コロナ禍においても新年度は到来します。2022年4月に多くの企業や学校等が新年度入りしました。
この時期は、入園式・入学式のみならず、日本の雇用慣習である新卒の一括採用に伴う入社式もあります。
そんな新卒を迎える企業では、一方で中途退職者、中途入社者も増えていると感じている従業員が多いのではないでしょうか。
「最近の若者は転職に抵抗が無い」
「在宅勤務でオンライン面接が容易になったから転職が増えた」
様々なことが主張されます。
マスメディア等でも転職が増えたような言説が目に入ってきます。
ジョブ型雇用導入のニュースも増え、これからは個人のスキルを磨く時代であり、終身雇用は崩壊したと感じることも多いでしょう。
ここで素朴な疑問が生じます。
世の中の若者は本当に転職しているのでしょうか。
転職はそんなに当たり前になったのでしょうか。
今回は、「若者の転職」について皆さんと少し確認してみたいと思います。
意識調査
では、まずは若者の就職についての意識を確認していきましょう。
以下は大手サイトのマイナビ転職の調査です。
(出所 マイナビ転職「2021年新入社員の意識調査」)
上記の通り、2021年の新入社員のうち現会社を「3年以内に退職予定」は28.3%、「10年以内に退職予定」は51.0%でともに前年と比べて横ばいとなっています。また「定年までいたい」は16.6%で前年とほぼ同数です。
10年以内を「早期」退職と定義するなら、新入社員のうち半数は早期退職を想定していることになります。(もちろん、転職サイトの調査であるということは認識すべきです)
もう一つデータを確認しましょう。
以下は転職サービスのduda(デューダ)の調査です。
(出所 doda「転職に関する意識調査」2021年7月)
年代別に見ると、転職に対するイメージは20代が最も「ポジティブ」と回答(66.6%)、30代では62.5%となり、年代が若いほどポジティブに捉えている傾向があったと報告されています。
この傾向を、dudaは「終身雇用制度に象徴される従来の雇用システムの崩壊に加え、コロナ禍で、個人が自分軸で働くことに価値を置く傾向が強まったことを受け、情報に敏感で適応力がある若年層ほど、転職に可能性や希望を見いだしている傾向があると考えられます。」と説明しています。
この傾向は政府の調査でも同様の結果が出ています。以下は、就労等に関する若者の意識調査(平成29年度)の結果です。この調査は、インターネット調査会社に登録してあるリサーチモニターである全国の16歳から29歳までの男女(有効回答数10,000)を対象に、平成29(2017)年10月27日から同年11月13日までの間に実施したインターネット調査となっています。
(出所 内閣府「特集 就労等に関する若者の意識/就労等に関する若者の意識調査の結果」平成29年度)
このように、転職に対する意識についてみると、「自分の能力や適性に合わない職場であっても、転職は絶対すべきではない」または「自分の能力や適性に合わない職場であっても、転職はできる限りしない方がよい」といった、転職に否定的な項目を選択した者は17.3%であり、2割に満たなかったことが分かります。
すなわち、転職についてポジティブに考えている若者が多く、そして実際に転職をするだろうと考えているということが分かります。
転職の実情
今までの説明を見ると「現代の若者」は転職にポジティブになってきたのだろうと感じる方が多いでしょう。そして、実際に転職率が上昇していると考えるでしょう。
では、次に以下のグラフをご覧ください。
(出所 令和4年第2回経済財政諮問会議「我が国の所得・就業構造について(参考資料)」)
これは経済財政諮問会議で使用された資料です。ここには男性と女性に分けて転職入職率が記載されています。転職入職率=転職入職者数÷常用労働者数(年齢階級計は1月1日現在、年齢階級別は6月末日現在)となっています。尚、転職入職者は、入職者のうち、入職前1年間に就業経験のある者と定義されています。
このグラフを一目見てわかるのは、2010年から2020年にかけ転職入職率あまり変動していないことです。
全世代のデータにはなりますが以下のグラフもご確認ください。
(出所 労働政策研究・研修機構「入職率、離職率 1964年~2020年 年平均」)
以上のデータを見る限りは、日本においては、若者も、そしてベテランも転職率が上昇しているとは言えないということです。日本は1970年代半ばから転職率はあまり変わっていません。
もちろん、転職についてネガティブな印象が無くなってきた以上、今後は転職率が上昇していく可能性はあるでしょう。しかし、確認できるデータでは、顕著な変化がないこともまた事実なのです。
「若者=転職」というような安易なレッテルを貼ることには何の意味もなく、根拠もないことを認識した方が良いでしょう。
言い方を換えれば、「いつの時代でも(あなたの時代でも)若者は転職している」のです。
これが現実です。