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新生銀行の現在の株価は『適正』なのか~マーケットの見方~

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SBIホールディングス(以下SBI)が実施している公開買付(TOB)に対して、新生銀行が買収防衛策の導入方針を決めました。買収防衛策の発動には、株主総会の決議が必要なため、臨時の株主総会を開催することも決定しています。尚、TOBの説明が不十分だとして、取締役会としてのTOBへの賛否を表明することを留保しています。そして、質問書をSBIに送付し、同社に対してTOBの終了日を10月25日から12月8日まで延長するように要請しました。

SBIのTOBは、一株2,000円で、最大48%まで株式を買い増して経営陣を刷新させるとしています。

このような状況下、新生銀行の株価は9月17日の終値で1,896円となりました。

TOB(買取)価格の2,000円と現在の1,896円という株価は、どのように考えれば良いのでしょうか。

今回は、この新生銀行の株価について考察してみたいと思います。

 

株主構成

まず、新生銀行の株主構成を確認しましょう。以下は2021年3月末時点の数値です。

持株数(千株単位) 比率
新生銀行 43,743 16.88%
SBI ホールディングス 42,737 16.49%
預金保険機構 26,912 10.38%
整理回収機構 20,000 7.72%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 14,511 5.60%
SSBTC CLIENT OMNIBUS ACCOUNT 7,606 2.93%
日本カストディ銀行(信託口) 7,262 2.80%
BNYM AS AGT/CLTS NON TREATY JASDEC 3,011 1.16%
STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505103 2,819 1.08%
MSCO Customer Securities 2,543 0.98%
STATE STREET BANKWEST CLIENT - TREATY 505234 2,479 0.95%
発行済株式数(自己株式を含む) 259,034 100.00%

(出所 新生銀行Webサイト掲載データより筆者作成)

この株式持ち分比率については、新生銀行自身が保有している自己株式が入っていますが、自己株式は議決権がありません。そのため、2021年3月末時点の自己株式を除いた実際の持ち分割合は以下となります。

持株数(千株単位) 比率
SBI ホールディングス 42,737 19.85%
預金保険機構 26,912 12.50%
整理回収機構 20,000 9.29%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 14,511 6.74%
SSBTC CLIENT OMNIBUS ACCOUNT 7,606 3.53%
日本カストディ銀行(信託口) 7,262 3.37%
BNYM AS AGT/CLTS NON TREATY JASDEC 3,011 1.40%
STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505103 2,819 1.31%
MSCO Customer Securities 2,543 1.18%
STATE STREET BANKWEST CLIENT - TREATY 505234 2,479 1.15%
発行済株式数(自己株式を除く) 215,291 100.00%

(出所 新生銀行Webサイト掲載データより筆者作成)

すなわち、SBIは19.85%の大株主であり、日本国(預金保険機構および整理回収機構)が21.79%の筆頭株主ということになります。

更に2021年9月9日において発表されたSBIのTOBに関するプレスリリースでは、2021年4月以降に新生銀行が自己株式を増加させていることを反映しています。

そのため、現時点における新生銀行の持ち分比率は以下とされています。

持株数(千株単位) 比率
SBI ホールディングス 42,737 20.32%
預金保険機構 26,912 12.80%
整理回収機構 20,000 9.51%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 14,511 6.90%
SSBTC CLIENT OMNIBUS ACCOUNT 7,606 3.62%
日本カストディ銀行(信託口) 7,262 3.45%
BNYM AS AGT/CLTS NON TREATY JASDEC 3,011 1.43%
STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505103 2,819 1.34%
MSCO Customer Securities 2,543 1.21%
STATE STREET BANKWEST CLIENT - TREATY 505234 2,479 1.18%
発行済株式数(自己株式を除く) 210,310 100.00%

(出所 新生銀行/SBIのWebサイト掲載データより筆者作成)

すなわち、SBIは20.32%の大株主であり、日本国(預金保険機構および整理回収機構)が22.31%の筆頭株主ということになります。

 

TOB価格から考えた株価の適正値

では上記の株主構成を基に、どのようなことが言えるのでしょうか。

第一に認識しておくべきことは、日本国はSBIのTOBには応じないであろうということです。

あくまで報道ベースではありますが、日本国が過去に投入した公的資金を回収できる株価の目安は1株約7,500円とされています。日本国は、国民負担を発生させないように(損失が確定しないように)、SBIに買い付けに応募しないことになります。

そうするとSBIのTOBの対象は、新生銀行全体の株式100%のうち、SBI=20.3%、日本国=22.3%を除いた57.4%となります。

SBIは48%の持ち株比率を目指していることから、48%-20.3%=27.7%を追加で取得することになります。

取得を希望する27.7%は、上記大株主を除いた57.4%の48.2%(=27.7%÷57.4%、小数点第二位切り捨て)となります。

この48.2%という数字は、大株主二者を除く全株式がSBIのTOBに応募された際に、買取対象となる確率です。

SBIがTOBを発表する前の新生銀行の株価は1,440円(9月9日終値)でした。

この1,440円という株価が新生銀行のマーケットの評価であるとすると、新生銀行の現在の適正株価は以下の計算式で表されます。

  • TOB価格2,000円×買取対象となる確率48.2%+従前株価1,440円×(1-48.2%)=1,709円(一円未満切り捨て)

いわゆる按分計算で、かなり簡単にしていますが、計算上は1,709円がTOB価格を反映させた価格なのです。

 

 

現在の株価が示すもの

前項で新生銀行の株価は、TOB価格と従前の株価から試算すると、1,709円程度であってもおかしくないと述べました。

一方で、9月17日の終値は1,896円となっており、想定される価格に比べて約1割高くなっています。

この意味を我々はどのように解釈すれば良いのでしょうか。

普通に考えると、SBI以上の株価で新生銀行株式を買いたいと望む第三者(いわゆるホワイトナイト)が現れる可能性があると考えているマーケット参加者が相応に存在するということでしょう。

このマーケットの期待が実現されるかは分かりません。

しかし、新生銀行の株価が物語っていることは、ホワイトナイトへの期待なのです。

このように新生銀行の株価を読んでいくと、より株式市場が面白くなるのかもしれません。