新型コロナウィルス感染症の拡大は、日本経済へ大きな影響を及ぼしています。
この事態を受け、厚生労働省は企業に雇用の維持を要請し、労働組合も経済団体トップとの会談で同様に雇用の維持を求めています。
日本において雇用の維持は重要なことですが、その中でも新卒の採用は非常に社会的にも重要な役割を果たしていると筆者は考えます。
今回は、この新型コロナウィルス感染症拡大に伴う新卒採用等について、少し確認と考察をしてみたいと思います。
報道内容
直近の報道内容は以下となっています。
雇用維持優先を確認 経団連と連合
2020/4/20 日経新聞経団連の中西宏明会長と連合の神津里季生会長は20日、新型コロナウイルスの感染拡大を巡り、インターネットを通じたウェブ会議を開いた。労使双方で雇用維持を優先していく方針を確認。「共通の課題に直面している」(中西氏)とし、影響の長期化を見据えて、政策提言でも協力する。
(中略)
政府が緊急事態宣言を全国に拡大したことに関し、中西氏は会議後に記者団に「経済も相当スローダウンするのは覚悟のうえ」と語った。米国など海外では失業増が懸念されているが「(日本は)社会の仕組みとして雇用は最優先」と強調。新規採用にも影響が及ばないよう、会員企業に呼びかけるとした。
雇用維持を優先すると労使双方が合意していることになっています。また、新規作用に影響が及ばないようにすることも付言されています。
日本企業の従業員年齢構成
日本企業の雇用における問題点は様々にありますが、一つの問題として従業員の「人員構成もしくは年齢構成の問題」があります。
日本の企業の年齢階層別の人員構成は以下とされている調査があります。
- ピラミッド型 9.6%
- つりがね型 6.1%
- つぼ型 13.2%
- ほし(星)型 33.0%
- ひょうたん型 34.0%
- 無回答 4.1%
- (出所 リクルートワークス研究所「Works人材マネジメント調査2017」)
この「型」は図を見た方がイメージしやすいでしょう。
(出所 東京都総務局統計部Webサイト)
上記の図は人口ピラミッドと言われますが、グラフの縦軸に年齢を低年齢から順次上に向かって高年齢にとり、横軸は左に男性の人数、右に女性の人数をとって描いたものとなります。
Aは富士山型あるいはピラミッド型と呼ばれ、Bはつりがね型あるいはベル型とされます。Aは退職率が高い企業にある形で、Bは退職率が低い企業に見られる傾向です。
Cはつぼ型と呼ばれ何らかの理由で新入社員の採用が減少した場合に見られます。
そして、Dが星型です。採用を絞った時期がある企業に典型的な形です。Eがひょうたん型と呼ばれ、採用を絞ったり、若手に退職が多い場合に見られる形です。
上記のリクルートワークス研究所の調査は、東京証券取引所第一部上場企業およびその主要事業会社を対象としたものであり、大企業に偏っていることは間違いありません。
しかし、従業員の年齢階層が歪であることは、様々な問題を引き起こすのです。
従業員の年齢構成が歪であることの問題
上記のように従業員の年齢構成が歪であることは、様々な問題を起こします。
<問題事例>
- 採用を急激に抑制した時期があるために、最も活躍する(はずの)年頃の従業員が少ない
- 中間管理職が足りない
- バブル世代と大量採用世代ばかりで、間をつなぐ世代がいない
- 人手不足で新卒の採用を一気に増やしたため、教育が行き届かない
- 企業内ノウハウの継承が難しい
- 将来的に大量の若手のポスト(例:管理職)が用意出来ない(年功序列の給料体系も維持出来ない)
このような問題を起こす要因は、企業の採用数が一定ではないからです。
日本企業の多くは、その場しのぎの採用戦略しか持ち合わせてきませんでした。業績や経済環境が悪くなったら、新卒採用を抑制し、人手が足りなくなったら新卒採用を急激に膨張させるのです。
これは、日本の雇用慣行が影響していることは否定出来ません。
日本企業の雇用慣行は、新卒一括採用、年功序列、終身雇用です(実際には既に崩壊しているかもしれませんが、社会の仕組みとしては残っています)。
企業は新卒採用を見送ったら、その新卒が欠けた人員数を将来補充するのは難しいのが実情でしょう。これは(だいぶ変わったとはいえ)企業の転職者向けの給与制度、研修制度やキャリア制度の用意が乏しいためです。また、新卒から教育していくことに企業は慣れており、中途入社者を上手く教育したり、使いこなしたりすることが苦手です。
転職者から見ても中途入社だとキャリアアップ(出世)が見込めなかったり、年功序列で満足な給料を得られないのであれば、転職するメリットは薄いことになります。
だからこそ、日本企業は新卒採用で人員数を調整するのです。
そして、この新卒の抑制が社会的にも問題になっているのが「就職氷河期世代」です。
内閣府が2019年3月29日に発表した「ひきこもりの高齢化に関する実態調査」で、40〜64歳までのひきこもり当事者の推計人数は約61万人と、40歳未満の約54万人を上回っていました。いわゆる中高年のひきこもりは、男女比だと4分3が男性です。
そして、就職氷河期を経験した(調査当時)40歳~44歳の3人に1人が「20歳~24歳」で引きこもり状態になったとしています。そのため就職活動の失敗もひきこもりの原因の一つである可能性が浮き彫りになりました。
日本は新卒一括採用が前提とされているため、新卒時に就職できなければ一生影響を受ける可能性があるのです。
所見
「ひきこもり100万人超」の中心層は就職氷河期世代とされています。この就職氷河期世代を中心としたひきこもり層は、将来的に「生活保護」となるのではないかと恐れられています。
また、就職氷河期世代は、就職活動が上手くいかなかったために、結婚も出来ず、少子化に拍車をかけたのではないかともされています。
政府も就職氷河期世代、ロスジェネ世代への支援に乗り出してきているようです。
今回の新型コロナ禍で、2021年4月入社の新卒の採用抑制が行われると、それは10年後、20年後、もしかすると40年後に大きな問題となっている可能性があるのです。
将来は終身雇用が当たり前ではなくなり、新卒一括採用も無くなるのかもしれません。しかし、今の段階では新卒で就職できない場合には、企業で行われるはずだった社会人としての基礎教育を受けられず、将来の正社員としての就職が厳しくなる世代を再び生み出してしまうかもしれません。日本の社会は、就職活動に失敗してしまうと復活が難しい社会なのです。
経団連の中西会長が言ったと報道されているように、企業が新卒の新規採用は抑制しないようにして欲しいと筆者は切に願います。
短期目線の行動は、企業自身にも将来の問題を発生させますし、日本全体にも問題を起こすことになるのです。