銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

地銀の店舗はリストラで外部賃貸できないという規制の無駄

f:id:naoto0211:20171201144900j:image
銀行の業績が厳しいというニュースを至るところで見る機会が増えています。

特に地方銀行(以下地銀)は、マイナス金利政策の影響により貸出の金利が低下する一方で、銀行の資金調達・商品仕入れにあたる預金金利はこれ以上の低下余地がないことから、地銀の大半が本業である貸出業務で赤字となっていると、金融庁から指摘を受けている状況にあります。

このような環境の中、地銀は生き残りをかけて規制緩和の要望を行ってきました。

その中でも今後動きがあると思われる保有不動産の有効活用、すなわち銀行店舗の外部賃貸について今回は考察します。

銀行店舗の外部賃貸は禁止

銀行の店舗は一般的に午後3時に閉店となります。

このご時世に午後3時までしか営業していない理由については以前の記事でご説明しました。

 

しかし、銀行の店舗が午後3時までしか営業していないことは、都市・商店街・地域にとって損失以外の何者でもありません。

例えば、商店街で夕方に銀行の店舗が閉まっていれば、銀行の店舗部分について賑わいが途切れてしまい、お客様からすれば商店街が活発に見えません。

また、銀行の店舗の前は夜になると暗くなっていることもあるため、治安の観点からも悪影響となっている可能性があります。

銀行は立地のよい場所に店舗を構えていることが多いため、本来であれば他の物販等をやっていれば多くの収益が上がり、顧客の利便性も高いのに、銀行の店舗だったせいでその土地のポテンシャルが発揮されていないこともあるでしょう。

このような事例をみると銀行の店舗は経済的に機会損失等をもたらしている可能性があるのです。

そもそもインターネットの普及から始まった金融のIT化によりインターネットバンキングも普及してきました。キャッシュレス化が進展すれば、銀行の店舗はさらに意味がないものになる可能性があるのです。

このような問題を抱えた銀行の店舗ですが「あんなに良い場所にあるのに、なぜ他のテナントに貸さないのか?」と疑問に思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。

結論からいえば、現時点では、銀行は実質的に外部テナントに不動産賃貸を行えないのです。

これは銀行が規制業種であるからです。

まずはこの規制がどのようなものかについて確認していくことにしましょう。

銀行の不動産賃貸禁止の内容

銀行は銀行法12条により他業が禁止されています。

この法律の趣旨は、資金力がある銀行が強力な金融力を背景として一般事業に進出した場合、公正な競争が阻害されるおそれがあること、すなわち銀行に産業界を支配させないようにすること等です(今は、銀行を異なる業種のリスクから切り離し健全性を維持することに主眼がおかれているようですが)。

この条項が今の時代に則しているかはともかく、銀行法の他業禁止により銀行は行うことができる業務の範囲が限定されているのです。

そして銀行の業務範囲については金融庁の監督指針で決められているところもあります。

銀行の不動産賃貸についてはこの監督指針において制限がなされています。

以下、金融庁の監督指針について確認します。

主要行等向けの総合的な監督指針(抜粋)

銀行及びグループ会社の業務範囲等

基本的考え方

(1)銀行の他業禁止規制の趣旨
銀行には、銀行法上他業禁止規制が課されているが、その趣旨は、銀行が銀行業以外の業務を営むことによる異種のリスクの混入を阻止する等(注)の点にある。
(注) この他に、銀行業務に専念することによる効率性の発揮、利益相反取引の防止が他業禁止の趣旨として指摘されている。

 

「その他の付随業務」等の取扱い

銀行が法第10条第2項の業務(同項各号に掲げる業務を除く。以下「その他の付随業務」という。)等を行う際には、以下の観点から十分な対応を検証し、態勢整備を図っているか。

(中略)

(4)上記(1)から(3)までに定められている業務以外の業務(余剰能力の有効活用を目的として行う業務を含む。)が、「その他の付随業務」の範疇にあるかどうかの判断に当たっては、法第12条において他業が禁止されていることに十分留意し、以下のような観点を総合的に考慮した取扱いとなっているか。
1.当該業務が法第10条第1項各号及び第2項各号に掲げる業務に準ずるか。
2.当該業務の規模が、その業務が付随する固有業務の規模に比して過大なものとなっていないか。
3.当該業務について、銀行業務との機能的な親近性やリスクの同質性が認められるか。
4.銀行が固有業務を遂行する中で正当に生じた余剰能力の活用に資するか。

(注1) 上記規定を総合的に考慮するに当たり、例えば、事業用不動産の賃貸等を行わざるを得なくなった場合においては、以下のような要件が満たされていることについて、銀行自らが十分挙証できるよう態勢整備を図る必要があることに留意すること。

イ.行内的に業務としての積極的な推進態勢がとられていないこと。

ロ.全行的な規模での実施や特定の管理業者との間における組織的な実施が行われていないこと。
ハ.当該不動産に対する経費支出が必要最低限の改装や修繕程度にとどまること。ただし、公的な再開発事業や地方自治体等からの要請に伴う建替え及び新設等の場合においては、必要最低限の経費支出にとどまっていること
二.賃貸等の規模が、当該不動産を利用して行われる固有業務の規模に比較して過大なものとなっていないこと。
※ 賃貸等の規模については、賃料収入、経費支出及び賃貸面積等を総合的に勘案して判断する(一の項目の状況のみをもって機械的に判断する必要はないものとする。)。

(注2) リストラにより、事業用不動産であったものが業務の用に供されなくなったことに伴い、短期の売却等処分が困難なことから、将来の売却等を想定して一時的に賃貸等を行わざるを得なくなった場合においては、上記(注1)を準用すること(ただし、ハ.のただし書及び二.を除く。)。

http://www.fsa.go.jp/common/law/guide/city/05.html

この監督指針をみていくと、銀行は「正当な」リストラ等で店舗に余剰スペースができた場合に、銀行内で積極的・全行的規模で行わず、改装や修繕を必要最低限にとどめ、賃貸の規模がその店舗で行われている銀行業務の規模に比して過大なものになっていないこと等の条件を充たせば賃貸ができるということになりますが、このような条件を充足するのは非常に高いハードルがあります。

2017年9月からは監督指針が一部改正され、今までよりは外部に賃貸等をしやすくなりました。これは公的な再開発事業や地方自治体等からの要請に伴う建て替え、新設の場合において該当しますが、一般のビルオーナーのようには賃貸できません。

以上をみれば分かるようにこのような監督指針では銀行の店舗を有効に活用しようとしても難しいことが分かるでしょう。

それでもこの監督指針の改正は、銀行業界の要望を金融庁が受け入れたということでは前進だったのです。

銀行業界からの要望と金融庁の回答の推移

過去に銀行業界が不動産の賃貸についてどのように規制緩和を要望していたのかについて、簡単に確認をしておきましょう。

例えば2007年には全国地方銀行協会が「銀行の事業用不動産・遊休不動産の有効活用のための要件緩和」について要望を行っています。

ここでは、以下のように地銀協は主張をしました。

地方銀行の支店·営業所は地方都市の中心市街地にあることも多く、これらの不動産の有効活用を図らないまま放置しておくことは、地方の活性化を目指すうえでも決して好ましいことではない。

折りしも、ゆうちょ銀行の属する日本郵政グループでは、傘下の郵便局株式会社において郵便局等の再開発·賃貸·管理事業を新たな収益源とすることを標榜している。郵便局会社は一般事業会社であり銀行とは法律上の位置づけが異なるものの、ゆうちょ銀行のグループにおいてこうした動きがある中、地方銀行についても不動産のより積極的な活用が可能となるような政策がとられても不合理とは考えられない。

以上のことから、銀行の事業用不動産·遊休不動産の有効活用の要件について、銀行の他業禁止の趣旨から「固有業務の規模に比較して過大なものとなっていないこと」に絞るなど、要件を緩和すべきである。

まさに正論です。

ところがこれに対する金融庁の一次回答は非常に厳しいものでした。

金融庁の回答をまとめると「他業が禁止されていることに十分に留意し、銀行の不動産賃貸は厳格に判断することが必要であり、現状の枠組みを緩和することは困難」というものでした。

これに対して地銀協はさらに再意見を提示しました。

金融庁が志向する「ベターレギュレーション(金融規制の質的向上)」の柱の一つに、「ルール·ベースの監督とプリンシプル·ベースの監督の最適な組合せ」が謳われている。

当協会は他業禁止の趣旨を否定する立場ではなく、地域活性化の視点から、あくまでも付随業務の範囲における取組みが実施しやすいような手当てについて要望している。例えば、地域の市街地の再開発等により生じた遊休不動産を活用しやすくする観点から、監督指針においては「固有業務の規模に比較して過大なものとなっていないこと」(プリンシプル的な要素)のみを記述すれば十分であり、詳細なチェック項目(ルール的な要素)までの記述は必要ない。この点、改めてご検討いただきたい。

これに対する金融庁の回答は以下でした。

監督指針は、事業用不動産の賃貸等を行わざるを得なくなった場合に、当該賃貸が銀行法に定める銀行の業務範囲(その他の付随業務)に含まれるかどうかの基本的考え方を示したものであり、行政の透明性·予測可能性向上の観点から明確にすべき性格のもの(ルール·ベースの監督に服すべきもの)である。

また、前回回答のとおり、その内容はその他の付随業務の範囲に関する考え方から導かれるものであり、よって措置は困難である。

このように金融庁は銀行の不動産賃貸に非常に消極的でした。

これに対して2016年11月に都銀から要件緩和の要望が再度出されます。

こちらも長いですが引用します。

【制度の現状(現行規制の概要等)】
事業用不動産の賃貸等を行う場合、主要行向けの総合的な監督指針V-3-2(4)において「その他の付随業務」の範疇にあたるかどうかの判断基準が示されており、「銀行が固有業務を遂行する中で正当に生じた余剰能力の活用に資するか」「賃貸等の規模が当該不動産を利用して行われる固有業務の規模に比較して過大なものとなっていないこと」等の規制がある。
グループ共同店舗化を進めていくにあたり、基本的には中核となる銀行のスペースを他グループ会社に賃貸することとなるが、あくまで「正当に生じた余剰スペース」にとどまるため、能動的にスペースを生み出して他グループ会社を集約する(=賃貸する)ことはできない。

また、拠点によっては銀行ではなく、グループ会社が当該建物の多くを利用するケースも今後考えられうるが、上記規制下においては引き続き大部分を銀行が利用せざるを得ない。

【具体的要望内容】

グループ間での不動産賃貸については、主要行向けの総合的な監督指針V-3-2(4)にある、「正当に生じた余剰能力の活用に資すること」や「当該不動産における固有業務規模に比し過大でない」といった規制を緩和して頂きたい。

【要望理由】
銀行グループのビジネスが多様化していく中、銀行保有不動産を実質的にグループ共有の資源として有効に活用することにより、銀行グループ経営の効率化を図ることが可能となる。これまでは「銀行が固有業務を行う中で正当に発生した余剰スペース」のみ、グループ会社への賃貸が可能であったが、例えば新築·増改築等により能動的にスペースを作りだし、近隣のグループ会社を集約(=賃貸)することが可能となれば、グループベースの資産効率化が更に図れるもの。

また、拠点によっては今後銀行業務を縮退させ、一方でグループ会社の業務を強化していくことも考えられるが、その際当該グループ会社が銀行保有不動産の大部分を活用することにより、グループとしての効率化·最適化が図れるもの。

この要望に対する金融庁の回答は「検討に着手」でした。

銀行が保有する事業用不動産をグループ会社に賃貸する場合について、銀行グループ全体の経営資源の有効活用、銀行の健全性確保の観点から銀行に他業禁止が課せられている趣旨等を踏まえ、検討を行います。

これは踏み込んだ回答だったといってよいでしょう。

そしてさらに踏み込んだ要望があがりました。こちらは第二地方銀行協会からのものです。

(提案の具体的内容)

空き家対策や中心街の空洞化対策等の地方創生を促進するため、銀行所有の余剰不動産に係る賃貸業務について、固有業務との親近性等の要件を柔軟化し、現行より幅広く認めて頂きたい。

(提案理由)

銀行が所有する余剰不動産の賃貸については、その他付随業務として、銀行業務との機能的な親近性等の要件の下、実質一時的な賃貸でなければ認められていない。

例えば、比較的好立地にある銀行店舗や社宅等の統廃合や建替等によリ生じた余剰不動産について、地公体や地元の民間事業者等からは、賃貸により地域に合った有効活用を望む声があるが、現状では柔軟な賃貸業務が行えないため、売却以外の選択肢はほぼなく、また地方ではその資産を購入し事業化できるような事業者等も少ないことから、売却できずに空き家、更地として放置されてしまうなど、中心街の空洞化問題を惹起することもある。

本件については、地域活性化や地方創生を促進する観点から、銀行業務との親近性等の要件を柔軟化頂き、従前より幅広く賃貸業務を認めて頂きたい。

この要望に対する金融庁の回答も「検討に着手」でした。

銀行が所有する余剰不動産を賃貸できる場合については、銀行に対する他業禁止の趣旨を踏まえ、銀行の健全性確保の観点から検討を行います。

この回答は、まさに日銀のマイナス金利政策が実行され、銀行に逆風が吹いている中で出されたものです。

そもそもこの時点というのは、マイナス金利政策導入の前から、人口減少、企業の衰退が続いていた地銀には特に厳しい環境でしたが、マイナス金利がだめ押しをしたといえる環境でした。

このような流れの中で、まずは監督指針が改正されたということです。

今後の動向

金融庁が指摘しているように地銀の経営は厳しくなってきています。

かつ、地方経済の活性化の観点からも好立地の不動産を有効に活用していくことは非常に有用です。

そのため、金融庁は少なくとも地銀の店舗について外部賃貸を行うこと、すなわち銀行の不動産賃貸事業の解禁をかなり前向きに検討しているのではないかと筆者は考えています。

この理由は、上述の通り金融庁が実際に「検討に着手」と回答したことに加え、2017年11月16日の金融審議会があります。

まず、この金融審議会では資料に以下の記載がありました。

金融を取り巻く環境変化に対応した規制の点検・見直し
○金融機関においては、人口減少に伴う国内市場の縮小や世界的な長短金利の低下など、金融を取り巻く環境変化が起こる中、支店網の機能・役割の見直しなど、ビジネスモデルの再構築を図っている。
こうした取組みに関して、制度面での障害があれば、除去していく必要。例えば、店舗制度のあり方等、金融を取り巻く環境変化に対応した規制の点検・見直しを行っていく必要があるのではないか。
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/soukai/siryou/20171116-1.tml

ここでは共同店舗についての事例しか挙げられていませんが、銀行の不動産賃貸事業の実質解禁については協議されているようです。

以下、ロイターの報道記事を引用します。

[東京 16日 ロイター] - 金融庁の油布志行参事官は16日の金融審議会(首相の諮問機関)で、同庁が10日に公表した行政方針に地域金融機関の業務範囲規制の緩和を盛り込んだことについて「必ずしも法律改正が念頭にあるということではない」と述べた。
政策の総合調整を担当する油布参事官は、審議会参加者からの質問に対し、地域企業や経済に貢献するコンサルティングの提供や金融機関の保有不動産の活用などを例に挙げながら「規制を緩和することによってビジネスにつなげる余地があるのであれば、前向きに対応するという趣旨だ」と説明した。
地域の不動産情報が地銀に集約しやすいなどの理由から、不動産仲介など不動産関連業務への参入を要望する地銀は多いが、他業禁止を定める銀行法では認められていない。
http://www.asahi.com/business/reuters/CRBKBN1DG0HB.html

この通り、道筋は出来上がりつつあります。

地銀は地域経済にとって現段階では必要な機能であることは間違いありません。

その地銀の収益下支えとなり、かつ地方創生にも繋がるのであれば店舗の余剰部分の外部賃貸も良いということなのでしょう。

また、地銀が積極的に不動産を新規開発を行うのではなく、既存物件の有効活用であれば、地場の不動産賃貸業者からの反発も少ないと想定されることも金融庁が規制を緩和しようと考えている背景にはあるはずです。

地銀の店舗の外部賃貸解禁は、上述の通り地域の活性化にとって有用です。地銀の収益を安定化させるためにも是非とも解禁・規制緩和をして欲しいと筆者は考えていますし、おそらく規制緩和の方向になるのでしょう。

地銀の店舗の外部賃貸は法改正不要であり、早期に実現できる地域活性化策であり地銀の業績改善策なのです。