女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を展開していたスマートデイズが民事再生法を申請しました。
本事案はスマートデイズに対してオーナーの提訴がなされ、アパートローンの提供をしていたスルガ銀行に対しても責任追求の動きがでるなど社会問題化しています。
今回はこのスマートデイズが申請する民事再生法について債権者の目線から確認します。
スマートデイズの民事再生法申請のニュース
まずは、以下、帝国データバンクのニュース記事を引用します。
2018/04/09 (月)
株式会社スマートデイズ
女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」展開
シェアハウス賃料未払いで社会問題化
民事再生法の適用を申請
TDB企業コード: 121007301
負債60億3500万円
「東京」 (株)スマートデイズ(旧商号:(株)スマートライフ、資本金11億20万円、中央区銀座1-7-10、代表赤間健太氏)は、4月9日に東京地裁へ民事再生法の適用を申請し、監督命令を受けた。
申請代理人は南賢一弁護士(千代田区大手町1-1-2.西村あさひ法律事務所、電話03-6250-6200)ほか3名。監督委員は清水祐介弁護士(中央区銀座8-9-11ひいらぎ総合法律事務所、電話03-3573-1578)。
当社は、2001年(平成13年) 10月にシェアハウス事業を目的に創業、2012年(平成24年) 8月に法人改組された投資用不動産販売業者。「クラウドアパート」のブランド名で宿舎型シェアハウスの販売、サブリース、管理等を手がけ、女性専用のシェアハウス「かぼちゃの馬車」を主体に、男性や外国人向けの「ステップクラウド」、シングルマザー向けの「シングルマザーハウス」等を展開していた。シェアハウスのサブリース事業では草分け的な存在として知られ、近年はシェアハウスの入居者を対象とした人材派遣事業も開始するなど、若者支援を目的とする住まいと仕事の両面での支援事業も活発化。宿泊所やアパートの販売を開始したことに加え、建設業許可を再取得したことによる建築事業の売上寄与があった2017年3月期には年売上高約316億9600万円を計上していた。
しかし、2017年10月頃より提携金融機関との契約状況などが大きく変動し、新たな寄宿舎型シェアハウスの販売が難しい状況に陥ったことから、同月27日に管理している不動産オーナーに対し賃料改定の通知書を送るなどしたことから、信用不安が拡散。サブリース事業からの撤退など大幅な業容の転換を余儀なくされるなか、2018年1月には不動産オーナーに対する賃料の支払いをストップ。その後、一部のオーナーが損害賠償請求訴訟の動きを見せるなか、支え切れず今回の事態となった。
負債は2018年3月末時点で債権者約911名に対し約60億3500万円(このうち、約23億円が物件オーナー約675名に対するもの)。
なお、オーナー向け説明会を4月12日(木) 19時から(18時30分受付開始)TKPガーデンシティ竹橋(千代田区)にて、同月14日(土) 14時から(13時30分受付開始) TKPガーデンシティPREMIUM秋葉原(千代田区)にてそれぞれ開催する予定。
出典 帝国データバンクホームページ
http://www.tdb.co.jp/tosan/syosai/4449.html
民事再生法とは
スマートデイズが申請した民事再生法とはどのようなものでしょうか。
簡単な説明は以下となります。
経済的に窮境にある債務者とその債権者の民事上の権利関係を適切に調整し債務者の事業·経済生活の再生を図ることを目的として制定された法律。再建型の倒産法の一。それまでの和議法に代わるものとして平成12年(2000)から施行された。和議法では支払不能や債務超過など実質的な経営破綻状態に陥らないと手続きを開始できなかったが、民事再生法ではより早い段階で迅速に再建手続きを進めることができる。会社更生法を適用した場合、経営者は経営権を失うが、民事再生法の場合、債務者である経営者が事業を継続しながら再建を図ることができる。(デジタル大辞泉)
倒産処理制度としては、破産、民事再生、会社更生、特別清算という裁判上の制度(法的整理)があります。
これらの制度は清算型と再建型に分類でき、法的整理では、破産・特別清算が清算型、民事再生・会社更生は再建型です。
民事再生手続のような再建型では債務者の資産はできるだけ維持し、債務者の負債も一定の不利益を受けつつ存続し、再建の成就につれて徐々に弁済されることになります。
そして、法的整理は多数決で再建策が認可決定され、その内容は賛成しなかった債権者にも強制力を持つことになります。
相殺対応
民事再生手続の対象となる債権は、物的担保により保護されず、租税債権など公法上の債権でないもの、つまり一般倒産債権です。
スマートデイズにおけるかぼちゃの馬車のオーナーは、まさにこの一般倒産債権を保有していることになります。
オーナーがスマートデイズから提供された担保権(抵当権等)を持っていれば、民事再生手続の影響を基本的に受けませんが、そのような事例はないものと思われます。
そのため、オーナーがスマートデイズの民事再生法において防御が出来るのは相殺ぐらいでしょう。
オーナーがスマートデイズに対して何らかの債務(一般例:敷金返還債務、顧客紹介フィー、建物修繕費等)を負っている場合には、相殺が可能かもしれません。
まずは、オーナーは、相殺可能な債権(これは本件事例においては通常は賃料債権でしょう)・債務がないかを契約書等で確認することが必要です。
相殺については、民事再生法92-93条に記載されています。少し長いですがみてみましょう。
(相殺権)
第九十二条 再生債権者が再生手続開始当時再生債務者に対して債務を負担する場合において、債権及び債務の双方が第九十四条第一項に規定する債権届出期間の満了前に相殺に適するようになったときは、再生債権者は、当該債権届出期間内に限り、再生計画の定めるところによらないで、相殺をすることができる。債務が期限付であるときも、同様とする。
2 再生債権者が再生手続開始当時再生債務者に対して負担する債務が賃料債務である場合には、再生債権者は、再生手続開始後にその弁済期が到来すべき賃料債務(前項の債権届出期間の満了後にその弁済期が到来すべきものを含む。次項において同じ。)については、再生手続開始の時における賃料の六月分に相当する額を限度として、前項の債権届出期間内に限り、再生計画の定めるところによらないで、相殺をすることができる。
3 前項に規定する場合において、再生債権者が、再生手続開始後にその弁済期が到来すべき賃料債務について、再生手続開始後その弁済期に弁済をしたときは、再生債権者が有する敷金の返還請求権は、再生手続開始の時における賃料の六月分に相当する額(同項の規定により相殺をする場合には、相殺により免れる賃料債務の額を控除した額)の範囲内におけるその弁済額を限度として、共益債権とする。
4 前二項の規定は、地代又は小作料の支払を目的とする債務について準用する。
(相殺の禁止)
第九十三条 再生債権者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。
一 再生手続開始後に再生債務者に対して債務を負担したとき。
二 支払不能(再生債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。以下同じ。)になった後に契約によって負担する債務を専ら再生債権をもってする相殺に供する目的で再生債務者の財産の処分を内容とする契約を再生債務者との間で締結し、又は再生債務者に対して債務を負担する者の債務を引き受けることを内容とする契約を締結することにより再生債務者に対して債務を負担した場合であって、当該契約の締結の当時、支払不能であったことを知っていたとき。
三 支払の停止があった後に再生債務者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、支払の停止があったことを知っていたとき。ただし、当該支払の停止があった時において支払不能でなかったときは、この限りでない。
四 再生手続開始、破産手続開始又は特別清算開始の申立て(以下この条及び次条において「再生手続開始の申立て等」という。)があった後に再生債務者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、再生手続開始の申立て等があったことを知っていたとき。
2 前項第二号から第四号までの規定は、これらの規定に規定する債務の負担が次の各号に掲げる原因のいずれかに基づく場合には、適用しない。
一 法定の原因
二 支払不能であったこと又は支払の停止若しくは再生手続開始の申立て等があったことを再生債権者が知った時より前に生じた原因
三 再生手続開始の申立て等があった時より一年以上前に生じた原因
第九十三条の二 再生債務者に対して債務を負担する者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。
一 再生手続開始後に他人の再生債権を取得したとき。
二 支払不能になった後に再生債権を取得した場合であって、その取得の当時、支払不能であったことを知っていたとき。
三 支払の停止があった後に再生債権を取得した場合であって、その取得の当時、支払の停止があったことを知っていたとき。ただし、当該支払の停止があった時において支払不能でなかったときは、この限りでない。
四 再生手続開始の申立て等があった後に再生債権を取得した場合であって、その取得の当時、再生手続開始の申立て等があったことを知っていたとき。
2 前項第二号から第四号までの規定は、これらの規定に規定する再生債権の取得が次の各号に掲げる原因のいずれかに基づく場合には、適用しない。
一 法定の原因
二 支払不能であったこと又は支払の停止若しくは再生手続開始の申立て等があったことを再生債務者に対して債務を負担する者が知った時より前に生じた原因
三 再生手続開始の申立て等があった時より一年以上前に生じた原因
四 再生債務者に対して債務を負担する者と再生債務者との間の契約
債務者(=スマートデイズ)との契約をオーナーは確認し、すぐに相殺が可能かについて判断しなければなりません(弁護士と行うはずですが)。
まず、債務者との契約上で「期限の利益喪失」がどのようになっているのか、どのようにしたら期限の利益を喪失させられるのかを確認することになります。
通常の契約であれば、債務者が民事再生法を申請した段階で、期限の利益は喪失しているでしょうから、その場合には相殺適状(相殺ができる状態) となっているはずです。
そして、相殺ができるのであれば通知を行わなければなりません。
内容証明郵便の出し方
内容証明郵便で出す書面は、1行20字以内、1枚26行以内に記載(縦書きの場合) し、2枚以上にわたるときは綴目に割印を行う必要があります。
句読点その他の記号もすべて字数に数えます。
内容証明郵便は、原則として書留速達に配達証明付で発送し、配達証明書は債権者(差出人)で保管します。
内容証明郵便は、同一内容のものを3通(正1通、謄本2通)作成し、全3通に債権者が押印のうえ封筒に入れずに、郵便局の窓口に持参することになります。もちろん封筒も準備し、一緒に持参します。
郵便局は奥書(証明番号を記入)の上、1通を手元に保管し、1通を債権者(差出人)に返却、1通を郵便局員立合のもとに差出人に封入させ、受取人に送付することになります。
なお、他のやり方として、同一内容文書を2通作成して直接債務者に持参し、その1通の書面(通常は末尾)に本人または代理人が書面を見たという記載をさせて、本人または代理人の記名捺印を求めるやり方もあります。ただし、この場合は、すぐに確定日付を取っておく必要があります。
(この方法は、銀行が万が一にも急ぎで対応する場合のやり方ですので、通常は実施しないと思われます。)
なお、内容証明郵便についての実際の実務は、弁護士が対応することになるものと思います。
民事再生手続の流れ
民事再生手続の流れは以下のようになります。
- 民事再生申し立て
- 保全処分
- 手続開始決定(現時点では、ここまで来ています)
- 債権届出(これをオーナーは忘れてはいけません)
- 債権調査
- 債権確定
- 再生計画策定
- 債権者集会
- 可決した場合→計画案の認可
- 再生計画履行(再生計画案に基づく弁済)
- 再生計画手続終了決定
民事再生手続では議決を経て配当に至ります。
とにかく、スマートデイズのオーナー(=債権者) としてやるべきことは、債権届を忘れないこと、相殺が出来るのであれば実施すること (相殺の時期にも制限があります)がポイントでしょう。
そして、再生計画案については、債権者として賛否を表明する必要があります。
賛成せずに破産のような清算型への追い込み、現在の財産から直ちに配当を受ける方が得か、長期にわたって弁済が可能か否かについては、債権者としてしっかりと判断する必要があるでしょう。
民事再生における今後
まず、民事再生法の認可決定を受けた企業の弁済率は、どの程度となるのでしょうか。
債権が全額戻ってくることは基本的にありません。
以下の内容が一つの参考となるかもしれません。
2004年1月以降に会社更生法を申請した159件のうち、10月21日時点で裁判所より更生計画の認可決定を受け、通常の商取引再建に当たる一般更生債権の弁済率が判明した138件を調べたところ、平均弁済率は11.5%と、民事再生法の弁済率(12.4%)をやや下回る低水準だったことが、帝国データバンクがこのほど発表した「会社更生法の弁済率調査」結果で明らかになった。
出典 朝長英樹税理士事務所ホームページ
http://www.tomonaga-zeirishijimusho·jp/news/publish.cgi?news_src=445&cat_src=biz
帝国データバンクは、裁判所の認可決定を受けた企業の追跡調査もしています。それによると、民事再生法認可企業271社の平均弁済率は27.3パーセント(以下略、筆者註: 2001年の調査)
出典 鳥飼総合法律事務所ホームページ
http://www.torikai.gr.jp/restructuring/2164
また、民事再生手続の開始決定から認可決定(弁済「開始」)までの平均期間(2000~2015年度)は234.1日となっており、オーナーが配当を得るまでには長い時間がかかるものと思われます。
民事再生法を申請した企業(個人企業除く)のうち、進捗経過を確認できた7,341社の「手続申請→再生手続開始」までの期間は平均21.8日だった。2000年度の40.9日から、2015年度は13.2日に27.7日短縮している。また、「開始決定→認可決定」までの平均期間は234.1日で、2000年度の231.1日から2015年度は196.4日と34.7日短縮している。
出典 東京商工リサーチ ホームページ(「民事再生法」適用企業の追跡調査(2000年度-2015年度))
http://www. tsr-net. co. jp/news/analysis/20170113_07. html
このように民事再生法になってしまえば弁済率も低く、手続にもかなりの日数がかかります。
これが現在の民事再生法の現状です。