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SBIソーシャルレンディングの事件は、ソーシャルレンディング全体の問題でもある

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SBIホールディングスは、ソーシャルレンディング事業で、新規募集を停止すると発表しました。子会社が運営する一部ファンドで投資勧誘の違反行為があったことを受けての決定です。

そしてソーシャルレンディングとして投資家から集めた資金(未償還元本相当額)の償還に係る手続を実施することとし、2021年3月期に約145億円の特別損失を計上しています。

今後、ソーシャルレンディング事業については新規ファンド募集は行わず、運用中のすべてのファンドの償還が完了後、ソーシャルレンディング事業からの撤退も視野に入れているとの説明がなされました。

このSBIで起きた一連の事件は、何が起きていたのでしょうか。

SBIが発表した第三者委員会報告から、本件のポイントを確認していきましょう。

 

第三者委員会報告書の引用

本件については、報告書そのものの内容を確認する方が事件の正確な理解になるものと思われます。以下は報告書からの引用となります。(出所:調査報告書(公表版)令和 3 年 4 月 28 日SBI ソーシャルレンディング株式会社 第三者委員会)

  • A 社に関連するファンドの合計貸付残高は、2018 年 3 月時点でSBISL(筆者註:SBIソーシャルレンディング)全貸付残高の32.1%、2019年3月時点で43.8%の規模に上っており、A 社案件への極端な偏りが生じていた。
  • こうした状況下の貸付審査においては、A 社の財務状況を含めた工事完成能力は厳しく審査されるべきであり、加えて実際の工事進捗状況に関する適切なモニタリングが行われるべき特別の事情があり、SBISL もそのこと(リスクの真の所在)を十分に認識し得、またするべきであったはずである。
  • 貸付審査は、貸付を実行することを前提とし、かつ貸付金返済前にプロジェクトが完成して借入額以上の金額で売却・借換できることを前提にした、極めて形式的なもの(投資者募集ページのフォーマットの記載事項を形式的に埋めるための情報収集)に留まっていたと言わざるを得ない。
  • こうした不十分な審査が行われるに至った実態上の要因としては、SBISLの貸付先はあくまで SPC であるという形式面に囚われたことや、SPC のアセット・マネージャー(又はファイナンシャル・アドバイザー)として金融経験値の高い B 社が就いていることから、問題があれば B 社が解決するであろう、A 社は上場準備中でありグループ会社の SBI 証券が主幹事証券として就任していることから同社によるチェックが働いているであろう、A 社には会計監査人が就任しているから財務面に問題はないであろう、との期待・軽信や、これまで A 社案件における利払い、貸付金返済は遅延したことがないことへの信頼等を挙げることができるが、これが匿名組合の営業者の善管注意義務に反するものであり、ひいては受託者責任に違背することは明らかといえる。
  • 貸付先 SPC による資金使途の中には、プロジェクトにおける当初の資金計画にない支払、他のファンドの SPC に対し、当該他のファンドのSBISL への利息支払金の原資を送金した可能性が高い支払等が含まれる。
  • A社が、貸付先SPCから工事請負代金を受領後、(中略)貸付先 SPC への貸付金が、別の貸付先 SPC からの返済金に充てられた(新規融資が、他の貸付金の返済原資に充てられたもの)と評価せざるを得ない事実等が認められる。
  • 本件ファンドについて、貸付先 SPC への貸付金のうち、SBISL が投資者に表示した資金使途に違反していると当委員会が認めた額は、本件ファンドへの融資実行額合計20,728,050,000 円のうち、12,927,115,511 円である。
  • SBISL は、MS33 号の募集時点において、同ファンドの貸付先 SPC が、太陽光発電建設事業に係る権利取得費及び地代の一部について、A 社からの借入金 11 億円を原資として先行して支払済みであり、MS33 号の貸付金は太陽光発電建設業に係る権利取得費や上記既払部分の地代には使用されず、同貸付金のうち 1,114,013,698 円が A 社に対する元利金の返済に使用されることを認識していた。
  • また、A 社は、2020 年 9 月 29 日、下請業者に造成工事代金のうち535,000,000 円を立て替えており、A 社は、貸付先 SPC から支払を受けた工事代金 2,645,352,400 円から 535,000,000 円を立替金の返済として回収した。
  • 以上の事実にもかかわらず、SBISL は、貸付先 SPC が既に権利取得費及び地代の一部を A 社からの借入金で支払済みであり、この借入金の返済に同貸付金が使用されること等を説明せず、あたかも同貸付金により権利取得等を行うかのような記載をしており、出資対象事業に関して、貸付先資金使途という重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をした。

 

事件の本質

上述のような報告書の記載から分かることは明白です。

業績が悪化している先に対して、無視できない規模まで過大に貸してしまったので、その企業が潰れれば、自社の事業も立ち行かなる状況に陥ったことがまずは挙げられます。報告書中のA社とは最早取引を解消できないレベルになっていたのです。

そして、個々のソーシャルレンディング案件はうまく行っているように見えていても、実際には新たなレンディング案件の資金が、過去の案件の返済原資に充当されていたような状況にあることです。そしてソーシャルレンディングの資金が、プロジェクトには直接充当されずに、実際には報告書A社の運転資金等に使われていた可能性があるということです。

この事件のやり口は、簡単に言えば「ねずみ講」です。

事業自体は無いのに、うまく行っているように見せかけて資金を集め、出資者が返還を求めたら、新たに集めた資金をその返還資金とします。新たな資金が集まっている間は破綻しません。報告書A社に対する資金支援や、新たなプロジェクト資金が過去のプロジェクト資金の返済に回されていたというのは、まさにねずみ講に似ています。

ソーシャルレンディングの問題点の一つは、貸出先を安定的に確保することです。どんなに資金が集まっても貸す先がなければ事業として成り立ちません。カネ余りの世の中では適切な貸出先を見つけるのは相応に難しいのです。

そもそも貸出ができるような先であれば、通常は銀行や信金・信組が貸出を行っています。銀行よりも高い金利となるソーシャルレンディングで資金を借りたいと考えている企業はほぼありません(自社の宣伝になる、サポーターを増やすというならば意味は少しありますが)。選択肢が無いからソーシャルレンディングで借入を行うのです。

この事件の発生原因は、SBIがソーシャルレンディングにおいてやるべき貸出先への審査を怠ったこと、貸出後のモニタリングも怠ったこと、特定先に貸出が集中してしまうことを防止しなかったこと、が主な理由です。

しかし、本質的には、適切な貸出先・貸出案件を探すのが難しいというソーシャルレンディングの問題が浮き彫りになったのです。

ソーシャルレンディングは、今まで法律上のグレーな問題点があり、貸出先を開示してきませんでした(現在は可能です)。そのような投資家自身がリスクを評価できないような案件に資金拠出するのは非常にリスキーということなのです。

今回はSBIという大手金融機関が運営していたので、元本償還がなされる見込みですが、体力のない事業者が運営しているソーシャルレンディングで同様の問題が発生した場合には、投資資金は大幅に棄損していたことでしょう。

ソーシャルレンディングへの投資を行っている投資家、もしくは検討している投資家はSBIの今回の問題を良く理解して、自身の投資について客観視してみてはいかがでしょうか。もしかすると何か気づかされるものがあるかもしれません。