銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

オリンピックにより想定されていた経済効果を改めて確認しておく

f:id:naoto0211:20210720175927j:plain

東京オリンピック・パラリンピックが間もなく開幕します。

ここまで盛り上がりに欠けるように感じるオリンピック・パラリンピックは過去に無いのではないでしょうか。また、日本国民の間では、オリンピック・パラリンピックの開催に反対する人も相応に存在するでしょう。

このオリンピック・パラリンピックですが、その経済効果はどの程度だと当初は想定されていたのでしょうか。オリンピック・パラリンピックを強行開催しないと日本にとっては大きな損失だったのでしょうか。

今回は、オリンピック・パラリンピックの経済効果について2017年に試算された数字を、開幕直前のこのタイミングで確認してみたいと思います。

 

直接的効果

では、早速にオリンピック・パラリンピックの経済効果についての2017年当時の試算を確認していきましょう。

以下は、東京都 オリンピック・パラリンピック準備局が2017年4月に発表した「東京 2020 大会開催に伴う経済波及効果(試算結果のまとめ)」のデータとなります。

まずは、大会開催に直接的に関わる投資・支出により発生する需要増加額である「直接的経済効果」からです。

項目 内容 需要増加額
施設整備費 恒久施設整備費 3,500億円
大会運営費 仮設施設整備費、エネルギーインフラ、輸送、セキュリティ、テクノロジー、オペレーション、管理・広報、その他 10,600億円
その他 大会参加者・観戦者支出、家計消費支出、国際映像制作・伝送費、企業マーケティング活動費 5,690億円
合計 19,790億円

(出所 東京都オリンピック・パラリンピック準備局Webサイト/大会開催に伴う経済波及効果)

このように直接的経済効果は約2兆円であることが分かります。

この直接的効果の内訳をもう少し詳しくしたものが以下になります。 

試算項目 試算の考え方 需要増加額
施設整備費 新規恒久施設の整備費(都立恒久施設、新国立競技場)を需要増加額とする。 3,500億円
大会運営費 仮設施設整備費、エネルギーインフラ、ソフト経費(輸送、セキュリティ、テクノロジー、オペレーション、管理・広報、その他)を需要増加額とする。 10,600億円
大会参加者 ・観戦者の消費支出 大会参加者と一般観戦者の消費支出(交通費、宿泊費、飲食費、買い物代、施設利用料等)を需要増加額とする。 2,079億円
家計消費支出 大会開催に伴い販売されるオリンピック・パラリンピック関連グッズの売上、テレビの購入費を需要増加額とする。 2,910億円
国際映像制作・ 伝送費 オリンピック・パラリンピックの映像制作、伝送に係る支出を需要増加額とする。 335億円
企業マーケティン グ活動費 スポンサー企業のマーケティング活動費(テレビ番組購入等)を需要増加額とする。 366億円
合計 19,790億円

(出所 東京 2020 大会開催に伴う経済波及効果(試算結果のまとめ))

この内訳を見ると、オリンピック・パラリンピックの経済効果は、実際には既に事前の準備段階で発揮されていることが分かるのではないでしょうか。

開催することによる直接的な効果は「大会参加者と一般観戦者の消費支出(交通費、宿泊費、飲食費、買い物代、施設利用料等)」の2,079億円となるでしょう。

もう少し拡張すれば「大会開催に伴い販売されるオリンピック・パラリンピック関連グッズの売上、テレビの購入費」の2,910億円の一部も影響を受けるかもしれません。

施設整備費や大会運営費の大部分は準備段階ですでに支出されているものです。

オリンピックは開催時点より、事前準備中にこそ経済効果が発揮されるのです。

 

レガシー効果

次にオリンピックの経済効果として言われるレガシー効果について確認しておきましょう。

オリンピックの経済効果は、需要増加額として東京都で「約14兆円」と言われていたのを覚えている方もいらっしゃるでしょう。

この経済効果14兆円のうち12兆円を占めるのがレガシー効果と言われるものです。

レガシー効果とは「大会後のレガシーを見据えて実施される東京都内での取組を抽出し、施策ごとのシナリオに基づく需要増加額」と定義されています。

項目 内容 需要増加額
新規恒久施設・選手村の後利用、東京のまちづくり、環境・持続可能性 新規恒久施設・選手村の後利用、大会関連交通インフラ整備、バリアフリー対策、水素社会の実現等 22,572億円
スポーツ、都民参加・ボランティア、文化、教育・多様性 スポーツ実施者・観戦者の増加、障害者スポーツの振興、ボランティア活動者の増加、文化イベント観客の増加、外国人留学生の増加等 8,159億円
経済の活性化・最先端技術の活用 観光需要の拡大、国際ビジネス拠点の形成、中小企業の振興、ITS・ロボット産業の拡大等 91,666億円
合計 122,397億円

(出所 東京都オリンピック・パラリンピック準備局Webサイト/大会開催に伴う経済波及効果)

このレガシー効果の内容を見れば分かるように、レガシー効果はオリンピックとは直接関係あるものはほとんどなく、オリンピックによって整備されたインフラの経済効果と、知名度の拡大による観光需要の拡大等が見込まれているものになります。

 

所見

以上の2017年当時の試算を見ると、直接的効果は既にほとんどが発現しているはずであり、その効果は約2兆円です。

レガシー効果は、そもそも非常にあやふやなものだと筆者は認識しています。

レガシー効果の大半、約9兆円を占める「観光需要の拡大、国際ビジネス拠点の形成、中小企業の振興、ITS・ロボット産業の拡大等」は、オリンピックが開催の有無は、どこまで関係するのでしょうか。

今回のオリンピックは新型コロナウィルス感染症拡大に前に、かなりの経済効果が発現していたことは間違いありません。

間接的にも「オリンピックまでは土地価格の暴落は無い」と言われていましたし、相応の経済効果は既に発揮されたのです。

そのため、今回のオリンピックが無観客になろうと、盛り上がりに欠けていようと、既にある程度の経済効果を日本は享受したと言えます。

そもそも「取らぬ狸の皮算用」とも言えるレガシー効果のような経済効果は、オリンピックをやるための国内向けの理屈付けのようなものです(と筆者は考えています)。

オリンピックの経済効果だけを考えるのであれば、オリンピックの実際の開催有無は、正直どちらでもあまり大きな違いはないでしょう。特に無観客となるのであれば、開催しようが、中止としようが、経済効果には大きな違いはないのではないかと思います(若干消費が盛り上がる可能性があるぐらいでしょう)。

オリンピックが無観客になったとしても、心配する必要はありません。

日本は既にオリンピックの経済効果は十分に享受しています。

後は、選手を応援するだけです。