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米シアーズ(Sears Holdings)の破綻報道は、米国小売破綻ドミノの前触れの可能性

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(写真は旧シアーズ・タワー/現在は名称変更)

米小売大手シアーズ(Sears Holdings Corporation)が米連保破産法11条(いわゆるチャプターイレブン≒日本における民事再生法)を申請すると報道されています。

一時期は通信販売で成功し、世界最大の百貨店(日本で言うとGMS)となり、世界最大のビルを建て、我が世を謳歌したのがシアーズです。

近年は厳しい業績が続き、2005年にはKマートに買収され(買収後もシアーズの名称を引き続き使用)、現在に至ります。

今回は、このシアーズの業績動向について簡単に見ていくことにしましょう。

 

報道記事

シアーズはまだ破産法適用申請は行っていない模様です(2018年10月14日現在)。

シアーズの破産法適用申請に関する記事としてロイターの記事を引用します。

米シアーズ、破産法適用申請を準備 数日中にも=関係筋

2018年10月11日

[10日 ロイター] - 米小売大手シアーズ・ホールディングスが数日中にも米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請する見通しであることが10日、関係筋の話で明らかになった。

関係筋によると、ランパート最高経営責任者(CEO)と特別取締役会は共に、裁判所の監督に基づく手続きのみがシアーズの将来を決定付けるとの結論に至ったもようで、現在、DIPファイナンス(事業再生融資)の手配に向け協議中という。

シアーズは15日に1億3400万ドルの債務返済期限を控えており、CEOと特別取締役会に解決策模索への圧力となったもようだ。

CEOとシアーズの広報担当者はコメントを控えた。

シアーズは1960年代には小売世界最大手として名を馳せたものの、インターネット通販のアマゾン・ドット・コムや他の小売業からの競争に押され業績不振が続いており、これまでにも破産法適用申請の可能性を示唆していた。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は前日、シアーズが破産申請に向けて助言会社のM─IIIパートナーズと契約したと報じた。

シアーズの株価は10日午後の段階で31%安の40.5セントとなっており、同水準で計算した時価総額はわずか4000万ドルだ。株価は10年前には100ドルを超える水準にあったが、この1年で1ドルを割り込んだ。シアーズの債務残高は8月4日時点で50億ドル。

シアーズは赤字が7年続いており、2008年の金融危機以降、売上高は伸び悩んでいる。

 これが直近の報道内容です。

 

業績推移

シアーズの業績はかなり厳しいようです。

では、シアーズの足元の業績が実際にどのような状況にあるのかを確認していきましょう。

<2018年中間決算>(単位:百万米ドル) 

①P/L

  • 商品売上高 4,640(前年同期比▲2,103、▲31%)
  • サービス等売上高  1,433(前年同期比▲301、▲17%)
  • 売上高合計   6,073(前年同期比▲2,404、▲28%)
  • 商品販売粗利益  686(前年同期比▲463、▲40%)
  • 商品販売粗利益率 14.8%(前年同期比▲2.2%)
  • サービス等粗利益 621(前年同期比▲133、▲18%) 
  • サービス等粗利益率 43.3%(前年同期比▲0.2%)  
  • 粗利益合計 1,307(前年同期比▲596、▲31%)
  • 販管費  1,770(前年同期比▲574、▲24%)
  • 営業利益  ▲419(前年同期比▲909、赤字転落)
  • 当期利益  ▲932(前年同期比▲927、赤字幅拡大)  

②B/S

  • 現預金 182(前年同期比▲30、▲14%)※年金資産としての現預金控除後
  • 商品在庫 2,798(前年同期比▲635、▲18%)
  • 不動産・設備 1,729(前年同期比▲240、▲12%)
  • 総資産 7,273(前年同期比▲1,094、▲13%)
  • 短期借入金 915(前年同期比+369、+68%)
  • 1年以内返済予定の長期借入金等 968(前年同期比▲84、▲8%)
  • 流動負債合計 4,922(前年同期比▲52、▲1%)
  • 長期借入金等 2,249(前年同期比▲156、▲6%)
  • 固定負債合計 10,999(前年同期比▲1,024、▲9%)
  • 純資産 ▲3,726(前年同期比▲70、債務超過額拡大)

③店舗数

  • 2018年8月4日現在 866店舗(前年同期比▲384、▲31%)
以上がシアーズの2018年上半期の業績です。
ポイントとしては以下が言えるでしょう。
  • 商品販売額は約3割減少し、商品販売にかかる粗利益は約4割減少
  • 一方でサービス売上の減少額・率は、商品販売に比べて落ち込みが少なく、特に粗利益率はほぼ横ばいにて着地
  • そのため、売上高合計は約3割弱の減少、粗利益率も約3割の減少に留まる
  • しかし、販売管理費が売上高、粗利益の減少に追いつかず赤字幅は拡大
  • 店舗数については約3割減少しているため、既存店売上高はほぼ横ばいに留まっている可能性あり
  • 現預金182百万ドルに対して、短期借入金915百万ドル、1年以内に期限が到来する長期借入金等が968百万円、合計1,883百万ドル
  • 現段階では最終利益(Net income)+減価償却等(Depreciation and amortization)で赤字であり、営業キャッシュフローは赤字と想定される状況
  • 債務超過であり財務内容も悪く、銀行等からの借入調達力は弱い
  • すなわち、借入について返済期限が到来し銀行等から残高の返済を求められるのであればシアーズは資金繰り破綻することは間違いなく、かつ営業キャッシュフローが赤字と想定されるため、借入を行わなければ、そもそも資金繰り破綻する可能性もある状況

これがシアーズの業績動向・決算動向となります。

 

所見

米国の小売り市場は、店舗閉鎖のニュースが急激に増えました。トイザらス(Toys R Us)の破綻も話題となりました。

Amazon.comの影響を論じる報道が多いようですが、米国のデータとしてはもう一つ注目しておくべきものがあります。

それは「米国の消費者一人あたりの小売業の売り場面積」です。この消費者一人当たりの小売店舗の広さは、米国が他国を圧倒しています。以下の図をみれば良く分かるでしょう。

例えば、日本の一人当たりの小売りスペースは米国の約5分の1です。

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ライフスタイル(車中心社会等)、消費動向(毎日スーパーに買い物に行かない等)、物流事情等、米国は日本とは異なるとは言える(あくまで総体としてですが)かもしれません。しかし、店舗スペースが全てではないでしょうが、それでも米国の小売りは効率が悪い可能性はあります。
すなわち、シアーズのみならず、米国の他小売りもこれからも店舗撤退に追い込まれる可能性があるということです。
世界一の百貨店とまで言われたことがあるシアーズの破綻報道は、米国の小売業を取り巻く環境が急激に変化していっていることの証左です。
日本でも総合スーパー(イトーヨーカドー、イオン等)、百貨店(そごう・西武、三越伊勢丹等)の業績苦戦や店舗閉鎖がニュースとなりますが、米国では動きが更に早いのです。
アマゾン・エフェクトとまで言われるネット小売の拡大による「リアル店舗小売への影響」等は米国においては日本以上に現れてくるでしょう。シアーズの業績は7年連続で赤字状況なのです。
世界一だったシアーズの破綻報道はこのような問題を浮き彫りにしているのです。