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金融庁の金融レポートにみる地方銀行の未来

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2017年10月に金融庁が金融レポートを発表しました。

金融レポートは毎年公表している金融行政方針の進捗状況・実績等を評価し、現状分析・問題提起を行う目的で金融庁が公表しているレポートです。

今回はこの直近の金融レポートにおいて示された金融庁の特に地方銀行に対する問題意識について考察します。

金融レポートの内容

以下、金融レポートの内容の中で筆者が気になる項目を取り上げます。

  • 括弧内の数字は金融レポートの該当ページとなります。
  • 「→」以降には筆者のコメントを記載しています。

預金取扱金融機関の抱える円金利リスク

預金取扱金融機関(国内銀行、信用金庫、信用組合)の円金利リスク量をみると、主要行は横ばい、地域金融機関は拡大傾向にあり、自己資本対比では主要行等と比較して地域銀行は約3倍、信用金庫・信用組合は約4倍である。(当該項目は金融レポート分を筆者加工、対象7P)

→金融庁のレポートでは、円金利が1%上昇した場合、主要行は自己資本の約10%、地域銀行は約30%、信用金庫・信用組合は約40%の自己資本が毀損(あくまでその時点の時価評価ベースではありますが)することになります。

円金利が上昇した場合、地域銀行等への影響は甚大といわざるをえないでしょう。

簡単に言えば、急激に円金利が上昇した場合は、地域銀行等は貸し剥がしをして貸出を回収しなければ自己資本比率が維持できなくなります。

地域銀行の不動産業向け貸出の拡大

地域銀行の不動産業向け貸出が拡大を続けている。(P8)

→地域銀行は、2012年には前年同期比+2%強で不動産業向け貸出が伸びていましたが、2017年は+8%強まで伸びが拡大しています。

金融庁が一つの図表を用いて説明していますので、間違いなく金融庁は地域銀行の不動産業向け貸出の拡大について問題意識を持っているということです。

利益相反管理・優越的地位の濫用防止

3メガバンクグループについては、傘下の銀行、信託銀行、証券会社等の連携を強め顧客に対する総合的なサービスの提供を進めている。(中略)、銀行の取引先企業に対する優越的地位の濫用や、過度なノルマにより顧客の立場を重視しない営業が行われることのないよう、持株会社の適切な関与の下、顧客本位の業務運営が浸透することに配意する必要がある。(P13)

メガバンクグループについては多様な金融業態を傘下におさめていることから、利益相反、優越的地位の濫用について金融庁としては問題意識を感じているようです。
信託銀行の議決権行使結果の開示や資産運用会社のグループ内統合などはその動きを反映したものといえるでしょう。

政策保有株式縮減

3メガバンクグループは、欧米主要銀行と比べ、政策保有株式の自己資本に対する比率が高く、株価下落時の自己資本に及ぼす影響は無視できない状況にある。(P13)

3メガバンクグループの株式保有比率はTier1(中核的自己資本)対比で、3メガが35.5%であるのに対して、欧米主要銀行は4.8%(いずれも2016年度)となっています。

金融庁としては是非とも3メガの株式保有比率を縮減させたいところでしょう。

地域金融機関に触れたページ数

この項目は筆者の所見だけを述べます。
金融レポートの中でメガバンクに割かれたページ数は5ページです。
一方、地域金融機関に割かれたページは20ページとメガバンクの4倍です。
如何に金融庁が地域金融機関に問題意識を持っているかが伺えるでしょう。

地域銀行の経営状況

具体的には、地域銀行全体として、
金融緩和政策の継続により、長短金利差が縮小し、収益性が低下している、
金利の比較的高い既存貸出の返済・借換や保有債券の償還が進み、金利の低い足下の新規貸出や債券に置き換わるため、貸出金や有価証券全体の利回りが低下する、
中長期的にも生産年齢人口の減少により借入需要が低下し、貸出残高が減少する一方、預金保有残高の多い高齢者の割合が増加するため、預貸率が低下する、
といった傾向があることを示し、信用力の高い先や担保・保証のある先への融資、国債への投資だけで収益を確保するビジネスモデルを維持することが困難となる可能性があるとの問題提起を行ってきた。(中略)
こうした中、直近の 2017 年3月期決算を見ると、前期と比べ、貸出利鞘が縮小し、役務取引等利益も減少するなど、顧客向けサービス業務の利益は過半数の地域銀行でマイナスとなっており、平成 27 事務年度の推計・試算を上回るペースで減少している。
現状、地域銀行のバランスシートの健全性に問題があるわけではないが、多くの地域銀行で顧客向けサービス業務の収益低下が続くといった収益性の問題を抱えている。(P15~16)

→地域銀行は、今のやり方では本業で稼げなくなるということを金融庁は指摘しているということです。

有価証券運用による収益への依存を高める動き

地域銀行においては、預貸率の低下に伴い、収益に占める有価証券運用の割合が高まっており、リスクテイクに見合った運用態勢やリスク管理態勢の構築がこれまで以上に重要となっている。こうした中、顧客向けサービス業務の利益がマイナスとなっている地域銀行の多くは、有価証券運用による短期的な収益への依存を一段と高めており、その結果、金利リスク量が増加している。
有価証券運用については、リスクテイクに見合った運用態勢やリスク管理態勢を構築し、適切なリスクコントロールの下で収益の確保に結びつけている金融機関が見られる一方、一部の地域銀行においては、以下のような事例が認められた。
ⅰ 当期純利益を確保するため、投資信託の解約益や債券・株式の売却益(益出し)に大きく依存している事例。中には、購入した株式「ブル型ファンド」と「ベア型ファンド」のうち、利益が出るファンドのみを売却する一方で、含み損の損切りを先送りしている事例。
ⅱ 利息配当金収入の増加を図るため、市場環境の変化によっては、将来的に大きな含み損を抱えるリスクを十分考えずに、残存期間が極めて長い債券や投資信託への投資を拡大し、金利リスク等を増加させている事例。
ⅲ 構造的に預貸率が低く、自ずと有価証券運用による収益への依存が高まる中、リスクテイクに見合った運用態勢やリスク管理態勢が不十分であり、専門人材の育成・確保等を含めた態勢の強化を図る必要がある事例。(P17~18)

有価証券運用の益出しが当期純利益に占める割合では計106行中、38行が50%以上となっている図表が掲載されています。有価証券運用による益出しで決算を作っている地域銀行に対して金融庁としては問題意識を持っているでしょうし、含み損の先送り、金利リスクを過度に抱えるかについて注視しているということです。

貸出分野における量的拡大を図る動き

人口減少が継続し、全ての金融機関が融資量の拡大を続けることが現実的ではない中で、依然として、長短の金利差による収益を期待し、担保・保証に依存した融資の量的拡大に頼っている金融機関については、そのビジネスモデルの持続可能性が懸念される。(P19)

銀行の貸出ビジネスは、単純化すれば、短期=低金利の預金で資金を調達し、長期=高金利の貸出を行うことにより、金利差分を利益として収受するビジネスモデルです。
ところが現在の状況は低金利が続き、しかも短期金利と長期金利の差がなくなっています。
よって、このような金利差による収益獲得は期待できないということを金融庁としては警告しているのです。

与信費用の減少

地域銀行の 2017 年3月期決算においては、当期純利益に占める貸倒引当金の戻入益の割合にバラツキが見られ、中には、その割合が3割以上になる先も確認された。
貸倒引当金の戻入が発生する要因としては、①安定的な景気動向等の結果、倒産等の減少によって貸倒引当率が低下したことによるもの、②事業性評価に基づく融資や本業支援によって、顧客企業の債務者区分がランクアップしたことによるもの、③短期的な収益を確保するため、債務者区分が下位の企業への貸出金を回収したことによるもの、といったことが考えられる。
地域銀行全体の貸倒引当率の推移を見ると、足下、下げ止まりの傾向が見られ、上記①の要因による貸倒引当金の戻入は、今後限定的になると考えられる。こうした中、上記②のような顧客企業の業況回復ではなく、上記③のような動きの結果、貸倒引当金の戻入が生じているとみられる金融機関も存在しており、こうした短期的な視野に立った経営は、自らの顧客基盤を失い、ビジネスモデルの持続可能性に更に悪影響を与えるおそれがあることに留意する必要がある。(中略)
他方、地域金融機関の経営者の中には、現在のマイナス金利政策の下での経営環境は最悪であり、近い将来、金利の正常化等が進めば事態の改善が図られるとの期待を有している可能性が窺われる。(P19~20)

→金融庁の検査により、短期的な収益確保のため業績不芳先から貸出を回収し、貸倒引当金の戻入(見込まれる損失が発生しなかったことによる利益計上)が行われている事例が発見されたのでしょう。このような地域銀行の行動は短絡的であり顧客基盤の毀損に繋がると金融庁は指摘しています。
その上で、さらに、金利の正常化(マイナス金利政策の解除等)を期待するなといっているのです。

全体のまとめ

金融庁の地域銀行=地方銀行に対する問題意識は厳しすぎるといっても過言ではないでしょう。それだけ、地方銀行のビジネスモデルが持続的ではないと認識しているのです。

地方銀行は金融庁の問題意識(金利リスクを抱えている、経営目線が短期的、貸出では儲からない、金利正常化を前提にしてはいけない等)に対応することが求められています。

そのためには、自行の顧客基盤を確保し、他行との差別化を図っていく必要があるのです。

一概に対応策を述べることはできないでしょうが、フィンテック企業との提携含めて新たな業務領域を拡大していかなければ、地銀の経営は行き詰まることがあるかもしれないということです。

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