銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

銀行の業況が厳しいことを「簡単な数字」で見る

f:id:naoto0211:20190909192146j:image

銀行の業況が厳しい状況が続いています。

マイナス金利政策が導入され、貸出金利のみならず国債等の債券も利回りが低下しており、特に地方銀行は利益を確保するのに苦しんでいます。本業が赤字の銀行も多いとされています。

上記のような報道を目になさった方も多いでしょう。

では、「どのぐらい」銀行の業況は厳しいのでしょうか。

今回は銀行の業況がどのぐらい厳しいのか、印象論ではなく、簡単な数字で確認してみましょう。

 

東京商工リサーチの記事について

まずは、東京商工リサーチが公表している銀行の「利ざや」(運用利回りと調達利回りの差)についての記事を確認しましょう。以下引用します。

国内銀行111行の2019年3月期決算の「総資金利ざや(中央値)」は0.14%だった。前年同期の0.15%より0.01ポイント低下し、2010年3月期以降では、2017年3月期(0.13%)に次ぐ、2番目の低水準だった。2016年2月に日本銀行がマイナス金利を導入した以降は、金融機関の低金利競争が厳しく、金利収入の中心である「貸出金利回り」の低下は続いている。
 こうしたなか、「資金調達」が「資金運用」より利回りが高くなる「逆ざや」は14行だった。大手行2行(前年同期3行)、地方銀行7行(7行)、第二地銀5行(同6行)で、前年同期の16行よりも2行減少した。
 「総資金利ざや」は、資金の運用利回りと調達利回りとの差を示している。低金利が続くなかで貸出による利回りは低調に推移している。

(中略)

f:id:naoto0211:20190909195016j:image

 111行の2019年3月期で「総資金利ざや」がマイナスになった「逆ざや」は、14行(大手行2行、地方銀行7行、第二地銀5行)だった。前年同期の16行より2行減少したが、2010年3月期以降の10年間で3番目に多かった。
 これまで、3月期での「逆ざや」は、2010年2行、2011年3行、2012年9行、2013年12行、2014年9行、2015年11行、2016年12行と推移していた。しかし、2016年12月に日本銀行がマイナス金利を導入した直後の2017年には20行に急増。その後の2018年は16行、2019年は14行と、2年連続で「逆ざや」の銀行は減少したが、依然として銀行の本業収益の低迷が続いている。
 2019年3月期の「逆ざや」14行のうち、2年連続で「逆ざや」は10行だった。内訳は、大手行が2行(みずほ銀行、あおぞら銀行)、地方銀行が4行(筑波銀行、清水銀行、三重銀行、近畿大阪銀行)、第二地銀が4行(大東銀行、東京スター銀行、名古屋銀行、島根銀行)。

(以下略)

(出所 東京商工リサーチ/国内銀行111行 2019年3月期決算「総資金利ざや」調査/2019.9.9) 

上記の記事では、「総資金利ざや(中央値)」は0.14%と報告されています。

「総資金利ざや」は、「資金運用利回り」-「資金調達原価」で算出されています。簡単に言えば、「資金運用利回り」は主に貸出と国債等債券から得られる利息の合計であり、「資金調達原価」は主に預金や社債等の銀行の資金調達コストと営業経費です。

「資金運用利回り」の中央値は1.05%、「資金調達原価」の中央値は0.90%となっており、銀行は資金を0.9%程度で預かり、1.05%で運用していることになります。

この「総資金利ざや(中央値)」が赤字となっている銀行が111行中14行あり、銀行の1割以上が本業赤字となっていることが分かります。

 

総資金利ざや「0.14%」の意味

では、「総資金利ざや(中央値)」0.14%とは、低いのでしょうか。高いのでしょうか。

上記の記事で触れられている10年前の「総資金利ざや(中央値)」は0.27%となっています。少なくとも10年で収益力が約半分に低下したことは間違いありません。

しかし、銀行は「昔は儲かっていた」はずです。10年前が儲けすぎだったのではないでしょうか。

「総資金利ざや(中央値)」0.14%をどのように評価すれば良いのでしょうか。

結論からすると「総資金利ざや(中央値)」0.14%は低すぎます。銀行が業態を維持出来ないレベルまで落ち込んでいると言っても過言ではありません。

「総資金利ざや(中央値)」0.14%は言い換えると、「714社に1社でも破綻すれば銀行の利益が吹き飛ぶ水準」です。

714×0.14%=1です。1/714=0.14%とも表現出来ます。

もちろん上記の試算は、全ての貸出先が同額の借入残高となっていること、担保が無いことが前提です。

それでも「714社に1社でも破綻すれば銀行の利益が吹き飛ぶ水準」ならば、貸出先が破綻することなど許されないと言っても間違いはありません。言葉を代えると、破綻しそうな先に銀行はお金を貸せないのです。

このように収益性が低いならば、リスクの高いベンチャー企業への融資等は(同じ金利水準ならば)無理でしょう。

銀行は収益性が低すぎてリスクのある貸出は出来なくなっているのです。

それでも「そんなに簡単に企業は倒産しないのではないのか」との疑問があるかもしれません。

2018年の企業の倒産件数は8,235件(東京商工リサーチhttps://www.tsr-net.co.jp/news/status/yearly/2018_2nd.html)です。

一方で、日本全体の企業数は358.9万社とされています。(以下の中小企業庁Webサイト参照)

中小企業庁:中小企業・小規模事業者の数(2016年6月時点)の集計結果を公表します

8,235件/358.9万社=0.23%です。

すなわち、かなり粗い試算ではありますが、日本全体では全企業数の0.23%が毎年倒産しており、銀行の総資金利ざや0.14%という数字は、企業の倒産率を下回っているということになります。

普通に考えると、銀行は総資金利ざや0.14%で貸出を行っていれば赤字となる可能性が高いのです(だから審査をするのですが)。

すなわち「総資金利ざや0.14%」とは普通に考えると銀行業が成り立つ水準ではないのです。

 

まとめ

以上、銀行の「総資金利ざや」に焦点を当てて、銀行の業況について考察してきました。銀行が業態として厳しい状況にあるのが分かるのではないでしょうか。

銀行業がこれからどのように生き延びていけば良いのかは、筆者にも正解が分かりません。但し、過去の様々な業界、企業が実践してきた対応策は存在します。

それは「コストを削減」することです。

収益を増やすことが難しいならば、コストを削減するしかありません。

銀行を待ち受ける未来は、かなり厳しいものがあると筆者は考えます。