銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

非正規雇用は固定化する傾向にある

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コロナ禍で非正規雇用が改めて注目されているように感じます。

新型コロナ感染症は、日本に新しい形の格差や貧困をもたらしたとされていますが、コロナ禍は「女性不況」と呼ばれるほど女性の雇用に深刻な影響を与えました。

これは、非正規雇用者の大半が女性であるためです。

この非正規雇用の現在地について、今回は簡単に確認していきたいと思います。

 

非正規雇用の動向

まず非正規雇用の動向を確認しましょう。

以下は1994年と2019年の非正規雇用の動向を比較したグラフとなります。

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(出所 令和4年第2回経済財政諮問会議「我が国の所得・就業構造について(参考資料)」)

1994年から2019年の25年間で、世帯主の各年齢階層における非正規雇用比率は「夫婦のみ世帯」と「夫婦と子世帯」と比べて、「単身世帯」で相対的に大きく上昇していることが分かります。

言葉を換えると、非正規雇用世帯は結婚をしていない傾向にあると言っても良いかもしれません。

次に異なるグラフを見てみましょう。

以下は「全雇用者に占める非正規比率」と「学卒後初めて就く職が非正規の割合」を示したものです。

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(出所 令和4年第2回経済財政諮問会議「我が国の所得・就業構造について(参考資料)」)

男女ともに若年層の非正規雇用比率は2010年代半ばから緩やかに低下しています。

但し、男性の雇用者に占める非正規の割合は1割程度であるのに対して、女性の雇用者に占める非正規の割合は3割程度です。明らかに男女差が存在しています。

また、学卒後に初めて就く職(初職)が非正規であった者の雇用者に占める割合は若年層で大きくなっています。2020年の調査では25歳未満においては男女差はあまり存在していません。

但し、日本の経済状況が悪い中、非正規雇用を「消極的に」選ばざるを得ない雇用者が増えているというイメージを皆さんお持ちではないでしょうか。この点については留意が必要です。以下のグラフをご覧ください。

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(出所 令和4年第2回経済財政諮問会議「我が国の所得・就業構造について(参考資料)」)

若年層では男女ともに、いわゆる不本意非正規比率は低下してきていることが分かります。むしろ「自分の都合のよい時間帯に働きたい」ために、非正規雇用を選ぶ雇用者の割合が上昇傾向にあるのです。

確かに、個々人において様々な事情があり、自分の都合の良い時間帯に働けるか否かというのは重要な職業選択のポイントになります。フリーランスに注目が集まるのも同様でしょうし、FIRE(ファイア:Financial Independence, Retire Early、経済的に自立し、早期リタイアを実現すること)という言葉を聞くようになったのも、同じような文脈からでしょう。

しかし、非正規雇用には問題点もあります。

 

非正規雇用は固定化する

社会人になって初めての職が非正規雇用になったとしても、その後は知識・スキルを磨いて正規雇用として雇われれば良いと考えている若年層は多いかもしれません。

この点について以下のグラフをご覧ください。

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(出所 令和4年第2回経済財政諮問会議「我が国の所得・就業構造について(参考資料)」)

このグラフは学卒後初めての職が正規雇用もしくは非正規雇用であった雇用者の現職の就業形態別割合を表したものです。

初職が正規雇用であった者は、男女ともに若年層ほど現職も正規雇用である割合が大きいことが分かります。もちろん、女性は出産・育児を経て非正規雇用へ切り替えていることもあります。但し、右側のグラフをご覧になると全く違う傾向が見て取れます。

初職が非正規雇用であった雇用者は現職も非正規の割合が大きいのです。男性はまだ正規雇用の割合が年齢を重ねるにつれて上昇していきますが、女性は非正規雇用の割合が高いままです。

すなわち、非正規雇用は固定化の可能性が高いのです。最初は雇用者自らが自主的に選択していたとしても、年齢を重ねていくにつれて非正規雇用以外の選択肢が無くなっていく可能性があります。

正規雇用と非正規雇用の所得格差は大きな話題・課題となってきました。非正規雇用の処遇を改善しようという動きは当然にあります(同一労働同一賃金もその一環です)。

しかし、筆者は、この20年ほどの非正規雇用の状況を見ると、格差を生み出す要因となっている非正規雇用を入り口段階で規制するべきではないかと考えています。

すなわち、基本的には正規雇用のみが存在し、雇用者側が時間を選択できる(例えば週3日休や、残業不可、フレックス等々)ようにすべきではないかと考えています。(もちろん学生のアルバイト等は規制対象外です)

企業側に痛みはあるでしょうし、雇用の全体数にも影響を及ぼす(企業は採用に慎重になる)でしょう。しかし、労働者人口自体が減少していく日本では、むしろ人手不足は顕在化していく可能性があります。従って、雇用者側の立場が強くなってもおかしくないのです。

非正規雇用は固定化する傾向にあります。一度、非正規雇用となると、なかなか正規雇用に転換出来ないのです。日本においては全体として雇用者の所得が低下し続けてきました。それが日本全体の経済を弱くし、少子化を招いていると筆者は考えています。非正規雇用の実質的な禁止と処遇の引き上げを我々は求めていくべきなのではないでしょうか。(企業の生産性を上げるのが先という理屈は分かりますが、日本経済全体を成長領域・分野に移していく意味でも所得は引き上げた方が長い目でみて日本のためなのではないでしょうか)