銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

高度プロフェッショナル制度にもきちんとした理解を

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高度プロフェッショナル制度の導入が国会で議論されています。

この高度プロフェッショナル制度とは、法案として提出された当初は「ホワイトカラーエグゼンプション」として「残業ゼロ法」として批判されたものです。

今回の記事ではこの高度プロフェッショナル制度について確認していくとともに、一般的なホワイトカラー(銀行員含む)にとっての影響についてもみていくものとしましょう。

高度プロフェッショナル制度とは

「特定高度専門業務・成果型労働制」、いわゆる「高度プロフェッショナル制度」とは、専門性の高い一部の職種に対して、使用者(会社)が決めた一定額の「成果」報酬を支払う制度です。

「特定」という単語が冒頭についているように、ある特定の職種にのみ適用されること、そして、「成果型」というように成果に応じて報酬が支払われるべき職種にのみ適用されることになっています。

よって、全ての労働者を対象としている訳ではありません。

この高度プロフェッショナル制度については、近時の報道ではあまり触れられていないように感じます。裁量労働制の対象範囲拡大に焦点があたっていたためです。

しかしながら、高度プロフェッショナル制度も残業代が払われない制度には代わりありません。

この制度について詳細をみていくことにしましょう。

高度プロフェッショナル制度における厚労省の説明

まずは、厚労省が公表している法律案の概要について確認してみましょう。

<労働基準法等の一部を改正する法律案の概要>

職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1,000万円以上)を有する労働者が、高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に、健康確保措置等を講じること、本人の同意や委員会の決議等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする。

また、制度の対象者について、在社時間等が一定時間を超える場合には、事業主は、その者に必ず医師による面接指導を受けさせなければならないこととする。(※労働安全衛生法の改正)

出典 厚労省ホームページ
労働基準法等の一部を改正する法律案(平成27年4月3日提出)
労働基準法等の一部を改正する法律案の概要
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/189.html

 

以上が高度プロフェッショナル制度についての法律案の概要として厚労省が説明している内容です。

これだけでは今一つ内容が把握できないでしょう。

そこで厚労省がどのような議論をしてきたのかについて更に確認します。

労働政策審議会(労働条件分科会)の報告は高度プロフェッショナル制度の対象業務やポイントについて簡単に確認するには良い資料でしょう。

以下で当該審議会の報告を引用します。

<労働政策審議会労働条件分科会、今後の労働時間法制等の在り方について(報告書骨子案)(抜粋)>

時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応え、その意欲や能力を十分に発揮できるようにするため、一定の年収要件を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象として、長時間労働を防止するための措置を講じつつ、時間外・休日労働協定の締結や時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務等の適用を除外した新たな労働時間制度の選択肢として、特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル労働制)を設けることが適当。

(1) 対象業務
・ 「高度の専門的知識等を要する」や「業務に従事した時間と成果との関連性が強くない」といった対象業務とするに適切な性質をみたすものとし、具体的には省令で規定することが適当。
具体的には、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)、コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)、研究開発業務等を念頭に、法案成立後、改めて審議会で検討の上、省令で適切に規定することが適当。

(中略)

(3) 健康管理時間、長時間労働防止措置(選択的措置)、面接指導の強化等
・ 本制度の適用労働者については、割増賃金支払の基礎としての労働時間を把握する必要はないが、その健康確保の観点から、使用者は、健康管理時間(省令で定めるところにより「事業場内に所在していた時間」と「事業場外で業務に従事した場合における労働時間」との合計)を把握した上で、これに基づく長時間労働防止措置や健康・福祉確保措置を講じることとすることが適当。
・ なお、健康管理時間の把握方法については、労働基準法に基づく省令や指針において、客観的な方法(タイムカードやパソコンの起動時間等)によることを原則とし、事業場外で労働する場合に限って自己申告を認める旨を規定することが適当。
※以上については筆者が以下の資料より重要と思われる部分を抜粋

出典 厚労省ホームページ
第122回労働政策審議会労働条件分科会資料
資料No.1 今後の労働時間法制等の在り方について(報告書骨子案)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000071225.html

この報告で述べられているように高度プロフェッショナル制度は、時間ではなく成果で評価されたい労働者にとっての選択肢とされています。

例としては、金融商品の開発、金融商品のディーリング、コンルティング業務が挙げられており、まさに銀行員にとっては関係の深いものです。

ここで無視してはいけないのは、健康・長時間労働の防止を目的とした歯止めについても導入すべきとされているところです。

しかし、この制度概要をみる限りでは、残業代ゼロ法案としてかなりの議論を巻き起こした法案と感じられるでしょうか。

この問題について、さらに深く理解するために日本経団連が2005年6月に公表した「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」について確認してみましょう。

冒頭でも触れましたが高度プロフェッショナル制度については、当初はホワイトカラーエグゼンプションと呼ばれていたということを忘れてはなりません。

高度プロフェッショナル制度についての経営者側の考え方

高度プロフェッショナル制度をなぜ導入すべきかについて、経営者側の考え方を分かりやすく主張しているのが日本経団連の提言です。

以下、少々文面としては長くなりますが、一部を抜粋して引用します。 

当該記事では他の部分を読まなくても良いですから、せめて当該部分だけは読んで頂きたいと思います。

 

<ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言>※筆者抜粋

労働基準法は、戦後間もない 1947 年に制定され、労働者保護に大きく寄与してきた。同法は、第 1 条第 2 項で「この法律で定める労働条件の基準は最低のものである」としたうえで、戦前の工場法が年少者や女性を保護するために労働時間規制を行っていたのと同様に、労働者保護の観点から労働時間を制限することを一つの大きな柱としている。しかし、こうした労働時間規制の考え方は、工場内の定型作業従事者等には適合するものの、現在のホワイトカラーの就業実態には必ずしも合致していない。 裁量性が高い業務を行い、労働時間の長さと成果が一般に比例しない頭脳労働に従事するようなホワイトカラーに対し、一律に工場労働をモデルとした労働時間規制を行うことは適切とはいえない。他方、仕事と生活の調和を図るため、多様な勤務形態の中から、効率的で自らが納得できる働き方を選択し、心身ともに充実した状態で能力を十分に発揮することを望んでいる者も少なくない。

現行の労働時間法制には、主体的で柔軟な働き方に道を拓く制度として、企画業務型裁量労働制のほかにも、フレックスタイム制、事業場外みなし労働時間制、専門業務型裁量労働制が用意されている。しかし、これらも労働時間規制という考え方から脱却しておらず、労働時間にとらわれない自由な働き方に対応するには不十分である。

経済活動のグローバル化、産業・就業構造の変化、就業意識の変化、雇用形態の多様化など、労働環境をめぐる状況の変化に柔軟に対応するためには、これまでの画一的な働き方を前提として労働時間規制を行う考えを根本的に改める必要がある。少なくとも一定の要件を満たすホワイトカラーについては、労働時間規制の適用除外とする制度を早急に整備すべきである。

1.ホワイトカラーの労働時間概念と労働時間管理の考え方
ホワイトカラーは、「考えること」が一つの重要な仕事であり、職場にいる時間だけ仕事をしているわけではない。自宅に居るときや通勤途上などでも、仕事のことに思いをめぐらすことは、珍しいことではない。逆に、オフィスにいても、いつも仕事をしているとは限らない。つまり、「労働時間」と「非労働時間」の境界が、ホワイトカラー、その中でもとりわけ知的労働者層においては、曖昧といえる。

さらに、ホワイトカラーの場合、会社の業務が終了した後、自分の興味がある分野の研究や自己啓発などを自発的に行うこともある。これらの時間は、会社の業務ではないからといって、一概に「労働時間」ではないともいいきれない。場合によっては、こうした研究や自己啓発が本人の職業能力の向上に繋がり、業務に役立つことも十分に考えられるからである。

このように、ホワイトカラーの場合、「労働時間」と「非労働時間」の境界が曖昧であるという特徴は、IT機器の普及によるモバイルワークの拡大によって今後ますます強まっていくことが予想される。

そこで、ホワイトカラーの労働時間について考える場合には、まず労働時間の概念について整理する必要がある。

これまで、労働時間については、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」、「賃金計算の基礎となる時間」、「健康確保措置の対象とすべき時間」などと、その整理が十分になされないまま、さまざまな議論が行われてきた。

ブルーカラーとは異なり、「労働時間」と「非労働時間」の境界が曖昧なホワイトカラーの場合、賃金計算の基礎となる労働時間については、出社時刻から退社時刻までの時間から休憩時間を除いたすべての時間を単純に労働時間とするような考え方を採ることは適切ではない。「業務を中断している時間」というのも当然考えられるわけであるが、賃金を支払う側にとってこうした業務の中断時間を厳密に把握し、事後的に証明することは、事実上不可能といえるからである。

他方、労働者の健康確保の面からは、睡眠不足に由来する疲労の蓄積を防止するなどの観点から、在社時間や拘束時間を基準として適切な措置を講ずることとしてもさほど大きな問題はないといえる。

このように、労働時間の概念を、賃金計算の基礎となる時間と健康確保のための在社時間や拘束時間とで分けて考えることが、ホワイトカラーに真に適した労働時間制度を構築するためには、その第一歩となると考える。

労働時間の長さを賃金支払いの基準とする現行法制下では、非効率的に長時間働いた者は時間外割増賃金が支給されるので、効率的に短時間で同じ成果を上げた者よりも、結果としてその報酬が多くなるといった矛盾が生じる。このような矛盾は一過性のもので、長期的に見れば、効率的に働いた者の方が、昇進等を含め、結果的に報酬が多くなり、不公平は自ずと是正されるといった考えもある。しかしながら、労働者の貢献に対する対価が長期的に見て公正で均衡したものになればよいという考えは、雇用の流動化や労働者のモチベーション等に着目した場合、説得力を失うことになる。

このように、ホワイトカラーの仕事の特性を考えると、賃金と労働時間の長さとを関連させている現行の労働時間法制には大きな限界があり、ホワイトカラーについては、こうした労働時間と賃金の直接的な結びつきを見直す時期にあるといえる。とりわけ、労働時間の厳密な算定が困難な業務、裁量性の高い業務に従事するホワイトカラーについては、一定の要件を満たすことを条件に、少なくとも賃金と労働時間とを分離することが急務といえよう。

(中略)

3.ホワイトカラーにおける多様な働き方と労働時間の弾力化の必要性
労働者の中には、生活のためだけに働きたい、仕事よりも自分の趣味や家庭団欒に重点をおきたい、したがって決められた時間以上は働きたくないと考える者もいる。一方、労働時間にとらわれず、納得のいく仕事、満足のいく仕事をしたい、自由に自分の能力を発揮したい、仕事を通じて自己実現をしたいと考える者もいる。このように、価値観は人それぞれである。
しかしながら、わが国の労働時間法制は、前者のような考え方をする労働者のみを想定しているように思われる。ホワイトカラーの中には、与えられた仕事を単純に処理するのではなく、仕事の目的、意味、価値を十分に認識した上で、自律的、主体的に仕事に取り組み、創意工夫により仕事の効率を高めようとする労働者も多数いる。そして、こういった考え方をする労働者には、集中して効率よく働き、結果として労働時間を短くするよう努力している者も少なくない。

ホワイトカラーの場合、企画、立案、調査等の主要な業務以外にも、打ち合わせや商談等、必ずしも日々の時間が決まっていない非定型的業務を渾然と行っている者が多い。この場合、集中的に働く必要がある部分と時間的に余裕のある部分があり、当然のことながら、仕事密度の濃淡は、労働者の職種や業務内容等により異なる。1 日、1 週間、1 ヵ月、3 ヵ月、半年等の単位で割り切れるものでは決してない。

このような業務の繁閑に対応するために、始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねるフレックスタイム制が現在認められているが、清算期間が1ヵ月以内の期間とされ、1ヵ月を超える期間については対応できないという問題がある。

他方、1週の平均所定労働時間が法定労働時間を超えないことを条件に、特定の週又は特定の日に法定労働時間を超えて労働させることを可能とする制度として、変形労働時間制がある。ただ、フレックスタイム制とは異なり、各週や各日の労働時間を労働者が自由に決められるものではなく、労働者の側から見た場合、労働時間に対する主体性は自ずと制限されることになる。このように、変形労働時間制は使用者側の業務の繁閑に対応するための制度であることから、仕事の進捗状況にあわせて労働者自身が労働時間を自主的にコントロールすることは難しいといえる。

多様な働き方を実現するためには、個々の労働者の業務の繁閑に応じ、必要があるときには集中して働くが、時間的に余裕のあるときは休暇をとったり、労働時間を短くしたりできるようにする制度、つまり自己の裁量で労働時間を弾力的に運用できる制度が必要である。

また、頭脳労働の場合、調子が上向いたときに集中的に働く方が効率的であることは明らかであるし、その方が本人の疲労感も少なく、逆に達成感や満足感は高くなる。このことからも、労働者の健康に配慮しながら、労働者が労働時間を自主的に設計できるような弾力的制度の導入が望まれる。そして、このような効率的な働き方は、結果的には総労働時間の短縮に繋がると考えられる。

さらに、時間管理の面からも、一定の要件を満たすホワイトカラーについては、思い切った労働時間の弾力化が必要である。たしかに、労働基準法には裁量労働制や管理監督者の適用除外規定等が用意されている。しかし、その対象とはならないホワイトカラーの中にも、実労働時間管理になじまない者が多数存在するのが実態である。

そこで、これまで通り厳格な実労働時間管理を必要とする労働者とそうでない労働者とを明確に区分し、実労働時間管理をすべき労働者については、きちんと時間管理を行うが、そうでないホワイトカラーについては、その実態に適合した労働時間弾力化の方策を検討する必要がある。

従来の労働時間制度のあり方に関する議論は、裁量性の高いホワイトカラーの労働に適合するよう労働時間の柔軟化を大幅に進めるべきであるとする主張と、長時間労働やサービス残業を増長させる懸念があることから、労働時間柔軟化を最低限にとどめ、あるいはこれに厳しい要件を課すべきであるといった主張が対立する形で進んできた。

とりわけ、裁量労働制に関してはこの傾向が強く、現在の制度は、その導入や運用にあたって厳しい要件が課せられている。2003 年の労働基準法改正により若干の規制緩和がなされたとはいえ、労使委員会の設置をはじめ、労使委員会での決議、本人同意要件等があり、制度の導入が容易でない部分が数多く残っている。日本経団連のアンケート調査においても、裁量労働制を導入しているか、またはその導入を検討している企業の実に 85%以上が、制度について「不都合な点や緩和、改善すべき点がある」と回答している。

本来、「みなし労働時間制」は、文字通り一定の時間労働したものと「みなす」ことを目的とした制度であって、労働時間規定の適用を除外するものとはなっていない点に問題がある。

(中略)

5.管理監督者(労働基準法第41 条第2 号)の労働時間等適用除外の問題点
労働基準法第 41 条第 2 号に定めるいわゆる管理監督者は、労働時間等の規制の適用を除外されている。しかし、こうした管理監督者については、前述したようにその範囲をめぐる解釈に問題があり、これを実態に沿ったものに改める必要があるほか、深夜業に関する規制が適用除外の対象とされていないという問題がある。

他方、経済のグローバル化や 24 時間化が一層の進展を見せる中で、海外とのやりとりをはじめとして、重要な職務や責任を有するこれら管理監督者が深夜に活動しなければならない状況は数多く想定される。

労働基準法第 41 条第 2 号が管理監督者を労働時間の規制の適用から除外した趣旨が、これらの者が労働時間、休憩及び休日に関する規定の規制を超えて活動しなければならない企業経営上の必要にあるとすれば、その活動時間の範囲が深夜にも拡がっている実態を無視すべきではない。

また、管理監督者についても、深夜労働に関する規制がおよび、深夜(午後10 時から午前 5 時まで)に働いた場合には、割増賃金の支払いが義務付けられることから、事実上、管理監督者についても深夜の時間帯に限って時間管理をしなければならないという問題が生じている。

このように、法律上も一般に時間管理の義務を負わない管理監督者について、深夜の時間帯に限って事実上時間管理を義務付けるというのは、いかにも不自然である。さらに、労働基準法施行規則第 54 条に定める賃金台帳の記入事項をみても、管理監督者をはじめ労働基準法第 41 条各号の一に該当する労働者に関しては、深夜労働の時間数についてもこれを記入することを要しない旨が明記されている。このことは、我が国の法令自体が深夜における管理監督者の時間管理が必要ではないことを示唆しているということもでき、その点においても現行制度には無理があるといえる。

日本経団連のアンケート調査においても、この管理監督者の労働時間等の適用除外制について、「管理監督者であっても深夜労働に関する規定の適用は排除されないという点」について改善等を求める回答が、「不都合な点や緩和、改善すべき点がある」と回答した企業のうちの 4 割強にのぼっている。
以上のことから、管理監督者については、早急に深夜労働についても割増賃金規制の適用が除外されることを明確にするよう、必要な法改正を行うべきである。

出典 ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言
2005 年 6 月 21 日 (社)日本経済団体連合会
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2005/042.html

 

以上、ご覧になってどのようにお考えになるでしょうか。

筆者が考える当該提言のポイント(経営者の考え)は以下の点です。

  • ホワイトカラーの知識労働者は労働時間と非労働時間の境界があいまいであり時間管理になじまない
  • 労働時間にならない自己啓発はどんどんやって欲しい
  • 労働時間の概念を、賃金計算の基礎となる時間と、健康確保のための在社時間や拘束時間とで分けて考える必要がある
  • 労働者の中には、生活のためだけに働きたい、仕事よりも自分の趣味や家庭団欒に重点をおきたい、したがって決められた時間以上は働きたくないと考える者が存在し、現在の労働時間法制は、そのような考え方をする労働者のみを想定しているように思われる
  • フレックスタイム制、変形労働時間制、裁量労働制、いずれも様々な点で問題がある
  • 管理監督者は深夜労働を行う必要性が高いが、深夜の割増賃金規制の対象となっており問題がある

以上がこのホワイトカラーエグゼンプションに関する提言で経営者側が主張していることなのです。

経営者側がどのような問題意識を持ち、どのような主張をしてきたかを知ることは、高度プロフェッショナル制度が導入された際に、どのように対象範囲が広がっていくのか、どのような働き方を経営者側が望んでいるのかを知るためには非常に有用です。

高度プロフェッショナル制度をできるだけ中立的な視点から確認するため、当該項目では、この経営者側の主張への賛否等を述べないことにします。

高度プロフェッショナル制度の法案

次に実際の法案についてみていきましょう。

裁量労働制の報道等も同様ですが、実際の法案について触れられていない記事が多いように感じます。

法律の正しい理解・判断のためには、条文にあたるのが重要です。

<法案>

第四十一条の二
賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された事業場において、当該委員会がその委員の五分の四以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者(以下この項において「対象労働者」という。)であつて書面その他の厚生労働省令で定める方法によりその同意を得たものを当該事業場における第一号に掲げる業務に就かせたときは、この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない。ただし、第三号又は第四号に規定する措置を使用者が講じていない場合は、この限りでない。
一 高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものくないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この項において「対象業務」という。)
二 この項の規定により労働する期間において次のいずれにも該当する労働者であつて、対象業務に就かせようとするものの範囲
イ 使用者との間の書面その他の厚生労働省令で定める方法による合意に基づき職務が明確に定められていること。
ロ 労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を一年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまつて支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう。)の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること。
三 対象業務に従事する対象労働者の健康管理を行うために当該対象労働者が事業場内にいた時間(この項の委員会が厚生労働省令で定める労働時間以外の時間を除くことを決議したときは、当該決議に係る時間を除いた時間)と事業場外において労働した時間との合計の時間(次号ロ及び第五号において「健康管理時間」という。)を把握する措置(厚生労働省令で定める方法に限る。)を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること
四 対象業務に従事する対象労働者に対し、次のいずれかに該当する措置を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずること。
イ 労働者ごとに始業から二十四時間を経過するまでに厚生労働省令で定める時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ、第三十七条第四項に規定する時刻の間において労働させる回数を一箇月について厚生労働省令で定める回数以内とすること
ロ 健康管理時間を一箇月又は三箇月についてそれぞれ厚生労働省令で定める時間を超えない範囲内とすること。
ハ 一年間を通じ百四日以上、かつ、四週間を通じ四日以上の休日を確保すること。
五 対象業務に従事する対象労働者の健康管理時間の状況に応じた当該対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置であつて、当該対象労働者に対する有給休暇の付与、健康診断の実施その他の厚生労働省令で定めるものを当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
六 対象業務に従事する対象労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
七 使用者は、この項の規定による同意をしなかつた対象労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。
八 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
②前項の規定による届出をした使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、同項第四号及び第五号に規定する措置の実施状況を行政官庁に報告しなければならない。
③第三十八条の四第二項、第三項及び第五項の規定は、第一項の委員会について準用する。

出典 厚労省ホームページ
労働基準法等の一部を改正する法律案(平成27年4月3日提出) ※筆者抜粋
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/189.html

なお、この法案の中で年間104日の休日については義務化される方向との報道があります。

これが実際に審議されている法案です。

高度プロフェッショナル制度の評価

以上、高度プロフェッショナル制度についての経団連の提言から、実際の法案までを確認してきました。

ここで高度プロフェッショナル制度の良い点、悪い点等を労働者側からみていきましょう(経営者側は「導入したい」といっているのですから評価する必要はないでしょう)。 

<高度プロフェッショナル制度のポイント>

  • 労使委員会での決議が必要であり一定の歯止めがかかっていること
  • 年間休日は104日以上が義務化されると報道されており、相応の休日は確保されていること
  • 適用業務および適用年収要件が定められるため、対象者は限定的であること(ただし、自分に関係ないからといって導入を良しとするのは正しくはないでしょう)

<高度プロフェッショナル制度のメリット>

  • 仕事をいくらでもしたい労働者にとっては、現在の労働法制よりも歯止めが低くなるので、長い時間をかけて仕事に従事できる
  • 対象業務に従事するほとんどの労働者が高度プロフェッショナル制度で(同意をして)働く場合は、成果で評価されるようになり、無駄に残業している(もしくは仕事の遅い)労働者よりも成果を出している労働者の方が賃金が高くなる可能性が高い
  • 出退勤が自由であるため、仕事がない日はすぐに家に帰ることができる(もしくは出社しない)
  • 同様に子供の急な送り迎え等に対応できる
  • 介護に従事する労働者にとっても柔軟な出退勤が可能である
  • 仕事が終わっていても、周囲が帰らないから、自分も帰れない、付き合い残業をするという日本企業でみられる風習を断ち切るきっかけとなる能性がある

<高度プロフェッショナル制度のデメリット>

  • 強制的な休憩時間が存在しない
  • 労働時間、時間外・休日労働について割増賃金がない
  • 休日は104日は確保される見込みだが、祝日や深夜に労働する可能性もあり、全体としては労働時間が増加する可能性がある
  • 企業における「成果」の定義次第では、労働時間管理をすべき業務であるにもかかわらず高度プロフェッショナル制度適用対象者の業務として位置づけられ、残業代削減のために制度が活用される可能性がある
  • 「成果」を測定するのは難しく(そもそも上司が指揮命令するのが難しいほどプロフェッショナルな業務のはずであるため)、成果と賃金が結びつくのか疑問
  • 同じ就業時間を適用されない場合、チームで仕事をするよりも、仕事が属人化する傾向にあり、個々人にとって休みづらくなる可能性がある

<同制度における今後の懸念点>

  • 対象業務を厚労省が設定できるため、対象業務の幅が増加していく可能性がある
  • 時代の流れにより平均給与額は変わっていくため、省令によって基準が随時変更されていく可能性がある
  • 特に賃金水準面では、2006年当時「ホワイトカラー・エグゼンプション」が厚労省で検討されていた時期には、適用対象者が「年収900万円以上」と報道されていたこと、当時の経団連は「400万円」「700万円」といった基準を提唱した経緯があり(※)、今後、基準となる賃金水準が引き下げられていく可能性が存在する
  • また、当該制度の導入を契機に管理監督者についての見直しも行われる可能性が存在する

※経団連の提唱(ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言)

(ⅱ)当該年における年収の額が 400 万円(又は全労働者の平均給与所得)以上であること。年収額が 400 万円未満の労働者については新制度を適用しない。
法令で定める業務に加えて労使で対象業務を定める場合、年収額が 700 万円(又は全労働者の給与所得の上位 20%相当額)以上の者については、労使協定の締結又は労使委員会の決議のいずれにおいても追加を可能とする。
また、前記の場合、年収額が 400 万円(又は全労働者の平均給与所得)以上、700 万円(又は上位 20%の給与所得に相当する額)未満である者については、労使委員会の決議のみにより追加を可能とする
※1 賃金要件として課す賃金の具体的な額については、さまざまな角度からの議論が必要であり、現時点ではあくまで例示にとどめる。

出典 ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言
2005 年 6 月 21 日 (社)日本経済団体連合会
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2005/042.html

以上が、筆者が考えつく高度プロフェッショナル制度の評価です。

私見では、日本の経営者側には成果をしっかりと測定する能力がない企業が多いと考えており、当該制度はほとんどの企業にとって残業代ゼロの効果をもたらすものになってしまうのではないかと考えています。

そもそも現行の法制度であったとしても「残業を完全に禁止すること」で成果だけで業務を評価することは可能になります。全員が同じ時間しか業務を行えないのですから、これは「平等」でしょう。

また、時間あたりの有給休暇制度、フレックスタイム制度、時差勤務制度等を使えば柔軟に働くことは可能です。

就業時間が決まっていたとしても、上司が「早く帰って良い」とすれば早く帰ることは現行法制上も可能なのです。

日本は労働力の観点から人手不足になっていくはずです。

持続可能な柔軟な働き方とは、どのようなものかを真剣に考えていかなければなりません。

少なくとも現状のように労働者の仕事に明確な範囲が定められていない場合には、経営者や上司から、次々と処理しきれない量の仕事が割り振られる可能性は十分に高いといわざるをえません。

日本において求められているのは、経営者側が望む「時間と賃金の関係を切り離す」ことではなく、まずは労働者が「自分の時間を柔軟に確保する」、「健康を確保する」ことなのではないでしょうか。

先行きの見えない時代には、労働者は自分で様々な勉強、人脈づくりをした方が良いでしょう。

また結婚している世帯は共稼ぎがほとんどになるのですから、家族のために柔軟に時間を調整できなければなりません。

そして、日本においては少子化が問題なのではなかったでしょうか。子育てを行いやすい環境とは、少なくとも労働時間が限定されているということなのではないでしょうか。

以上を考えると、筆者としては日本において求められるのは、まずは労働時間の限定、短縮であるように感じています。

国際競争力の強化、生産性の向上等は違う角度からなされるべきなのです。労働者の時間を奪うような制度、すなわち生産性の向上等の責任を労働者に押し付けるような制度は、日本を悪い方向に進ませるのではないでしょうか。