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企業はコスト削減のため退職金制度を企業年金制度へ移行するという選択肢も

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人口減から逃れられない日本において、企業は人件費をなかなか増やそうとはしません。

むしろAI等への投資を通じて人件費をさらにカットしていく動きの方が加速する可能性もあります。

そのような中、企業が、従業員の給料・賞与カットを行わずに人件費削減が可能な手法があります。

一つは退職給付信託の設定です。

www.financepensionrealestate.work
今回は、企業にとって同様に人件費削減策となり、かつ税務上の損金メリットも前倒しで享受可能な「非積立の退職一時金制度を年金制度に移行」することについて考察します。

企業にとっての退職一時金制度の問題点

企業にとって退職一時金制度は一般的なものです。

特に、日本の企業年金制度は退職一時金制度が発展したものであり、企業年金制度がなくとも、退職一時金制度はかなり多くの企業で制度化されています。

従業員にとっても、退職した時には退職(一時)金をもらえるものだと漠然と思っていることが多いでしょう。

この一般に認知されている退職一時金ですが、制度としては会社にとって負担となっている側面もあります。

まずは退職一時金制度の問題について以下簡単にみていきます。

負債への計上

企業は、退職一時金制度について非積立すなわち資産の積立をしていない(内部留保型)場合、退職給付に係る負債(単体決算では退職給付引当金)を負債計上する必要があります。

これはバランスシートの拡大に繋がり、自己資本比率すなわち財務安定性の面では悪化要因になります。

税務メリットがないこと

退職給付に係る負債を計上しても税務上の損金算入はできません。

内部留保型なので、企業は退職一時金に相当する現預金を積み立てても、外部には何の主張もできないのです。

退職一時金を支払う時点で、企業は税務上の損金算入できるのみであり、会計上の費用が先行します。

資金流出の備えができていないこと

退職者が大量に発生する場合(リストラ、大量採用世代の退職等)に、事前に資金手当てをする必要がないため、退職一時金支払が集中するリスクがあります。

退職一時金を年金化することのメリット

以上みてきたように退職一時金は企業の事業運営にとっては問題点があります。

それを解決する方策として、退職一時金を「年金化」するという方法があります。

退職一時金の年金化とは、非積立の退職一時金(内部留保型)を企業年金の制度に変えるということです。

従業員は今までのように退職一時金として全額をもらうこともできますし、年金化して中長期にわたって受け取ることもできます(※このような制度にした場合です)。

この年金化についてのメリットは以下の通りとなります。

税務メリットの享受

年金の掛金は税務上の損金算入が可能です。

退職一時金のままだと支払時にならないと損金化できませんが、年金となれば前もって損金化=税金の低減ができることになります。

税務負担が軽くなりますので、余剰の資金を前倒しで企業は享受ができます。

人件費の削減効果

退職一時金を年金化すると年金資産を積み立てていくことになります。

この年金資産は通常は運用を行いますから、期待運用収益の増加を通じて退職給付費用の削減=人件費の削減効果がでます。

バランスシートのスリム化

退職一時金部分について年金資産を積んでいくため、退職一時金部分は年金資産と相殺されバランスシートがスリム化されます。

これは自己資本比率等の改善につながります。

年金資産の運用収益は非課税

特別法人税が課税凍結中であるため、年金資産の運用収益は非課税となっています。

そのため、退職一時金見合いのキャッシュを普通に運用すると運用収益に課税されますが、年金資産にしておけば課税されません。

資金負担の集中排除

退職一時金は退職者が発生するたびにキャッシュの支払が発生します。足りなければ銀行から借りる必要も出てきます。

資金を前もって積み立てておけば大量に退職者が発生した場合の資金負担の集中リスクはなくなります。

従業員にとってのメリット

年金資産は企業の固有資産とは外部積立として切り離されています。

そして、この年金資産は企業のためのものではなく将来の年金受給者=従業員のために拠出されたものです。

よって、企業が仮に倒産したとしても従業員にとっては年金化された退職一時金は残るということになります。

これは非積立の退職一時金と異なり従業員にとっては安心感となります。

退職一時金を年金化することのデメリット

以上のように退職一時金を企業年金化することのメリットを述べてきました。

しかし、メリットの裏には当然デメリットもあります。

デメリットについても以下整理します。

資産運用のリスク

非積立の退職一時金を年金化した場合は、メリットを最大限に享受するためにも年金資産として運用を行います。

運用が上手くいっていれば良いですが、当然に運用成績が悪いこともありえます。

そうすると運用成績の悪化が将来的に数理計算上の差異の処理として退職給付費用の増加=人件費増となって悪影響を及ぼすリスクがあります。

ただし、期待運用収益はすぐに計上可能であるのに対して、数理計算上の差異は通常、複数年で処理します。そのため、運用成績が悪かったとしても影響は徐々にしか実現しません。

積み立てた資金は企業の自由に使えないこと

年金資産は上述のように従業員のためのものです。そのため企業が倒産しても債権者から守られるのです。

よって、退職一時金を年金化して資金を積み立てていくと、この資金は企業の自由には使えなくなります。

まとめ

以上、非積立の退職一時金を年金化することのメリット・デメリットをみてきました。

筆者としては退職一時金を年金化することのメリットはデメリットを大幅に上回っていると考えており、企業は是非とも実施するべきだと考えています。

退職一時金のために負債計上しなければならない退職給付に係る負債は利息費用等が発生します。

「退職給付」との名称が付いているために勘違いしそうですが、これは従業員からお金を借りているのと実質的には同様なのです。

そのため、退職給付に係る負債を削減した方が、有利子負債(=借金)を削減するよりもコスト的にメリットがある場合もあるのです。

また退職一時金を年金化するといっても、従業員が年金も選択できるようにするだけであることが一般的です。すなわち、今までのように退職一時金でもらいたい従業員は退職一時金でもらえば良いだけなのです。

従業員にとっては選択肢が増えるだけということです。

この記事を読んでくださっている方が銀行員の場合、銀行にとっては退職一時金の年金化はなかなかビジネスに結び付かないかもしれません。

ただし、系列に信託銀行があればグループ収益の拡大には繋がるでしょう。

また、年金の掛金部分を借り入れによって賄ってもらう、もしくは借り入れ返済圧力が強い企業に新たな資金需要を示す、という観点もあるでしょう。

退職一時金の年金化は企業にとってメリットが大きいため、直接ビジネスに結び付かなくとも銀行員として提案してみるのは悪くないのではないでしょうか。

また企業の財務等の担当者にとっても非積立の退職一時金の年金化は一考の価値はあるでしょう。上述の通りメリットはかなりのものがあるためです。