スルガ銀行のシェアハウス「かぼちゃの馬車」問題から始まった不適切融資に関する問題が連日報道されています。
直近ではスルガ銀行の不適切融資が1兆円に迫るとされており、8月22日には株価がストップ安となりました。
今回は、このスルガ銀行の不適切融資問題について簡単に考察しましょう。
報道内容
スルガ銀行の株価が急落するきっかけとなった報道から確認していきましょう。
以下、日経新聞の記事を引用します。
スルガ銀、「不適切融資」1兆円 書類改ざんなど
2018/08/21 18:00 日経速報ニュースシェアハウス投資に絡む不正融資を巡り、スルガ銀行の第三者委員会が実施した調査の概要が21日、分かった。審査資料の改ざんなど不適切な行為に基づく融資が1兆円規模にのぼるとした。スルガ銀は第三者委の調査結果を受けて、経営責任の明確化を含めて抜本的な体制刷新を迫られる。
同行は地銀のなかで突出して高い収益率で知られてきたが、無理を重ねていた実態が改めて浮き彫りになった。長引く超低金利や地域経済の地盤沈下は地銀の経営を圧迫している。過剰なノルマが不適切な融資を誘発する懸念は他の金融機関にもある。
スルガ銀では不適切な手続きによる融資が横行していたが、財務内容の悪化に直結するわけではない。審査で不適切な行為があっても、融資先のアパート経営は順調な例も多いためだ。同行は6月にシェアハウス以外の投資用不動産融資が焦げ付くリスクに備えて2018年3月期に155億円の貸倒引当金を追加計上。18年4~9月期に実施する資産の自己査定で、さらに詳しく調べる方針を明らかにしている。
第三者委(委員長=中村直人弁護士)は8月末にも調査報告書を公表する方針だ。不適切な手続きが横行していたのはシェアハウスのほか、アパートやマンションを含む投資用不動産融資だ。
同行の融資総額は3兆1500億円で、このうち投資用不動産融資は約2兆円。不動産関連融資は1兆円程度とみられていたが、「住宅ローン」として公表していたものにも含まれており、2倍に膨らんだ。融資総額の3割超、不動産融資の半分程度が不適切に実行されていた。
不適切な手法の一つが二重の売買契約書だ。行内ルールでは融資上限を物件価格の90%としている。販売業者が借り入れ希望者と結ぶ契約書には実際の物件価格を表記するが、販売業者がスルガ銀に出す契約書の物件価格は実際より高くする。それを行員が見逃すことで全額を融資していた。
中古のアパートやマンションへの融資でも、入居率や家賃収入などを記載した書類が偽装されている事例が見つかった。稼働率の高い優良な物件に見せる手口として使われていた。第三者委関係者によれば、手続きに何らかの不適切な行為が入り込んでいるのは投資用不動産融資の過半に達しているという。
経営を監督する立場にある取締役らについては、民法上の規定で株主などから委託を受けて注意深く業務を遂行する「善管注意義務」に違反したと認定する方向だ。
同行に立ち入り検査中の金融庁は、第三者委の調査結果も踏まえてスルガ銀の経営責任を厳しく追及する構え。不適切な営業や審査に関与した行員は全従業員の2割にあたる300人以上にのぼるとみられる。
この記事は、日経新聞のいわゆるスクープといえるものでしょう。
スルガ銀行の発表等
上記日経新聞の報道を受けて、スルガ銀行は以下の通りプレスリリースを行いました。
以下2つのリリースは時系列通りの順番です。
当社の不適切融資に関する一部報道について
2018年08月22日
2018年8月22日付の日本経済新聞において、第三者委員会が実施した調査の概要として、審査資料改ざんなどの不適切融資が1兆円規模にのぼる等の報道がなされましたが、当社は第三者委員会からの報告を受けておらず、内容を把握しておりません。
以上
第三者委員会の調査は継続中であり、現在、調査報告書は受領しておりません。第三者委員会からは、8月末を目途としているものの時期は未定である旨のコメントを頂いております。調査報告書を受領した際には、速やかに開示する予定です。
当社の融資については、既に必要な引当金を計上しておりますが、2018年8月9日に公表した2019年3月期第1四半期決算短信でもお知らせしたとおり、2018年9月末基準で実施する貸出金の自己査定において対象拡充等の検討をすすめており、また、第三者委員会の調査報告書の内容を踏まえて、必要に応じて、今後貸倒引当金の積み増しを行なう可能性があります。
当社に関する一部報道について2018年8月22日
本日、第三者委員会が実施した調査の概要の報道がございましたが、第三者委員会より、本日の報道は当委員会が公表したものでない旨、連絡がありましたのでその旨ご報告いたします。
以上
これがスルガ銀行のプレスリリースでした。
もちろん、スルガ銀行にはこれ以上のコメントは無理でしょう。また、同行が第三者委員会の調査報告内容について現時点で認識していたとしても発表できるものでもないでしょう。
報道内容②
2018年8月22日のスルガ銀行の株価等についての記事は以下の通りです。Bloombergの記事を以下引用します。
スルガ銀株ストップ安、7年超ぶり安値-不適切融資1兆円の報道
Bloomberg 中川寛之
2018年8月22日 9:35 JST 更新日時 2018年8月22日 15:24 JSTスルガ銀行株は22日の取引で値幅制限いっぱいのストップ安で取引を終えた。シェアハウス向け融資に絡んだ不適切融資が1兆円規模にのぼると伝えられ、7年超ぶりの安値となった。
売り気配で始まったあと、株価はすぐにストップ安となる前日比150円(19%)安の620円まで急落。東日本大震災直後の2011年3月以来の安値となった。日中下落率は4月18日以来の大きさ。あとは終日ここから動かず、同水準で引けた。スルガ銀の不正融資問題を調べている第三者委員会の調査概要として日本経済新聞が報じたところによると、融資総額3兆1500億円のうち投資用不動産融資は約2兆円で、シェアハウス向け融資の審査書類の改ざんなど不適切融資が1兆円規模にのぼるという。調査報告書は8月末にも公表される見込み。
スルガ銀行は報道を受けて「第三者委からの報告を受けておらず、内容は把握しておりません」との文書を発表。貸倒引当金については必要に応じて今後積み増す可能性があるとした。東証は第三者委の調査内容に関する不明確な情報が報道されているとして、注意喚起情報を出した。
SMBC日興証券の佐藤雅彦アナリストらはリポートで、これが事実であれば「従来の報道の中で最もネガティブな印象」とし、今後、自己資本比率の大幅な低下の可能性があると指摘した。第三者委の報告の後、金融庁は行政処分を下す見通しだが、同行が単独で経営再建を図るか、公的支援や他の金融機関の支援を仰ぐのか、今後の枠組みが決まるには時間が掛かるだろうとした。
JPモルガン証券の西原里江シニアアナリストは報道を受けて「最悪はまだなのか?」とした上で、目標株価を従来の950円から630円に引き下げた。
(株価終値を入れ、スルガ銀の発表内容も追加しました.)
以上が日経新聞の報道に端を発する2018年8月22日の報道、プレスリリース等です。
所見
第三者委員会の発表が出ていない中では確定的なことは当然に言えませんが、直近の報道だけを勘案すると、以下の通りとなります。
- 不適切融資の規模が1兆円であること
- 不適切融資とは「銀行内の融資基準・マニュアル等を逸脱等している」が、法的に問題があるかは不明であること
- 不適切融資が、そのまま不良債権となるかは現時点では不明であること
これが報道によって想定される事象です。
それに対して以下が事実として指摘できます。
- スルガ銀行の自己資本は2018年6月時点でも3,000億円強残っていること
- PBR(純資産倍率)は0.42倍(2018年8月22日時点)であること
- 2019年3月期1Q決算(=2018年4~6月)では、金融再生法開示債権は前年同期末比1,064億円増加(6月末時点で1,356億円 ※3月末時点では722億円)しており、総与信に占める開示債権比率は前年同期末比3.38%上昇し、4.27%(※3月末時点では2.20%)まで既に上昇しており、2018年3月末比でも不良債権の引当は急激に進んでいること
- スルガ銀行の預貸金利ざや(全体)は前年同期比0.11%縮小しているが2.16%と他行比高水準を維持していること
- コア業務純益(2019年3月期1Q)は、資金利益減少等により前年同期比17億円減少の142億円となっているが、この水準は2016年4~6月期(1Q)と同水準であり、同行の収益力は急低下していないこと
- 第三者委員会の発表内容や同行の査定等によっては、自己資本をさらに棄損する可能性はあるものの、上記報道でJPモルガンが目標株価を630円に引き下げた(2018年8月22日終値=620円)ことから分かる通り、スルガ銀行の株価は売り込まれすぎの可能性があること
- 金融庁がスルガ銀行の経営陣を一掃する可能性はあり、同行の強みであった高い収益力も低下する可能性はあるものの、貸出債権の多くが事業用不動産融資であるとすると長期間に渡って貸出の返済を受けるため「急激には収益力が低下しない可能性がある」こと
- スルガ銀行の一連の問題は「不適切」ではあるが「法令違反ではない」事象とされる可能性があること
- 他地銀とスルガ銀行が統合に追い込まれる可能性はあり、その場合は統合時の株価(例:合併の場合の合併比率)が株主にとって悪い方向となる可能性もあること
スルガ銀行の中長期的な存続は筆者にも分かりません。恐らく、同行の強み(リスクを取る、スピードで勝負する等)は無くなっていく可能性が高いでしょう。経営陣も大幅に入れ替えとなり、従業員にも大量の処分者が出て入れ替えがある可能性もあります。金融庁の検査次第では、最悪の場合、免許はく奪もあるでしょう(筆者はこの可能性は非常に少ないとは思いますが)。
しかし、同行の株価が売り込まれすぎであることも十分にあり得ます。
現在はバッシングを浴びており、今後の動向も不透明ではありますが、長い目で見た場合、もしかしたら投資のチャンスだった可能性もあるのです。
この観点は株式投資家である場合には忘れないようにしても良いかもしれません。
(筆者はあまのじゃくであるため、このように考えているだけかもしれません。投資はあくまで自己責任でお願いします。)