銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

TLAC(総損失吸収力)とは

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TLACという言葉をお聞きになったことはあるでしょうか。

巨大金融機関の経営破綻時に公的負担を回避すべく導入された新規制です。

2018年4月に野村ホールディングスが規制対象になりました。

今回はこのTLACについて確認していきます。

TLACとは

まずはTLACという用語について定義を確認しましょう。

TLAC (てぃーらっく)
英語表記「Total Loss-Absorbing Capacity」の略で、「総損失吸収力」のこと。
日米欧などの金融当局で構成する金融安定理事会(FSB)が制定した新たな資本規制の基準です。破綻した場合に金融市場への影響が大きい巨大銀行に対して、経営難に陥った際に税金(公的資金)で救済しなくてもすむように、資本や社債の積み増しを求める規制です。銀行の自己資本基準である「BIS規制」とは別のもので、従来のBIS規制の自己資本に加え、債権者に元本の削減、免除を要求できる債券や預金保険の対象外の預金を含めることで資本バッファーを確保するものとなっています。公的資金を使わないで済むようになる代わりに、債権者や預金者などが負担を負う仕組みとなっています。TLACに対応するために銀行の持ち株会社が発行する社債のことを「TLAC債」といいます。
出典 大和証券ホームページ

TLAC債についても定義を確認しておきましょう。

TLAC債(てぃーらっくさい)
総損失吸収力(TLAC、Total Loss-Absorbing Capacity)債と訳され、世界の巨大銀行(G-SIBs、Global Systemically Important Banks)が金融危機に陥った場合に備えて、同銀行の持ち株会社が発行する社債。国際的な金融システムへの影響が大きい巨大銀行の破綻を救済する際、公的資金の注入等で納税者に負担がかかるのを防ぐための措置として、金融安定理事会(FSB)が新たに導入する規制に対応して発行される。あらかじめ損失を吸収できる規模の社債を発行しておき、破たん時にその社債の保有者が損失を負担する仕組みとなっている。
出典 野村證券ホームページ

報道・プレスリリース 

金融庁は2018年4月にTLAC規制について野村ホールディングスを対象に加えると発表しました。

新聞記事がまとまっていますので、最初に新聞記事を確認します。

野村HDも破綻に備えた新規制の対象に 金融庁
2018/04/14 日経新聞

金融庁は13日、経営破綻時の混乱を最小限に抑えるための新規制の対象に野村ホールディングスを加えると発表した。「TLAC」と呼ぶ規制で、3メガバンクは2018年度から適用されることが決まっているが、20年度から新たに野村も加える。野村は今後、同規制に対応した債券を発行する見通しだ。
TLACはグローバルに活動する金融グループに適用される健全性の基準で、日本語で「総損失吸収力」と訳される。万が一、破綻して多額の損失が出ても吸収できるように、あらかじめ「TLAC債」と呼ばれる資本性のある債券を発行。破綻時に投資家の元本を毀損することで、税金投入による救済や金融システムの混乱を避ける狙いがある。
金融庁によると、すでに3メガバンクは合計8兆円強のTLAC債を主に海外で発行している。野村も今後、数千億円規模のTLAC債を発行するとみられる。

野村ホールディングスは以下のように本件のプレスリリースをしています。

2018年4月13日
金融システムの安定に資する総損失吸収力(TLAC)規制について

 本日、金融庁が公表した「金融システムの安定に資する総損失吸収力(TLAC)に係る枠組み整備の方針」の改訂において、野村ホールディングス株式会社(代表執行役社長 グループCEO:永井浩二、以下「当社」)は、我が国の金融システムに与える影響が大きい金融機関として、TLAC(ティーラック)(※1)規制(以下「本規制」)の対象に加えられることになりました。適用開始日は2021年3月31日の予定です。

 2021年の本規制適用開始まで十分な準備期間があり、当社は、今後償還を迎える既存負債の一部を、順次TLAC適格商品(※2)に置き替えること等により、本規制で定められた要件を遵守することが可能と考えています。

 本規制は、万一金融機関が危機に陥った場合に、納税者負担によらずに金融・経済システムへのきわめて深刻な悪影響を回避する秩序ある処理を行うことを可能にするため、規制対象の金融機関に対して予め、損失を吸収するのに十分な資本等の確保等を求める国際的な規制の枠組みによるものです。従来、本邦G-SIBs(金融安定理事会(※3)による選定を踏まえて金融庁がグローバルなシステム上重要な銀行として指定した金融機関)が適用対象とされていました。

 本規制により当社は、TLAC適格商品を含む資本等について、2021年3月31日以降、原則リスク・アセット(※4)に対して16%、レバレッジエクスポージャー(※5)の6%を最低限確保することが求められ、2024年3月31日以降は、それぞれ原則18%、6.75%が要求されます。

 また、他の金融機関が当社のTLAC適格商品等を保有する場合には、原則、一定の保有規制が課されます。ただし、当社TLAC適格商品を国内基準行が保有する場合(※6)には2019年3月31日以降10年間の経過措置が、また、TLAC適格商品と同順位の商品(※7)を国際統一基準行および国内基準行が保有する場合(※8)には2021年3月31日以降5年間の経過措置が、それぞれ設けられます。

 本規制の詳細については以下のウェブサイトをご参照ください。なお、本規制は金融庁によるパブリックコメント等の手続きを経て導入される見込みです。

・金融庁のホームページ: https://www.fsa.go.jp/news/30/ginkou/20180413.html
・当社作成資料: http://www.nomuraholdings.com/jp/investor/summary/data/20180413.pdf

※1 Total Loss-Absorbing Capacity(トータル・ロス・アブソービング・キャパシティ)の略で、金融システムの安定に資する総損失吸収力を指します。

※2 金融庁が定めた、損失吸収力としての要件を満たす負債等

※3 金融システムの脆弱性への対応や金融システムの安定を担う当局間の協調のため、前身の金融安定化フォーラムを拡大する形で2009年に設立されました。2017年末時点で、主要25か国・地域の中央銀行、金融監督当局や主要な基準策定主体、IMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などの代表が参加しています。

※4 金融機関が保有する各種資産を、それぞれのリスク度合いに従ってウェイト付けして算出した金額

※5 与信額のことで、(1)オンバランス、(2)デリバティブ取引、(3)レポ取引等、(4)オフバランスの与信額合計として算出されます。

※6 2019年3月31日において保有し、その保有を継続しているものに限ります。

※7 TLAC適格債務に該当しなくとも、日本の法制上、弁済順位が同順位の商品で、TLAC保有規制の対象となるもので、具体的には、野村ホールディングスの既発債や借入金が該当します。

※8 2021年3月31日において保有し、その保有を継続しているものに限ります。

以上が報道内容および野村ホールディングスのプレスリリースです。

金融庁の方針

TLACを理解するには、金融庁が発表している資料が最も詳細に解説されています。

こちらも内容を確認しておきましょう。

<TLACとは>

FSB による最終合意文書『グローバルなシステム上重要な銀行の破綻時の損失吸収及び資本再構築に係る原則』(2015 年11 月)(以下、「TLAC 合意文書」という。)は、G-SIBs に対して予め十分な総損失吸収力(Total Loss-absorbing Capacity)の確保を求めている。これは、万一G-SIB が危機に陥った場合に、当該G-SIB の株主・債権者に損失を負担させ、かつ資本の再構築を行うことにより、当該G-SIB の重要な機能を維持したまま、納税者負担によらずにシステミック・リスクを回避する秩序ある処理を行うことを目的としている。
具体的には、当該G-SIB グループにおいて、当局が破綻処理権限を行使する対象となる会社(以下、「破綻処理対象会社」という。)が外部から調達した損失吸収力・資本再構築能力(以下、「損失吸収力等」という。)を予めグループ内部の主要な子会社に配賦しておき、当該子会社が破綻の危機に瀕していると関連当局が判断した際は、生じた損失を破綻処理対象会社に集約して処理する一方、当該子会社は通常どおり営業を継続することが想定されている。この場合、クロスボーダーでの処理が行われるときには、損失が生じた子会社が所在する国の当局(現地当局)と、損失の集約先である破綻処理対象会社が所在する国の当局(母国当局)との連携が重要である。
なお、TLAC 合意文書による規制は、バーゼル銀行監督委員会が過去に公表している金融機関に対する自己資本比率規制(『バーゼルⅢ:より強靭な銀行および銀行システムのための世界的な規制の枠組み』(2010 年12 月公表、2011 年6月改訂)、『規制資本の質を向上させるための改革の最終要素』(2011 年1月公表)を含む。以下、総称して「バーゼル合意」という。)と一体をなすものとされている。

 

<外部TLACの最低所要水準> 

金融庁は、4SIBs の国内処理対象会社に係る外部TLAC の最低所要水準
につき、下記のとおりとする方針である。
・株式会社三菱UFJ フィナンシャル・グループ
・株式会社三井住友フィナンシャルグループ
・株式会社みずほフィナンシャルグループ
いずれも、2019 年3月31 日4以降においてはリスク・アセットの16%及びレバレッジエクスポージャーの6%、2022 年3月31 日以降においてはリスク・アセットの18%及びレバレッジエクスポージャーの6.75%。
・野村ホールディングス株式会社
2021 年3月31 日以降においてはリスク・アセットの16%及びレバレッジエクスポージャーの6%、2024 年3月31 日以降においてはリスク・アセットの18%及びレバレッジエクスポージャーの6.75%。

 

<預金保険制度との関係>

TLAC 合意文書では、一定の要件を満たす、業界による事前積立が存在する場合、一定額を外部TLAC として算入することが可能とされているところ、我が国の預金保険制度はこの要件を満たすものであるため、金融庁としては、TLAC 合意文書を踏まえ、4SIBs の国内処理対象会社に対して、外部TLAC の最低所要水準がリスク・アセットの16%及びレバレッジエクスポージャーの6%である場合においてはリスク・アセットの2.5%相当分、外部TLAC 所要の最低所要水準がリスク・アセットの18%及びレバレッジエクスポージャーの6.75%である場合においてはリスク・アセットの3.5%相当分を外部TLAC として算入することを認める方針である。

 

<TLAC 保有規制>

TLAC 合意文書においては、G-SIBs の破綻時の危機伝播リスクを低減させるため、銀行等がTLAC 適格商品等を保有した場合の規制につき、バーゼル銀行監督委員会が検討を行う旨規定されている。これを受けてバーゼル銀行監督委員会は自己資本比率規制における取扱いの検討を進め、2016 年10 月、『TLAC 保有』と題する最終合意文書を公表した。
これは、バーゼル合意におけるいわゆるダブルギアリング規制(金融機関が他の金融機関の資本調達手段を保有することに対する規制)の拡張であり、例えばG-SIBs ではない銀行等が、バーゼル合意上の規制自己資本に該当しない他行のTLAC 適格商品を一定額以上保有する場合には、自行のTier2 資本から所定の額を控除すべき旨等を規定することにより、銀行等によるTLAC 適格商品の保有のインセンティブを減じることを目的としている
金融庁としては、これを踏まえ、以下の方針に従って1柱告示を改正する方針である。
1.国際統一基準行向けTLAC 保有規制
国際統一基準行が、本邦TLAC 対象SIBs の国内処理対象会社及び海外G-SIBsの破綻処理対象会社の規制自己資本に該当しない外部TLAC 適格性を有する商品(以下、「その他TLAC 適格商品」という。)及び当該商品と債権の優先順位が同順位となる国内処理対象会社その他の破綻処理対象会社の発行する商品(以下、「同順位商品」といい、その他TLAC 適格商品と併せて「保有規制対象商品」という。)を保有する場合には、2019 年3月31 日以降、原則として国際合意と同等の規制(一定額以上の保有分に係るTier2 資本控除等)を適用する。
ただし、本邦TLAC 対象SIBs については、規制に対応するための資金調達構造の調整に一定の時間を要すると考えられることから、当該本邦TLAC 対象SIBのTLAC 規制適用開始日以降5年間は、TLAC 規制適用開始日において国際統一基準行が保有する同順位商品については、その保有を継続している場合に限り、保有規制対象商品から除外する取扱いとする。

2.国内基準行向けTLAC 保有規制

国内基準行に係る自己資本比率規制においては、国際統一基準行におけるTier2 資本に相当する資本区分がないため、国際統一基準行とは別途の考慮が必要である。
現行のダブルギアリング規制との平仄も踏まえ、信用リスクの標準的手法の取扱いにおいて、2019 年3月31 日以降、大要、①自行コア資本対比5%以下相当分の保有規制対象商品の保有については、現行規制どおり金融機関向けエクスポージャーとしてのリスク・ウェイトを適用する一方、②自行コア資本対比5%相当分を超える保有規制対象商品の保有については、当該超過分につき一律150%のリスク・ウェイトを適用することとする。
ただし、既に国内基準行が外部TLAC 適格性を有する商品(本邦TLAC 規制の下で外部TLAC 適格となることが想定される商品を含む。)を一定量保有していることを踏まえ、市場に与える影響を抑制するため、既発行のその他TLAC 適格商品(2019 年3月31 日において保有し、その保有を継続しているものに限る。)については保有量にかかわらず、2019 年3月31 日以降10 年間は現行規制どおり金融機関向けエクスポージャーとしてのリスク・ウェイトの適用を認めることとする。
また、本邦TLAC 対象SIBs について、当該本邦TLAC 対象SIB のTLAC 規制適用開始日以降5年間は当該本邦TLAC 対象SIB の同順位商品を保有規制対象商品から除外する取扱いについては、国際統一基準行の場合と同様である。

出典 金融システムの安定に資する総損失吸収力(TLAC)に係る枠組み整備の方針について

https://www.fsa.go.jp/news/30/ginkou/20180413/01.pdf

まとめ

 

以上がTLACで確認しておくべき事項です。

ポイントは以下となります。

  • グローバルで活動している巨大金融機関が「大きすぎて潰せない問題(too big to fail)」によって公的資金で救済されることを回避するための仕組みがTLAC
  • すなわち、世界の政府等は巨大金融機関を税金等で救うことは許されないとの認識が拡大
  • TLAC債の投資家としての銀行はTLAC債を大量に保有できず

以上がTLACについてです。

今後、TLACは当たり前の規制となってきます。

この動きを押さえておくことは有用といえるのではないでしょうか。