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三井住友銀行の一般職廃止は不可逆であり時代の転換点~RPAのインパクト~

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三井住友銀行が一般職と総合職を統合するとの報道がなされています。

一般職を廃止する動きは銀行のみならず他業界でも行われてきましたが、銀行業界では業績が厳しいこともあり、人事制度の変更が今後相次ぐ可能性があります。

今回は一般職と総合職の統合について考察しましょう。

 

報道内容

まずは、三井住友銀行における一般職を総合職に統合する動きについて日経新聞の記事を引用します。

一般職、総合職と統合へ 三井住友銀
2019/03/01 日経新聞

 三井住友銀行は一般職を総合職と統合し、職種を一本化する方針だ。支店では顧客へのコンサルティング業務が増え、職責が総合職に近づいている。4月をめどに従業員組合へ申し入れ、労使協議を経て2020年1月の移行をめざす。職種の垣根をなくし、幅広く活躍できる環境を整える。
 現行制度では、2種類の総合職と一般職にあたるビジネスキャリア(BC)職の3職種がある。約2万9千人の従業員のうち、BC職は1万1千人程度。新制度では現在の業務を続けることもできる。新卒採用の募集でも総合職に一元化する。
 同行は定型的な業務を自動化するソフトウエア「RPA」(ロボティック・プロセス・オートメーション)を使い、グループ全体で20年3月末までに1500人分の業務量を削減する計画だ。銀行の来店客も10年間で約3割減るなか、職種のあり方を見直して付加価値の高い仕事に取り組んでもらう。

以上が三井住友銀行における一般職(ビジネスキャリア職)を総合職に統合するという内容です。

三井住友銀行は総合職が2職種あり、さらにいわゆる一般職のビジネスキャリア職があるという複数の制度を持っています。

そもそも一般職と総合職との違いとはどのようなものなのでしょうか。まずは、以下で確認しておきましょう。

 

一般職と総合職とは

一般職と総合職を理解するには、まず総合職について確認し、その対比として一般職を考えることが良いでしょう。

総合職とは「企業において総合的な業務に取り組む職」と定義されます。これだけだと何のことを指しているのか分かりづらいのですが、「複数の業務を経験し、将来的には会社の中枢を担う幹部候補生」と言えます。

また、多くの総合職の特徴として配置転換と転居を伴う異動があります。

入社(銀行だと入行)後は、本人の希望や適性、そして何よりも会社側の事情に応じて配属が決まります。銀行だと、窓口業務、事務担当者のような営業店への配属から、本部の企画や人事、サービス毎の専門部まで幅広い部署に配属になる可能性があります。

もちろん、最初の配属先が個人への営業部門だったとしても、数年後に別の部署(本部や法人部門)へ異動する可能性もあります。

様々な業務に就く可能性があるのが総合職なのです。

別の言い方をすれば、何をするかが決まっていないのも総合職です。

一方で、一般職とは、「企業において定型的な一般業務に取り組む職」のことです。

基本的に転居を伴う異動がないことも特徴の一つです。

一般職はその職種の生まれた経緯から「総合職をサポートする仕事を行う縁の下の力持ち」と言うのが正しいでしょう。業務内容はある程度限定されており、基本的にはマニュアルに則って行う定型業務です。

 

総合職と一般職が生まれた背景

総合職という職種が生まれた背景は、一言で言えば高度成長時代という時代背景です。

企業が規模も事業も急激に拡大させていく時代であり、新しい営業店、事業所、部署が次々と生まれていきました。その企業の拡大に合わせて柔軟に従業員を移し、配置する必要があったのです。

日本では就職と言いますが、実際には「就社」であることが今でも一般的です。この就業感覚は高度成長時代の働き方が影響しています。

「自分はこの仕事をしたい」という人よりも「会社の言う通り何処へでも、何でもやる」という人が貴重な人材として扱われました。会社は、仕事内容や勤務場所について文句を言わせない代わりに、従業員に相応の処遇(特に終身雇用)を提供してきたのです。

そのため、特に新卒者は、仕事内容ではなく、会社名で就職先を選んできたのです。そして入社してからは、会社への忠誠心を求められました。

これが総合職の生まれた背景と言えます。

一方で、企業の根幹として働く総合職の仕事量が多忙になるにつれて、事務作業や雑用を処理する人も必要となりました。大量の事務作業は紙で行われなければならず、昼間に営業で外に出ている総合職は帰社してから長時間残業をして事務作業をこなしました。

この時期に女性の社会進出により、女性の仕事・職場が求められ始めました。当時の結婚観は「女性は結婚したら家庭に入り、専業主婦になって家事と子育てに専念する」というものでしたから、女性の就職は一時的なものであり「腰かけ」と言われていました。そのため転居を伴う異動はあり得ませんでした。結婚した女性がそのまま企業で働くというのも暗黙の了解として認められていない企業が多かったのではないでしょうか。「寿退社」という言葉は一般的でした。そのような総合職のサポートを行い、かつ転勤がない職種として一般職が生まれたのです。

 

今後の動向

銀行業界では、上記のような総合職と一般職の垣根は崩れつつあります。主に一般職の業務を限定することなく、さらに幅広い働き方・業務を求めるという流れです。この背景は、不良債権処理や低金利環境下で利益確保が難しくなってきた銀行がコスト削減のために一般職の一人当たりの業務量増加を求めてきたというものです。

それでも、銀行で言えば、営業は総合職、事務は一般職という区分けは概ね一般的だったのです。

筆者は、銀行では実質的に一般職を無くすのは難しいと考えていました。

その理由は、大量の書類事務があるためです。

一般職を無くした銀行も結局は何らかの形で一般職を復活させた理由は、この事務にあります(もしくは総合職と言いながら実質的に一般職の業務を行っていることもあります)。

例えば、転居を伴う異動がある総合職と転居を伴わない総合職の2職種に人事制度を整理したとしても、実質的には転居を伴わない総合職がいわゆる一般職的な業務を行うことになってきました。誰かがやらねばならない仕事なのです。

銀行はマニュアル文化であり、定型的な事務作業が大量に存在します。この業務はマニュアルに基づくだけあって、前例踏襲の業務が多く、本当の意味での創造性や新たな判断は必要とされません。間違いさえなければ良いので総合職が行わなくても良いとされてきた業務です。転勤のない総合職は一つの営業店や部署への在籍が長くなることが多く、そうすると前例踏襲の業務における「前例」に精通することになります。そのため、(自然なのか、管理職の意図的なのかは置いておいて)実質的に一般職の業務を行うことになるのです。

しかし、現在は定型的な業務を自動化するソフトウエア「RPA」(ロボティック・プロセス・オートメーション)が実用段階に入ってきました。そして、光学読取のOCRの精度が上がってきています。手書きの書類ですらデジタルデータに変換できるようになればRPAで扱うことのできる業務範囲は格段に向上するでしょう。

すなわち、銀行の「大量の間違ってはいけない紙の事務」がRPAで実際に処理できる可能性が出てきたのです。そうすれば、銀行に一般職は必要なくなる可能性が高くなります。

銀行の事務は「非人間的」な業務です。人間というのは間違いを起こすのが当たり前ですが、銀行の事務は間違いを許しません。大量の事務をマニュアルに従って、すばやく、正確にこなすことが評価されます。間違いを許さないために、再鑑・検印として複数の目を通します。結局、間違いを許せないから多大な時間・人的コストを支払って事務が行われています。

しかし、定型的で正確・迅速が要求される業務では、人間はロボには勝てません。RPAが土俵をひっくり返す可能性が高くなってきたのです。筆者は様々な銀行員を見てきました。「非人間的な事務作業」から解放されることは一時的には雇用を減らすかもしれませんが、長い目で見た場合には、本人にとっても会社にとっても非常に良いことだと考えています。

「入社して配属されないと、どのような仕事が出来るか分からないこと」「自分の意思に関係なく違う職種に異動させられたり、転居を伴う異動をさせられること」は時代遅れと言われています。このような働き方は、今の時代の社会人の生き方に合わなくなってきているとされています。だから、総合職とか一般職という職種を残している企業はダメだとされる論調もありますが、これには筆者は違和感を覚えてきました。店舗や事務所は全国に点在し、大量の事務処理への対応も必要という観点で現実に合わないからです。

しかし、RPAの登場はこの現実を変える力を秘めています(期待しすぎでしょうか)。日本で長らく続いてきた総合職と一般職という職種を無くす動きをRPAが果たすという期待をしたいと思います。そして、銀行における一般職が担う「非人間的な」業務が無くなっていくことを強く期待します。