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ゆうちょ銀の他行ATM置き換えは有効な戦略

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ゆうちょ銀行の預入限度額の撤廃(現状1,300万円が上限)についての議論がなされています。

銀行業界からは反発の声が強まっているようです。

一方で銀行業界とゆうちょ銀行とは様々な提携関係にもあります。

今回の記事ではゆうちょ銀行の他行ATM置き換え戦略について考察するものとします。

各行のプレスリリース内容

あおぞら銀行

2018年3月にあおぞら銀行がATMサービスの変更についてのプレスリリースを発表しました。

<プレスリリースのポイント>

  • 自行店舗内ATMをゆうちょ銀行のATMへ置き換え
  • 提携ATMの利用可能時間を平日19時、土日祝日17時から毎日21時までに拡大
  • 自行店舗内ATMは土日祝日の利用時間を取り止め
  • 同時にセブン銀行との提携も開始(ただし、セブン銀行のATM利用は手数料あり)

(プレスリリース)

http://www.aozorabank.co.jp/kojin/products/important/pdf/important_125.pdf

このあおぞら銀行とゆうちょ銀行とのATM提携は、あおぞら銀行が自前のATMを持たず、ATMについては提携金融機関のATMを活用していくという方針を明確にしたものといえます。

自行店舗内ATMを土日祝日利用できなくしたのは、完全にコスト削減の一環でしょう。

あおぞら銀行は今回の提携により預金者の利便性は高めながら、自行のコスト削減を果たすことになります。

以上があおぞら銀行が発表した内容です。

ゆうちょ銀行

次にゆうちょ銀行がどのようなプレスリリースをしたかをみていきましょう。

ゆうちょ銀行がATMを戦略「商品」としていることが良く分かります。

<プレスリリース抜粋>

あおぞら銀行店舗内への「ゆうちょATM」の設置に伴う契約締結について
全国初 金融機関全店舗内への「ゆうちょATM」の設置

(以下抜粋)

  • 金融機関全店舗内へのゆうちょATM の設置は、あおぞら銀行が初めてとなります。
  • あおぞら銀行のお客さまは、ゆうちょATM を2018 年8 月27 日(月)より365 日(8:00~21:00)手数料無料でご利用いただけます。
  • 今回設置するゆうちょATM は、16 言語に対応した小型ATM で、海外で発行されたクレジットカード等で「日本円」を引き出すことが可能なほか、国内約1,400 社の提携金融機関カードでも利用が可能です。
  • 【小型ATM の対応する16 言語】
    日本語、英語、中国語(簡体)、中国語(繁体)、韓国語、タイ語、マレー語、フィリピン語、ベトナム語 インドネシア語、アラビア語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、ポルトガル語、スペイン語
  • 【ご利用可能な海外発行カード】(2018 年3 月28 日現在)
    VISA、VISAELECTRON、PLUS、MasterCard、Maestro、Cirrus、American Express、JCB、China Unionpay、DISCOVER のいずれかのブランドマークが付いたカードでご利用いただけます。

(発表資料)

https://www.jp-bank.japanpost.jp/aboutus/press/2018/pdf/pr180328_2.pdf

以上のようにゆうちょ銀行のプレスリリースは、「金融機関の店舗内ATMをすべてゆうちょ銀行のATMに置き換えたのは全国初であること」「ATMが小型で16の言語に対応しているものであること(インバウンド対応可)」をアピールしています。

プレスリリースは完全に他の金融機関(=潜在顧客)を意識した内容となっているということです。

報道内容

今回のあおぞら銀行のATMをゆうちょ銀行のATMに置き換える動きを新聞は以下のように報道しています。

以下日経新聞記事を抜粋します。

ゆうちょ銀、他行にATM まず、あおぞら銀 脱・自前を後押し

2018/03/28 日経新聞

ゆうちょ銀行は8月から、あおぞら銀行のATMをゆうちょATMに置き換える。低金利で収益環境が厳しくなる中、選択と集中を進める狙い。ゆうちょ銀は他行のATM引き受けで収益力を高め、あおぞら銀は自前のATM廃止でコスト削減を急ぐ。ATMは銀行サービスの象徴だが、人口減とキャッシュレス化への対応を迫られ、撤収か存続か、明確な戦略を求められている。
あおぞら銀は現在、全国の全19店に20台のATMを置く。8月からゆうちょ銀のATMに切り替え、1店に1台、合計19台を設置する。あおぞら銀の顧客に負担は生じない。ただ、あおぞら銀の顧客の通帳記帳はATMでなく店頭で対応する。
ゆうちょ銀は全国2万7千超と国内最大のATM網を持つ。「コンビニATM」の先駆けのセブン銀行(約2万4千台)や都市銀行(合計2万6千台)をしのぐ。昨年には荘内銀行(山形県)の本店に1台設置した。低金利下の運用難もあり手数料ビジネスの拡大を進めており、ATM展開を投資信託の販売と並ぶ新たな収益源とする。

(中略)

あおぞら銀は顧客の利用動向に応じて手数料を払うが、それでも自前より年数千万円のコスト減が見込めるとみる。
決済の現金比率が6割と高い日本では、各行が競ってATMを増やしてきた。全国で20万台が稼働している。だが、最近ではATMの維持コストが銀行経営を圧迫。「複数の地銀が自前ATM廃止を検討している」(銀行関係者)という。
1台の価格は300万円ほどで、警備費や監視費用だけで1台につき毎月数十万円かかるとされる。現金を充填する人件費も必要だ。駅ナカなど店舗外の設置も増えたが、家賃や維持費用で「大半の店舗外ATMは赤字」(銀行関係者)だ。

(以下略)

当該記事のまとめとしては以下がポイントとなります。

  • あおぞら銀行は全国に19店舗、20台のATMしか持たないため、ATMを自前で持つメリットよりも保守・管理コストが重い事例であること(コスト削減効果は年数千万円)
  • ゆうちょ銀行のATM網は国内最大であり、コンビニATMのセブン銀行やメガバンクよりも台数が多いこと
  • ゆうちょ銀行は低金利下の運用難から手数料ビジネス拡大の一環としてATMを展開していくこと
  • 複数の地銀が自前ATM廃止を検討していること

ゆうちょ銀行のATM戦略について

ゆうちょ銀行のATM戦略は、非常に明快であり、期待が持てるものと筆者は考えています。

あおぞら銀行のような店舗・ATM網が少ない銀行にとってみれば、ゆうちょ銀行のATM網を活用するメリットは相応にあるでしょう。

地銀も同じですが、低金利下で少しでもコストを削減したいのが銀行業界の本音です。

その中でキャッシュレス化が進展していくであろうことも併せて考えると自行ATMを他行のATMに置き換えていく動きというのはこれからも続く可能性があります。

一方で、ゆうちょ銀行の店舗・ATM網はコンビニ勝るとも劣らない立地にあります。

既に存在するATM台数は規模の利益が働きますし、他行のATMを吸収(置き換え)することは現実的な戦略です。

コンビニATMに十分対抗できるのです。

なお、ゆうちょ銀行の2017年3月期決算におけるATM関連手数料は72億円です。

これに対して、セブン銀行の2017年3月期単体業績は経常収益(≒売上)が1,131億円、経常利益が389億円となっています。

セブン銀行ATMの約24,000台に対して、ゆうちょ銀行は約27,000台です。立地等の違いはあるかもしれませんが、ゆうちょ銀行がATM提携によりセブン銀行並みの追加収益を目指すこと自体は、現実的な戦略といえるかもしれません。

また忘れてならないのは、ゆうちょ銀行は民間銀行から「民業圧迫」と言われ続けられているといことです。

このようなATM提携を拡大していけば、他行からゆうちょ銀行は必要なインフラだと認識され、ゆうちょ銀行への様々な批判が減少する可能性があるのです。

ゆうちょ銀行の他行ATMの置き換え戦略は、自行の強みや他行の置かれている環境を認識した非常に現実的で期待できる戦略といえるのではないでしょうか。

 

なお、筆者としてはゆうちょ銀行のATM置き換え戦略は良いとは考えていますが、地方銀行がATMを他行に任せることは本末転倒ではないかと考えています。近く便利であることが銀行が選択される理由なのです。

あおぞら銀行のような小規模・全国展開の銀行はゆうちょ銀行との提携に意味はありますが、地方銀行は自らの首を絞める可能性があると認識しています。

銀行のビジネスだけを考えるのであれば、キャッシュレス化が起こらないように現金の利便性と既存銀行口座の使い勝手を向上させていくのが一番なのです。

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