銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

JR北海道は今後も存続可能か~JR北海道の決算分析~

f:id:naoto0211:20181201155341j:plain

北海道旅客鉄道(JR北海道)の経営が厳しいと報道されています。

地方は人口減少、過疎化が進み、交通インフラもそれに伴い乗車人数が減少しています。インバウンド等の観光での利用も路線が限定されています。

では、鉄道事業とは、どの程度厳しいのでしょうか。もしくは、どの程度赤字となっているのでしょうか。

今回はJR北海道の決算状況について見ていくことにしましょう。

 

JR北海道の状況 

まずは、近時のJR北海道の経営状況を確認しましょう。以下、日経新聞の記事を引用します。JR北海道の置かれている状況が分かるでしょう。

JR北、23年度に資金不足400億円 社長が見通し
2018/11/29 日経新聞

 経営再建中のJR北海道を巡り、北海道議会の地方路線問題調査特別委員会は29日、JR北の島田修社長ら幹部を参考人として招致した。島田社長は同社への国の支援が2021年度以降も続いたとしても、22年度に資金ショートに陥り、23年度には約400億円の資金不足になる恐れがあるとの見通しを示した。北海道新幹線の収支均衡など赤字構造の抜本的な解消が必要になる。
 国土交通省は同社に対し、19~20年度に総額400億円程度の財政支援をすると決定。一方、同社が示した23年度までの収支見通しでは21年度以降も国からの年間200億円の支援が続くと仮定。それでも現在の赤字体質を改められなければ22年度に資金ショートに陥るとの見方を示した。
 資金不足は22年度に200億円程度、23年度に400億円程度と予測。赤字線区のバス転換などにかかる費用300億円や利用者の少ない線区の維持費、北海道新幹線の収支均衡などの課題解決が必要で、国や地元の支援を求めた。島田社長は資金不足の回避について「赤字解消に向けて具体的な議論が前進することが肝要だ」と述べた。

以上の通り、JR北海道は赤字体質を改められなければ資金ショートに陥る可能性があるとJR北海道側がシミュレーションしています。

では、JR北海道の経営はそこまで厳しいのでしょうか。

もう少し詳しく決算状況について見ていきましょう。

 

JR北海道の決算状況

JR北海道は非上場企業ですが、決算を公表しています。

2019年3月期中間決算(2018年4~9月)のポイントをJR北海道は以下の通り記述しています。

<連結決算のポイント> 
  • 営業収益は、9月に発生した台風 21 号及び北海道胆振東部地震により、運輸業セグメントで鉄道運輸収入が14億円減少するなど、大きな影響を受けました。これらの影響も合わせ、営業収益は前年に対して34億円減少した828億円となりました。
  • 営業費用は、安全の再生のためJR北海道で修繕費が増加しましたが、その他の費用が減少したことと、グループ会社においても売上の減少に対応した費用の減少などもあり前年に対して10億円減少した998億円となりました。
  • 営業利益は、170億円の赤字となり、第2四半期連結決算の公表を開始した平成12年度以降、過去最大の赤字となりました。
  • 営業外損益において経営安定基金資産の評価益を一部実現化しましたが、経常利益は1億円の赤字となり、親会社株主に帰属する四半期純利益は11億円の赤字となりました。
<連結通期業績予想のポイント> 
  • 営業収益は、鉄道運輸収入において震災の影響により年間17億円の減収を見込み、グループ全体では25億円減収となる見通しです。
  • 営業利益は、JR北海道の修繕費や震災のバス代行経費等の増加を計画することから25億円下方修正し、連結でも同額の下方修正をした425億円の赤字です。
  • 特別損失に、震災の復旧費用5億円を計画することから、単体の当期純利益は209億円の赤字となり、連結の親会社株主に帰属する当期純利益は175億円の赤字となる大変厳しい見通しです。

この説明だけ見ると、震災の影響によりJR北海道の業績が厳しいと認識するのではないでしょうか。もう少し詳しく決算の状況を見ていくことにしましょう。

 

決算数値(2019年3月期中間決算)

JR北海道の業績数値は以下の通りです。あくまで6ヵ月の累計業績です。
  • 営業収益 828億円
  • 営業費用 998億円
  • 営業利益 ▲170億円
  • 経常利益 ▲1億円
  • 当期利益 1億円
まず単純化すると営業収益(≒収入)よりも営業費用(≒支払)が大きいため、JR北海道は営業赤字となっています。しかし、経常利益段階では赤字幅が急激に減少しています。これがJR北海道の決算の全体感です。
更に以下の数値を見てください。上記の決算数値を更に分解したものです。
  • 営業収益 828億円
  • うち、鉄道運輸収入 350億円
  • ※鉄道運輸収入のうち新幹線収入46億円
  • 営業費用 998億円
  • うち、運輸業等営業費および売上原価 865億円
  • うち、販売費及び一般管理費132億円
  • 営業利益 ▲170億円
  • 経常利益 ▲1億円
  • うち、経営安定基金運用収益 142億円
  • うち、特別債券受取利息収益 27億円
すなわち、JR北海道の売上高のうち、鉄道運輸収入は350億円しかありません。
また、営業利益から経常利益にかけて赤字幅が急減しているのは、営業外損益での経営安定基金運用収益と特別債券受取利息収益の効果です。安定基金運用収益と特別債券受取利息収益については後述します。
更にセグメント別の売上・利益を確認しましょう。
 
<セグメント情報>
  • 運輸業 売上高472億円、利益▲222億円
  • 小売業 売上高173億円、利益4億円
  • 不動産賃貸業 売上高131億円、利益35億円
  • ホテル業 売上高41億円、利益7億円
  • その他 売上高184億円、利益6億円
  • 内部売上消去(調整) 売上高▲176億円、利益▲2億円
運輸業は鉄道のみならず、バス等も含まれます。
JR北海道の業績は運輸業が大幅な赤字となっています。
他の事業は黒字ですが運輸業の赤字を補うほどではありません。
このセグメント利益を見れば分かりますが、JR北海道は「運輸業を廃業」すれば黒字の企業になります。
次に貸借対照表を確認しましょう。
 
<貸借対照表>
(資産の部)
  • 流動資産 782億円
  • 固定資産 3,670億円
  • 経営安定基金資産 7,605億円
  • 機構特別債券 2,200億円
  • 資産合計 14,258億円
(負債の部)
  • 流動負債 574億円
  • 固定負債 2,165億円
  • 機構特別債券引受借入金 2,200億円
  • 純資産 9,319億円
  • 負債純資産合計 14,258億円
JR北海道の貸借対照表は非常に特徴的です。
総資産の半分超が鉄道事業の資産ではなく、経営安定基金資産です。
また機構特別債券も大きな資産の割合を占めています。 
経営安定基金はそのほとんどを有価証券が占めています。これはJRが民営化された際に国から注入された基金です。当該基金を運用し、その運用益で鉄道事業を維持するのです。
また、機構特別債券は国からの補助政策です。国(実際には独法)から2,200億円を無利息で借り入れ、年2.5%で運用できる債券を購入しています。年間55億円の補填となります。これは、上記基金だけでは鉄道事業の赤字を補填できないため、国が追加支援を行ったものです。
 

まとめ

JR北海道の業績は以上の通りの数値となっています。
すなわち、鉄道事業(運輸業)は完全に赤字事業であり、それを国から注入を受けた基金等の運用益でカバーしているということになります。
これは、見方を変えれば、民営化されているとはいえ、国からの支援がなければ事業が成り立っていないということになります。
このような経営状態であるにもかかわらず、JR北海道は新幹線の事業も開始しています。(2017年度では▲98億円の営業赤字)
通常の民間企業であれば、本業の赤字がここまであれば成り立ちません。国からの支援が存立の前提となっている企業なのです。
そして、国からの支援が前提となっているからこそ、不採算路線を廃線できないのです。これは本質的ではありません。JR北海道は民間企業でありながら、民間企業のような経営ができないのです(実際にはJR北海道の株式を保有するのは国ですが)。本来必要な抜本的な対策、コスト削減が難しいということです。
JR北海道の決算分析から分かることは、北海道の鉄道事業はこのままであれば存続しないということです。