2019年11月6日に日本銀行(日銀)が2019年9月に開催した金融政策決定会合の議事要旨が公表されました。
この議事要旨は日銀の将来における金融政策を予想する助けとなります。
近時、マイナス金利幅の拡大(深堀)が意識され始めていますが、日銀の議論のニュアンスを感じ取るのは非常に有用でしょう。
今回は金融政策決定会合の議事要旨に注目します。
まずは原文を確認
日銀の金融政策決定会合の議事要旨をご覧になったことのある方は銀行員でも少ないかもしれません。
まずは原典にあたることが大事です。以下少し長くなりますが、マイナス金利政策に関する参考部分を抜粋して引用します。
政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2019年9月18、19日開催分)2019.11.6公表
Ⅲ.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要
<金融政策運営上の留意点>
- 一人の委員は、長短金利・量・質のすべての面で日本銀行の金融政策に手詰まりはなく、あらゆる可能性が常時存在していることを強調する情報発信を行うことが重要であるとの認識を示した。
- 別のある委員は、国内外でこれまでに取られた非伝統的政策手段の教訓を踏まえると、その有用性について広く発信することが重要であると指摘した。
- ある委員は、海外経済の回復の遅れがわが国経済・物価に悪影響を及ぼす懸念があることを踏まえると、副作用にも留意しつつ、望ましい政策対応について検討していく必要があると述べた。
- 別のある委員は、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れは相応にあり、追加緩和措置の要否を検討すべきであると指摘した。そのうえで、この委員は、追加緩和手段については、緩和効果をもたらすとの目的を明確にし、予断なく、短期政策金利の引き下げ、長期金利操作目標の引き下げ、資産買入れの拡大、マネタリーベースの拡大ペースの加速など、あらゆる政策手段を検討すべきであると指摘した。
- この間、一人の委員は、この半年ほど名目イールドカーブがフラット化した一方で、均衡金利・予想物価上昇率の期間構造は大きく変化していないことを踏まえると、金融緩和余地は短中期ゾーンで大きいとみられ、追加緩和策としては短期政策金利の引き下げが適当であると付け加えた。
- また、その他の留意点として、何人かの委員は、低金利環境が長期化するもとでも、金融機関の財務は健全であり、金融仲介機能も維持されているが、先行き、収益性が更に低下していく可能性や、過度なリスクをとる動きが拡がる可能性について多面的に点検していく必要があるとの認識を示した。
- これに関連し、複数の委員は、金融機関経営に影響を及ぼす構造的な問題と、金融緩和に伴う影響は、区別して議論する必要があると指摘した。
- 別のある委員は、マイナス金利を含む金融緩和の効果については、それが銀行経営に与える影響よりも、あくまでも、経済全体に与える影響を優先して考えるべきであると述べた。
- これに対し、一人の委員は、金融システムがひとたび不安定化すると、物価安定の確保が困難になることには、十分留意する必要があるとの見方を示した。また、この委員は、低金利環境の継続による銀行の収益性低下と資産のリスク量増加が格下げにつながれば、外貨流動性リスクや外貨調達コストが高まり、取引先企業にも悪影響が及ぶ惧れがあると述べた。
(出所 政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2019年9月18、19日開催分)2019.11.6公表)
このような議論がなされているのが日銀の政策決定会合です。
報道内容
この日銀政策決定会合の議事要旨については以下のように報道されています。
日銀 “手詰まりない”と対外的に発信を 金融政策決定会合
2019年11月6日 NHK NEWSWEB日銀は、ことし9月の金融政策決定会合の「議事要旨」を公表しました。欧米の中央銀行が相次いで利下げに踏み切る中、日銀の金融政策に手詰まりはなく、あらゆる対応が可能だという前向きな姿勢を対外的に発信すべきだという意見が出ていたことが分かりました。
日銀の9月の会合の直前には、ヨーロッパ中央銀行が3年半ぶりの利下げに踏み切り、アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会も、7月に続いて利下げを決めました。一方、日銀は今の政策を直ちに変える必要はないとして、大規模な金融緩和策を維持しましたが、金融市場では、日銀には追加の金融緩和策の余地がとぼしいという受け止めも広がっていました。
このため会合では、日銀として欧米と並んで金融緩和に前向きな姿勢をどう打ち出すか、議論が行われていました。
委員のひとりは「日銀の金融政策に手詰まりはなく、あらゆる可能性が常時存在していることを強調する情報発信を行うことが重要だ」と主張していました。
結局、日銀は9月の会合での議論も踏まえ、先週開いた会合で今後の政策運営の方針として、すでにマイナスとなっている短期金利をさらに引き下げる可能性を明記しました。
ただ政策金利のさらなる低下は、金融機関の経営に深刻な影響を与えるという指摘も出ていて、日銀は今後も難しい判断が続きそうです。
(出所 NHKニュース https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191106/k10012166101000.html)
このNHKの記事にあるように2019年9月の政策決定会合での議論が、10月に開催された会合で「今後の政策運営の方針として、すでにマイナスとなっている短期金利をさらに引き下げる可能性を明記」されることにつながっているものと思われます。
所見
日銀の政策決定会合の議事要旨を読んでどのように感じるでしょうか。
間違いないことは、マイナス金利に関して、日銀の政策決定会合の大勢は「銀行や金融機関への悪影響」よりも「経済等への好影響」を意識していることです。
日銀がマイナス金利の深堀に踏み切った場合には、銀行の収益はさらに厳しくなるでしょう。しかし、日銀はいくら銀行業界が反対姿勢を強めても、追加緩和が必要な場合はマイナス金利の深堀を決断する可能性が高いと言えます。言葉を変えれば、マイナス金利政策に関して言えば、日銀内には銀行の味方があまりいないということです。それを今回の議事要旨の公表は明らかにしてくれました。
銀行はマイナス金利の深堀がなされる可能性が高くなってきていることを認識して経営を行っていく必要があるでしょう。しかも、それは遠い未来ではないということです。