私募リートが拡大しています。
2017年12月末時点では資産総額2兆4,398億円、23銘柄となっています。
出典 不動産証券化協会ホームページ
私募リート・クォータリー(2017年12月末基準)
https://www.ares.or.jp/action/reserch/pdf/shibo_201712.pdf?open=1
先日、この私募リートのセカンダリー取引が開始されました。
今回の記事では、このセカンダリー取引の重要性について考察します。
私募リートとは
まず私募リートとは何かについて確認しておきましょう。
リート=REITはReal Estate Investment Trustの略です。
このリートは、多くの投資家から集めた資金で、オフィスビルや商業施設、マンションなど複数の不動産などを購入し、その賃貸収入や売買益を投資家に分配する商品です。不動産に投資を行いますが、法律上、投資信託の仲間です。
リートには、証券取引所に上場し、誰でも売買が可能な「公募」のリートと、証券取引所には上場しておらず、機関投資家など特定の投資家だけを対象として私的な募集によって販売される「私募」のリートがあります。
不動産証券化協会では私募リートは以下の条件をすべて満たす投資法人を指すとしています。
- 非上場(証券取引所に上場していない)であること。
- 投資信託協会規則で定める「不動産投信等」であること。
- 投資信託協会規則で定める「オープン・エンド型の投資法人」であること。
- 運用期間の定めが無いこと。
なお、オープン・エンド型の投資法人とは、規約に「投資主の請求により投資口の払い戻しをする」旨、すなわち「投資法人に対して直接投資口の払い戻し=解約を請求できる制度を定めている」投資法人です。
投資法人とは、「投資信託及び投資法人に関する法律」に基づき、投資家からの資金をもとに不動産などの資産を保有し、運用することを目的とした会社のこと(出典 投資信託協会)です。
以上をまとめると私募リートとは、「非上場で」「投資家から集めた資金で不動産等に投資する」「投資家から解約も請求できる」「運用期間の定めのない」「投資法人」となります。
私募リートのメリット
私募リートは投資口価格の安定性と一定の流動性を兼ね備えた商品として注目を集めてきました。
上場リートは上場市場での取引により投資口価格が決定されるため、投資口価格の推移をみると株式市場との相関性が高く、価格変動の大きい点が投資家から懸念されてきました。
一方で、私募リートは年2~4回の不動産鑑定評価額を基に時価を決めるため、投資口価格は大きく変動しません。株式市場との相関性が低いのです。
そのため、私募リートは、長期投資を前提としている年金基金や運用に苦戦している銀行等にとっては、日々時価を算出する必要もなく好都合といえますし、株式市場との相関性が少なく投資分散効果が図られるという有用性もあります。
また、運用期間の定めがないことも特長です。
私募ファンドのように運用に期限があると、たまたま投資の終了時点の不動産市況が悪い場合は、ファンドが保有する不動産を安値で売却し、結果的に投資家は損失を負う危険性がありますが、私募リートにはありません。
私募リートの流動性
私募リートの場合、オープン・エンド型といっても制約があります。
私募リートへの出資金は不動産の取得に充てられています。株式や公社債に投資されている一般的な投資信託とは異なるため、すぐに換金ができません。株や債券は上場しているのですぐに売却可能ですが、不動産は買主を探さなければなりません。
そのため、ファンドの安定性を維持するために払い戻しに一定の制約をつけています。
通常は、①払い戻し留保金(投資信託でいうところの信託財産留保額)を設定する、②一営業期間における払い戻し口数を制限する、という制約になります。
払い戻しの制限は、一般的には一決算期あたり発行済投資口数の2.5%程度としている投資法人が多いようです。
これは不動産に投資する以上、当然といえば当然なのですが、投資としては「流動性に欠ける」ということになるでしょう。
ここが上場リート(=市場が開いている時はいつでも売買可能)との大きな違いです。
また、私募リートにおいて流動性を担保する仕組みには、投資家同士で投資口売買を行う方法(マッチング取引)も存在します。
このマッチング取引は、フィナンシャルアドバイザー等が私募リートの投資口の譲渡を媒介する制度で、投資口の換金にあたり私募リート側が内部留保している現金の支出や保有物件の売却を伴わないという点で私募リートの継続的な運用に有用です。
ただし、この方法が有効に機能していくにはセカンダリーマーケットの形成が必要であり、その前提として各私募リートもしくは私募リート市場の更なる拡大が流動性供給に必要です。
私募リートの収益性問題
一般的には、投資方針を決定する際に考慮しなくてはならない「収益性」「安全性」「流動性」のことを投資の3原則といいます。
収益性が高ければリスクは高く、安全性が高ければ収益性は低く、流動性が高ければ収益性は低くリスクも高い、このようなイメージです。
収益性と安全性・流動性は相反するものなのです。
ここで筆者が若干なりとも問題だと考えているのは私募リートの想定している利回りが上場リートとあまり変わらなくなっているという点です。
すなわち、私募リートは流動性が低いのですから、原則論からいえば、「より高い」収益利回りを投資家に還元しなければなりません。
ところが、現状では、ほとんどの投資家が運用先に困っています。
そのため低い利回りでも投資家が投資をしてしまうのです。
この点については、反論もあるでしょう。
私募リートは「価格の安定性」を提供しており、それは投資家にとってのメリットであるという点です。
しかしながら、そのようなメリットは他の投資でも同様に存在します。そしていざというときには流動性がないことにより大きな痛手を被ってきた投資家は多いのです。流動性が枯渇して破綻したアメリカの大手ヘッジファンドLTCMの教訓を忘れてはなりません。
www.financepensionrealestate.work
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私募リートのセカンダリー取引開始見込
上記の通り私募リートにはメリットとデメリットがあります。
このデメリットである流動性を改善するためにセカンダリー取引(投資家同士での投資口売買)が開始される見込みです。
シリオン・パートナーズがオンラインサイト「shirion.jp」を通じてセカンダリー取引の媒介事業に乗り出すとしています。
ただし、2018年2月末に運用開始される予定だったものの、サイトの不具合もあり運用開始が遅れているようではあります。
私募リートオンライン”shirion.jp”本格運用開始延期のお知らせ – シリオン・パートナーズ株式会社
この私募リートのオンラインでのセカンダリー取引は非常に良いアイディアです。
私募リートとは、流動性を犠牲にする代わりに価格安定性があるのが特徴ですが、投資家のなかには何らかの理由で「急いで売りたい、買いたい」というニーズがあることも想定されます。
このニーズに対応するために株式市場のようにオープンなマーケットを構築することも考えられます。いわゆる価格が公表されるマーケットです。
しかし、このようなマーケットを構築すると、私募リートの特長である「価格安定性」が損なわれます。
私募リートの基準価格は鑑定評価によるものと前述しましたが、マーケットで取引が成約していれば「時価」が存在し、鑑定評価による「みなし価格」よりも優先されることになると、想定されるからです。
これでは何のために私募リートに投資するのか分からなくなってしまいます。
それを改善しようとしたのがシリオン・パートナーズです。
報道等を見る限りは、以下の特長があるようです。
<shirion.jpのポイント>
- 適格機関投資家に限定したクローズドの専用サイト
- サイト内で投資家同士の投資口売買を仲介
- サイトは株式市場のような「板情報(価格上場)」を提示
- 投資家に売り買いの希望があった場合、銘柄の口数や希望価格を入力してもらう流れ
- サイトは登録した機関投資家のみが閲覧可能で、成約価格情報等を一切公表しないことで私募リートの投資口価格(基準価格)に影響を与えない仕組
- 投資家の登録は無料
- シリオン・パートナーズの収益は、マッチングが成立した際に仲介手数料をとして0.5%を売りと買い双方から獲得
以上、非常に面白い仕組みです。
私募リートに欠けている流動性をうまく補うアイディアなのです。
この仕組みがうまく稼働するためには、参加する機関投資家をどの程度集められるかにかかっています。
恐らくサービスがリリースして以降も苦戦することは多いとは思いますが、筆者としてはこの「shirion.jp」の成功を願っています。
(金融機関も収益に苦戦しているのならば、このような新たな取り組みを行えばよいのではないでしょうか。新たなマーケット、フィールドはあるということを実感させられたアイディアでした。)