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竹中平蔵氏の言う「90歳まで働く」というのは十分にあり得る未来

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竹中平蔵氏が「90歳まで働くことになる」と発言したとして、ネットで話題になっています。総じて批判的、悲観的な反応が多いようです。

今回は、この「90歳まで働くことになる」ということについて簡単に考えてみたいと思います。

 

話題となった記事

まずは話題となったネットの記事を確認しましょう。

竹中平蔵「90歳まで働くことになる」発言に悲痛な声相次ぐ「90歳はヨボヨボ。心身ともに元気な高齢者は一握りだよ」
2019.10.23 石川祐介/キャリコネニュース

経済学者の竹中平蔵氏が10月20日、「プレジデントオンライン」に寄稿した記事がネット上で大きな話題を集めた。その内容は、これからの長寿社会では「100歳まで生きるとすると、90歳くらいまでは働くことになる」というもの。この記事に対して、ガールズちゃんねるで「90歳まで働く社会」というトピックが立った。
「竹中と小泉が日本をただただ貧しい国に導いたんだよ」
「小泉首相のブレーンになって派遣社員を増やして、正社員を減らした張本人の1人」
小泉政権時に竹中氏が派遣法の規制緩和を推進し、非正規労働者の増加や格差拡大などをもたらした過去の”実績”を持ち出し、反発するコメントが相次いだ。

(以下略)

(出所 キャリコネニュース https://news.careerconnection.jp/?p=80624

竹中平蔵氏が、これからの「人生100年」社会をめぐり寄稿した記事が話題を集めているようです。ネットではトピックが立ち、悲痛な声が相次いでいるとされています。

では、そもそも竹中平蔵氏は「何を言った」のでしょうか。 

 

元の記事

竹中平蔵氏の発言とされる元の記事は以下です。こちらも引用します。

竹中平蔵「現代人は90歳まで働くことになる」自分の10年~20年後の履歴書を書け
PRESIDENT 2019年10月4日号

2019/10/20 15:00
竹中 平蔵経済学者/東洋大学国際学部教授

Q. 専門性が身に付かない
学歴よりもコンパスを持つ
意外と意識している人はまだ多くないのですが、私たちはこれからすごく長寿の時代を生きることになります。たとえば100歳まで生きるとすると、90歳くらいまでは働くことになるでしょう。でも、約70年間1つの会社で働くなんてありえないですから、どこかで転職をすることになる。そうしたときに、専門性が身に付いていない人は生き残れないわけですね。

(以下略)

(出所 プレジデントオンライン https://president.jp/articles/-/30182

この記事をきちんと読めば分かりますが、国民全員が90歳まで働くことになるとは言っていません。あくまで「たとえば100歳まで生きるとすると」と仮定の話をしています。そして、記事の主旨は「専門性がないと生き残れない」「専門性を身に付けることが重要」としています。

これは記事がかなり曲解されて話題となった例ではないでしょうか。

 

90歳まで働くことはあり得るのか

竹中平蔵氏は、小泉政権時代に派遣法の規制緩和を推進し、非正規労働者の増加や格差拡大などをもたらしたと一部では言われています。そして現在は人材派遣会社パソナグループの会長となっており、これも反発を生む要因なのでしょう。

この竹中氏への批判等はともかく、そもそも「90歳まで働く」社会の到来はあり得るのでしょうか。

以下の東洋経済オンラインからの抜粋記事を見てください。

現在の公的年金制度の基本である国民年金が誕生したのは、1959(昭和34)年です。当時、男性の平均寿命は65.32歳でした(厚生労働省簡易生命表による昭和35年時点での平均寿命による)。つまり、年金をもらい始めてから5年程度が寿命だったのです。言い換えれば、人生の最後半の5~10年を年金で生活することを基本に設計されているのが公的年金制度です。
ところが、今や平均寿命は男性が約81.1歳、女性は約87.3歳です。さらに、60歳時点での平均余命で見ると、男性は23.72年、女性は28.97年ですから、現在、60歳で定年を迎える人であれば、そこから25~30年は生きることになります。その期間が5~10年だった当時とは、ずいぶん事情が違うのです。

(出所 東洋経済オンライン「年金は何歳からもらうのが一番おトクなのか」 大江 英樹 : 経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表 2019/02/07 https://toyokeizai.net/articles/-/264073

この記事には大いに参考となることがあります。

公的年金スタート時には「年金をもらい始めてから5年程度が寿命だった」のです。

それが今や「60歳で定年を迎える人であれば、そこから25~30年は生きること」になっているのです。

年金制度は様々な改正がなされてきましたが、単純に考えれば制度当初の状況・前提とはあまりにも変わってきています。

1960年(公的年金開始頃)時点では11.2人の生産年齢人口で1人の高齢者を支えていたのが、2018年時点では2.1人で1人の高齢者を支えています。さらに2065年の人口動態の予想では1.3人で1人の高齢者を支えることになります(令和元年版高齢社会白書)。これで賦課方式の年金制度維持が出来ると考えるのには無理があると言えるでしょう。

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(出所 令和元年版高齢社会白書)

すなわち、寿命が100年となった社会が出現した場合、年金受給が始まってから5~10年で寿命を迎えるような年金制度、すなわち、90歳から受給が開始するような年金制度へ変更されてもおかしくはないのです。

それを感覚的にも理解している人が多いからこそ、竹中平蔵氏の発言「(現代人は)90歳まで働くことになる」は批判を浴びるほど話題になったのでしょう。 

 

所見

筆者は「90歳まで働く」未来は十分にあり得ると考えています。良い言葉で言えば「生涯現役」です。

これは公的年金制度が構築されるまでは、当たり前と言えば当たり前のものでした。

例えば農業が分かりやすいでしょう。自営業ですので定年はなく、農業に従事している高齢者の割合は非常に高くなっています。働けなくなるまで働いている方が多いのではないでしょうか。

一方で、日本の企業に勤める従業員や公務員には「定年」という制度があります。しかし、定年は「人を年齢で差別するもの」とも言えます。年金受給開始年齢があるからこそ企業や公務員の定年があるとも言えるかもしれません。

最終的には、高齢化社会が行き着くところに行き着き、日本には「定年」という制度は無くなるかもしれません。そして、公的年金は誰もがもらえるものではなく、あくまで保険として「働けなくなった時の補完をするだけの制度」になる可能性もあるのです。まさに、90歳まで、もしくは死ぬまで働く社会ということです。しかし、そのような社会は公的年金のような制度が出来るよりも「昔」ならば当たり前だったのかもしれません。そして、竹中平蔵氏が本当に言いたかったように、強みや専門性を各自が持たなければ相応の処遇で働き続けることは難しいでしょう。加えて、働けるほど健康かどうか(健康寿命が伸びるか)は非常に重要ではあります。

どのようなことが将来起きるのか、筆者には正確に予想することは出来ません。しかし、「90歳まで働く」という未来も十分にあり得るのです。