銀行員のための教科書

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サラリーマンよ、そろそろ公的年金制度について怒るべし

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国民年金と厚生年金の統合について衆議院の厚生労働委員会にて野党から提案がなされたと報道されています。

国民年金の受給額は厚生年金に比べて小額であり格差を縮めること (但し、国民年金は定額払い、厚生年金は報酬比例であり納付額は大きく異なります)、 生活保護を余儀なくされる低年金者が増えることへの危機感等から国民年金と厚生年金の統合論は議論されています。

公的年金制度は過去にも統合を繰り返してきました。年金制度の統合にはどのような意味があるのでしょうか。

今回は公的年金制度の過去の統合を簡単に見ていくものとしましょう。

 

公的年金制度の統合

過去の公的年金の統合は以下となっています。

  • 1986年 旧船員保険と厚生年金との統合
  • 1997年 旧三共済(日本鉄道、日本電信電話、日本たばこ)と厚生年金との統合
  • 2002年 旧農林年金と厚生年金との統合
  • 2015年 共済年金と厚生年金との統合 (一元化)

この中で最も大きな制度統合は厚生年金と公務員が加入していた共済年金との統合です。

日本の公的年金制度は、大きく分けると「基礎年金制度(国民年金)」と「被用者年金制度」の2つに分けることができます。基礎年金制度(国民年金)は、自営業のほか、民間サラリーマン、公務員、私学教職員やこれらの被扶養配偶者も加入する全国民共通の制度となっています。

被用者年金制度の1つである厚生年金の加入者である民間サラリーマンは、あわせて基礎年金制度(国民年金)にも加入し、同時に2つの年金制度の適用を受けています。これは公務員も基本的には同じでした。

2015年に実施された共済年金と厚生年金の一元化は、公的年金制度のうち、共済年金(国家公務員共済組合、地方公務員等共済組合、私立学校教職員共済)と厚生年金とに分けて運営されている被用者年金制度を厚生年金に統一させるものでした。

当時の一元化の目的は、「今後の少子・高齢化の一層の進展等に備え、年金財政の範囲を拡大して制度の安定性を高めるとともに、民間サラリーマンや公務員、私学教職員を通じ、同じ保険料を負担し、同じ年金給付を受けるという年金制度の公平性を確保することにより公的年金に対する国民の信頼を高めることを目的」とされていました。

この一元化は共済年金の加入者(すなわち主に公務員)には不利になると喧伝されていたのをご存知でしょうか。

主に以下の点が変更となったためです。

<加入年齢の上限が70歳へ>
共済年金は加入年齢に制限なし。

<保険料(掛金)率アップ>
共済年金の保険料率は厚生年金に比べ割安。

<障害年金の支給要件に「保険料納付要件」を追加>

障害厚生年金の要件にある保険料納付要件は、共済年金にはなし。

<遺族年金の転給制度の廃止>
転給制度=遺族年金を受け取っている人が亡くなる等で権利を失っても、他に権利者がいれば、その人物に権利が移行する制度が共済年金にあったが廃止。

これだけ見ると共済年金の加入者は不利益を受け入れたのだと思うでしょう。

しかし、筆者は共済年金と厚生年金の一元化は共済年金の救済であったと考えています。

 

厚生年金による救済

上述の共済年金を厚生年金が実質的に救済したと筆者が考える根拠は、主に2点です。

一つは、共済年金の加入者は、保険料率が割安でしたが財政状態の悪化により、本来であれば年金の保険料率が19.8%(私学共済は19.4%)まで引き上げられる予定でした。厚生年金は保険料率が18.3%ですので、共済年金の加入者は保険料率が高くなることを回避出来たのです。

この数値は厚生労働省作成の公的年金の概要に明記されています。最終の保険料率は平成21年財政再計算結果によるものとされています。筆者には公務員を優遇したようにしか思えません。

もう一つの要因が、共済年金の年金扶養比率の低下であり、財政的に持続が難しかったというものです。

日本の公的年金は賦課方式と言われ、単純に言えば現役世代が年金受給世代に仕送りを送っている制度です。年金の支払原資は現役世代が負担しているのです。

厚生労働省年金局の「公的年金各制度の年金扶養比率の推移」によれば、平成22(2010)年度の年金扶養比率は厚生年金が2.39、私学共済年金が4.19、国家公務員共済と地方公務員共済がともに1.53です。

年金扶養比率とは、年金をもらえる権利を持つ高齢者を何人の現役世代で支えているかを示す比率のことです。年金扶養比率は現役世代である加入者数を年金をもらえる権利のある人(受給権者)の数で割った値となり、比率が小さくなるほど、現役世代の負担が重くなることを意味します。

すなわち、2010年の段階では公務員の共済年金は1.5人で1人の高齢者(年金受給者)を支えていたことになります。

上記二点を考えると、「年金財政の範囲を拡大して制度の安定性を高めるとともに、民間サラリーマンや公務員、私学教職員を通じ、同じ保険料を負担し、同じ年金給付を受けるという年金制度の公平性を確保することにより公的年金に対する国民の信頼を高めることを目的」という言葉をそのまま受け止めるのは難しいと感じるのではないでしょうか。

尚、他の共済年金制度を統合した際にも、年金扶養比率が低下していた共済年金を厚生年金が統合しています。

下の表見れば分かりますが、1982年時点の旧船員保険は年金扶養比率が2.23、1996年時点の旧三共済の比率は1.02(日本鉄道=0.66、日本電信電話=1.82、日本たばこ=0.97)でした。

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(出所 厚生労働省)

これが救済でなくて他に説明はあるのでしょうか。

 

サラリーマンは怒れ

賦課方式の公的年金制度を持ち、少子高齢化が進んでいく日本では年金制度を統合していっても先送りにしかなりません。

筆者は公的年金制度の議論を見るたびに、なんともやるせない気分になってきました。

最も疑念を覚えたのは共済年金と厚生年金の一元化・統合です。

今後も、公的年金制度の改正や公的年金制度の統合(国民年金と厚生年金の統合)は議論されていくでしょう。もちろん日本国全体の視点を持ち、低年金者や生活保護者を出さないような政策は必要です。

しかし、今までの流れは「サラリーマンが損」してきた歴史でもあります。

筆者は、そろそろサラリーマンが公的年金制度について怒っても良いのではないかと思います。

読者の皆さんはどのようにお考えでしょうか。