銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

スルガ銀行の収益還元法による不動産評価という新しくて古い問題

 

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シェアハウスオーナー向け融資等、スルガ銀行による投資用不動産融資問題が表面化して暫く経ちました。

通帳残高偽造の事象が有名になりましたが、それ以外にスルガ銀行の不動産評価についても問題があったことが明らかになってきています。

今回は、スルガ銀行が行っていた不動産担保評価の問題点について考察します。

 

報道内容

まずは、問題の概要を掴みましょう。以下で日経新聞の記事を引用します。

不動産の「収益還元法」、甘い皮算用
2018/10/10 日経新聞

 (中略)
 なぜ、1億円規模の高額にもかかわらずシェアハウス投資は流行したのか。現在、足立区や練馬区では100棟以上のシェアハウスで同様の問題を抱えているもようだ。経緯をひもとくと、不動産の価値を実際より高く見せかけて利益を得る巧妙な営業の手法が浮かび上がる。
 実態を覆い隠すために使ったのが「収益還元法」と呼ばれる不動産の鑑定手法だ。将来生み出す家賃などの収益から修繕費など費用を差し引いて不動産の価値を計算する。スルガ銀とスマートデイズを巡るシェアハウス投資の問題では、資料の改ざんなどで賃料や入居率を実際より高く見せかける不正が横行していた。実勢より2倍以上の高い家賃収入を保証し、「立地の良さ」も理由に物件価格をつり上げられるというわけだ。
 金融庁もスルガ銀への行政処分の理由で「収益還元法で不動産を評価することにより、割り増された不動産価格が算出された」と認めた。
(中略) 
 本来、収益還元法は不動産価格の過熱を抑える役割を期待されていた面もある。バブル景気に沸いた時代、高騰する土地の取引価格に対してリターンから不動産価格を測る収益還元法はブレーキ役になりえた。しかし、シェアハウス投資では収益還元法を逆手に取り、高額の取引に悪用した。
 少しでも良い条件で不動産を取引したいとの思惑は売り手と買い手に共通する。アベノミクスが始まって以降、不動産価格は右肩上がり。最近は不動産投資信託(REIT)の物件でも「賃料の収入を高めに見積もる動きが目立つ」との指摘が出ている。不動産の価値を測る手法を使いながら、その客観的な確認が十分なされていなかった点にこそ、シェアハウス投資の落とし穴がある。

これが、スルガ銀行が陥った不動産評価の問題です。

 

収益還元法とは

上記の収益還元法とはどのようなものでしょうか。説明は以下の通りです。

収益還元法とは

不動産鑑定評価において、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される収益をベースとして対象不動産の価格を求める手法のこと。この収益還元法による試算価格を「収益価格」という。

収益還元法は、さらに直接還元法とDCF法に分けることができる。

直接還元法とは、ある一期間の純収益(総収益から総費用を控除した残額)をある一定の利回り(これを「還元利回り」という)で割ることで、収益価格を求める方法である。
またDCF法とは、連続する複数の期間におけるそれぞれの期間の純収益を、各期間に対応した割引率で割ることにより現在価値へと換算し、それらの現在価値の合計値を収益価格とする方法である。
(出典 (株)不動産流通研究所「R.E.words」)

誤解を恐れずに、かつ簡単に理解するなら、収益還元法は「費用を払った後の賃貸収入」を「投資家等が求める利回り」で割って物件評価(価格)を求める方法です。

例えば、年間賃料が2億円、年間諸費用が1億円、同じクラス・立地の不動産に投資家等が求める期待利回りが年間5%である物件があるとします。

この物件の収益還元法による評価は、(2億円-1億円)/5%=20億円となります。

収入と費用が分かれば、残りは対象物件の投資家等が期待する利回りを想定すれば良いのです。

この評価方法は、不動産業界では分かりやすく計算もしやすいことから一つの見方として普及してきます。

また、銀行の不動産評価にも通常は取り入れられています。

収益還元法は、上述の記事にもあった通り、収益も生まないような不動産でも価格が高騰したバブル時期の反省を踏まえて普及しました。きちんと収益があるからこそ、裏付けがあるからこその不動産価値なのです。

 

所見

収益還元法は上記の通り、考え方は簡単です。そして、使い方によっては有効な手法です。

近時では、投資家等が期待する利回り、すなわち還元利回り、キャップレートが低下することにより、不動産価格が上昇してきました。

マイナス金利政策が導入される等、債券のような運用商品の利回りが低下してきました。それに伴い不動産に求める投資家の利回り目線も低下してきたのです。

一部の不動産事業者はキャップレートを低く見積もることにより、高値の不動産取引を正当化してきたことは間違いないでしょう。

しかし、スルガ銀行のケースは異なるものでした。不動産に関わったことのある誰もが考えたことがあるほど「幼稚な」ものと言えるかもしれません。

すなわち、賃料の方をごまかしたのです。

賃料はある程度のデータが業者から取れます。

また、賃貸アパートやマンションであれば、ネットを探せば入居者を募集している物件がいくらでも見つかるでしょう。

賃料は客観的データがあり、ごまかし難いのです。

しかしながら、スルガ銀行の場合は、シェアハウスということで、(新たなビジネスモデルとして)高い賃料設定を受け入れたのかもしれません。

常識で考えれば、これはおかしいでしょう。そんなにシェアハウスが儲かるならば、家主は皆が真似をして、シェアハウスに改装するでしょう。シェアハウスの家賃が相対的に高いならば、ワンルームに住む入居者も増えるでしょう。

これが常識で判断するというものです。

スルガ銀行の不動産評価の問題は、考え方によっては非常に古典的な事例です。収益還元法という比較的新しい評価方法を使っていても、「ごまかし方」は、典型的で過去からあるものなのです。