銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

コロナ禍で窓口が混んでいるのは銀行の自業自得

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外出自粛の中、銀行の窓口が混雑していると話題になっています。

これはコロナ禍での資金繰り相談で企業の担当者が来店しているのではなく、個人の不要不急の手続きによるものとされています。

なぜ銀行の窓口に個人が訪れているのでしょうか。

今回は混み合う銀行窓口から、銀行のネットサービスについて簡単に考察しましょう。

 

報道内容

まずは以下の記事をご覧下さい。冗談のような事態が起きています。

「不急客」で混み合う銀行、デジタル化の遅れ痛手に
2020/04/24 日経新聞

 銀行窓口がいつも以上に混んでいる。新型コロナウイルスの封じ込めに向けた経済活動の自粛が広がり、当座の資金繰りを心配した企業経営者らばかりが詰めかけているのではない。住所変更や口座の解約手続きなど、不急の用件で銀行を訪ねる人が後を絶たない。
 ただいまの時間、入店から受け付けまでに60分程度お待ちいただいております――。22日午前、千葉県内の銀行を訪ねると、こんなお知らせが目に入った。別の銀行では客同士が距離を空けながら待合スペースに腰かけ、入り口で配られた番号札を握りしめていた。
 「持て余した時間に掃除していたら普段使わない通帳が出てきた。口座を解約できないか」「紙幣にコロナウイルスが付着しているかもしれない。新札に替えてほしい」。そんな理由で窓口を訪ねる人もいるという。外出を自粛する巣ごもり生活が続くなか、日ごろ見過ごしていた手続きをこの際、済ませてしまおう。そんな人が増えているのではないかと大手行の担当者は推測している。
 大手行から地方銀行まで、コロナ対策として出勤する銀行員を2班に分ける交代勤務に取り組んでいる。ただでさえ手薄な窓口は来店客の急増に追いつかず、現場の行員に疲労がたまっている。
 本来、振り込みなど大半の手続きはインターネットバンキングで事足りる。ところが利用率は大手行でも3割前後にとどまる。IT(情報技術)が金融取引に浸透し、銀行が情報化投資と業務効率化を経営の重要課題に掲げてすでに久しい。それでもごった返す窓口は、デジタル化を進めきれなかった日本の銀行の姿を映し出している。
(以外略) 

これは冗談ではなく、現在本当に起きていることです。

 

銀行利用者の期待

今回の窓口混雑の理由は、全国銀行協会が作成した 「よりよい銀行づくりのためのアンケート(報告書) 2019年2月」にその答えがあるものと思います。

銀行利用者で銀行サービスの満足理由をみると、「ATMが多く、身近な場所にある」「店舗が多く、身近なところにある」「ATMの利用時間が長い」 などリアルチャネルが主要な理由となっています。

複数回答可のアンケートですが、銀行利用者(計)では以下の回答率となっています。

  • ATM の利用可能時間が長い 22.9%
  • ATM での待ち時間が短い 20.1%
  • ATM が多く、身近な場所にある 49.5%
  • ウェブサイトでの取引が使利で使いやすい  17.4%(但し、地方銀行 8.0%、第二地方銀行4.0%)
  • アブリでの取引が便利で使いやすい 6.4%
  • WEB サイトが見やすい 8.7%
  • 店舗が多く、身近な場所にある 29.5%。
  • 店舗の雰囲気が良く、入りやすい 10.1%
  • 接客態度がよい 12.6%

これで見ると、銀行利用者は現金・預金をリアルに扱うサービスについて銀行に期待していることが分かります。

一方で、インターネットバンキングについては、そもそも期待していないとも言えそうです。

特に地方銀行ではインターネットバンキングは全く期待されていません。

また、PCを使ったインターネットバンキングはともかく、スマートフォンを利用した銀行取引は利用者から評価されていないことが分かります。

そして、銀行はリアルのサービスを期待されてはいますが、 店舗の雰囲気や接客についての評価は低いのも特徴的でしょう。

要は、近くに店舗か ATM があれば良いと利用者に思われているのです。

なお、インターネット専業銀行では、以下のようになっています。

  • ウェブサイトでの取引が便利で使いやすい 55.8%
  • アブリでの取引が便利で使いやすい 19.2%
  • WEB サイトが見やすい24.5%

インターネット専業銀行だとしても、PCでの利用はともかく、スマートフォンでは顧客を満足させることは出来ていません。

これは銀行チャネルの利用頻度の設問でも傾向として出ています。

インターネットバンキングについては、「PCから」の利用が高く、利用率は54.3%です。「スマートフォンから」の利用率は1~2割程度となっています。

インターネットバンキングを利用しない理由としては、「セキュリティ面での不安」(44.2%)がトップ、次いで「必要性を感じない」(35.2%)、「申し込み手続きが煩雑そう」(27.5%)が挙げられています。

しかし、そもそもの要因は、インターネットバンキングの使いにくさなのではないでしょうか。

 

所見

冒頭で紹介した新聞記事のように、緊急事態宣言下で銀行の窓口が混んでいるのは、銀行の自業自得の面があります。

預金者であるお客様に、インターネットバンキングの利便性を訴求できていないのです。

銀行のインターネットバンキングの黎明期(その前のテレフォンバンキングからですが)から使っている筆者からすると、ずいぶんと使いやすくなったとは思います。

しかし、インターネットの金融サービスは、いくら銀行取引がしっかりと出来たとしても、顧客が「再度使おう」と思うようなサービスでなければ、何の意味もありません。

銀行の窓口が混んでいるのは、顧客に満足なサービスを周知し、インターネットバンキングというサービス使ってもらえなかった銀行に責があるのです。もちろん、煩雑で分かりにくく、時間がかかる紙での事務手続きが残ることも要因です。

コロナ後には、今まで以上にキャッシュレスが加加速する可能性があります。外出を自粛している間に、顧客は様々な他の業種のインターネットサービス、アプリを体験するでしょう。

もちろん、今までインターネットでのEC取引をしたことがない高齢者のような個人も同様です。

その中で、銀行のサービスも比校されることになるのです。

銀行は今こそインターネットバンキングの顧客満足を高める方向に動くべきでしょう。これは、店舗を減らしコストを削減するためでもあります。

特に地銀は、自行の強みは何か、どの領域に経営資源を振り向けるか、インターネットバンキング含めたチャネルをどうするのか、本当に考えるべき時期に来ているのではないでしょうか。