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不動産価格・賃料の国際比較では投資するなら香港が有望か

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世界的に金余りが続いています。

株価も高値圏にありますし、仮想通貨・暗号通貨価格の大幅なアップダウンが毎日報道されています。

そのような環境下、不動産は居住するものであり、仕事を行う場所でもありますが、重要な投資先の一つともなっています。

そして、不動産への投資は国境をまたいで行われています。

今回は不動産価格・賃料についての最新の国際比較について考察します。

オフィス価格動向

まずは不動産投資の代表格であるオフィスの価格動向についてみていきましょう。

対象期間は2017年4月~10月の6か月です。以下の数値は前半年間に比較してどの程度上昇もしくは下落したかということです。

香港 +6.5%

大阪 +4.8%

バンコク +3.5%

東京 +3.1%

ソウル +1.6%

北京 +1.6%

シンガポール +0.9%

上海 +0.1%

ニューヨーク +0.1%

ロンドン ▲0.9%

出典:日本不動産研究所 国際不動産価格賃料指数(2017年10月現在)

上表で分かる通り、わずか半年でも香港の価格の上昇が目立ちます。

香港は中国本土からの旺盛な投資需要がありますが、供給は常に限定的です。当該期間前の半年間でも+2.2%となっていましたので、まだまだ需要は強いようです。

日本にいると認識できないかもしれませんが、大阪の不動産価格も堅調です。東京も同様ですが、日銀のマイナス金利政策の導入等あり不動産の期待利回り(キャップレート)の低下が続き価格が上昇しています。

大阪が東京を上回っているのは、東京のオフィス価格がすでに上がっている(利回りは低下)のに対して、相対的に高い利回りを確保できるからでしょう。

ニューヨークは利上げをにらみ投資家は様子見というところです。

ロンドンはBrexit以降、政治的な混乱等が続いています。オフィス価格は下落していますが、ポンド安によりアジア勢等の外国投資が投資してきていると聞こえてきます。今後の動向には注目でしょう。

オフィス賃料変動率

次にオフィスの賃料変動率(前半年間との比較)についてみていきましょう。

こちらも同様に 対象期間は2017年4月~10月の6か月です。

香港 +2.3%

大阪 +1.6%

東京 +0.8%

バンコク +0.6%

シンガポール +0.3%

北京 +0.2%

ソウル +0.1%

上海 +0.1%

ニューヨーク +0.0%

ロンドン ▲0.4%

出典:日本不動産研究所 国際不動産価格賃料指数(2017年10月現在)

賃料の変動については、おおむねオフィスの価格通りの推移といってよいでしょう。

ここでも香港、大阪が好調に推移しています。

マンション価格変動率

次にオフィスと双璧をなす投資対象アセットであるマンションの価格変動についてみていきます。

対象期間は2017年4月~10月の6か月です。

香港 +5.2%

ソウル +3.1%

上海 +1.6%

バンコク +1.5%

大阪 +0.9%

東京 +0.6%

北京 +0.6%

シンガポール +0.1%

ニューヨーク ▲1.2%

ロンドン ▲1.6%

出典:日本不動産研究所 国際不動産価格賃料指数(2017年10月現在)

やはり香港には資金が継続して流れているようです。

なお、当該期間前の半年間では、北京+20.0%、上海+8.8%、香港+6.0%となっており留意が必要です。2017年10月の共産党大会を前にした中国当局の厳しい価格抑制策が影響しているとみるべきです。

ニューヨーク、ロンドンはすでに高値の価格が続いていましたので、調整というところかもしれません。ニューヨークは利上げ、ロンドンはBrexit・ポンドの行方が影響を及ぼしています。

マンション賃料変動率

マンションの本体価格の次は、賃料の変動率(前半年間との比較)をみていきます。

対象期間は2017年4月~10月の6か月です。

香港 +3.1%

上海 +2.1%

東京 +0.9%

北京 +0.8%

バンコク +0.8%

ソウル +0.2%

大阪 +0.1%

ニューヨーク ▲0.3%

ロンドン ▲1.0%

シンガポール ▲1.9%

出典:日本不動産研究所 国際不動産価格賃料指数(2017年10月現在)

大阪はマンション価格の上昇はあるものの、賃料があまり変わっていない状況にあります。今後、賃料が上がるか否かは、マンション価格の上昇が続くかのポイントになってくるでしょう。

ソウルの賃料があまり変わっていないのも気になるところです。ソウルはオフィスの価格も上昇(+1.6%)していますが、オフィス賃料は+0.1%とあまり変動していないのです。

韓国の投資家は近時、中国での投資が難しくなってきており、日本含めた他国への投資を増加させている模様です。

シンガポールは当該期間前の半年間は▲2.4%でした。

シンガポールは開発独裁国家といわれているほどの管理社会ですが、当局の価格抑制策によりマンション価格の下落が続いていました。賃料は下落率が縮小しましたし、マンション価格は3年半ぶりに下げ止まっていますので、賃料の下落も落ち着く可能性があります。

2017年4~10月の不動産の国際比較

この半年でみると、賃貸需要が底堅い一方で供給が限定的な香港の価格上昇が目立ちました。オフィス価格・マンション価格とも力強く上昇するとともに、賃料も上昇しており需要の強さをみることができました。

また上海・北京については当局の抑制策はありますが堅調な需要があるといえるでしょう。

大阪については、東京と比較して利回りが高いことから相対的に選択されているところはあるでしょうが、少なくともオフィスは価格も賃料も上昇しており、堅調といえるでしょう。 東京も同様に底堅く推移しています。 

ニューヨーク、ロンドンについては動向に注視が必要です。

両都市とも世界から多額の資金が集まっており、不動産価格が低下することによる影響は大きなものがあるためです。

なお、上記では触れませんでしたが、バンコクも堅調な不動産需要があります。

オフィス価格・賃料の中期推移

今までは6か月という短期での推移をみてきました。

今度は中期的な動向についてみていきます。

以下は各都市のオフィス価格指数・賃料指数です。

2010年10月=100とした場合、現時点(2017年10月)時点でどのようになっているかを示しています。

東京:オフィス価格 144.1 オフィス賃料 113.6

大阪:オフィス価格 130.1 オフィス賃料 105.9

ソウル:オフィス価格 134.9 オフィス賃料 108.4

北京:オフィス価格 204.9 オフィス賃料 167.0

上海:オフィス価格 151.8 オフィス賃料 143.8

香港:オフィス価格 160.2 オフィス賃料 132.4

シンガポール:オフィス価格 114.5 オフィス賃料 92.7

バンコク:オフィス価格 137.6 オフィス賃料 119.5

ニューヨーク:オフィス価格 188.2 オフィス賃料 151.2

ロンドン:オフィス価格 168.5 オフィス賃料 137.0

出典:日本不動産研究所 国際不動産価格賃料指数(2017年10月現在)

この指数でいけば、東京はオフィスの価格が7年間で4割強上昇した一方で、賃料は1割強しか上昇していません。これは期待利回りが低下したことで価格が上昇していることを示しています。

東京の不動産価格が上昇しているとの報道を目にすることもあるかと思いますが、国際比較をすると上昇幅はそれほどでもないというのも現実なのです。

しかし、オフィスの価格が上がったとしても、賃料が上昇しなければ中長期的にみた場合、そのオフィスの収益は上がらないためオフィス価格が下落する可能性が出てきます。

上記表をさらに捉えやすくするため、オフィス賃料の上昇がオフィス価格の上昇と比較してどの程度かについて以下でみていきます。

計算式は単純化して「オフィス賃料指数 ÷ オフィス価格指数」とします。

東京=78.8

大阪=81.4

ソウル=80.3

北京=81.5

上海=94.7

香港=82.6

シンガポール=80.9

バンコク=86.8

ニューヨーク=80.3

ロンドン=81.3

この数値でみていくと、例えば、東京は大阪ほどにはオフィス価格の上昇に伴ってオフィス賃料が上昇していない、ということになります。

国際比較しても東京は他都市に比べて賃料上昇率が弱いということでしょう。

一方で、上海、バンコク等はオフィス価格の上昇に賃料上昇がついてきています。投資対象としては魅力的ともいえるでしょう。

マンション価格・賃料の推移

次にマンションついてみていきましょう。

以下は各都市のマンション価格指数・賃料指数です。

2010年10月=100とした場合、現時点(2017年10月)時点でどのようになっているかを示しています。

東京:マンション価格 113.7 マンション賃料 104.3

大阪:マンション価格 115.0 マンション賃料 100.6

ソウル:マンション価格 102.1 マンション賃料 98.3

北京:マンション価格 214.4 マンション賃料 173.4

上海:マンション価格 172.5 マンション賃料 165.5

香港:マンション価格 150.4 マンション賃料 129.0

シンガポール:マンション価格 111.0 マンション賃料 93.0

バンコク:マンション価格 122.2 マンション賃料 111.3

ニューヨーク:マンション価格 151.3 マンション賃料 123.3

ロンドン:マンション価格 161.5 マンション賃料 112.1

出典:日本不動産研究所 国際不動産価格賃料指数(2017年10月現在)

例えば、この表でいけば大阪のマンション価格は1.5割上昇していますが、マンション賃料はほとんど変わっていないことが分かります。東京のマンション賃料の動きをみても、日本はマンション賃料の引き上げが難しいマーケットといえるかもしれません。

特筆すべきは、北京・上海のマンション価格の上昇です。上述の足下半年間では沈静化していましたが、中期でみると北京のマンション価格は7年で2倍になっているのです。

また、ニューヨーク、ロンドン・香港についても堅調に価格が上昇してきたことが分かります。

なお、シンガポールのマンション価格・賃料は、国の政策です。

次に、上記表をさらに捉えやすくするため、マンション賃料の上昇がマンション価格の上昇と比較してどの程度かについて以下でみていきます。

マンションの価格が上がったとしても、賃料が上昇しなければ中長期的にみた場合、そのマンションの収益は上がらないためマンション価格が下落する可能性が出てくるためです。

計算式は単純化して「マンション賃料指数 ÷ マンション価格指数」とします。

東京=91.7

大阪=87.5

ソウル=96.3

北京=80.9

上海=95.9

香港=85.8

シンガポール=83.8

バンコク=91.1

ニューヨーク=81.5

ロンドン=69.4

この指数比較でみると、東京、大阪はマンション価格の上昇に賃料上昇がついてきているようにもみえます(ただし、大阪はほとんど価格も賃料も上がっていません)。

一方で北京、ニューヨークはマンション価格の上昇に賃料上昇が相対的に追いついていない状況にあるようです。

なお、ロンドンは、そもそも分譲(=持家)もしくは公営住宅(社会住宅)が多く、民間の賃貸マンションは数も少なく調査データに乏しいことから、当該データ自体はあまりあてにはならないと筆者は認識しています。

オフィス価格・賃料水準の都市間比較

さらに、オフィスの最上級価格の水準を都市間で比較してみます。

以下は、東京丸の内・大手町地区所在の最上位オフィスの床単価価格を100とした場合の各都市との比較指数となります。

<オフィス価格水準比較>

東京=100

大阪=44.9

ソウル=29.6

北京=35.4

上海=48.5

香港=179.4

シンガポール=39.8

バンコク=7.7

ニューヨーク=46.8

ロンドン=64.6

出典:日本不動産研究所 国際不動産価格賃料指数(2017年10月現在)

次に同様に都心地区の最上位クラスのオフィスの賃料水準を比較します。

<オフィス賃料水準比較>

東京=100

大阪=45.6

ソウル=52.6

北京=60.9

上海=68.8

香港=182.0

シンガポール=53.5

バンコク=17.4

ニューヨーク=96.8

ロンドン=118.0

出典:日本不動産研究所 国際不動産価格賃料指数(2017年10月現在)

上記の都市間における価格水準比較および賃料水準比較をみると、東京の最上位オフィス価格は他都市に比べても非常に高額です。この要因は、様々ではありますが、地震大国の日本はそもそも構造を免震構造にする等で建築資金がかかることに加えて、近時の建築費そのものの高騰、マイナス金利政策導入による期待利回りの低下が組み合わさり、このような価格水準になっているのでしょう。

一方で、賃料水準も併せてみていくと、ソウル、北京、上海に加え、ニューヨーク、ロンドンも含めて、賃料水準は東京都の差が少ないことから、投資効率だけみると他都市の方が東京に比べて優位にみえるでしょう。

表面利回りは他都市の方が高くなるでしょうが、借入金利(=調達コスト)も高ければ最終的に得られる利回りは低くなってしまう可能性もありますので、安易に考えるのは注意が必要です。

なお、北京・上海等は不動産価格の高騰が伝えられており、東京よりも価格水準が高いのではないかと思われる方もおいででしょう。個別物件においては様々な要因があるため確かに東京が圧倒的に高いということはないと思いますが、北京・上海等中国の不動産価格についてのニュースは後述するマンション価格についてのものが一般的ですので留意が必要でしょう。

マンション価格・賃料水準の都市間比較

以下同様にマンションにおける高級住宅(ハイエンドクラス)の価格水準比を行います。

東京の元麻布所在の高級住宅のマンション価格(分譲単価)を100とした場合の各都市のハイエンドクラスとの比較です。

<マンション価格水準比較>

東京=100

大阪=53.3

ソウル=63.1

北京=105.8

上海=132.6

香港=187.1

シンガポール=110.2

バンコク=24.2

ニューヨーク=119.7

ロンドン=220.6

出典:日本不動産研究所 国際不動産価格賃料指数(2017年10月現在)

次に賃料水準についても記載します。

<マンション賃料水準比較>

東京=100

大阪=86.0

ソウル=55.3

北京=67.8

上海=76.0

香港=169.0

シンガポール=127.5

バンコク=41.3

ニューヨーク=224.0

ロンドン=243.9

出典:日本不動産研究所 国際不動産価格賃料指数(2017年10月現在)

マンションは、オフィスとは異なった風景がみえます。

東京のマンションは世界的にみると決して価格が高くはないのです。

北京、上海、香港、シンガポールに加え、ニューヨーク、ロンドンと比べて価格面では劣っています。

一方で、賃料水準でみると北京・上海よりも東京は高く、北京・上海はマンション価格の伸びに賃料水準の上昇率が追いついていないということでしょう。

ニューヨークについては賃料水準が高く投資効率が高い可能性があります。 

都市の国際比較のまとめ

以上様々な指標を基に、各都市の不動産比較をしてきました。

この数値を眺めていると、筆者としては香港の不動産の強さを感じずにはいられません。売り物が限定されており売り手の方が強い立場になっているマーケットであるためです。

また上海のマーケットも面白いでしょう。価格の上昇が騒がれているのは事実ですが、オフィスもマンションも本体価格の上昇に賃料上昇が伴っているためです。

そしてニューヨークはオフィス・マンションとも投資対象としては安定感があります。他都市に比べて流動性があると想定されることもプラス材料でしょう。

ロンドンはBrexitに伴い金融機関がCityに残るかがポイントでしょう。残る可能性が高まってきた場合には、ポンド安の現状では良い投資対象となる可能性があります。

バンコクについては上記ではあまり触れてきませんでしたが、上海と同様、オフィスもマンションも価格上昇に賃料上昇が伴っています。堅調な経済成長が追い風となっており、投資対象としては非常に面白いでしょう。

一方で東京、大阪はどうでしょうか。

東京は都心の5区のオフィス空室率は3%フラット程度まで改善してきています。平均賃料については上昇基調継続していますが、2007年のファンドバブル時期の水準には戻っていません。

大阪は、都心地区の空室率の低下は続いていますが、平均賃料はほぼ横ばいといったところです。

東京では、2018~2020年は年平均67万㎡のオフィス竣工が予定されています。大量供給問題は過去から指摘されてきて2017年頃がピークではないかとまでいわれてきましたが、足下では想定以上に需要があるため、東京五輪開催前がピークとする見通しの方が強くなってきているものと思います。

大阪は大規模ビル供給があまり予定されていません。2018年以降は2年に1棟のペースとなり、需給はタイトなまましばらく解消されません。

以上の通り、東京も大阪もオフィスの投資先としてはいまだ有望といえるかもしれません。特に大阪は需給のバランスからオフィスの需要が比較的強く、良い投資先となる可能性があります。

一方、マンション投資という観点では、東京の方が賃料を獲得できる可能性が高いものと思われます(前述の賃料指数 ÷ マンション価格指数を参照)。 大阪は賃料の上昇に期待が持てないと思われるためです。

ただし、東京も大阪もマンション価格・賃料の上昇余地を鑑みるとマンション投資先として国際比較では、あまり有望ではないのではないかと筆者は考えています。

日本の企業の収益は改善してきましたが、やはり個々人の所得の上昇は少なく、今後も大幅な上昇は見込めないからです。加えて、今後は空き家の問題がでてきます。そのような中で住宅セクターに投資するのは、相応のリスクがある可能性があると考えています。