銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

役員定年制について考える

f:id:naoto0211:20191114120620j:image

大和ハウス工業が役員に定年制を導入しました。これはガバナンス強化策の一環と説明されています。

従業員には定年制が導入されている企業がほとんどですが、役員の定年はどのようになっているのでしょうか。

今回は役員定年について確認してみましょう。

 

報道内容

まず、大和ハウス工業の役員定年制について概要を確認します。以下記事を引用します。

大和ハウス、取締役に67歳定年制 樋口会長は対象外
2019年11月08日 時事通信

 大和ハウス工業は8日、円滑な世代交代を促すため、社内の取締役や執行役員などに定年制を導入すると発表した。原則として取締役、監査役、執行役員は67歳、代表取締役は69歳まで。ただ、社長時代を含め18年間トップを務めてきた樋口武男会長(81)は対象外で、世代交代にどこまで本気なのか早くも疑問視されている。
 同社では最近、防火の安全基準を満たしていない賃貸住宅が発覚するなど不祥事が相次いでおり、経営体制を見直すため、取締役への定年制導入を含むガバナンス(企業統治)強化策をまとめた。
 樋口氏に定年を設けないことについて、芳井敬一社長(61)は「しっかりアドバイスをいただきたい。われわれはまだ(樋口氏を)必要としている」と説明した。

役員定年制は円滑な世代交代やガバナンス強化策の一環であることが分かります。

 

日本の役員定年制の導入状況

日本の役員定年については、産労総合研究所が実施している「役員報酬の実態に関する調査」が参考になります。

役位別に定年制のある企業の割合をみると,会長32.8%(前回27.2%),社長35.8%(同36.2%),副社長44.4%(同42.7%),専務取締役54.8%(同54.2%),常務取締役58.2%(同58.3%),取締役(役付以外)56.9%(同61.2%)で,社長と取締役(役付以外)を除いて前回調査よりも増加する傾向がみられる。平均定年年齢は,会長69.7歳,社長67.3歳,副社長66.1歳,専務取締役65.4歳,常務取締役64.5歳,取締役63.3歳である。
ちなみに,社長の定年年齢の分布をみると,70歳が37.7%と最も多く,次いで65歳が11.3%,66-69歳が22.6%など,66歳以上で全体の64%を占めている。

f:id:naoto0211:20191114120644j:image

f:id:naoto0211:20191114120659j:image

(出所 産労総合研究所/2015年 役員報酬の実態に関する調査)

上記の調査は、調査対象が上場企業1,500社と未上場企業から任意に抽出した1,000社の計2,500社にアンケートを送り、締切日までに回答のあった155社を集計対象としています。上場企業のみならず、非上場企業が含まれています。

オーナーが存在しない上場企業は、役員定年制を取り入れているところが多いとは思われますが、日本では半数程度の会社が役員定年制を導入しているものと思われます。

尚、会社法では、取締役・監査役の人物要件に、年齢は明記されていません。

また定年を超えた者でも、株主総会で役員に選任されれば、定款や内規等に定年の定めがあったとしても取締役として認められるとされています。

 

(参考)米国の状況

米国では、1967年に成立した「雇用における年齢差別禁止法」により、一部の例外職種を除き、採用、賃金、解雇、労働条件など雇用のあらゆる場面で、年齢による差別が禁止されています。

ただし、役員については、S&P 500(ダウ・ジョーンズの大型株500銘柄)を構成している大企業の3分の1は重役(CEO)に定年退職制度を設けているようです。

 

所見

日本の役員定年制については、様々な考え方があるものと思います。年齢で差別するのはおかしいと考えることも出来るでしょうし、世代交代のためには仕方がないという考えもあるでしょう。

ただし、役員のうち取締役は、株主から経営を付託された経営のプロフェッショナルのはずです。株主総会で選出され、安定した立場ではないはずです。

それでも、役員定年制がガバナンス強化策や世代交代のために導入されるということは、株主から取締役の監視が難しい、もしくは取締役が自分の立場を守ることが出来る(簡単には辞めさせられない)ことを意味します。

日本の役員(特に上場企業)は「従業員の上がりポスト」です。年功序列で役員になるのです。

この現状を変え、取締役、そして役員(執行役員含む)に緊張をもたらすことが出来るのであれば、役員定年制という制度は必要ないのではないでしょうか。