみ講はすぐに破綻します。

加入者もしくは出資者を増加させていかなければ破綻するという点で、ねずみ講もポンジスキームも同じなのです。

ちなみに、ポンジスキームはタコ足配当と比較されることもあります。

タコ足配当とは、企業が原資となる十分な利益がないにもかかわらず、過分な配当金を出すことをいいます。見た目には配当金が高いため、魅力的な株式と感じられるものの、実際は資産を売却したり、内部資金を取り崩したりして配当金に回しているだけで、業績や財務状況に難点があったり、持続性がありません。タコが自分の足を食べるのに似ていることから、このように表現されています。

タコ足配当もポンジスキームと似ているところがあると言えますが、タコ足配当は法律で認められている範囲内であれば違法ではありませんし、詐欺とも言えません。

しかし、ポンジスキームのポイントは、「集めた資金を運用せず、自転車操業的に配当に回してしまう」ところにあります。

タコ足配当も、本来であればその資金を使って設備「投資」を行い利益を出すことが企業の役割のはずです。見た目だけ飾っても、利益は生み出されません。この点でポンジスキームとタコ足配当は似ているのです。

 

史上最大のポンジスキーム

史上最大のポンジスキームと言われるのは元ナスダック・ストック・マーケット会長であるバーナード・マドフが起こしたマドフ事件です。

マドフ事件は、米国内外の投資家を巻き込み、被害総額は約7兆円とされています。マドフ自体は禁錮150年の判決を受け、受刑中に刑務所で死去しています。

何といってもナスダックの会長等を歴任した有名人が、年率10%の利回りを着実に出すと触れ込み資金を集めていたのです。信用力は抜群で、巨額の資金が集まりました。

ところが、リーマンショック後にマドフ・ファンドへは投資家からの解約が殺到します。実際には運用を行っていなかったマドフ・ファンドはあっさりと破綻します。

史上最大の詐欺師とマドフは言われています。

結局、650億ドルの資金を集めていましたが、破綻後に投資家に返還されたのは32億ドル程度とされています。

 

所見

TKO木下氏が今回の投資トラブルでどのような役割を担っていたのかは、現段階では分かりません。

しかし、一つだけはっきりしていることがあります。

それは、簡単に儲けられるような話であったり、高配当をうたうような資産運用は「無い」ということです。

日本では、「元本が保証されていない」運用として、配当利回りが5%程度の株式なら存在します。「元本が保証されていて」利回りが5%となるような運用商品があるなら、だれでも買います。そのようなものが無いから、保証されていない商品を投資家は買うのです。

定期預金(1年もの)の金利はメガバンクで0.002%程度であり、他の銀行ではキャンペーン等でやっと0.3%以下でしょう。元本保証されている定期預金の利回りはこのようなものです。他に元本保証されている商品がほとんどないから、定期預金に投資する人が多いのです。

高配当、高利回りの運用商品を、筆者は基本的に信用していません。そんなに素晴らしい運用商品があるのなら、一般に知られる前に、富裕層・経営者・政治家等のインナーサークルが買ってしまうでしょう。

儲かる運用商品で勧誘された際には、自分ではなく、その勧誘してきた相手の方こそが儲かると考えておけば間違いありません。

ポンジスキームは歴史で繰り返されてきています。自分だけは引っ掛からないと思っている人こそ危ないと注意しておくべきです。ポンジスキームは様々なものに応用可能です。仮想通貨の形をとることもあるでしょうし、NFTの形をとることもあるでしょう。テーマは様々です。しかし、基本的には後から入ってきた人たちをカモにする仕組みであることは共通であり、持続できないのです。

自身が勧誘を受けた時には、その運用商品・運用スキームは、どのように成り立っているのかを冷静に考えてみては如何でしょうか。