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レオパレス21の施工不良問題に見え隠れする日本企業の根本的な問題

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レオパレス21が施工不良問題で、外部調査委員会が中間報告を発表しました。

この報告では、創業者であり当時の社長によるトップダウンの指示があったことも判明しています。

一部ではレオパレス21の問題について報道されていますが、調査委員会の報告書そのものを掲載している記事等は少ないようですので、今回は調査委員会の報告そのものを確認しましょう。

冷静に状況を確認することが出来ると思います。そして日本企業等で近時頻発している様々な不祥事の問題の一因についても考えさせられるのではないでしょうか。

 

報道内容

まずはレオパレス21の施工不良問題について調査委員会の中間報告がどのように報道されているのかを確認しましょう。以下は日経新聞の記事を引用します。

レオパレス不備「組織的」と調査委 ずさんな体制露呈
2019/03/19 日経新聞

 レオパレス21の施工不良問題で、創業者で当時の社長だった深山祐助氏による「トップダウンの指示」があったことが判明した。外部調査委員会は18日の中間報告で、一部の部署や職員ではなく、全社的な施工体制のずさんさを問題視。調査委は5月下旬までに最終報告をまとめるが、意図的な不正の有無や現経営陣の関与が焦点となる。
 レオパレスは18日、都内で幹部が記者会見し調査委の中間報告書を公表した。2018年春に発覚した一連の問題を巡っては、天井の耐火性に問題のある641棟に住む7700人の入居者が住み替えを迫られる事態に発展した。
 レオパレスは同日、すでに引っ越しなどを済ませた住人が425人にとどまっていると明らかにした。3月末までに1100人、4月以降に480人が住み替える見通しだが、残る約5700人は見通しが立っていない。
 報告書は「当時の社長である深山祐助氏の指示で、内部充填剤として発泡ウレタンを使用する方向性が示された」と明記した。祐助氏は06年まで社長を務め、顧客から預かった約49億円の資金を流用したとして引責辞任した人物だ。
 レオパレスは仕様書では違う内部充填剤を使っているとしていた。発泡ウレタンは施工手順を簡略化できる一方、法令が定める遮音性能を満たしていない可能性がある。報告書は開発段階で十分な性能試験をしていなかった可能性を指摘。「全社的な開発・施工態勢のずさん・脆弱さ」があったと問題視した。
 レオパレスは発泡ウレタンを使った理由について今年2月の記者会見で、作業の簡略化が狙いで違法性を認識していなかったと説明していた。調査委の報告書は「意図をもって組織的に行われていたか、さらに調査が必要」と指摘。違法性を認識しながら、コスト削減などを狙った側面があるかどうかが焦点となる。
 報告書は施工不良の背景の一つに、物件への入居者数を増やすため工期の短縮や施工作業の効率化を進めた点を挙げた。1990年代のバブル崩壊後、同社の業績は低迷しており、建築受注や賃料収入の拡大を最優先した可能性がある。
 一連の問題を踏まえ、国土交通省は3月から、有識者や自治体関係者らで構成する共同住宅の品質管理についての検討会を開催。他社の実態調査を実施するなどし、今夏をメドに再発防止策の検討を進めていく。同時に、レオパレスに対し建設業法に基づく処分を検討する。
 営業停止などの処分を出す可能性がある。2月時点のレオパレスの入居率は86%と、18年3月の94%から低下傾向が続く。イメージ悪化で入居率の低下に拍車がかかる可能性もあり、経営への打撃は避けられない。
(以下略) 

以上が報道の内容です。

 

外部調査委員会の中間報告

では、外部調査委員会はどのような中間報告を行ったのでしょうか。こちらは原文を以下引用して掲載します。

平成 31 年 3 月 18 日
株式会社レオパレス 21 外部調査委員会による調査の状況について(概要)
株式会社レオパレス 21 外部調査委員会

<第 1  調査の概要>
当委員会の当面の調査の目的は、株式会社レオパレス 21(「レオパレス 21」)が平成 30 年 4 月 27日、同年 5 月 29 日及び平成 31 年 2 月 7 日に公表した、同社施工物件における、①小屋裏又は天井裏において界壁を施工していない不備に係る問題(「小屋裏等界壁問題」)、②界壁の内部充填材に設計図書に記載されたグラスウール又はロックウールではなく発泡ウレタンが使用されていた不備に係る問題(「界壁発泡ウレタン問題」)、③外壁が設計図書に記載された国土交通大臣認定の仕様に適合していなかった不備に係る問題(「外壁仕様問題」)、④天井部の施工仕上げが設計図書に記載された国土交通省告示の仕様に適合していなかった不備に係る問題(「天井部問題」、①ないし④の不備を合わせて「本件不備」)について、事実の確認を行い、原因究明を行うことである。
当委員会は、現時点までに、25 名の関係者に対して計 31 回のヒアリングを実施し、受領済みの関係資料の精査を行った。今後、データレビューや、外部の確認検査機関等による図面等の確認等を行う予定である。なお、本件不備が問題になっているレオパレス 21 施工物件の大多数は、平成 5 年から平成 13 年という古い時期に施工・販売された物件であるため、関係者の退職や在職者であってもその記憶の劣化、関係資料の散逸といった事情がある。また、レオパレス 21 で当時の状況を知っていると思われる関係者も、同社が現在行っている施工物件全棟の調査や改修等に追われている。そのため、平成 31 年 2 月 27 日の当委員会の設置後も、本件調査に時間を要している。
当委員会は、本件調査の独立性・客観性を確保するため、日本弁護士連合会のガイドラインにできる限り準拠し、また、日本取引所自主規制法人のプリンシプルを踏まえて調査を行っている。

<第 2  現在の調査状況>

1. 小屋裏等界壁問題
レオパレス 21 においては、物件の開発・施工に当たって、複数の図面等が作成されているが、図面等の記載の不整合が複数確認されている。小屋裏等界壁が施工されなかった直接の理由としては、このような図面等の不整合が考えられるが、かかる不整合がなぜ発生したのかは、現時点までの調査では明確になっていない。小屋裏等界壁問題はレオパレス 21 において広く蔓延しており、小屋裏等界壁の不施工については、物件の開発・施工の態勢のずさん・脆弱さだけでなく、意図をもって組織的に行われていたのではないかと疑われるところであって、今後の調査の重要な視点の1つである。
また、当時の商品開発における法規適合性判断や施工時のチェック等の態勢面等も問題となる。
なお、平成 24 年頃、レオパレス 21 と物件のオーナーとの間の民事訴訟において、物件のオーナーから小屋裏等界壁が施工されていないことが指摘されているため、レオパレス 21 が平成 30年の物件のオーナーによる指摘以前から小屋裏等界壁問題を認識していたとの疑いがある。

2. 界壁発泡ウレタン問題
当時の社長により界壁等の内部充填剤として発泡ウレタンを使用する方向性が示され、一部の物件において界壁の内部充填剤として発泡ウレタンが使用されたが、図面等には、界壁の内部充填剤としてグラスウールを使用する旨が記載されている。ここでも、発泡ウレタンを使用するのかグラスウールを使用するのかという点について、図面等の不整合があり、かかる不整合がなぜ発生したのかが問題である。
より重要な問題点は、界壁の内部充填剤として発泡ウレタンを使用することにより、法令が要求する遮音性の基準値を満たしていない可能性があるとの点である。発泡ウレタンの使用については、当時の社長からのトップダウンの指示であったこともあって、開発段階で十分な性能試験が行われていなかったことがうかがわれ、当時の性能試験の実施状況や関係者の法令に関する意識等についても調査を行う必要がある。

3. 外壁仕様問題
外壁に使用するパネルが国土交通大臣認定とは異なる仕様で製造されており、パネルの製作図が不十分であったことがうかがわれる。そのため、各関係者の国土交通大臣認定に関する理解やパネルの製作図の作成過程等について調査を行う必要がある。
また、上記 2 と同様の経緯により、当時の社長の指示の下、外壁の内部充填剤として発泡ウレタンが使用されていたが、界壁発泡ウレタン問題と同様に、図面等には、外壁の内部充填剤としてグラスウールを使用する旨が記載されており、かかる図面等の不整合の原因が問題となる。
なお、平成 27 年 5 月から平成 30 年 7 月にかけて、外壁の内部充填剤として発泡ウレタンを使用した物件について改修工事の稟議申請がなされており、レオパレス 21 が外壁仕様問題を全棟調査の実施以前に認識していたとの疑いがある。

4. 天井部問題
一部の図面等では、どのような施工仕上げとするのか誤解を招くような表記となっており、資材発注部門や施工業者等における誤解が不備の原因となった可能性がある。誤解を招きかねない表記が行われていた理由及び経緯や、図面等の変遷・改訂の経緯等が問題となる。

5. 法規適合性及び品質・性能等のチェックに係る態勢
本件不備に係る物件の商品開発が行われた当時、レオパレス 21 には、法的問題を専門的に扱う部署や担当者は存在せず、商品開発段階における法的問題の検討の明確なルールはなかったものと思われる。また、商品開発に際して起用した外部の専門家との間でどのような検討がなされていたのかは、現時点までの調査でも明らかとなっていない。
レオパレス 21 は、品質保証課を設置し、工事主任による同行検査制度を導入するなどしていたが、これらの態勢が実際に機能していたのか等が問題となる。

<第 3  現時点における考え得る本件不備の原因・背景>

1. 組織的・構造的問題
これまでの調査によれば、①本件不備が複数の物件シリーズにわたり生じていたこと、②小屋裏等界壁問題等は調査対象物件の大多数で生じていたこと、③本件不備が数年間にわたって発生し、問題の発生から十数年後に至るまで問題として認識されてこなかったとされていること、④建築確認との不整合が無視されてきたこと等を総合すると、各種図面の不整合など、本件不備の原因・背景となる問題は、レオパレス 21 の一部の部署ないし役職員にとどまるものではなく、組織的・構造的に存在していた。問題は、これが全社的な開発・施工態勢のずさん・脆弱さにとどまるのか、意図をもって組織的に行われていたかどうかであり、更に調査が必要である。
また、工期の短縮や施工業務の効率化が求められていたことなど、レオパレス 21 の賃貸事業の特性が本件不備に大きく関係していたと思われる。
さらに、当時の社長の直轄部署であった商品開発部門における開発態勢が、法令や品質を軽視する原因・背景となっていたと思われる。

2. 開発・施工に係る仕組み上の問題
当時のレオパレス 21 においては、法規適合性や品質・性能等のチェックが十分に尽くされていなかったと思われる。
本件不備を直接引き起こした原因は、複数の異なる場面において生じていた可能性がある。商品開発部門における図面作成、支店の設計部門における図面作成、施工管理や施工業者による施工及び確認、資材発注部門における資材作成等における問題の有無について調査する必要がある。

<第 4  今後の方針>
当委員会としては、更に調査を進め、本件不備の原因の特定に努める。当委員会は、図面等の対照作業を進めているが、かかる作業には相応の時間を要することが予想される。
当委員会は、本年 5 月下旬をめどに、本件不備の原因分析、再発防止策の提言及び関係する役員(退任した者を含む。)の責任についての検討結果をレオパレス 21 に報告する予定である。

これが外部調査委員会の中間報告です。

 

所見

今回の中間報告は非常に慎重なトーンでまとめられています。

冷静に読めば、一部の施工不良の原因は、社長からの指示によるものではあるものの、そもそも社長指示が法令等に適合しているのか、性能はどうか等を社内で調査していなかった可能性があるとされています。

他社報道では「当時の社長が悪い」とのニュアンスが出ているように感じますが、本当にそれだけでしょうか。

レオパレス21は、そのビジネスモデルの特性上、アパートの完成を学生や社会人の新生活が始まるタイミングに間に合うよう工期の短縮が求められていたことは間違いありません。その全社的な「雰囲気」が今回の組織的な問題を引き起こした一因になっている可能性は高いでしょう。

レオパレス21の今回の問題は、日本における組織の問題を非常に強く感じさせられるものです。

確かに創業社長の指示があるのであれば、従業員が否定することは難しいでしょう。

しかし、工事監理を行っている建築士は図面と実際の施工が異なることを把握していたのではないでしょうか。

商品を開発する部署は、性能試験をしていなかったのでしょうか。法令等への適合性は誰が見ていたのでしょうか。

この問題は、根本的には経営者の責任です。それは揺るぎません。

経営者は、商品開発段階での法適合性・性能の確認を組織として行う仕組みを作る責任があり、工事がきちんと行われように仕組みを整える責任があります。

しかし、当時の社長に全責任を押し付けるのも問題ではあります。

各部署の従業員が果たすべき役割を果たすこともまた重要です。

雇われ人でしかない従業員が社長にモノを申すことは日本の組織では難しいのですが、この雰囲気や組織体制・人事制度等が日本の組織で起こっている近時の問題に直結しているものと筆者は考えています。

例えば、日産自動車のゴーン前会長の問題も、本来であれば企業の中で取締役会が内部調査を行い、問題を明らかにしてから警察・検察に届け出るのが正常なガバナンスが効いた会社ではないでしょうか。そして、ゴーン前会長が不正を働いたのであれば、それを正せる場面はあったはずです。暴走を許してしまったのは「上」にモノを申さない、申せない「雰囲気」なのです。

「上」の言った通りにしておけば良いという日本の組織における「空気」は日本に蔓延しているのではないでしょうか。

ただし、偉そうに書いている筆者も同じ立場になった時に正しいであろうことを実行できるかは分かりません。後から、他人が指摘することはいくらでも出来ます。

レオパレス21の問題は、一企業の問題ではないのかもしれません。日本における組織全体の問題であるように筆者は感じています。それをどのように解決していけば良いのかについて筆者は明確な解答をもっていません。しかし、もしかしたら日本の(幻想かもしれませんが)終身雇用の終焉や転職市場の拡大が、この問題を解決する一つの解になるかもしれないとは考えています。